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暗黒星雲

trenton.exblog.jp
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2017年 05月 20日

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選

やは肌の白蕪うすくうすく切りガラスの皿に丸く並ぶる  丸山真理子

改修の済みたるトイレはずかしくしばらく別のフロアを使う  山名聡美

するするとこぼれ落ちゆくものが有りあなたを自由にしてあげましょう  伊坂恵美子

豚汁と芋煮の違いを問われれば「気の持ちようだ」と言うほかはない  佐藤涼子

母の胸に乳呑む嬰の無心にも似て吾が手料理を食みゐる夫  道満光子

雪分けて掘りし大根持ちきたる夫とのランチはおろしそばにせむ  中橋睦美

ガラスの靴をシンデレラはわざと残したという人もいて婚活というは  中山惠子

家の中妻の痕跡消してゆく長い髪の毛使いさし口紅(ルージュ)  根石英生

四人子の家あり並ぶ自転車はだんだん大人になってゆきたり  ひじり純子

刈られゆく髪が首すじ通るときこんな別れもあった気がした  吉井敏郎


(新井蜜)

# by trentonrowley | 2017-05-20 19:58 | 十首選
2017年 05月 20日

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選

鳥の絵をならべたるデイサービスに極彩色の一枚があり  吉田 典


巻貝を辺野古の浜に拾ひ来て目を逸らさじと食卓に置く  繁田達子


寝坊した朝の信号 救急車が静かに青を待っていて 晴れ  山川仁帆


癒ゆるとはたとえば慣れてゆくこともひとつと思い寒の月見上ぐ  黒木浩子


テーブルに萎れはじめたスウィートピーだからミルクティーにシナモンを少々  赤嶺こころ


歌会終へ家事する我になる前の大橋の途(みち)を染める夕焼け  猪俣文惠


初詣に意外と長きお願ひをしてをり今年四十の長女  北島邦夫


亡妻(つま)などは吾がすぐ傍にいる事ありどこかに抜け道あるのかもしれぬ  二貝 芳


美しき指の女はゆで卵の殻を上手にむきつつ話す  深井克彦


色あせしベンガラ格子丹波橋のみぎてに見ゆる下宿にありき  竹尾由美子



(新井蜜)



# by TrentonRowley | 2017-05-20 11:47 | 十首選
2017年 05月 19日

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選

徒歩二分ポストが新たにつくられて友達一人できたやうです  古賀公子


葬列がゆくりとアパート出でてゆく 自転車置き場の冷えたる鉄管  河村壽仁


まどろめば山高帽に鳶着た父がほほえむ 忘れていたに  菊池秋光


夕暮れの公衆電話はひとり住む田舎の母の姿と思う  斉藤わこ


関税庫のあいだから見る黒い海 海保の船が無言で泊まる  中山大三


独り棲み豆まき無縁のわが部屋に追われし鬼らがあまた顕(た)ちたり  西村美智子


小菫の白花の咲く路地裏を私は知つてゐる 誰にも言はない  与儀典子


やうやつと風邪が身体を抜けてゆくはげしく春の雨降るあした  越智ひとみ


春の海青いひかりを手放して魚群の血液重たくさせる  池田行謙


いつからか世界は壊れかけていて殉教者よりスパイになりたい  山梨寿子



(新井蜜)



# by TrentonRowley | 2017-05-19 15:59 | 十首選
2017年 05月 18日

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選

マンホールに「あめ」や「おすい」と書かれゐてさびしく流るる水音きこゆ  江原幹子

夕暮れを待ちわぶる子らの声高く鎮守の杜にワラ鉄砲集ふ  川島 信

湯上りの初の黒髪なでたれば乳の匂の微にただよう  隈元三枝子

ふうらりとただふうらりと寄ってみただけの深夜のセブンイレブン  坂下俊郎

素疾くも嗅ぎつけるごと救急車の我が家戸口にぴたり寄せ来ぬ  内藤幸雄

父母のひそひそ話を襖ごしにじっと聴いてた少年の日の夜  長野 晃

寒ければ働きなさいと母言いきそは真実と思い寝ており  松浦わか子

子どもなどいない一画夜十時声をひそめてふたり豆撒く 𠮷田京子

真っ暗な(それでも朝の)空に月 指差せば指先が冷たい  鈴木晴香

カーテンに朝の陽さして春立てばパタリと返す玉子焼かな  福田恭子


(新井蜜)


# by trentonrowley | 2017-05-18 16:40 | 十首選
2017年 05月 17日

「塔」五月号 永田和宏選歌欄 十首選

冬晴れの道に出会へばこの草の名前はわたしが決めると決める  高橋ひろ子

ただ青く海が広がるそれだけを内陸育ちの三人が見る  山﨑大樹

産まれ出て七年経てば赤ちゃんは隣席の子に告白もする  矢澤麻子

肋骨に奇形あり害はなしと知り帰りに買う軟骨のからあげ  森永理恵

ぱつぱつとてのひら広げ巫女たちも豆まきにけり正殿を背に  篠野 京

おだやかで頑固な父が隊長と呼ばれ介護士と歯みがきに立つ  倉谷節子

ラインにて囁く友の一文に「。」のなきこと至極気になる  近藤真啓

心病む母せつせつと語りし事本当であり嘘でもありし  清水かのん

駆け出せば足はいきなり水たまりばしやりと地球の底まで見えた  今井早苗

夕暮れを待ちて手にする花ばさみ元荒川の飛び石わたる  久川康子


(新井蜜)


# by trentonrowley | 2017-05-17 23:30 | 十首選