暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 70 )


2017年 08月 19日

「塔」八月号 若葉集 永田淳選歌欄 十首選

「塔」八月号 若葉集 永田淳選歌欄 十首選

ふたひらの羽があるから蝶々は自由なのだと思い込んでた  八木佐織

射程距離6000キロのなかにゐてまだ初恋を知らぬ野良猫  宮本背水

「ミサイルからの避難方法」のわら半紙 保健だよりの隣に貼られ  井手明日佳

まちがえた記憶そのまま鳴っているピアノの譜面が頭の中で  希屋の浦

香ぐわしき四月の風に誘(いざな)われガン細胞に花を見せにゆく  里乃ゆめ

幽界の使ひのごとくほのあをき翅をひらげておほみづあを消ゆ  高橋道子

いくたびも予測外れて温める君のシチューは濃さを増しゆく  髙山葉月

いつ帰るんやって電話で言われてまだそっちに住んでいる我  山口 蓮

中指の変形せしを変形のままに包めりやわらかき水  佐々木美由喜

電線のカラスと吾の目が合ってひとりなのかと一声鳴かれ  真間梅子



(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-08-19 16:46 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 18日

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選

ふと力抜きたるように風はやみ雨のかたちのままに柳は  黒木浩子

遠くを見る目をして遠くを見てゐない少女の膝に赤いしたじき  川井典子

銀杏の芽犬と幼児とタンポポとツバメの巣を見て散歩を終える  さつきいつか

サークルの一つ一つを見てまわりナガミヒナゲシ抜きて帰れり  鈴木四季

卓上の口紅ひかりが満ちている わが唇を彩るために  沼波明美

のろのろといやゆっくりと歩くのだこの悔しさを忘れないため  増田美恵子

わたくしは静かに静かに爪を研ぐ権力者になど知られぬように  山梨寿子

朝風に連なりてゆく自転車の少年の声木津川わたる  加藤 紀

草花を育てる母に着せたきとかなりあ色のブラウスを選る  菊井直子

ミサイルの発射のニュース聞き終へて洗ひし毛布春空に干す  堺 礼子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-08-18 22:05 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 17日

「塔」八月号 前田康子選歌欄 十首選

月齢の浅き光にアネモネの色の数だけ影広がりぬ  永久保英敏

柔らかな雨は眠くてとっぷんとカップをひたす午後の厨に  中野敦子

水張り田にその身を映し立ちてゐるトキの双つの足元ひかれり  山本龍二

めぐすりがふたつの海の縁どりにあふれてゆふべ涙をながす  松原あけみ

もうすでに諦めかけている色だ カンパリソーダのような夕空  石橋泰奈

なつかしい君のくびれはわが腿にぴつたりと添ふあたらしきギター  木村珊瑚

勝負時あれば締めよと海色のネクタイ贈る風つよき日に  赤田文女

夏蜜柑艶めくまでに煮詰めつつ思ひ出か今かわからなくなる  俵田ミツル

墜落機発見されざる三日間の雨に雪柳降り敷きし庭  金田和子

春だけのあかるき香り苺から酵母おこして焼かれしパンは  谷口美生


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-08-17 22:24 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 16日

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選



汽車の着くころねと男傘たづさへ母は駅へと小走りに行く  竹内真実子

乳のみ子の帰りし部屋に初夏の風あまき匂いを消してゆきたり  宮内ちさと

悪党ほど善人面して馬鹿にするも姫さまだつて<馬鹿>ではないのだ  河村壽仁

指鉄砲で五月の緑を撃ちぬいて未必の故意を教えてあげた  佐藤涼子

あたしだけ鬼に見つけてもらえずにさくらが過ぎてみずき咲いてた  西村美智子

半島の真下にあるぞわが住まひ とりあへず買ふ白ヘルメット  長谷川愛子

待ち暮らすバスは過去よりあらはれぬ右目に傷ののこるはつなつ  東 勝臣

一人では来たことのない部屋だから呼び鈴そういや押したことない  田宮智美

紅旗は平氏なるかな アカシアの雨にあらねど雨のメーデー  中村英俊

生まれたらさびしさがもうついてくる両手震わせ赤ちゃんが泣く  矢澤麻子



(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-08-16 22:33 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 15日

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選

不自由はないかと君に電話する「ないよ」の返事いつもかわらぬ  松竹洋子

ぼんやりと桜を見ていただけなのに大丈夫かと手をにぎられる  西之原正明

墓の谷に続くをぐらき小径には野いちごの花さみどりに映ゆ  竹尾由美子

生け垣のレッドロビンが朱くなりランドセルのあを坂のぼりゆく  澤﨑光子

着歴を押して亡母に掛けてみる「デンパノトドカナイトコロニアリマス」  石川えりか

自由猫と名付けて三軒で飼ひならすトラ子は幸せを運びて巡る  仁科美保

リュック背に抱っこ紐にて子を抱(いだ)き大きなバッグで娘(こ)は帰りゆく  藤田 咲

ほんとうに渇いているのは喉(のみど)ではないと知りつつ水汲みにゆく  中田明子

きなくさきニュース流れてながれくる黄砂をけふの善きものとせむ  千村久仁子

運勢を占うごとくおごそかにその皮を剥く朝(あした)のバナナ  福西直美


(新井蜜)

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by trentonrowley | 2017-08-15 22:29 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 14日

「塔」八月号 池本一郎選歌欄 十首選

腑に落ちて心決まりぬ都バスから商店街を見てゐるときに  髙野 岬


渋滞に巻き込まれずに行き帰る記紀の世と今の犬上の地を  穂積みづほ


決心はたやすくゆるび見てゐるは水槽の金魚の鰭のひらひら  高橋ひろ子


もう会わぬ人なのだから好きなだけ嫌われたってさみしくないさ  海老茶ちよ子


四世代揃ひて囲む食卓に鯛も鰹も刺身になりて  水越和恵


「おはよう」の響ける園舎の一角にFAX累々着弾時の指示  荒木みのり


三分前の悲しい吾が三分後の悲しい吾にラーメン作る  太田愛葉


じわじわと炊飯器噴き、原子力発電所にも日は暮れゆかむ  千葉優作


まっすぐに工場の煙のぼりゆく春となりゆく空のうつり目  三上糸志


スカートを軽くつかみて一回転ひと去りしのちのバルコニーにて  水野直美



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2017-08-14 21:35 | 十首選 | Comments(0)
2017年 08月 13日

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選

本当と嘘のあいだの嘘よりの言葉を重ねてこの春も過ぐ  柴野 春


空っぽのお腹で眠る病室のカーテンの薄きピンクを眺む  黒沢 優


いちどだけ掬はれしみづ さまよへるあなたをうるほす河でよかつた  小田桐 夕


雨に濡れかがやくさくら見てをりき傘かたむけて二十歳の吾は  祐德美惠子


もし空が割れたら何処に行けばいい 輝く四月の濃き影のした  岩尾美加子


あなたもお一ついかがと白き手がマシュマロのやうな不安をつまむ  加茂直樹


泣いてばかりいても仕方ない春雲とわたがしならばどちらが軽い  北野中子


分類は私の仕事なのになぜ名前のつかない感情がある  中井スピカ


戦争がどこか遠くでおきている野ばらはきっと今年も咲くらん  久長幸次郎


鼻がかゆいと言えば君が掻いてくれる くすぐったくて可笑しい春だ 茂出木智子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2017-08-13 23:58 | 十首選 | Comments(0)
2017年 07月 20日

「塔」七月号 月集 十首選

剝がしたき思ひに見つむ垂直に幹をのぼれる繊きほそき蔓  花山多佳子

人住まぬ家の仏間に赤錆びの脇差はあり抜き身のままに  三井 修

菜の花とじゃこのパスタを食べながらあなたは語る気圧の変化  松村政直

手の甲をわれに抓ませ富士山と言わせてくれた祖母遠きかな  藤井マサミ

信じるもの匿さねば生きられぬ世キリシタン禁制の時代のみには非ず  黒住嘉輝

真昼間の日ざしの中を歩むとき先だつ杖に濃き影のあり  小石 薫

一歳の子らのなかから抱き上げる吾子を作物収穫のごと  澤村斉美

拗ねる子が私のようでもう面倒くさい奴(やっちゃ)なと抱き上げ帰る  永田 紅

しげ丸という犬友だちと会えなくてとぼとぼ帰るれんげを見つつ  なみの亜子

駅ナカのカフェの壁ぎは高椅子に座れば脛より街にさらさる  万造寺ようこ


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-07-20 16:14 | 十首選 | Comments(0)
2017年 07月 19日

「塔」七月号 池本一郎選歌欄 十首選

紛失をしたと決めいしわが帽子いく日か過ぎ駅に受け取る  山崎一幸

白椿好きと告げたる母なりき鈍空にはなほつりほつりと  河原篤子

春雷は火崎の燈台浮き立たせ魚釣る船の右舷照らせり  郡山紀男

寝返りを何回打ちしか朝刊が届いてしまえりあぁもう三時  髙畑かづ子

労基署に同行せよといふ指令待ちて終はりぬ寒きさんぐわつ  田中律子

おいくつと訊けば白ばら幼稚園に行くのと答う間をおかず  永田聖子

一人居のほのかな明かりも消え失せて牛乳、新聞もう来ない家  西本照代

子は少しつまらなさうなり生きてゐてくれればよいと望みを言へば  広瀬明子

妊婦らしき先生もゐる公園に幼き児らの高き声する  青木朋子

待ち合はせの駅で娘は喪服着たうさぎの顔してやや頷きぬ  北神照美


(新井蜜)

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by trentonrowley | 2017-07-19 16:23 | 十首選 | Comments(0)
2017年 07月 18日

「塔」七月号 花山多佳子選歌欄 十首選

ただならぬ視線のなかでごみを出す背後に三羽頭上に一羽  山西直子

滔々と話す子といる子に化けた狐だろうかと怪しみながら  北辻千展

ねこ道を通つて帰らう夕ぐれを保育所帰りの子の声がする  藤木直子

夕べ去る甥を探せば灯りなき仏間にひとり額づきをりぬ  大木恵理子

舞ひ終へてかたへのまるい茣蓙にゐる巫女のかほふたつ白く浮かべり  川田伸子

雨ののちたつたひとりの午後となりわれの輪郭もどりて来たり  澄田広枝

たつたいま羽化せし蝶かわたくしの花柄シャツに纏はりついて  野島光世

職場より直行したのか通夜の席ひだり手首に輪ゴムののぞく  邑岡多満恵

謹みて米あらひけむ冬日差す造酒司(みきのつかさ)の井戸のめぐりに  山口泰子

お別れにハンドクリームをわたされきをんなの多き職場であれば  西村玲美



(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-07-18 19:42 | 十首選 | Comments(0)