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暗黒星雲

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2019年 08月 04日

「塔」七月号 月集 十首選

「塔」七月号 月集 十首選


生えた木を抜いた頭のそのあとに水たまりゐる心地す今朝は  花山多佳子


首すぢに月のひかりが射してをり土御門邸のあとに睡れば  小林幸子


定型の馬に越えゆく人おもう朝川わたる影白くして  山下 泉


ムク鳥の並ぶ電線の下にある小さきパスタ店店を閉じたり  藤井マサミ


なかなかに撞木は鐘に届かざり 湖(うみ)に音(ね)を待つ母の居りたる  上杉和子


遠き日の乙女らの唇(くち)を茶店なる鶯餅は黙らせてをり  上田善朗


「お母さんは少しぼんやりしてるから」子等は気遣うこれからのこと  沢田麻佐子


街灯の点りたるとき白白と夜桜となる一樹しずけし  藤江嘉子


あの麓にゐると見さだめ通ひにし生駒の山並み陽にかすみをり  万造寺ようこ


新人さんと呼ばれし春をかろがろとヒールでこなしたラジオ体操  山下裕美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-04 15:55 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 02日

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選


なつかしき声あるごとしどの秋に埋めたるものかヒヤシンス咲く  竹下文子


くれなゐのはつかにほへる並木なり大津疏水に沿ふ桜花  藤木直子


ぎこちなく二人三人連れ立って一年生がゴミ捨てに来る  芦田美香


校舎裏の高校生のように鴨 初春の橋の下に五羽いる  上澄 眠


ラーゲルの白き夜より戻り来し叔父は好みぬどくだみの花  大久保 明


水底の魚のやうだとおもへる日空をながめて深く息吸ふ  加藤和子


ぽつねんとプールの端にこしかける若くはない足ばちやばちやさせて  國森久美子


朝刊を買いにゆくときだけわれは足取り軽く歩いてゆける  山崎一幸


死にゆくは死の勢ひに乗ることかそと手放しぬ母の笹舟  祐德美惠子


春の風 電話の向こうのキッチンに土筆煮る娘の浮かびくるなり  萩尾マリ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-02 22:14 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 01日

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選


足早にあなただったか濃きスーツ入りゆき扉ひったり閉まる  村瀬美代子


越ゆるべき野を持たざりき少女期のわれの好みし群青の服  金田光世


蝋梅の香れる部屋で君を待つずっと昔から待ってたように  石井久美子


おもむろに実はねと言ふその先の言葉またずに少し身をひく  大島りえ子


畳縁(へり)なきこの家の暮れ遅き 右足より入る習慣失せる  工藤博子


悔恨は消え去りゆかず春の夜の水の鏡に咲ける白木蓮(はくれん)  谷口公一


ほろにがき小鮎の飴煮の作り方教えてくるる人もあらざり  永田聖子


掃除用グッズ購い掃除した気分になりて午後を過ごしぬ  松浦わか子


送電線を電気の渡り来るさまが見ゆる気がする夜明け前には  杜野 泉


皮を剥けばしろきりんごのあらわれて「勝ち負けじゃない」は勝者のことば  朝井さとる


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-01 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 31日

「塔」七月号若葉集(江戸雪選) 十首選

「塔」七月号若葉集(江戸雪選) 十首選


散る花の名を問ひたきに人もゐずひとひらひろふ春のかたみに  大江裕子


葬列のあとに鳥らは群れあそぶそこに紅椿白椿  髙田獄舎


わが胸に獅子のパティオあり夕暮は背きたる人の血のごと赤し  相野優子


海賊の頭みたいな店員が勧めてくれし紅葉購う  大和田ももこ


虹なんか出たらいいよね傘ひとつ閉じて二人の雨上がり  小川さこ


雨の日は針もつ母のかたへにて雨音ききつつ指先見てゐし  中村みどり


やわらかな爪を撫でおり昨日までエコー画像に映りたる子の  松本志李


作品の撤収終えし壁面に2センチ程に光るセロテープ  山田精子


人の居ぬ家に戻るといふことの意味など問はじ 百合を買ひくる  足立信之


あたらしい遊具をひとつ考える課題みたいな毎日がいい  長谷川 麟



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-31 22:33 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 31日

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選


竜骨を休ませ冬を陸(をか)にある船ならずとも待つは海明け  三上糸志


すき焼きの七輪囲みし日のありき母に代わりて勘定講に  白井陽子


一斉にさくら散りゆく本心を話したことがあつただらうか  永山凌平


鳥影が一瞬ひかりをさえぎりて眠るあなたに影おとしたり  黒木浩子


僕はまだ行き先すらも決められずT字路に長くブレーキを踏む  近江 瞬


墓誌の端に姉の名ひとつ古びをり山の傾りに桜の咲けり  竹尾由美子


真夜中に階段下り来る子の一歩一歩を聞きおり外は雨らし  鎌田一郎


医者曰く傷の治りの遅いのは年のせいです すべてそうです  弟子丸直美


てしてしとジョギングしてるおばさんを我は歩いて抜きさりにけり  中西寒天


息継ぎを忘れ泳いだあの夏に流行った歌がカーラジオから  王生令子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-31 19:48 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 27日

「塔」七月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」七月号 真中朋久選歌欄 十首選


想い出だけじゃおなかがすくわと歌いつつおなかがすいていたのに気づく  かがみゆみ


船釣りの釣果は船長の腕次第人の良さでは魚は呼べぬ  新城研雄


夕光のなかに花満つ ぼんぼりのやうに立ちたる白木蓮の  長谷仁子


白雲がすっかり退(の)きて半月が花びらのごと青空にあり  金田和子


黄昏の高速バスより見上げたりマンションに明かりが灯りゆくさま  仁科美保


帰り道出会ひし人に問はれたり痩せた狸が来なかつたかと  八木由美子


録音をいたしますといふこゑ流る妹の家に電話かければ  千葉なおみ


沈丁花の植え込みがある玄関の闇の重さは香りの重さ  高橋ひろ子


時代劇ばかり見ている夫といて江戸時代となる脳内はほぼ  海野久美


なけなしの時の結晶もちさった私の心をおいてったまま  田中しのぶ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-27 16:32 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 26日

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選


必要とされたい あすも朝七時の電車に乗ってしまうのだろう  垣野俊一郎


いつから休むか聞く人もいる ご懐妊おめでとうって言うより前に  佐藤涼子


かくる者の都合のみにてかけらるる電話の野蛮 銃に似てゐる  清原はるか


差掛けの将棋の盤を蹴散らかすごとくに彼は死に急ぎたり  小川節三


うっすらと透ける苺に声かけるように食みたり臨月の娘は  石川えりか


目の前の女の深いため息が山手線に澱んでいたり  川並二三子


ゴキブリを天とう虫と呼んでみるやっぱりダメだ見た目が違う  北野中子


子もわれもほんとのことは言はぬままぬるいスープを匙に掬へり  𠮷田京子


その日までひとまずねばる旗として賞味期限の遠い牛乳  小松 岬


鯉の見ゆる川まで妻の添いくるる試歩にてカープコースと呼べり  荒堀治雄



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-26 21:36 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 25日

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選


昼たけて雨あし激しくなりゆくを身を細くして傘のうちにゐる  赤井稚加


君と海を見ることはない君はもう海なのだから風つよく吹く  魚谷真梨子


ロボットの歯ぎしりのやうな音聞こゆMRI検査室より  久川康子


ズボン履き遍路に行くが晩年の夢なりし母丸亀育ち  いとう 琳


「徘徊」と言い置き夫の出かけ行く桜咲く道一周りせむと  倉成悦子


書いている自分と話している自分は全然違うという人  杉田菜穂


病人をしてゐる午後のむかうがは刈られる草に鎌のにほひす  東 勝臣


海の見える席に座れず半島の北へ北へとバスに揺られる  山下好美


『皮羊かん』竹のかはより剥がすとき皺のあまたを引き連れてくる  岡部かずみ


門扉やや左右にずれて軋み鳴るまるで訃音を拒否するように  芳仲成和



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-25 21:57 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 23日

「塔」七月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下泉選歌欄 十首選


お祓いをしてこいと言う店長のかすかに白いもみあげを見る  大橋春人


君のその眉毛の角度が好きなんです空へとのびる末広がりが  太田愛葉


始まりに終わりの混ざる三月のミルクセーキをそっと飲み干す  杉原諒美


どこかへとただ行きたくてひとり旅多くを決めず乗車券買ふ  浅野美紗子


この余白いいねと言ひたる亡き母の目線になりて画展巡れり  今村美智子


スプリングコートの胸をぎゆつと抱き四月二日の階段上る  岡部由紀子


三月の終わりに失くした傘のこと 降りた電車にもう戻れない  紫野 春


椋鳥の親子が庭に立ち寄りて草にかくれてついばみており  髙木昌代


バックネットの上にようやく辿り着き空つかまんと揺れる葛の葉  よしの公一


業務命令納得出来ぬと言ひしひと写真となりてわれにほほゑむ  安永 明



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-23 20:24 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 20日

「塔」七月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林信也選歌欄 十首選


ひとつだけシロバナリウキウコスミレの花咲くここが春の入り口  山尾春美


六年はわれの六年でもありて通園鞄の黄色をなでる  吉田 典


腑におちぬメールの中身を反芻し花の夕べは冷えてゆくなり  小谷栄子


Uターンを選びたる子はおさならをたんぽぽの咲く田に放ちおり  赤田文女


春までにキャベツの種を蒔くことが冬の末から気がかりのこと  高原さやか


くしゃみとは時速一六〇キロあるという寂しさ飛ばせ独りくっさめ  舟橋隆之


日常を味わいたくて環状線ぐるりとまわる二度ほどまわる  真栄城玄太


われに向きもうよからうと父言ひき炬燵の縁に目を落としつつ  守永慶吾


露地植のいちご片手にやわらかな畦道をゆくリードゆるめて  森 雪子


くちびるの皮がめくれて痛いのに赤いのにつやつやとしている  椛沢知世



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-20 20:01 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 19日

「塔」七月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」七月号 永田淳選歌欄 十首選


刷り立ての資料一式配りたり「あっ温かい」と騒立つ講堂  近藤真啓


四月にはクラス替えやで。一年間楽しかったか? ケリの鳴くなり  鳥本純平


玄関を春の夕陽が金色に輝らすひとりの鍵をあけよう  川井典子


座席深く駅弁を食べる少年が時折われを見ることのあり  永久保英敏


母と寝る権利を求め争いて敗れし下の子我と寝るなり  井上雅史


両の手に温き湯呑みを包みつつ言わざりし一言悔みいるなり  久保田和子


そうですか、わかりましたと答えるしかない夫なり 異動の知らせ  山上秋恵


百歳の姑の友よりの手紙届くその朝姑は読まず逝きけり  高松恵美子


ふる里の無人の家にも届きいん余寒に冴ゆるこの月光は  高木節子


新しき衣を体にまとうとき東を向けと言われてきたり  堀口 岬



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-19 22:22 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 02日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


伐る現場見たることなく切り株が増えてゆくなりここの団地に  花山多佳子


武蔵野を君と歩きし春の日の身に残りたり赤き靴ずれ  栗木京子


一つ前に「代書前」とふ停留所かつてあり皆そこで降りにき  小林信也


顔白くカカシは浮かぶ納屋の戸をひらくひかりに冬の案山子は  池本一郎


有効期限二十年前に切れたパスポート二十歳のわれは口結びいる  荒井直子


片頬の火照りはつづく石段に打ちたるのちの三月の雨  苅谷君代


山の上にひろごる空よ年一度峠を越えて桃売りが来る  酒井久美子


白梅の香につつまれていくようなり透けし点滴そそがれつづく  中島扶美惠


奥まって名も知らなかった樹々たちの伐られて森は森でなくなる  林 芳子


夕暮れに泣く子を抱きて踏み切りに赤い電車をただ見てをりき  宮地しもん



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-02 16:43 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 01日

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選


後ろからはギターに見えたりいえあれはライフルを持つカラシニコフ像  佐原亜子


いつも主語ぬきで問うきみ返すのに何の問いかをいそいで探す  歌川 功


ことごとに老後はみると娘(こ)は言ふが老後など吾はいらぬと思ふ  大島りえ子


もう一度会いたきものを約束の葡萄畑も失せて久しき  数又みはる


春雷は気配のみにてわたしより離(さか)り東の海へ行くらし  白石瑞紀


行きしことあらぬ土地なりうろ覚えの鎌滝という名書面にありぬ  筑井悦子


もうとうに売りてしまひし自動車のフロントガラスの疵をおもへり  西村玲美


味噌みれば指にとりては舐めるくせ味噌屋の娘でありし名残の  古林保子


群れること歓びならむ モンゴルの砂塵のなかにはだかの馬は  祐德美惠子


雪雲が消え去りし空にでんとあり石狩湾の風力タービン  國森久美子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-01 20:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 30日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


ラヂオ体操第二はいつもかなしくて握るこぶしが空回りする  田中律子


春の雨が風にあおられ窓を打つ小さなたくらみ育てる真昼  乙部真実


高層のビルにルビ打つごとく降る春のぬか雨降りやまざりし  川田一路


「沢の鶴」の敷地を囲み嵩高く清酒の空き瓶置かれてをりぬ  佐近田榮懿子


制服が届きましたとメールありデパートに就職決めし教へ子  清水良郎


いらだちをかくせずいたる席上で声をあらげてさらにかなしき  徳重龍弥


離れ住む二人のセーター編みにつつ睦月如月ゆたけく過ぎぬ  中林祥江


桃の花つぼみほろほろこぼれたり子を待つ午後の青き花瓶に  中山惠子


窓ぎはの椅子には誰もゐなくなり柱の向かうに組む足残る  穂積みづほ


食料を買うだけのわれにスキップし従いてくる子のやわらかい掌(て)  矢澤麻子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-30 17:50 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 29日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


二週間下がらぬ熱の傍にいて夫のかかとの皹に触れたり  澤端節子


夢にみる息子は常に不機嫌なり黄色い象のながぐつ履いて  永田聖子


「三月のひかりは違ふな」君の声 朝の大根おろしてをれば  北神照美


返信は無用のこととして起てば鉄瓶は白き湯気立ててゐし  髙野 岬


男雛女雛箱より出さずうらうらと過ごしたること娘らには告げず  加藤和子


詠草を封筒に入れ糊付けをする時うかぶみづほちやんの笑顔  工藤博子


塀に沿い直角に曲がりキジトラが猫溜りある空き地へ向かう  三浦こうこ


ストーブの上の薬缶が鳴り出せば居間華やぐとふ独りの伯父は  山下太吉


つぎはぎの着物の裾の白い足袋きゅっと音たて伯母は曲がりし  中本久美子


束縛のなきこともまた不安なり電飾解かれし駅の一樹は  嶋寺洋子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-29 20:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 28日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


杉玉が茶に変わりゆく酒造所に「秩父錦」辛口を試飲す  村上春枝


園からの帰りにたつぷり道草を楽しむ子らに春の夕焼  森川厚子


夢に遊ぶことはあらざり 黒松の根っこにつまづき膝を擦りむく  石橋泰奈


娘から孫の写真が届きけり向こうの家の顔した孫の  小島順一


食べ頃の見極め鳥よりうまくなりし妻は朝餉のミニトマト捥ぐ  新城研雄


金曜の仕事帰りにコーヒーを飲みに行くため生きている日々  田宮智美


沢山の声は混ざりて意味のない風へと変わる独り飲むカフェ  徳田浩実


赤い実を食べた小鳥は赤くなる 越前蟹はやっぱり赤い  中山大三


淋しさを侮るなかれひたひたとひたひたと満ち来る潮のごとき  藤江ヴィンター公子


波止場まで夫の帰港に子を連れて会いにゆきしと母も話しぬ  宮内ちさと



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-28 17:07 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 27日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選


真っ白なタートルネック不真面目な亀にもきっとあるよゴールが  田村穂隆


肉まんを食べる作法はあるのかと自問しながら立ち食いをする  谷 活恵


コカ・コーラ色の深夜がやってきて薄いふとんに身を横たえる  大橋春人


手加減のないあかるさに満ち満ちた改札 しかし怯まずにゆけ  小松 岬


はしけやしははのつくりしおひなさまにそなふる小豆ことことと煮る  新井啓子


塩引き鮭数多吊らるるとびらの絵に変形性股関節症の会報届く  倉谷節子


0時まで冬陽差し込む部屋にして黒きピアノは伴侶のごとし  相馬好子


悲しいか悲しいだろうと責められて悲しいふりをしてみせている  竹田伊波礼


うぐひすの二月尽日鳴きそめて木漏れ日つよし篁まぶし  内藤幸雄


川二つ渡りトンネル一つ抜け降り立つ荒尾とふ君の住む街  向井ゆき子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-27 21:23 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 24日

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選



衛星軌道めがけて投げる春の夜のポップコーンよ永遠になれ  拝田啓佑


もういないあなたとおもう春のみち風が匂えば匂うままゆく  中田明子


雪国を出できてようやく頷けり一輪ごとの春ということ  廣瀬美穂


日本海に初めて出会った月の道 月をけなした歌会の帰り  株本佳代子


ストラヴィンスキーのピアノへはつかぽとりと零れぬ〈春色のたましひ〉とふその香水は  河村壽仁


臍の緒でつながっていた それだけのことに期待も失望もせず  はなきりんかげろう


己が名も子の名も忘れ母逝きぬ神に重荷を解かれたるごと  三木紀幸


一時二時三時と更けて明けてゆく地球の自転が作りだす夜は  ひじり純子


「あなたいつ海老茶ちよ子をやめたのよ」勝手に塔を読むおばあちゃん  帷子つらね


代わりなら幾らでもいて赤々と脚入れかえてゆくフラミンゴ  中井スピカ




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-24 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 21日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選


傷口をえぐるようなり歌詠めばされどあなたを詠むほかになく  黒木浩子


花を手に「この子は」と言ふ人とゐて園芸店に半日過ごす  寺田慧子


それぞれに行く先を持つ確かさの足早に人はわれを追ひ越し  岡部かずみ


人の死にあうため幾度渡ったろう瀬戸内の小島の落日滲む  上森静子


次々に芽ぐむ春菜の苦味食む冬よりわが身目覚めさすとて  西郷英治


漁終えし船が入江に泊まりおり昼の漁港に人影はなし  竹内多美子


かたぶける壺の口よりひとすぢのミルク垂るるを見守りゐたり  丸山順司


家族三人何かが欠けてはいるけれどとにかく三人ご飯を食べる  山梨寿子


約束を破つたぼくの誰よりもむなしき空をゆけよかりがね  千葉優作


ハッカ糖のブリキの看板雪かぶりここは塩沢母のふる里  大熊佳世子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-21 21:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 20日

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選


窓ごとに灯りのついたアパートのカレーのにおいお風呂のにおい  佐々木美由喜


ひとびとは日々の気持ちを如何(いか)歌ふザタイムズに短歌欄なし  大久保茂男


ネオン濃き袋小路の呑み屋街赤き雪降る青き雪降る  石川 啓


トラックが辻を何度も切返し魚のごとく逃れ行きたり  小川節三


厨の隅に貝の潮吹く音のして夕餉は夫と雛膳囲む  白鳥美津子


割り切れぬ思いを集めた指先で缶コーヒーのボタンを押しぬ  杉原諒美


入学のあさは真白き丸衿の母の仕立てしワンピース着る  竹内真実子


笠原先生の語るイエスが好きだつた大工の父を好きなイエスが  長尾 宏


定時後の仄暗い改札前で叫ぶかわりに深く吸いこむ  森永理恵


不揃ひを揃へたかりと泣く汝れに深呼吸してごらんとまづ言ふ  宗形 瞳



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-20 22:03 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 18日

「塔」六月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」六月号 なみの亜子選歌欄 十首選


僕たちは世界を盗み合うように互いの眼鏡をかけて笑った  近江 瞬


節分の天満宮に福引の当り太鼓がまた響きおり  相本絢子


とめどなく冬の雨ふるぬるき朝母の葬儀に東へと発つ  阿蘇礼子


アカシアの咲きにし頃か機嫌良き母がパンケーキ焼いてくれしは  石丸よしえ


思い出の存在としてあることを選んだわけではないのだけれど  かがみゆみ


ゆるやかな記憶喪失たそがれにあなたの影が浮かぶまでの間  中森 舞


トレモロのような春風吹くときに子の下睫毛まだ濡れていた  吉田 典


昔話も自慢話も無き人とまろき酒飲むお斎の席に  森尾みづな


お互ひの病気自慢がはじまりぬ告別式に声をひそませ  安永 明


どこへ行くこともなくって春めいた二月を犬と散歩している  岩尾美加子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-18 21:57 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 17日

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選


癒えかけるたびに手首を切りつけるように今年も震災を詠む  佐藤涼子


ご近所のとうふ屋さんといふ門名(かどな) 豆腐を売りしことなどなきと  今井早苗


亡き母と歩むがごとし春の野に遺品の眼鏡を付けて来たれば  大出孝子


「俺は君にさびしさだけを遺したか」言わせてはならぬ写真の君に  潮見克子


私には何かが足りない仕方なく湿ったからだを春陽にあてる  中野敦子


道を訊くやうに近づききたる人けふ何曜日ですかと問へり  西山千鶴子


輪になりてナースの顔は花のように丸太となりし私を覗く  村井玲子


半分に切ってあなたと食べてみたい膨らみかけた橙(だいだい)の月  森 雪子


母国より父を呼びしと聞いており隣家の二階にためらえる影  岡崎五郎


珈琲を一杯飲まう手のなかで五頁のちに星が滅びる  小田桐 夕



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-17 22:56 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 19日

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選


雪の原につつ立つてああ何だらう髪の先からこほりてゆける  國森久美子


せせらぎにしんと向かへる幼子を促さむとしてしばらくを待つ  竹下文子


先生も患者も並ぶ院内のたった一つのファミリーマート  石井久美子


節分に鬼は外へとはじかれる少しはじかれたくもある夜  三谷弘子


五十歩にて渡れば京都 この橋の下からきふに川は曲れり  山口泰子


思ひ出すことあるやうな瞬きす睫毛のびたるみどりご抱けば  大河原陽子


タンポポにハルノノゲシ・オニタビラコ蜂起のごとく二月の野辺に  古堅喜代子


雪しげき日にもお参りできるよう道に沿いつつ墓石ならぶ  澤端節子


いくたびも遺影に向かふ雪の日は雪の声聴くむかしむかしの  祐德美惠子


冴え渡る冬の星座のはろばろと母たりし人還りゆきたる  祐德美惠子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-19 22:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 19日

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選


窓ふたつぬけて午睡のほとりへとユーロビートのささなみ寄せて  中田明子


たそがれの改札口を来る来る来るどのスカートもあなたではない  拝田啓佑


雲のない冬の夜空の月近くここからまっすぐに行けそうだ  逢坂みずき


ミニシアターへ初めて向かう時横に無口なままずっと居てくれし人  姉崎雅子


つつがなく一人で過す節分の豆を數えて邪気払いする  川上とよ


老母(はは)逝きて独りとなりし弟に見送られ待つ海辺のバス停  中村美優


銀色の電車とろとろ曲がりつつ樹立ちの中に吸はれてゆきぬ  丸山順司


音符さえ今や五線符飛び出して窓をこじ開け駆けゆく春は  みずおち 豊


結婚を告げるメールの旧姓の君の名前の花に触れたり  大橋春人


ふくろうの磁石でポンと留めておく春の集いの案内状を  浅野次子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-19 15:49 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 18日

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


救済を待つ人のごと寒き夜に乗るべきじゃないバスを見送る  笹嶋侑斗


ふるさとはだんだん縮んでいくようだ駅前通りを三歩で渡る  田島千代


暖かく晴れたる今日が立春と薬袋を桃色に替え  宮野奈津子


ほう今は夜かと驚く老父がいてそうだよと答える私がいて  成瀬真澄


ねえきみをあきらめたいよ壊れずに、檸檬で濡らした花が枯れゆく  梅津かなで


三十年ぶりの便りを長い長いメールで送る半日かけて  縣 敦子


朝練としてあかときのひとときを花山多佳子の歌集読みをり  足立信之


ここ掘れと鳴く犬をらずぽつねんと老農ひとり立ち盡くすのみ  石川休塵


夕暮れに迎えに行けば別人のにおいまといて積み木積みたり  大和田ももこ


春立つ日雪舞う店にさくらもち薄紅色に光りて置かる  桂 直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-18 11:29 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 17日

「塔」五月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林信也選歌欄 十首選


ゆらゆらとほどいたままのリボン持ちこれはいるかと夫が言いたり  山内頌子


月あかりしんとして歌に知るのみの死者たちに花が樹が雨がにほふ  小林真代


生まれたての闇に真向かひ降りる駅もう少しだけいつしよにゐよう  田中律子


水色とピンクの帽子が沈み込み歓声のみが聞こえる芋畑  林 泉


いつまでもふくれてないで珈琲の甘き香りのするうちに来よ  大島りえ子


「まだお飲みになるんですか」フネさんの敬語を気にも留めざりし頃  佐原亜子


伊達めがね集めてるんです掛け替へていやなけしきを忘れるために  穂積みづほ


やはり誰も呼ばないでおく明け方の銀箔の月ひっそり笑まう  吉田淳美


高校生だった僕が見たマハは人ごみの向こうで小さくなってた  松塚みぎわ


路地裏の日だまりに猫は寝そべりてそば行く我に眼だけ動かす  丸山隆子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-17 17:21 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 16日

「塔」五月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」五月号 山下泉選歌欄 十首選


バス停へつながる裏道初めての道歩きつつわくわくとせり  上大迫チエ


種をもつ果実の甘さしたたらせ少女ら後部座席にひしめく  黒瀬圭子


一つ二つとあなたの干柿食べながら今この人にとても会ひたい  佐近田榮懿子


身構えるくせがつきいて男の子が四五人われをよけて行きたり  須藤冨美子


やぶ椿くらく咲きゐる宮の杜このつきあたり何か住むらし  田口朝子


潮騒を島の鼓動と聞きながらきみの波打つ胸を見ている  谷口公一


選ばれし子とも思ひて待ちをれば予定の閏日さらつと過ぎき  広瀬明子


わたしらの居たふるさとは広かつた小皿に光る片口鰯  本嶋美代子


釘のようにきみに刺さったわたしなり錆びたらもっと気持ちいいのに  大森静佳


地下書庫に擦れ違ひたり要するに男とはただ一枚の背中  髙野 岬



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-16 22:15 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 15日

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選



駅出れば冬の雨降るなるようになるしかないとフードを被る  黒木浩子


雪女だから朝には水になるそんな感じで忘れられたい  佐藤涼子


陽をあびて日々に痩せゆく切り干しを食めばほんのり甘味ましゐつ  千葉なおみ


帰らむと一人渡れる思川(おもひがは)妻の挽歌は歌ひたくなし  小川節三


近付かずさりとて離れずごろごろと猫喉鳴らす如き遠雷  菊池秋光


キャプションに「一人おいて」ととばされし男は写真に正面を向く  西郷英治


冬の夜は何かが哭くと妻が言う(水無し河原の鳴き石ですよ)  中山大三


最終のバスならとうに見送った水色の椅子つめたく眠る  吉岡昌俊


渡り止め棲みついてゐるといふ鶴を探して歩く出雲の土手を  越智ひとみ


スマートフォンが冷蔵庫より出て来たりスマートフォンは冷やすのがよし  永山凌平




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-15 15:27 | 十首選 | Comments(0)
2019年 04月 11日

「塔」四月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」四月号 前田康子選歌欄 十首選


うりぼうの縞のうすれるころだろう十二歳となる亥年の息子  沼尻つた子


亡くなりし人と散歩の道で会うような青空冬の青空  向山文昭


処方箋わたす事務員金銀に爪よそほへりわが為ならじ  篠野 京


抱かれしこともありたるその胸を抱きて朝のベッドに起こす  数又みはる


今年こそことしこそはと反復し左の足から階段降りる  岡山あずみ


三井寺に友のつきたる鐘の音まだ鳴りてゐるわれのどこかに  坂 楓


海べりを子の住むまちへ向かひをり母といふ字は舟に似てゐる  藤木直子


波うすくよせるに烏かはるがはる降り立ちて触れまた飛び立てり  穂積みづほ


奉納の土付き大根ふともものごときを転がしごしごし洗う  西本照代


花れんこん作り待ちたき夜がありあなたの部屋に揺り椅子を置く  田中律子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-04-11 20:37 | 十首選 | Comments(0)
2019年 04月 06日

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選


山と海のある町なれば道はどこも傾斜してゆく海へ向って  森川たみ子


下戸ひとり置きざりにしてたちまちにめぐりの人等狂いはじめつ  坂下俊郎


ひと群が休耕田の冬枯れを急にとびたつ霧深き朝  岩尾美加子


何もせず過ごす日もよしきんいろの砂がしずかに作る円錐  魚谷真梨子


おそ秋の絵葉書五枚えらびたり歌会に会へぬ人思ひつつ  石丸よしえ


アレッポの戦禍くぐりし石鹸の泡立つちからわが顔つつむ  伊藤京子


さきにいったひとをきれいな魚にして東の空に茜いろの雲  岡村圭子


父の傘黒く重たく 会いたくない時でも父と会わなければならず  川上まなみ


雨の降る電車の中に外ばかり見つめて居たり父逝きしのち  児嶋きよみ


日が経てば徐じょに痛さは消えるはず 夜更けに熱きココアを飲みぬ  中野敦子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-04-06 22:40 | 十首選 | Comments(0)