暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 51 )


2017年 06月 22日

「塔」六月号 永田和宏選歌欄 十首選

罅があれば割ってしまうのがあなただと若き日の友の言葉が浮かぶ  𠮷川敬子

春光の若戸大橋わたるとき「死の海でした」と不意に言ひたり  伊東 文

上がつたよクラゲクラスに濡れたまま水泳パンツで子は駆けてくる  河﨑香南子

ケイタイの着信音がカノンなる看護士われの脈をさがせり  黒沢 梓

つり橋をわたり終へたるそののちの揺れのやうなるゆふぐれ来たり  澄田広枝

頭痛なのかめまいなのか気のせいなのかわからないまま夕暮れとなる  中山悦子

スマホを得たマサイのようにもう君はこの冬狩りに行かなくなったね  橋本恵美

せっかちなヒールの音が背後より迫り来て歩調乱されてゆく  畑 久美子

MRI検査の前に入れ墨はあるかと問はれ怒り出す母  吉田健一

向き合ひてパチンコ店建つ駅頭にわたしの空が夕焼けてゆく  大河原陽子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-22 23:19 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 21日

「塔」六月号 若葉集 前田康子選歌欄 十首選

福寿草写真撮らむとかがみ込みふいに合掌したくなりけり  水岩 瞳

骨壺の柄をめぐつて言ひ合ひす今年はゆずも摘めずに終はる  大江いくの

あみだなに寝そべりあみのすきまからとろりと落ちてしまう夕ぐれ  坂本清隆

倉吉より列車を三度乗り継いで横浜元町の画廊に着きぬ  佐々木美由喜

くらくらと一字の助詞につまづきて時計を見れば夕餉の迫る  庄野美千代

ドライヤー焦げた匂いのする夜更け愛も炭素に変わるよいつか  中井スピカ

言い訳に誰も振り向くことなくてキャベツの芯の甘みがつらい  深山 静

匂いとは微粒子なのだと本で知る だんだん好きになる微粒子よ  うにがわえりも

海釣りから戻りし夫の車庫入れの静かな音に釣れずと察す  白波瀬弘子

鉄橋のむかうに見ゆる岸辺には風向きのまま枯れる葦原  岡部かずみ


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-21 21:56 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 21日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

立春の空の明かるし敬語にて話すと決めてあなたと歩く  長谷川博子

ボタンひとつ外せば楽になることの深呼吸してやり過ごしたり  黒木浩子

夢の内結んで開いてわになつてジヤンジヤツクルソーとシヤツセしてゐる  佐竹永衣

こ、み、えとふ吾子の音では終はらない。な、か、きで終はる受験生の名  新谷休呆

はなびらが絨毯のうえに落ちてありあるいは真昼の破(わ)れ目より降り  中田明子

風だけを見ているように進み行く高きサドルのジーンズの女  廣瀬美穂

忙しなき気配ひそかに怖れつつ小声で乞いき雛の疎開を  三宅桂子

やがてまた雪を降らさむ沖の雲あふみのうみの青に触れたる  篠野 京

はるかちゃん怒鳴ってごめんね四歳を丸ごとコートのなかに抱きこむ  丸本ふみ

ゆびさきにばんそうこうが見えている舞台衣装の女のひとの  高原さやか


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-21 16:31 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 20日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

街角でこまつしやくれた魔女と読む『飛ぶ教室』はなかなか飛ばない  木村珊瑚

制服のボタンは今も効くらしく一つだけ残し次男帰宅す  荒木みのり

くりかへしご遠慮くださいと聞かされるプラネタリウム内での授乳  伊藤京子

星見えぬ今宵の空に高く高くこの世の蓋たる月の輝く  大橋由宜

朝食のコッペパンの中に時折あり。秋原の上司からの秘密の指令書  河村壽仁

うぐいすの初音をききつつ今つみしひじきを庭に乾してゆきたり  小谷栄子

走りゆく梅の花びらひとつずつ犬は追っかけ匂いを嗅げり  鈴木晶子

病院が恋しいと泣く人といて剥かれるための指のささくれ  花麒麟陰朗

銃口が向けられている心地して窓の桜は静かに散れり  深井克彦

ねむる間もどこか触れてる母と子に二歳の冬が過ぎてゆくなり  林 雍子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-20 22:11 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 19日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

はつなつの手紙の余白はわたし以外だれもゐざりし砂浜に似る  小田桐 夕

鴨川の光の速度やわらかに人に手櫛をされる疚しさ  鈴木四季

知らぬ間に針の上がりしレコードのやうにあなたの笑みの消えをり  加藤 宙

目標を十個探してくださいと担当医師は淡々と告ぐ  北山順子

わが耕地に鉄道引くゆめ持ちしことえんぴつナメナメ短歌を詠みぬ  武井 貢

遠つ世の面輪に会へる雛まつりこの日に添へる桃の花なる  道満光子

峡の村の道を曲がれば夏みかんとびこみてくる温き陽の色  中橋睦美

君といて突き通す嘘ひとつあり白木蓮はゆつくり開く  富田小夜子

八時十五分発普通高槻行毎朝乗つてるうちに三月  岡本伸香

白足袋の老人背(せな)をぴんとして冬の菊坂くだりてきたり  唐木よし子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-19 20:39 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 18日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

片頰の照り消えずあり少年の押すゆきだるま幾度も止まる  篠原廣己

ひさびさにスクランブル交差点渡りつつ斜めにゆけば何かが目覚む  相澤豊子

「学校注意」の道路標示に月が差す学校はまだできてないけど  逢坂みずき

たれとても小さな傷を負へるごと火のいろの前に人は幼し  加藤和子

出かけしな「いってらっしゃい」と声かけたナカジマくんが戻るといない  清水かおる

左右別ハイソックスのガラ違う今はこうなのドウドウと行く  山本良子

気持ち悪い深読みをする女だとひとを思えばその友のわれ  吉岡みれい

浮気相手が女なら怒らぬかと夫に訊けば苦笑いして答えぬ夜だ  吉岡みれい

あまくちのカレーにソースかけ食めば祖母のライスカレーに似たれり  岩﨑雅子

花束は最終列車の網棚にこのまま揺られ揺られゆくべし  小林貴文


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-18 22:52 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 17日

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選

さうだねと妻のグラスにワイン注ぎ黙す信管にふれないやうに  安永 明

音と色にわれたとふれば”ファ”であり”緑”でありて 心地よきかな  西内絹枝

悲しさのつのる思ひにたちゆきて如月の庭の草を引き抜く  猪俣文惠

来ぬメール待つしかなくて暮れなずむ冬木しずけし古稀近き恋  田巻幸生

降ってくる猫降ってくる女の子降ってくるたくさんのミサイル  田村穂隆

菜の花のタルトフランベほろにがく菜の花畑の野焼きを想ふ  藤原 學

引き締まる双の臀部に触れたかりクーロス像の後ろ動けず  松井洋子

とけながら淡雪のふる夜の橋いくつわたれば吾の川ぬるむ  三上糸志

かたわらに資料を持ちて説明する女の息に匂う歯磨き  村﨑 

広場には枝垂れ梅だけ咲いてゐる離れては寄りて女男(めを)眺めをり  向井和子


(新井蜜)

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by trentonrowley | 2017-06-17 19:36 | 十首選 | Comments(0)
2017年 06月 17日

「塔」六月号 池本一郎選歌欄 十首選

ともに読みし『月のぼうや』のほそながき表紙の青から子は語り出す  松原あけみ

雪の嵩カサッコソカサとくづるるをあのひとの骨揚げの音に似る  伊藤芙沙子

金柑の実をぽとぽとと落としつつ小鳥らよぎる母ゐぬ庭を  越智ひとみ

大根とわかめとトウフのみそ汁を一週間続けても怒る家族のおらず  北野中子

浮かびくる言葉はするりと抜けてゆく玉留め忘れし縫ひ糸のごと  木戸洋子

何もかも奪われていてもうなにも怖がる必要なんてないのに  鈴木晴香

化粧して恥ずかしくなり話せなくなってしまった男友達  濱本 凜

スーパーで二円をゲットするためにマイバック持ち気使う日々よ  前原美登里

指先まできた絶望は行き先を求めて文字になるのだろうか  紫野 春

檀那寺の跡取り娘は得度してますます笑はぬひととなりたり  河野純子


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-06-17 10:01 | 十首選 | Comments(0)
2017年 05月 20日

「塔」五月号 若葉集 山下洋選歌欄 十首選

うろこ雲西へとなびき果たてには妹ねむる大地のあるを  坪井睦彦

夕食を一人で食べることに慣れすぎた者たちが集う昼食  山口 蓮

たつぷりと根菜を煮る夕暮れに帰つて来ないこどもがひとり  岡部かずみ

伊予柑を剥きゆくはやさ にんげんの殊にをみなの指うつくしき  有櫛由之

日のあたる枯野がつづく湖西線つぎ無人駅と車掌が告げる  臼井 均

デパートの人形売り場に金髪の雛並びいてしばし見つめる  倉成悦子

城山(しろやま)を白く隠して近付ける雨足強く足もとを打つ  山内恵子

管理者兼管理責任者の重みより名刺の写真に納得いかず  八木佐織

幸せのかたちは見えにくいけれどティッシュを取れば最後の一枚  魚谷真梨子

枕元でいつも縫い物してた母 エプロンの端を持って寝た吾  水岩 瞳


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-05-20 23:09 | 十首選 | Comments(0)
2017年 05月 20日

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選

やは肌の白蕪うすくうすく切りガラスの皿に丸く並ぶる  丸山真理子

改修の済みたるトイレはずかしくしばらく別のフロアを使う  山名聡美

するするとこぼれ落ちゆくものが有りあなたを自由にしてあげましょう  伊坂恵美子

豚汁と芋煮の違いを問われれば「気の持ちようだ」と言うほかはない  佐藤涼子

母の胸に乳呑む嬰の無心にも似て吾が手料理を食みゐる夫  道満光子

雪分けて掘りし大根持ちきたる夫とのランチはおろしそばにせむ  中橋睦美

ガラスの靴をシンデレラはわざと残したという人もいて婚活というは  中山惠子

家の中妻の痕跡消してゆく長い髪の毛使いさし口紅(ルージュ)  根石英生

四人子の家あり並ぶ自転車はだんだん大人になってゆきたり  ひじり純子

刈られゆく髪が首すじ通るときこんな別れもあった気がした  吉井敏郎


(新井蜜)
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by trentonrowley | 2017-05-20 19:58 | 十首選 | Comments(0)