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暗黒星雲

trenton.exblog.jp
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2022年 04月 29日

「塔」四月号 山下泉選歌欄 私の好きな歌十首

「塔」四月号 山下泉選歌欄 私の好きな歌十首


「ラーメンでも食べて帰ろう」口にしてはじめて食べたいものに気づけり  仲原 佳


大根は冷めゆく時に染みるという頭を冷やせと言われたあの日  森川たみ子


わが欲しき浄き眠りは売らるるか雪のコンビニ聖夜を灯す  三上糸志


マスクの色ピンクに変えて出かけゆく束の間春の苺をもとめて  朝日みさ


境内の梔子の実を盗るといふ妄想ウフフきんとんを練る  岡田ゆり


語れない想いばかりがふくらんで私を加熱したら爆ぜるよ  小川さこ


デルタ株ゼロの続く日啓蟄の虫のごとくに街に這ひ出す  向井ゆき子


土竜また耕作者にして白菜の芯わけてやるほんの駄賃に  西郷英治


その本は家のどこかにある本で、どこかわからないから買ったのさ  平出 奔


さりげない振りがもつともむづかしくいつもの順序で夏みかん剥く  高橋ひろ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-04-29 21:33 | 十首選
2022年 04月 19日

「塔」四月号 なみの亜子選歌欄 私の好きな歌十首

「塔」四月号 なみの亜子選歌欄 私の好きな歌十首


雪と風窓打ち続く朝まだき列車の音す 乗りたるは誰  佐々木美由喜


スリッパの残る温もりはっとすも履きかえぬまま診察券出す  鯵本ミツ子


遊ぼってポニーテールのまりこ来るくる日もくる日も塾などなくて  今井由美子


ああ、あれはサンダーバード夜をゆく湯舟をとおく抜きさってゆく  海野久美


千六本切りかけ止みつ 五十本くらゐでよいか一人の刺身  栗栖優子


湯たんぽが待ちくるるから氷点下二十度の夜も眠れり直ぐに  小林多津子


真裏には世田谷線が往き来するその音までも店の味なり  杉山太郎


われを訪ふ呼び鈴がもう喜びの音色なりけり子を産みし友  染川ゆり


こうのとり故郷の池に飛来すと同窓会の延期の知らせ  宮内笑子


寺庭のお百度石に苔生せりぐわんかけするひと今なほをるや  唐木よし子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-04-19 22:44 | 十首選
2022年 04月 16日

「塔」四月号 若葉集(栗木京子選) 私の好きな歌十首

「塔」四月号 若葉集(栗木京子選) 私の好きな歌十首


スコップで混ぜた手作り飼料なりわが相棒の鶏に与える  前田典昭


セーターの毛玉切るときひっそりと私の中に降り立つ少女  丸山 萌


夢があれば、あればしあわせ真夜中の海月は海と月にわかれる  長井めも


コーヒーを一口飲みてマフラーをくるりと回す君の白き手  鴻野節子


スカートの下にジャージを履いてする逆立ちみたいにカレーを頼む  中型犬


二人して写真に納まる「このときは元気だった」という日のために  土井恵子


巻き爪の内向的なかなしみが疼きだすのだ正座するたび  ひろうたあいこ


昼過ぎの車内はみんな微睡んで虹を伝える相手がいない  山桜桃えみ


迷いつつ爪先立ちで歩く夜の桃色の月我を離さず  𠮷田佐和子


つかみたしスピカの青さ手のひらに春の訪れ感じたいから  関 竜司



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-04-16 22:46 | 十首選
2022年 03月 24日

「塔」三月号 月集 私の好きな歌十首

「塔」三月号 月集 私の好きな歌十首


計り売りの味噌屋で賢(さか)しくブレンドをしてもらひたる少女のわれは  花山多佳子


一つずつリンゴ配り歩く人私には来ないなぜだか考える  藤井マサミ


かの秋の旅に着ていしセーターの左手首がほつれていたり  岡本幸緒


一番星から三番星まで数へたらお家に入らう小さきものよ  小澤婦貴子


熱いお茶を飲んでわたしを灯しゆく遠き帆影が揺れ止まぬよう  金田光世


石段を登れずそれし脇道に石蕗の花の黄色明るし  黒住 光


休めの姿勢とりいるわれと真っすぐに立つ若者とレジに並べり  小島さちえ


どの屋根も大きく白き息を吐く夕暮れの里 峠より見き  酒井久美子


くさ原となりたるきみの家の跡隣人が井戸の在処を言へり  杉本潤子


文字追いて義務のごとくに本を読む文字を忘れぬ母の背さびし  西川啓子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-03-24 22:37 | 十首選
2022年 03月 23日

「塔」三月号 梶原さい子選歌欄 私の好きな歌十首

「塔」三月号 梶原さい子選歌欄 私の好きな歌十首


ハイキングは中止とメールに打つ指をとどめるやうに陽の射しきたり  広瀬明子


音のせぬ流れに浮かぶもみじ葉を杉の根っこにつまずきつつ追う  小林則子


てのひらにほどよく重る背の青き鯖の片身をゆず酢に浸す  岩﨑雅子


夕暮れの海は過去への入口か亡き人ら来て黙して語る  大城和子


秋は来ぬ東口への地下道にしんと売らるる栗入りのパン  清田順子


認知症は神のギフトか何もかも忘れて垣根に凍蝶となる  南條暁美


黙然と粘土こねをりざわめきの消えゆきて月昇り来るまで  丸山順司


めくらないままの暦の秋の野は師走の今日も金色のまま  矢澤麻子


晴れの日が三日つづけば三日行くトンネル抜けて日の沈む海  山尾春美


健やかな時も病む時も いつの日か認知症介護する日もありなむ  渡辺のぞみ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-03-23 11:17 | 十首選