暗黒星雲

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2019年 03月 05日

「塔」二月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」二月号 真中朋久選歌欄 十首選


帳じりを合わせるために僕たちは落ちてる斧を拾ったりする  片山楓子


海へ行くしかない水のこの流れ。流れが集まる川を見ている  荻原 伸


歩き出せば時間も動く日当たりの良さげな斜面にみかん鈴なり  穂積みづほ


「頑張ってくるわ」とさっと手をあげて行きたる娘勝って戻りぬ  荒井直子


退会者の短かき手紙読み終えて輪切りのレモンほどのさみしさ  黒沢 梓


鍵穴を思ひ出せない鍵ばかり増えてつめたい冬が来ますね  澄田広枝


満月の前後は身体を休めよと月が笑いぬ階段走れば  ダンバー悦子


水底(みなそこ)を流るるように鳥の影ひとつ舗道をよぎりゆきたり  永田聖子


なにひとついのちは見えず乳いろにゆるく流れる霜月の川  野島光世


木犀のかおり従きくるトンネルを傘さしたまま通り抜けたり  山下裕美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-03-05 17:08 | 十首選 | Comments(0)
2019年 03月 01日

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選


土蜘蛛と呼ばれし民の裔にして薄い醤油に馴染めずにいる  関野裕之


脱皮したような気がするさし入れた封筒が手を離れるたびに  上澄 眠


みづからの暗さに昏れる湖に石を拾へば陽の温みあり  清水弘子


二拍子を揺れるブランコ話し合いなんて家族はふつうしないよ  朝井さとる


若さとは浮力であつたかもしれず重たき我はスキップしたり  北神照美


花舖のまた閉ぢてしまへり公園のかりん一顆を拾ひてかへる  杉本潤子


煙草吸いつつその幼子に話しいる女あり夕べの梅田の街かど  橋本英憲


左耳の耳垢ことんと剥がれたり突然の知らせあるがごとくに  柳田主於美


砂糖菓子のような家族かもしれぬくずれぬように言葉を選ぶ  ほうり真子


向きあつてニシン蕎麦食ぶだし汁を残らず啜るうたびとのきみ  藤木直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-03-01 17:27 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 28日

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選


ここがそのさびしい場所ですというように更地に赤いコーンが立てり  垣野俊一郎


隠し釘あまたしづもる木造の教会森に建ちて百年  竹内真実子


寄る辺なささえも暮らしだ新聞を敷いてやさしく靴を磨いて  小松 岬


かぢといふ寺猫ありておそなへのめざしくはへて月よこぎりぬ  足立訓子


街角の花舖の店員つぎつぎと買はない薔薇を嗅がせてくるる  越智ひとみ


木の間よりゆるゆる上りし望の月無疵の空にくきやかに光(て)る  久保田和子


「男なら良かったのに」と手相見にいつも言われる ええ、本当に  はなきりんかげろう


偉そうな人が頭を下げている(理由は知らない)あたまさげてる  真栄城玄太


老人に老犬が添ふ川縁の遊歩道には小春日の椅子  三木紀幸


貨車遠く重きリズムの響く眞夜母子(ははこ)に貧しき時代(とき)のありたる  才田良子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-28 15:21 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 26日

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選


夢をみて目覚めぬままにゆくこともあるやも知れずあるを願えり  西村清子


奥行きをたしかめたくて手をのばすあなたの中の森の深さの  魚谷真梨子


二羽の蝶あるいは雲のやうなりて乳腺写真をまじまじと見る  大堀 茜


夕光をたつぷり背負ふひとが言ふ かくごがきまつたらまたいらつしやい  小田桐 夕


万灯会のあかりわずかに揺らぎたれば仏の相好かわりたまいぬ  杉本文夫


三回忌法要の帰途つはぶきにとまれる黄蝶たちてつきくる  長谷仁子


なり止まぬ拍手のやうに葉は落ちて秋はかうして深まるらしい  福島美智子


絵本より取り出だしたる菓子を食む時には親の口にも運び  益田克行


一合の白きご飯を分けて食むこの閑けさを老いと言ふらし  和田 澄


白猫のふっくらしていた頰そげて年とったねと言えばすり寄る  森川たみ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-26 22:22 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 22日

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選


退会を告げる電話の声ほがら倒れし妻に添ひて生きると  加藤 宙


新北風(ミーニシ)の吹けばサシバの幾群れの渦巻きながら渡りける村  与儀典子


むすめ来て風呂の黒黴こすりをり仁王尊のごとき力に  伊藤京子


ふりむけば白き橋見ゆゆつくりとバギー押しつつ渡りゆく家族  久川康子


生垣の茶の花密かに咲き継げりやがてくる季を静かに待ちて  中島芳子


まっすぐの道を探して迷う娘(こ)がきれいに磨きあげたるヤカン  ひじり純子


桜もみじ雨にあやしく濡れており今朝方の夢わすれてしまいぬ  相馬好子


寝覚めの悪い夢を終日持ち歩く中身のわからぬ荷物のように  藤江ヴィンター公子


じいちゃんは小脇に雨傘抱え込み小学校まで農道をいく  ジャッシーいく子


夕焼けの色尽くるまで唇の渇きに気づかず岡に立ちたり  赤井稚加



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-22 20:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 20日

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選


猫が水を飲む音 深い就寝の底には青い花野があって  田村穂隆


書類には「妻未届け」と書くならん入籍のなき婚姻として  山下幸一


苅田焼く煙にかすむ遠き村寺の鐘鳴る一つまた一つ  石川 啓


柿穫るは夕日を篭に詰めるごと農夫の軽トラ轍にしづむ  加藤 桂


森の木を丸ごとかじるようにしてブロッコリーの緑を食す  谷 活恵


瞑想に入りしヨーガの教室にふいに今夜のメニューが浮かぶ  村上春枝


見て見てと言ふ人あらずのぼりくる金の満月ひとり占めする  今村美智子


わが脳を現実逃避させるべく時代小説二冊買ひたり  西山千鶴子


頷いてくれるあなたを視界から外さぬように立ち位置決める  竹田伊波礼


見はるかすひまはり畑のその向かう山の上には電波塔あり  寺田慧子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-20 21:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 20日

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選


砂糖を入れかき混ぜた後のひとくちを味わってからミルクを入れる  双板 葉


そこだけに秋の日射しがあるように欅の梢赤く色づく  村﨑 京


いくらでも眠ってしまう二度寝してまたもや死へと近づくような  真間梅子


夕焼けて京セラビルは輝きぬ次の橋まで土手を歩めば  黒木浩子


カキ入りの広島焼のふはふはを父子の小皿に切りて分けたり  葵 しづか


小春日のやわき光を含みいる肌着取り込む壊さぬように  村尾淑蘭


サンダルがなかなか脱げず足を振る女(ひと)が向かひのベランダに居る  松井洋子


わたくしがまう載らなくても気づかれぬ安堵と怖さ 「塔」にも秋だ  赤嶺こころ


白抜きの母の浴衣の萩の花夕べの雨にこぼれていたり  菊井直子


飴色の夕陽に濡れている廊下 そんな風に泣くなんて知らなかった  宗形 瞳



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-20 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 19日

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選


ふくらはぎに口つけ毒を吸ふとあり我にはとれぬ体位と思ふ  丸山順司


三面鏡に映る数多の吾(あ)の中の一人を見んとして見失ふ  髙野 岬


アパルトマンの壁が月ほどしろく照りいつもの角とはおもわずに越ゆ  中田明子


合歓の花はめざめたままに眠りをり やさしき嘘をいもうとにつく  福田恭子


晴れよりもきっとやさしい色をして洗濯物は曇天に立つ  椛沢知世


虎杖の花は衰へ沢沿ひに野菊が楚々と咲き始めたり  金光稔男


自転車で朝の部活に急ぐ子を蕪の間引きを止めて見ており  竹内多美子


てのひらをひらきてここに滑らせたそんな瑠璃色ちいさき蜥蜴  千村久仁子


硬き椅子に座ればおのずと背筋立つそんなはじまりだったきみとは  山川仁帆


オリーブの葉はひるがへり裏がへり丘のうへからゆふぐれは来る  山下好美




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-19 15:51 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 18日

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選


陣痛はあれど刻々と死を待つ崖の上からゆらゆらと下を見る  坂村茉里子


わたしたち魚だったし鳥だった記憶の紐を水沫(みなわ)で濡らす  梅津かなで


落とさねば冬は越せぬとふりいそぐ吾の内なる木の葉は何ぞ  俵山友里


黒々と髪結いあげて八重さんはアッパッパ着てお燗つけいし  海野久美


ノルウェイを旅せむと告ぐれどいらへなし起きてつくらな濃き味噌汁を  足立信之


空色の付箋つけゆく歌集にはさびしきウサギが干し草をかむ  田島千代


向い風に漂うとんぼ大丈夫これは時間の流れではない  拝田啓佑


ひざを抱くこどものようにあてのない夜に出逢ってしまう二人だ  長谷川 麟


はじまりは思ひ出せない後の月みづがね色に照るをみてゐる  山縣みさを


宛もなく手紙を出してみたくなる文具屋で花の便せん見つけ  松岡明香



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-18 19:43 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 25日

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


無人駅のベンチの裏の約束を空にさらしている水たまり  近江 瞬


始末書を書いて来たよとだけ言って息子はエビチリを飯にのせ食う  髙鳥ふさ子


ほんとうはやるべきこともあるだろう朝は遠くのパン屋へ向かう  長谷川 麟


われに子のみたりありてそれぞれに異なる匂ひの秋訪れたり  瀧本倫子


夫の弾くベンチャーズ聴き塔を読むこれでよいのだこれがよいのだ  池田真喜子


絆創膏は指輪のごとし釣り銭を荒れた両手で渡す右手に  栗栖優子


記憶の絵のしづかに開く夕暮れはまたラビリントスの入口であり  戸嶋博子


眠りつつ片笑みもらすみどりごは生まれる前の野原にいるか  宮脇 泉


夜更しは老の特権 ながき夜に『自負と偏見』読みかへしゐる  足立信之


サイレンのなる方角を見たそうにしているセイタカアワダチソウまた  鳥本純平




(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-25 14:47 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 24日

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選


ねこじやらしの海なくなりて寒さうにあらはる「売物件」の立て札  越智ひとみ


上弦と下弦の月のちがいさえ知らぬを生きて地球にひとり  川俣水雪


紫の小花でありしを忘れ果て木通はうつとり秋空に開く  森川厚子


母は母の幼い記憶に戻りゆく父母がいた庭は日溜まり  祐德美惠子


郵便の来ざる秋の日玄関の石のすき間に小草(こぐさ)抜きたり  佐光春信


言ってから忘れよなどと見せ消ちのようで心底かなしかりけり  相馬好子


大きいというだけでかくも鬱陶し 電車、隣席(となり)で喋らぬ息子  みぎて左手


文脈はふいに途切れてやわらかき余白のむこう細き雨音  みちくさ


黒き糞にブドウの種が混じりいてキツネが夜に来ていたるらし  山下美和子


八日後に君はおそらく好きになる虎に変わってしまった男を  伊地知樹理



(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-24 22:19 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 24日

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選


白百合も菊も嫌いだ いたずらに香って思い出させるばかりで  佐藤涼子


ふるさとを捨てし日のなしふるさとをわがものとおもいし日日さえあらず  宗形 瞳


デザートのケーキを箸に食べながら友が語るよ離婚の理由  いとう 琳


古き辞書より<鷗>の一字抜け出して海面を飛ぶ かなしく鳴きつつ  河村壽仁


「ぬくおろし」とうおろし蕎麦 人肌のやさしき温さ秋の初めに  小島順一


その通夜に行かなかったはなぜなるか枇杷の実むけば汁がしたたる  杉本文夫


坂の上の真青な空に昼の月さっきの人の名は浮かびこず  富田小夜子


俺様の居場所じゃないぜとザクロの実ごろんと一つテーブルの上  丸山隆子


新しい靴は明後日履くことにした百メートル走計測日  吉口枝里


他愛ない会話をふられ他愛ないことばなど言えず貝殻になる  小松 岬



(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-24 17:14 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 23日

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選


幼子にサッカーするよと誘われる手帳を開き約束を書く  中山惠子


台風一過菓子折りを手に瓦屋が工事着手の遅れを告げる  北島邦夫


放課後の音楽室にバイエルを友と弾きいし跡に立ちおり  谷本邦子


満月のひと夜の肌に合ふといふ美容液をつけ眠らむとす  赤井稚加


妻となる白きワンピースの人連れて子は帰り来ぬ 夏のゆふべに  伊地知典子


病の名を手柄とばかり並べゐる七十半の同窓の列  新川哲朗


生八ツ橋おみやげですと差し出せば京都に家があるのよと笑う  瀧川和麿


月輪熊のわすれもののやうな三日月が真青な空に泛びてゐたり  千葉なおみ


使うたび自己主張せし角の取れ それでいいのか牛乳石鹸  村上春枝


スロベニアの干し無花果は朝市に農家の主婦が並べていたと  高原さやか



(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-23 17:02 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 22日

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選


もう鳴らない下校の鐘を待つように暮れてゆく陽の射す静物画  紫野 春


敬老の日に配らるる饅頭の今年は妻の分も加わる  荒堀治雄


押し殺してきた感情が押し花になればいいのに リボンを選ぶ  田村穂隆


散歩には行こうと思っていたけれど行く前に日が暮れてしまったのだ  春澄ちえ


ハンガーにドレスひらたく下がりをり我のかたちを教へるまへの  岡部かずみ


ほつほつと彼岸花さく細道に線香の香をのこしつつ娘らは  小谷栄子


あとを曳く暑さにとおく最涯の北緯四十三度は桜紅葉す  三上糸志


詐欺防止に子らがつくりし合言葉「アイシテイルヨ」 近頃きかず  唐木よし子


夏雲をぐんぐん追ひ抜く「こまち号」母の待ちゐる故郷へ急ぐ  立花惠子


ポンポンを持って踊るとだけ言いて運動会へ吾子は行くなり  谷 活恵



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-01-22 22:19 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 21日

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選


こんなにも明るい川辺人はみな季節の背中ばかり見ていた  魚谷真梨子


ひとひとり咳ひとつして通りたり駐在横の蕎麦が咲く道  中山大三


受けとめてくれるだけでいい赤玉と白玉散らばる確率問題  中井スピカ


傘を打つ雨音にはかに転調す欅並木の下をゆくとき  丸山順司


ソウイエバと折につけ言う二才児のくりっくりっと回る黒き目  石川えりか


用足すも伝ひ歩きの祖父なれど墨を磨りをりその香り満つ  竹井佐知子


向かうには美味しいパンの店がある橋を春から渡つてゐない  浅野美紗子


泉州の店でわたしは豆を買った 半年前のレシートで知る  真間梅子


格安のシャツを手に取りかはいいと子が言ふ母の口調を真似て  益田克行


にらの花だきかかえるごと翅広げひょうもん蝶が蜜すいており  松浦わか子



(新井蜜)201901



# by trentonrowley | 2019-01-21 20:32 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 21日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


ピーナツバターを愛する息子なり指なめ頭(ず)にふれわれにふれくる  丸本ふみ


「危ない」と不意に取られしわが肱(かいな) あなたは何をとったのだろう  菊井直子


たふれゐる頭上にきびきび交される声たち 意識とほのきつつ聞く  三好くに子


赤トンボ卒塔婆に止まりぬいもうとと我の会話に割込む様に  大出孝子


ここからは非武装地帯うしろからゆるりとまるき背骨へ触れよ  大堀 茜


ときめきの兆す新緑 羽織りたきブラウス一枚いさぎよく買ふ  木戸洋子


もの思ふ水母のやうに見えをらむ傘さして行く雨の歩道橋  高橋ひろ子


母の背に眠るみどり児その足の少し揺れたり電車のなかで  星野綾香


迷彩の上着のボタンかけ違い気付いてなおす子はずかしそうに  伊藤未来


ひらかるる日までひかりを知らざれば本のふかみに栞紐落つ  小田桐 夕



(新井蜜)201901



# by trentonrowley | 2019-01-21 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 20日

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選


鮮やかに生者の側にゐることを木犀の香が教へてくれた  澄田広枝


彦根山詣でのいはれ知りてより天守閣を見上げる長く  穂積みづほ


日照り雨野原の草の根もとまでひかりに包み移りてゆけり  石井夢津子


冬っぽい匂いがするぜ十月の朝をゆっくり起きて来た子は  宇梶晶子


貝ぼたんシャツより落ちて海鳴りのする窓辺へと転がりゆけり  小圷光風


瀬音高き谷遡る夢の中幼き父母が川遊びする  坂根美知子


橋をわたりきつてもひとりとほくからちひさく花一匁がきこゆ  西村玲美


モクセイの香りほのかに孕(はら)みたる洗濯物を胸に取りこむ  畑 久美子


老いてひとり夕餉に向かひ秋刀魚食ふ 一匹の骨確かに残る  矢野正二郎


空はもっと澄んでいたろうその昔高田馬場に馬場ありし頃  山西直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-01-20 22:00 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 20日

「塔」一月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」一月号 花山多佳子選歌欄 十首選


金いろの渦を巻きつつ倒れをり台風去りしのちの稲穂は  藤木直子


残心とふことばに会ひて思ひ出づ弓道場にひびく矢の音  石原安藝子


あきらめた方が負けなり今さらに思い直してこの世を生きる  大城和子


廃線の鉄路冷えゆく秋の夜の銀河はろばろ瞬くスバル  小山美保子


膝の上に手紙のやうな秋の陽のあたると思ひぬのぞみの席に  清水弘子

 

部屋のあかり絞り見てゐる遠花火音なくひらく切り絵のやうに  東郷悦子


寂しいと同義語である大丈夫 電話の向こうの父さんの声  中山悦子


かすかなる語尾を受け取り店員はそれを明るく訛りと言えり  山内頌子


誰からもなにもいはれぬ身のかるさ漏れくる雨を花瓶にうけて  斎藤雅也


夫を亡くした人は長生きするというを笑みながら聞くようになれました  𠮷川敬子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-01-20 11:07 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 19日

「塔」一月号 月集 十首選

「塔」一月号 月集 十首選


追いつめしゴキブリ飛んだここで飛ぶなんて狡いぜ冬がくる朝  池本一郎


メインストリームがすきなひとたちつぎつぎとながれをつかみ奔りゆきたり  真中朋久


魂はどこへ行くのかツユクサの青い翼にこの朝乗りて  前田康子


太古より変わらぬ色に照らさるる人ら囲めり薪にたつ火を  永田 淳


ヘンゼルがなぜかひとりで戻り来る夜が明ける前の森の径から  松村正直


生れて一と月ふくふくと稚児(やや)太りたり 父待つ横浜へ帰る日となる  青井せつ子


山茶花の莟ほのかに紅さすと言ひたき時を人が居て欲し  角田恒子


みづの音を聞きたくて少し遠く来る葦原流れ落つる水の辺  加藤久子


戦慄のサスペンスはわが日常に 冷蔵庫をなぜあけているのか  なみの亜子


日の暮れにかけて晴れゆく秋の日は鍵つき扉の箱に入れたし  山下 泉



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-01-19 14:49 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 21日

「塔」十二月号 月集 十首選

「塔」十二月号 月集 十首選


朝の茶を供へてわれもいただきぬ障子のそとに動く鳥影  小林幸子


若き日のままの友来てしばらくを居て去りゆけり雨の夜ふけに  山下 洋


世におくれ人におくれて夕庭に蜩を聞く挫けるなかれ  青井せつ子


安達太良山みゆる町にて病む妻とすむわびしさを従兄の言へり  大橋智恵子


頭頂に十六夜の月を感じつつわたれり深夜の交差点の海を  河野美砂子


雨にぬれ一際赤き仏桑華亜細亜の孤兒の我がフオルモサよ  陳 淑媛


この細き電話の線が繋ぎたる母娘(ははこ)と思う雨の夜道に  林 芳子


川に沿ふ道は駅へと曲がりゆき初恋のゆくへ聞きのがしたり  村上和子


ふらっとどこか旅に出たいと思いつつ職場の最寄りの駅で降りたり  森尻理恵


かたかたと夕べのひかり揺すりつつ木馬は来たり夢の方から  山下 泉



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-21 21:40 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 21日

「塔」十二月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」十二月号 永田和宏選歌欄 十首選


部屋干しのシャツが幽かにゆれている遠くで首を振る扇風機  中山悦子


吾が胸に秘密の蜜ありときおりを小匙にすくいこっそりと舐む  濵﨑藍子


迎へ火のかはりに線香花火してこはがりのたましひを呼び出す  小林真代


貨物列車ぶ厚き音をひびかせて夕照りの町を突き抜けてゆく  石井夢津子


では、わたしはこっちだからと風船を飛ばしてしまったみたいな顔で  白水ま衣


鬼ごっこの苦手な子どもの増えておりショウリョウバッタのはねる夕暮れ  塚本理加


とりどりの色糸つねにおさまりし祖母の針箱ちいさかりけり  永田聖子


ルア・サンギ(血の月)とう禍禍しき名をもらい山の端にぼうと現るる影  沼 寛子


太郎冠者焼き栗食べ尽くす頃に時雨がわれの膝を濡らしぬ  穂積みづほ


倒木を越えて来る子ら一様に得意顔なり小雨の朝に  芦田美香



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-21 14:00 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 20日

「塔」十二月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」十二月号 池本一郎選歌欄 十首選


眉を引く鏡に動く影がありニツカボツカが足場をのぼる  久次米俊子


坑道の壁の湿りを感じつつ手掘り鑿(のみ)跡ひたに触れたり  青木朋子


星になどなる筈もなき母なるも遠ざかりゆく火星が滲む  大城和子


昼食は何にするのと退屈を趣味にしてゐる男が言ひ来  國森久美子


バス停にゆっくりとまる佐鳴湖線セーラー服の我も乗り来る  佐原亜子


夏の日のぎらぎらと照る駐車場に落ちゐし一円そつと拾ひぬ  武田久雄


補聴器を外して電池を入れ替えるこの世の雑音聞き取るために  橋本英憲


ともかくも急いで部屋にと通さるるまさに落日宮津湾燃ゆ  林 雍子


大丈夫わたしがそばにいるからと呪文のようにいくたびか言う  永田 愛


初版にはなかった没年の記されて白紙(しらかみ)に淡い影は映りぬ  小川和恵




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-20 22:13 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 20日

「塔」十二月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」十二月号 花山多佳子選歌欄 十首選


夜勤の子出で行きし後つよくなる雨音をただ夫と聴きをり  清原はるか


気がつけば死が別つまで淡淡と共に在りたり夏の日逢いて  今井眞知子


ため息の軌跡のような雲ありて引きずるように流れてゆきぬ  黒木浩子


早くとも遅くともよし待つバスの帰らざる日々に月光まぶし  吉井敏郎


嫌だったことの数だけごま粒を貼りつけてやる別れの手紙  うにがわえりも


「よつこら」と腰を下せば妻と子がこゑを合はせて「しよ」と言ひくれし  林 龍三


議論せし会議の後の収まりのつかぬ心が夕暮れにたつ  星野綾香


細き腰わずかに反らす時に見ゆ編笠の下の白きおとがい  村上春枝


戸開くれば雲を見さらに風を読む七十路なれど農の子なれば  坪井睦彦


要するに四年生きぬと元が取れぬ保険の話らし四年が重い  高松恵美子




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-20 13:40 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 18日

「塔」十二月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十二月号 栗木京子選歌欄 十首選


ストローの袋を破るゆびさきの力加減のようにさみしい  紫野 春


姉さんはフランスに居るさう思ふあんまり急に風呂でたふれて  河野純子


もう鳥になつたのですか新盆の過ぎて杖音聞こえてこない  今井早苗


母からの魔法はとけて王林を無性にかじりたくなる夕べ  増田美恵子


山姫になりたきものと渓流の露天の風呂で湯浴みする女子  西 真行


かろやかな雨はわたしにかさを閉じさせてさやさや九月の朝へ  落合優子


始まった時からなぜか見えていた静かにやってくる終末を  北山順子


子らをりしはるけき時にこころ逸れモロヘイヤスープ噴き零れたり  加藤和子


アカンサスもアガパンサスも知らざれば黙して人の批評のみ聞く  岩上夏樹


カーテンのレールに干したブラウスの向こうを見てた白になるまで  椛沢知世



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-18 21:51 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 17日

「塔」十二月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」十二月号 永田淳選歌欄 十首選


祖母生れし明治のころのあかときのやうに歩めり灯のなき街を  栗山洋子


エマニエル夫人のごとく脚をくみ鏡の前でストレッチする  大森千里


あらあなた久しぶりねと振りかえり先輩魔女のように笑った  山名聡美


夫の背を見失ひたり山みちの生ひしげる草にとりこまるるとき  赤井稚加


手紙だけはたくさん書いたこの夏に終わり近づくさびしい夏の  石丸よしえ


婆ひとりとりのこされて山里にどうにかなるさと梟の声  江見眞智子


二週間のひとり旅なりテーブルの真中に置きたるブルーのノート  唐木よし子


今はもうシャルウィーダンスと声掛くる人も居らずて仏飯供う  相馬好子


なんとなく夏が終った気がしてるバイクの風がやわらかいから  中村寛之


蜂蜜を熱き紅茶に垂らしつつあなたのメールの返事を待ちぬ  中野敦子





(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-17 22:46 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 16日

「塔」十二月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十二月号 小林幸子選歌欄 十首選


枯れていくカーネーションを抱きしめるだれもわたしをゆるさなかった  帷子つらね


水のジャグ置かれた朝のテーブルにこの夏灼けし腕を載せたり  髙野 岬


指先でそっとわたしをへこましてあなたがこの世に生み出す窪み  魚谷真梨子


ケトルの中で温められて冷えてゆく時間ありけむ忘られたまま  永山凌平


祈りのように見えしがボタン留めており忠良の少女うつむく  朝日みさ


鮮やかな揃いの衣装で伸び上り頰赤き子らよさこいを舞う  金原千栄子


金色の模様はかすれ裏側の二人の名前は読める指輪だ  久保まり子


かみさまのようにあなたが境内でふりむいたから動けずにいる  小松 岬


「ごはんよ」と呼ばれて帰りし幼なき日思い出させる暮れて鳴く蝉  清水千登世


雷雨止み鋭き西日入る納屋にビニールプール畳まれずあり  佐々木美由喜




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-16 18:21 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 16日

「塔」十二月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」十二月号 三井修選歌欄 十首選


南部鉄のふうりんの風に霊(たま)来ませ 秋立つ虚空に音の澄みたる  長谷仁子


子を捨てて妹を捨て母捨てて果物篭を捨てる夢を見き  福西直美


ゴング待つボクサーのごとき姿して若者は居る診察室前  横山敦子


意地悪をあなたにしたいお祭りのべっこうあめを舐めて噛んでいる  安倍光恵


お取りおきしておきますねとデザートの予約のように肺炎ワクチン  倉谷節子


あの蝶は待っていたのかあの日から待たれることのなきわたくしを  潮見克子


絹よりは木綿が好きですしつかりと弾力のある豆腐のはなし  浅野美紗子


言ひそびれ言ひおくれては言ひまける口下手なひとをわれは愛せり  木原樹庵


全国の天気予報で見てしまうかつて息子の住まいいし地名  小林千代


誰の子も可愛くなくて丘をゆく私は欠けた器だろうか  中井スピカ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-16 14:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 14日

「塔」十二月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」十二月号 山下洋選歌欄 十首選


頑張つてゐるし感謝もしてゐると言はれとろとろほどける指先  大江美典


相続権放棄したれば遠くより見るのみとなりしいもうとの家  久川康子


老い母のひと足ごとのあやうさを右手に受けつつ露天の風呂へ  赤田文女


九基は十字、一基は月の彫られゐて野田山墓地に俘虜の露人は  内藤幸雄


フライパンのふた盾にして烏賊に芋つぎつぎ揚げる夏は天ぷら  西村清子


柿若葉下照る路に独り佇つ過ぎたる月日まぶしかりけり  山本龍二


人想ふとき目つむれば新涼のゆふべの星はきらきらとあり  福田恭子


サトイモの花を見しことかつてありイモの葉かげに母を待ちつつ  白井陽子


過去帳を繰りゆく指を湿さむと小皿の上に海綿のあり  川田果弧


台風に荒らされし野をさびしめば草萩の花咲きこぼれをり  大田眞澄




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-14 19:45 | 十首選 | Comments(0)
2018年 12月 14日

「塔」十二月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選

「塔」十二月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選


光るものは〈印刷開始〉のボタンのみ夜の寝室にひとりの呼吸  髙田獄舎


卓上に君の荷物の置きてあり「戻って来るよ」と言うがごとくに  高田 圭


ブラウスを脱ぎかけて窓閉めなおす、教科書とちがう金星光る  梅津かなで


オランダ坂の上、雲の下、四つ穴の小さきボタンひとつ拾いし  いわこし


いまここへ空の落つれば抽斗へとりのこさるるこの恋文も  大堀 茜


譲られて喜ぶ身体ととまどえる心よともかく今は座ろう  小谷淳子


パプリカの色鮮やかなテーブルに私の代理としてのししとう  佐原八重


太腿の静脈のような青をしてこれから雨季に移りゆく空  長谷川 麟


川と緑しかないよと書きくれし子と並び見る緑の夕暮れ  松山恵子


弁当のいらぬ前夜は二階にて綿入れを縫う雨を聴きつつ  宮野奈津子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-12-14 10:42 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 28日

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


西病棟ハ階ロビーで酷暑日の夕陽を見ていた歩ける日には  髙鳥ふさ子


種の字を名に持つ島でパッションの種は噛み砕くものと知りたり  瀧川和麿


その午後は長椅子に深く眠りいて沼のごときところよりもどり来  森川たみ子


覚悟をと医師に言われて窓ながむおぼろ月夜に椿のにじむ  井戸本チズ子


鯨にも眠くなる日がありさうだ一輛電車に見る白い雲  岡田ゆり


熱(ほめ)く身を曳きて帰れば夕闇にしづまりてをり汗も怒りも  瀧本倫子


夕まぐれ電車を一本見送っていままっさらなわたしがほしい  松本志李


ペンギンや飼育係にあらずとも日本脱出したしこの暑さ  行正健志


連れてきた去年のあの娘にもう少しやさしく笑ふわたしであつたら  栗栖優子


もう会へぬひとに会ふとぞ玄関を出でゆくあなたがコートを羽織る  山縣みさを




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-11-28 22:08 | 十首選 | Comments(0)