人気ブログランキング | 話題のタグを見る

暗黒星雲

trenton.exblog.jp
ブログトップ
2009年 04月 10日

鹿に逢う

春風に溶けだしていく野や森の意図したことも意図せぬことも
鹿に逢うまえにうかんだ泡粒のような楽想かきとめなくっちゃ
三月のうさぎの紅い目がうるみつなぐ手をふりほどく僕たち
会いたくて天気雨ふる畦道のすみれの花をつまんでたべる
月曜のビルの谷間を降ってくるカタカナだけで書かれた手紙
制服の暗いひとみに揺れるものあるんだけれど罠かもしれぬ
駅前の広場で別れあの日から五日待ってる土鳩の帰還
石段をかけ上がり来て我に説く青きくちばし閉じることなく
ふらふらと歩いてさがすみぎひだりこれからともに生きていくもの
まだ寒い水辺に並ぶもの達は煮ても食えない山からのもの
あてもなくさまよいながら待っている亀鳴く春を雑木林で
アルバムにきれいに整理して残す草冠の漢字をあつめ
海亀の嘘だったのね三日月が光る浜辺に落ちて来たって
ピクピクと手に残るのは質として切り捨てられたヤモリの尻尾
畦道をまっすぐ走る泣きながら遠い過去から呼び戻されて
母親のあと追うようについて行く見知らぬ人に話し掛けられ
麦踏みに頬被りしてその人は寡黙であった田螺のように
夕顔はひそやかに咲き待っている妊娠線を越えたあたりで
こまひもを振り打ち鳴らすとりどりの飴の流れに近寄れないで
ゆっくりと涙をぬぐう密林のひだまりに棲む蜥蜴のように

by trentonrowley | 2009-04-10 10:59 |


<< 053:妊娠 (新井蜜)      052:縄 (新井蜜) >>