暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 52 )


2017年 09月 21日

「塔」九月号 松村正直選歌欄 十首選

「塔」九月号 松村正直選歌欄 十首選

ああそれはかなり難題だと思う鈴懸の木の下の耳打ち  芦田美香

肋骨みたいに明るく雲が透けている五月山崎蒸留所の上  小川和恵

父母(ちちはは)が死にて消えゆくこの家にビニール傘がふえ続けゆく  数又みはる

ピーナツの片割れさがすテーブルの下にほんのりまだ夕あかり  坂 楓

春楡の咲けば今年も思い出す行方のしれぬ研屋の娘  中澤百合子

赤きつつじに吹く風のみち幼な児の車を押せる男のあとゆく  橋本英憲

ねそべりて猫が足などなめてゐて『柿右衛門前』とふバス停を過ぐ  福井まゆみ

夢にのみ来る犬がゐてどことなく小さすぎるがうしろから抱く  小林真代

河内木綿布屋久兵衛なる男先祖におりて命日知らず  橋本恵美

六月の風はしめりを帯びてゐてはたりと落ちしものの来し方  澄田広枝


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-21 20:51 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 19日

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選

よく熟れた月を見てゐる硝子戸にをさなの指は熱くありたり  清水弘子

懸垂の練習をする少女ありゆふべのベンチに犬をつないで  立川目陽子

二度人にぶつかりてのち人波にさからい歩むわれと気づきぬ  天野和子

ゆっくりと一枚一枚制服を着るには着たが 座り、目を閉ず  宇梶晶子

誰も誰ももはや何にも言はぬからひつそり皮むき枇杷食べてゐる  筑井悦子

手を延べて捥いで下さい枇杷の木が空の近くに実をつけたから  林 芳子

ミサイルの飛んでゐる空蒼ふかし 鳥になりたい児とながめをり  渡辺美穂子

小綬鶏の幼鳥二羽が径よぎる春は無防備のもの多くあり  首藤よしえ

菊の香に抱かれ棺に眠る母通夜の客らの物食ふ音す  郡山紀男

りすのやうな茶色が庭を走り抜けひめつるそばの花のゆれゐる  工藤博子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-19 17:25 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 18日

「塔」九月号 若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」九月号 若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

もののなまへ覚えるまへの耳が聴く今降りそめしゆふだちの音  岡部かずみ

歩くと太ももが揺れるサンダルを履くにはすこし寒い6月  はたえり

雨降りて雨上がりたる連休の明るさは麦熟るる気配に  森尾みづな

てにをはを忘れたあなたの無重力遊泳みたいな告白だった  加瀬はる

一丁目の空地に生えしドクダミを母は煎じて吾に塗りたり  松下英秋

君からは夏の匂いのすることを君は気づかず吾の前ゆく  森 雪子

すずかけの実の一粒を葉の裏に隠してこれは我のものなり  三好くに子

二重顎たしかめながら木漏れ日の明るいところを避けながら行く  椛沢知世

仏花には紫色が似合うから一番あやめに鋏を入れる  田島キミエ

ひさかたの雨の降る日にレポートをシュレッダーにかける やんだかな  太代祐一


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-18 20:54 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 17日

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選

シャンプーを流して拭くとき銀髪はまだ線香のきつく匂えり  吉田 典

雲よりもあわい乳房をもつ人が笑う夜 おれはこころぼそいよ  小松 岬

「右を見て」言われたれども手術台に我は幽体離脱のごとし  大出孝子

窓のない部屋に逃げよと言われても外は新緑猫はみごもる  菊井直子

いつまでも私が覚えておきますからあなたはゆっくり忘れてください  北山順子

就活を共にしてゐる気分なりあのビルの中働いてみたし  河内幸子

刈りたての麦の香をさせマメトラの青年道を譲りくれたり  竹井佐知子

五月の蚊許しておれば生意気な我の右耳刺してぞゆけり  西川照代

箸を持つ爪のピンクに怯みおり九年ぶりにマニキュアをして  太田愛葉

にしぞらに浮かびいる見ゆまひるまの少女のゆびのさきに見し月  中田明子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-17 21:58 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 16日

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

はつなつのまるごと一個買うキャベツふたりでみっしりこの世を暮らす  小川ちとせ


軒下に吊るされている玉ねぎが肩に当たってぐわんとゆらぐ  中本久美子


良寛もフランチェスカもわたくしも鳥と話せる人はさびしい  田巻幸生


君からの手紙をひらくやうにして新たな夏をはじめんとする  木村珊瑚


煙草喫む人なのだなと思ひをりサロンに髪を洗はれながら  髙野 岬


石のごと黙してゐたき日のありてハイビスカスの赤の目に沁む  唐木よし子


枝の影がゆびの形に揺れはじめ走り出したくなる宮の森  紀水章生


恐竜の絵の傘さして雨をゆく夕べ子ぐまが出たといふから  中橋睦美


雨の日は雨の香のするベランダで熱いコーヒーゆつくりと飲む  大田眞澄


いちはやく雨の気配を知らせ来ぬ風のなかなるリラの匂ひは  栗山洋子



(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-16 21:50 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 16日

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

たわたわと白詰草を踏みてゆくこの草原に朝の日注ぐ  金光稔男

若き日より夢にてわれを見据えいるあの眼は多分われと気づきぬ  津田雅子

鉛筆を投げるごとくに医師言いきそれはそういうものなんだから  宇田喜代子

朝夕のニュースのたびに呼ばれてる容疑者節子、私ではない  倉谷節子

スリーブレスの君を見たから予報士が何と言おうと今日から真夏  坂下俊郎

三歳で死んだ弟まいまいに生まれかわって我が庭に棲む  佐藤涼子

川端に黄色いあやめが群れて咲き記憶の母は米を研ぎおり  ジャッシーいく子

まむし草踏まれたままの山の径きつねの嫁入り通ったあとに  林 都紀恵

切り花に向かないけれど立葵届けたき人ありて朝に切る  櫻井ふさ

わんわんと喧噪あふれる梅田地下柱の陰に黙(もだ)す人居る  芳仲成和


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-16 16:23 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 15日

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

またねって言って別れたきりだからその日のために気が抜けぬまま  髙橋圭子

あんりゃまあ年寄りばかりが歩いてる ふわふわ来るは山田トシ子だ  金丸繁利

傘をたたみポストを開けぬ一輪の白き薔薇などあるやもしれず  石丸よしえ

このひとがわたしを好きつて妄想を肴に飲めるチューハイ二杯  穂積みづほ

明らかに違う雀のファミリーが引っ越してきた我が家の周辺  常願路哲満

ワンピースの背のファスナーを上げてやる秘密を抱えはじめた初夏の  茂出木智子

沸点がたぶんことなるひととゐて紅さるすべり白さるすべり  小田桐 夕

カレンダーどおりに生きる人たちが五月の谷間を歩く靴音  高松紗都子

「わたくしは歯医者が好きです」まなこ閉ぢ呪文をかけて椅子に仰向く  木原樹庵

池の面は五月のひかりに満ちあふれ汗拭きてゆくお遍路ふたり  冨田織江


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-15 22:46 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 14日

「塔」九月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」九月号 栗木京子選歌欄 十首選

眠ってたことに気がつくのはいつも目が覚めてから ひかりのなかで  鈴木晴香

十年ぶりに出逢いし人と十年を越してふたたび別れなおしつ  田村龍平

腫れぼつたい瞼を押さへる指の腹のかさつき俄に悲しく思ふ  大江美典

今日もまた魔女が居るらしわが回りハンドバッグのカードを隠す  古谷智子

ソフトクリーム代わり番こに兄妹そのてっぺんに花のふりくる  水岩 瞳

紙袋をなかなか捨てぬ妻の癖(へき)、三十九年わたしを捨てず  三吉 誠

サランラップふいに終わりて自らを責めいる気持ち 気づけたはずだ  吉岡みれい

はつなつの遅延証明どの駅のポスターも痴漢を許さない  𠮷田恭大

女子高生の腿ふとき良し自転車に橋渡りゆくその腿つよし  古関すま子

メカニズム話し続くる唇に薄桃色の紅差されあり  小圷光風


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-14 15:59 | 十首選 | Comments(0)
2017年 09月 13日

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選

親の買うミニーのパンツをはいているあの子と一生わかりあえない  海老茶ちよ子

階段の上にて眩暈覚えしを支へくれたる人のありけり  潔 ゆみこ

もう一度階段下りてわれに目を合はせてほしいと見てをれば来る  岡本 妙

なで肩を絹の襦袢がすべり落つる如くに妻の記憶のレベルは  菊池秋光

ああきっとひとり暮らしに向いているわたしだったね 春の雨降る  紫野 春

しっかりと支柱にトマトを結びおり五月の風に二番花が咲く  竹内多美子

名がつけば少しのんびりうがいする 人類初じゃなかったんやし  中井スピカ

飲みこんでしまったガムがついさっきの嘘といっしょに喉につかえる  萩原璋子

御祭主のお祓ひのこゑに聴き入りぬ父なく母なき家を仕舞ふ日  吉村久子

生活保護ってどうなのかなとつぶやけば女友達やたらくわしい  田宮智美


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-09-13 23:11 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 20日

「塔」八月号 月集 十首選

鳥たちはどこにひそみているならむ空を割りつつ雷(らい)が近づく  吉川宏志

吹き荒るる風のあしたを花韮のうすむらさきになりてなびかふ  花山多佳子

手も足も汚れて死にし者たちに有明スミレは白を点せり  栗木京子

何気なく町に買いたる花束になずなの緑混じりていたり  前田康子

ミサイルの避け方を説く教室の窓より空の澄みわたりゆく  梶原さい子

むさぼりて本を読むゆめ合歓の葉はわたしの夢を閉ぢてひらかず  苅谷君代

亡き父の長き思案の置きどころ碁盤は長女のわたしがもらふ  酒井久美子

かたかごの花咲く寺井に汲みまどう少女五人が絵の中におり  進藤多紀

ぶらんこを少し遠くへ飛び下りて襞スカートの少女期終はる  干田智子

家を出でし母に出遭ひてバス停に十歳の夫声をのみしと  村田弘子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-08-20 23:28 | 十首選 | Comments(0)