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暗黒星雲

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2010年 10月 30日

2010年10月

菜の花は秋には咲かぬ日が沈み月が東に昇つてきても
稲刈りの済んだたんぼの陽のなかで雲のかけらにくるまつて寝る
秋の日が気持ちいいから手をつなぐ空が青いしそよ風吹くし
穏やかな顔だつたのでいつの間に寝たのだろうかと思つたのだが
朝顔がまだ咲いてゐる目が覚めて元気だそうと窓を開ければ
自堕落なひと日が過ぎぬ真緑のみかん山から海を見下ろす
接吻の約束わすれ出て行つたあなたは四時を過ぎても帰らぬ
風邪なのかストレスなのか鼻水を啜りてやまぬ女と暮らす
寒い日に旅に出ること告げられて休みは取れないよと答へる
着る服がないから明日は勤めには行けないと言ひ俺の背たたく
眼鏡かけパンフレットにけちつけて図書館の司書みたいなあなた
強風のために列車は対岸の琵琶湖線ゆく湖西線避け
五十分遅れで着けば小松市を冷たき雨が濡らしてゐたり
最近は眠れるやうになつたからあなたの夢を何度も見れる
上司には話したくない 寒い日に旅に出ること休み取ること
隣国の一団が打つ小太鼓が平城京に乾いて響く
母からの荷物受け取りその箱で娘と孫にみかんを送る
押へねばあふれ出てくる血のやうな色のセーターの下のふくらみ
飛ばされた帽子のやうなきみが来て僕の背中をたたいて逃げた
明け方の寝室で聞く雨音のやうなあなたのまなざしに会ふ
(あの時は好きだつたなんて言はれても)雨の止まない奄美の島で
分かつてた冷たい返事気まぐれなこの秋の雨が舗道を濡らす

by trentonrowley | 2010-10-30 20:18


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