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暗黒星雲

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2015年 01月 17日

短歌での「きみ」・「あなた」・「おまへ」・「汝」の使われ方 (11)

まなうらに君はひかりを閉じ込めるちかいほうたるとおいほうたる/江戸雪『声を聞きたい』


渡辺松男の『きなげつの魚』から引用した歌の「きみ」や「君」は作者の亡くなった妻のことであることはほぼ確実である。
それに対し、この江戸雪の歌の「君」は誰のことなのか分からない。前後の歌やあとがきを見てもそれらしいヒントは見つけられない。漢字で「君」と表記していることから考えると、夫、恋人あるいは息子など親しい男性のように思える。この歌は「鳥取」と題した一連の歌の中の一首なので、鳥取に関連した人なのかも知れない。

この歌を読むと嫉妬に近い感情が湧いてくる。嫉妬というとあまりに生な感じがするので言い換えれば、作者と「君」の世界から読者である私がはじき出されているように感じるのだ。女性の作者の歌にしばしば作者の夫が登場することがあるが、そのような歌を読んでもこの歌を読んだときのような感情は湧いてこない。それは登場する夫が作者と暮らしを共にしている人、共同生活者として現れてくるからだと思う。それに対しこの歌の作者と君の関係は精神的な結びつきのように感じられるのである。

この歌は「君」に呼びかけ、語りかけている歌とは思えない。上に述べたことを併せて考えると、この歌の「君」は樋口一葉の歌の「君」と同じく、「女から男を、親しみをこめて言う語」としての名詞であると思われる。
(続く)

by trentonrowley | 2015-01-17 22:31


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