暗黒星雲

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2018年 09月 25日

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選


防波堤を地元の猫のしなやかに尾の先見えて海側へ消ゆ  森川たみ子


峡ふかくよぶ声聞こゆ雨の間の鳥たちさわぐ川をおりゆく  赤井稚加


固く締めてもあまくなる捩子の不安年金明細通知書届く  伊勢谷伍朗


何もかも手放したいと思う時傘を持たずに梅雨に濡れ行く  白石絵美


旧友を十年振りに訪ねれば嫁が逃げたと淋しく笑ふ  三鴨 卓


歯切れよき講師が言ひし「なまあし」の「素足」にゆきつくまでの玉響  山縣みさを


オリヨ?ってきみが言うまで揺られよう駅は決めずに野も田も越して  若月カコ


心臓のねじはゆるくて不用意に揺らせばこぼれてしまう 容易に  とわさき芽ぐみ


ヒール折れて朝のひかりへ傾けばここから面白くなりさうだ  大堀 茜


白昼の夢から落ちてくるやうな雨垂れ怠しショパンの憂うつ  瀧本倫子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-25 20:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 25日

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選


夏くれば瑠璃糸とんぼ思ひだす布留の川辺に追ひし彼の頃  内藤幸雄


爪に泥ためた子どもの手のひらにかるく握られダンゴムシあり  福西直美


この足の痛み和らぐときのなし真夜に目覚めてニ短調を聴く  天野惟光


店員に袋の持ち手しつかりと絡めて持たされコンビニを出づ  伊藤芙沙子


紫陽花の青追いゆけば老菓舗の向かいが三月書房と知りぬ  岡村圭子


良き風といふ名の町に降り立ちて向かう岸見えぬ河を見てをり  加茂直樹


雪のようにつもった嘘があしあとを消したあなたはもうもどれない  田村龍平


終バスの夜の闇より黒髪を高く盛り上げ女性乗り来る  古屋冴子


一合の白きご飯を分けて食ふこの閑けさを老と言ふらし  和田 澄


しっかりとしているようで辻褄が合わぬと思い義母の顔見る  石川えりか



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-25 11:30 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 22日

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選


宵闇に啼くホトトギスの一声でわが初夏のピースは埋まる  入部英明


夏夕べの庭から庭へ差し出され良い西瓜ですねと言いて抱き取る  宗形 瞳


救護作業終えて列車は走りだす救護されたるひとを残して  吉原 真


足引の黄泉比良坂いつの間にすれ違ひしかあの後ろ影  河野純子


お互に認知の度合を探り合ふ老いし二人は喜寿を越えたり  天尾壯一郎


宙(そら)ガール講座の声がこだまする望遠鏡をはじめて覗き  上杉憲一


日曜のやわき朝霧かきわけて宅配トラック坂をのぼり来  岡山あずみ


別れ際思いがけずに手を出され思考停止で応じてしまう  河田潮子


春の日を眠りつづけるははそはの母にあらずや揚げ雲雀啼く  祐德美惠子


声変わり前のあなたを見つけたの祭囃子の響く漁港で  田村穂隆



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-22 15:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 21日

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選


庭だった場所に新たな家は建ち晩夏の脱皮のような引っ越し  神山倶生


子の影を午後の日差しが引き伸ばすゆたかなる背の若者ほどに  益田克行


手に青い火を持たされて、ごめん。肝心なとこで嘘がつけない  永山凌平


片隅でそのまま眠ることもある忘れられたおもちゃのように  太田愛葉


わすれものを取りに行こうよ あの夏のプールカードをかばんに入れて  うにがわえりも


ボッティチェリの春の女神が履いてゐるサンダルの細きほそき革紐  岡部かずみ


袋詰めの青梅売られ其の中に恥ぢらふ如く紅(べに)帯ぶる在り  金田和子


区切りまで区切りまでとふ残業にはつ夏の窓も暗み来たりぬ  栗山洋子


負け囲碁の悔いを引きずる長男に猫が蜥蜴を銜えて来たり  富田小夜子


地下鉄にベビーカー押さへ立つママの逆さV字の両脚つよし  水越和恵



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-21 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 20日

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選


ドセタキセル詰まらず言えるようになり薬の袋がまた増えていた  落合優子


立ち食ひのそばを啜ればベルが鳴る学生時代に乗りし快速  三木紀幸


この仕事慣れてはだめと引きしめて病院の重き鉄ドア開ける  山﨑惠美子


知らぬ間に買い物かごに入ってたエンゼルパイを抱いて帰ろう  中井スピカ


虐殺の長き物語読み終えてブーゲンビリアの咲く国と知る  岡崎五郎


なあんにもしたくないのと言う母の側でショールをまっすぐに編む  山梨寿子


薔薇柄の毛布の薔薇を内にして眠りしゆゑかよく眠られず  森尾みづな


もう二度と会うことのない人に会うピンクのパラソルぱっと広げて  只石めぐみ


まゆみとふ女にたしかうらみあり緑の枝にこまゆみの花  谷口富美子


おばの家に枇杷の実りて今はもう無口な婿がひとり住みいる  冨田織江



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-20 16:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 19日

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選


粋な背のツマグロヨコバイ音もなく夜のページを横切ってゆく  高原さやか


三人につぎつぎ道を訊きつぎてこの街すつかりすきになりたり  越智ひとみ


田に水を得たる蛙のよろこびを枕にききつつ眠る夜さよさ  秋田妙子


恋うことと呪うこととはおなじこと真っ赤な口紅ばかりをえらぶ  海老茶ちよ子


ゆっくりと育つのがよい ベビーカーをときおり止めて子の顔を見る  岡本 潤


さくさくとアップルパイを頬張ってもうすぐひとつ年を重ねる  楠  藍


ただいまと橋を渡ればふるさとの粒子こまかき山の気が立つ  田巻幸生


その位言ってくれても構わないあなたも身内の一人ですから  芳賀直子


喪のときはどれほどながく続くのかゆれる葉にさす陽射しまぶしい  増田美恵子


青空に鳶の鋭(と)き声聞きしよりわが眼裏(まなうら)に海あふれゆく  丸山順司





(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-19 23:02 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 18日

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選


淡々(あわあわ)と少女ふたりの髪ゆれて五月のバスを待つ木下闇  高松紗都子


薄青くガクアジサイが咲いているこのまま進んでいいのだろうか  杉本文夫


父も母も兄もおわせば天国はこの世の続きか妹待つか  大谷静子


水無月は娘に来たり朝なさな歌くちずさみシャワーを浴びて  小林貴文


母のなきのちの日月をぼんやりのままにて姉なり 申し訳なし  千村久仁子


台風の眼のごときものわが内の怒りにもあり生ぬるき風  濱松哲朗


水茄子の浅漬け二本鮎二匹あとは随意にと妻のメモ書き  吉井敏郎


起きてすぐ帰りてすぐにテレビつけ音ある空気に独り居を生く  鯵本ミツ子


つゆ空の青梅街道わたるとき何やら怒りふつふつとくる  青馬ゆず


風を泳ぐってこういうことよと言いたげに立葵の群生のゆらゆら  魚谷真梨子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-18 21:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 15日

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選


棕櫚の木よ月のない夜にこの庭を歩きまわったことはないのか  宮地しもん


不審者は我かもしれず思春期の心にぐいっと踏み込んでゆく  龍田裕子


子が我にまとわりし頃の高さなりアマリリスの鉢五つ開花す  黒沢 梓


きみのもの捨てゆくたびに重くなるからだを白詰草へと運ぶ  杉本潤子


昨晩のままにバナナは卓にあり油彩画を描くひとを待つごと  小圷光風


<あいちやん>といつもやさしく呼びくれし口に引かるる さびしいよ紅  山地あい子


雨上がり白詰草のにおいくる自転車ならば気付かぬほどの  邑岡多満恵


暮れ六つの四つ目のとき救急車は搬送先を決めて発ちたり  山口泰子


明け方の空に月ありあと五分したら巡回することにする  乙部真実


ぬり壁のようにいるなりさびしいでしょうさびしいでしょうと言う声の中  数又みはる



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-15 16:59 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 12日

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選


光を放つように私の目を見つめすだれ職人の妻は泣きおり  片山楓子


アスファルトは色の集まりあの猫が落とした影を私がひろふ  穂積みづほ


重い花は醜くもあるそう思う私は何を悔いているのだ  芦田美香


かららんとしてをる時にあゝ空は落ちてくるなりまつすぐまつすぐ  國森久美子


積み荷重き小舟のやうな母たちに子を眠らせる春の雨降る  黒瀬圭子


明日は来れぬと娘が持ちてきし花あやめ朝の食卓にひらきゆくを見る  坂根美知子


みごもりしひとは若木の眩しさに太りてあはき蔭をつくれり  澄田広枝


みどり児はいまだ目覚めず青葉風熄みてしづもる藤棚のした  竹下文子


キャベツには九匹のナメクジ棲んでゐてある日農婦の狼藉にあふ  中林祥江


障害のがの濁音が唐突に響いて秋の夕日は落ちる  高橋武司



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-12 20:35 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 28日

「塔」八月号 月集 十首選

「塔」八月号 月集 十首選


ふかぶかとわれらのまとう喪服より豪雨警報いっせいに鳴る  吉川宏志


どことなくあたたかみありそのかみの避病院なる荏原(えばら)病院  花山多佳子


手の中に親指隠し真昼間を血液するする抜かれておりぬ  前田康子


タルトなら六時屋がいいその昔祖父いひたるを土産に買ひぬ  岩野伸子


木香薔薇あふれ咲きゐる庭のあり小さき玄関その奥に見ゆ  上杉和子


産休明けのファイナンシャルプランナー双子(ふたご)ですと答へすぐ商談に  亀谷たま江


着信のメロディー鳴り出す午前二時あなたもやはり眠れぬらしい  黒住 光


言いさしの先が知りたい暗闇で君と見ていたエンドロールを  貞包雅文


日照雨影とひかりを降らせをり思ひ出せずにわれはゐるなり  久岡貴子


降りたればバスのその後のゆく道をわれは知らざりしばし見送る  村田弘子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-28 14:00 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 25日

「塔」八月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」八月号 花山多佳子選歌欄 十首選


菜の花の油を買ひに空瓶を持ちて行きたり夕方のお使ひ  渡辺のぞみ


ぬかるみに足とられつつおとうとと古墳のわきの畦道駆ける  土肥朋子


うつせみのこの世なりけり一人来て二月堂より町を見おろす  青木朋子


責任は取ると言われてあさぞらに送り出された雲かもしれず  朝井さとる


帰宅後の足に砂粒さわりたりパンプスの中は一色海岸  佐原亜子


会いたいというのは感情であるから靴紐少しきつく結びぬ  白水ま衣


いまごろになってむかしのもろもろを思いだす母また泣いている  永田 愛


朝起きて横目に顔をうかがいたり今日一日の忖度のはじまり  村松建彦


途中下車して志満(しま)といふ店に寄る鰈の煮付食べたくなりて  柳田主於美


しゃりしゃりと小砂利を踏みて行く道に一枚たりと落ち葉のあらず  谷口公一




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-25 14:04 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 23日

「塔」八月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選

「塔」八月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選


なんとなくそのままにした夏帽子いまもそのまま三回忌きて  島田章平


居ればよし居らずともよし昼下がり姫女苑にほふ坂道くだる  山縣みさを


夜 君のつめを切る音聴きながら卵置き場に並べるたまご  近江 瞬


お下がりを食む時少し味落ちて仏が確かに食した証か  白石絵美


うた好きの野菜嫌ひの孫とゐて「ごめんねピーマン」のうた口ずさむ  中村みどり


菜の花はなだり一面埋めつくし周防の海に両手広げる  灰岡裕美


今朝庭にひらきし花の写真など見せあふ部屋へ海の香は満つ  大堀 茜


透明の絮毛となりぬ球形のかたち保ちて風に揺れをり  篠原とし


ポケットにムクロジふたつ入ってた風吹いていた朝の思い出  伊藤未来


冬の町に何を踏みきし靴底ぞ白き小石のひとつ挟まる  森川たみ子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-23 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 23日

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選


失いたくないから何かができる訳でもなくてお手紙を書く  濱本 凜


海を見に行かうと君に伝へたらもう満たされてしまふ気がする  濱松哲朗


聞きかへされるときにをとこのにほひして前向いたままもう一度言ふ  岡本伸香


おとめたちの内緒話のはなやぎを思って春の半襟を縫う  紫野 春


熱々のタオルで拭きやるきみの背にしがみつきたし 西日差し込む  宮内ちさと


すっきりと背筋を立てて絵本をみる一歳の児に空青くあれ  鈴木晶子


我が家の窓の全ては新緑で蟻も百足もこおろぎも来る  田巻幸生


黒ずんだペコペコ息するスリッパの裏側みたいな青春もある  みずおち 豊


人群れにまぎれながら一つだけこちらを向きて笑まふ顔あり  岡部かずみ


もうさざ波の立つことなくてお互いに親の介護の話しなどする  冨田織江



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-23 10:40 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 21日

「塔」八月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」八月号 前田康子選歌欄 十首選


神様を信じぬ少年短編にひとり描きつつ雨を聴きをり  木村珊瑚


母は子で祖母が母 棺に向かい「おかあさん」と呼ぶ声のかぼそさ  小松 岬


鈴の鳴る扉を押せば青葉闇のやうなり昼のロージナ茶房  髙野 岬


若さではなく草臥れていないかだ新人社員を見分ける方法  逢坂みずき


健ちやんの奥さんと呼ばるいとこ会手拍子うちて伊那節踊る  金子光子


駐車場に私雨(わたくしあめ)の降りしあと峠の向かうのわが町思ふ  児嶋きよみ


母を待つ春雨の窓にいまも立つ幼きわれが雨だれを好く  丸本ふみ


死ぬまでをつづく呼吸のひとつずつふかめに吸えばあざやかな空  田村龍平


蝶の来て母かとおもひ燕きて父かとぞ思(も)ふひとりのくらしに  江見眞智子


入院の暇(いとま)に咲いて知らぬ間に垂れてま白くえごの花散る  芳仲成和



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-21 22:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 21日

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選


割りながら分けあいながら野いちごを娘とアリと私が食べる  八木佐織


ご迷惑おかけしますと幾たびも詫びつつ搬送さるる明け方  坂下俊郎


「守るべき人は妻と子」とふ息子母は守られる人にはあらず  伊藤陽子


シュウマイにのっかっているグリンピースなんでやろうな豆から食べる  北野中子


声帯を震わせ大気に刻み込む月に聴かせるだけの言葉を  徳田浩実


マクベスの妻が洗いし血の裔か躑躅はなだりをくまなく染める  西村美智子


揺れている訳のわからぬ感覚は酒のせいだと忘れることだ  中村寛之


初夏の銀座で買ったさみどりのツバメノートに数式を解く  佐藤涼子


若いころはなに聴いてたの 顔を上げることなくふいに息子が問いぬ  垣野俊一郎


赤がいい、夫が選びしクレマチス今年も咲きて今年も散りぬ  今井眞知子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-21 13:39 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 19日

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選


くびすじをひしとくわえてはこびたし眠りのふかきいきものなれば  山名聡美


四日目ゆリハビリ先づは足し算と引き算パズルの絵の組み合せ  吉村久子


川縁(べり)のカーブミラーに入り日見ゆ一条伸びる道のはたての  佐々木美由喜


躓きて思はずつかむ野薊の花咲く茎は棘ばかりなり  朝井一恵


「開けゴマ」叫んでみたい時のあり何を望むと我にも分かず  小川 玲


わが撞きし飛鳥の寺の鐘の音 耳を澄ませば未だひびきをり  唐木よし子


泣きたいし泣きたくないし放たれるゆばりの熱も夢ならばいい  白水裕子


コカ・コーラ開けたらあわあわあわあわと溢れ出て手を濡らすように恋  太代祐一


泉よりもどつて来たるまなざしでかなしき事をいふいもうとは  福田恭子


削除して削除してなお届き来る迷惑メールのような後悔  村﨑 京



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-19 22:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 17日

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選


休日の研究棟の守衛さん鼻メガネして文庫読みゐる  近藤真啓


カンヴァスに色を重ねた密林に湿ったおんなの裸が匂う  福西直美


楽園を捨てた身なれば同じ性もつ恋人の髪へと触れる  はなきりんかげろう


さびしさのようにへこみぬリビングのベージュのソファに深く座れば  川上まなみ


この道はバイエルもちて手をつなぎ姉と通いしでこぼこの道  小谷栄子


母に添ひ母の家にて過したり枝垂れ桜の咲きて散るまで  葵 しづか


鳥の鳴き声と思えば良いのだがニコチン臭の激しい声だ  大橋春人


あなたを知りてうれしき夜のかつてあり垂るる蕾を雨包みいき  宗形 瞳


外がわの赤き花びら残しつつ崩れ落ちたり英国のばら  谷口美生


去りゆきしままの幼きわれがあの角にたたずむ黄昏どきは  山川仁帆



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-17 21:24 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 13日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


いもうとが生まれた日だからじゃあまたね線香花火あしたしようね  多田なの


四本の足もつ犬は転ばない八十二歳の我は三本  熊野 温


社会からすこしづつ浮く僕たちがいつか月までゆくものがたり  宮本背水


ひたすらに妻が子を褒む足音のにぎやかなるを今日は褒めをり  益田克行


雪の降る地獄の河のほとりではあなたもきっとはだかでしょうね  田村穂隆


どきりとする困った時しか掛けてこぬ息子からの電話お母さんあのな  白波瀬弘子


病む部屋は三ッ葉ツツジに覆われて日永いちにち花と暮らしぬ  棚橋道子


入社時にハンマー振る訓練ありき「鉄は熱いうち打て」と煽られ  坪井睦彦


もう少し話していたいポロシャツの襟元ばかりみつめた日暮れ  増田美恵子


幾重にも皮に包まれ筍の先端にある伸びてゆくもの  入部英明



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-13 15:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 11日

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選


問い詰めて医師に二年と言わせしと友は悲しきことを話しぬ  加藤武朗


ふわふわと力なき身は気圧のせいと定めて何ひとつ手につかず過ぐ  小畑百合子


過ぎゆきのことと思いぬ思えども屋根裏にありしゴジラのポスター  数又みはる


ゆふぐれの陽ざしが廊下に長く伸びひかる埃よちかづく夏よ  山地あい子


枯れし花捨てられてゐる坂のうへ大きく白き月でてゐたり  杉本潤子


可動域ひろき葉桜闇を掻く死んだらなんであかんのと言ふ  穂積みづほ


あをむしの気分にさくさくキャベツ喰むサクサクと刻の移ろふ真昼  毛利さち子


銀の鈴ちりちり鳴りぬ鍵束を母の震へる手から受くれば  𠮷澤ゆう子


居眠りをしているひとに半分を残して酢ゆき夏みかん食ぶ  石井夢津子


手つかずの季節をそこにも光らせて鴨川は胸の奥をながれる  大森静佳



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-11 16:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 30日

「塔」七月号 月集 十首選

「塔」七月号 月集 十首選


花びらは肌に冷たし死を深く蔵して山はさくら咲き満つ  藤井マサミ


パンケーキ焼くごと時折りうら返し春の光に子の毛布干す  安藤純代


薬壜に星のひかりの溜る頃洩れ聴こえくる呪文のことば  岡部 史


しばらくを止まりていたる救急車だれかを乗せて走り去りたり  岡本幸緒


小綬鶏を咥へし猫がわれを見てたちまち昼の暗がりに消ゆ  苅谷君代


花に月これに恋あらば満点と思へば隣に妻がをるなり  小林信也


仁王像にも深く彫られて臍のありこの息子(こ)を叱る母ありぬべし  酒井久美子


老い母よりあやとりの川わたされて時間(とき)の流れを遡りゐる  佐々木千代


春はまたわが指の腹むず痒き季(とき)なり葉っぱがさわれさわれと  なみの亜子


もらひ火に燃えてしまひしと三叉路の赤い三角屋根の三木駅  久岡貴子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-30 18:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 28日

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選


夜の街を明るい方へと探しゆく帰りたいひとを帰さないため  山下裕美


どこにいてもすぐにわかると言われしに黄色のパーカー死出にも着てゆく  松塚みぎわ


否定語を使わずわれのあやまちを海を見ながら指摘するひと  白水ま衣


いかような暴言暴力振るおうと短歌(みじかうた)とう武器持つ母ぞ  滝 友梨香


「あした死ぬわけではないよ」泥の付く芋を頒けくれ癌病むひとは  野島光世


小声にて秘め事ひとつ聞かされぬ魚拓を壁に貼る店のなか  黒沢 梓


落ちながら飛ぶのも鳥でビルとビルの間の細き空を下降す  小林真代


めきめきと腕が上がつて週明けの会議のあとの工藤くんのコーヒー  西之原一貴


自転車のベルを聴くのは珍しいどうも私に鳴らしたやうだ  佐近田榮懿子


ながき長き滑走路でありたし大切なひとが旅立つまでの  澄田広枝




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-28 22:18 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 27日

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


あわよくば世界の終わりが僕たちの終わりになればいいなと思う  拝田啓佑


対岸に手を振る子ども池の辺はめぐりてかならず出会えるところ  森川たみ子


鹿を撃つをとこふたりを乗せてゐる軽四とまる山の脇道  山縣みさを


身ひとりの母の昼餉の煮麺が手つかず残る鍋にふやけて  岡田ゆり


チョコレートを溶かしてしまう煎餅はくずれてしまう春のかばんに  椛沢知世


草摘む子泣く子走る子春の野にひよこのように園児らは散る  髙鳥ふさ子


夏までは生きていようとする理由好きな作家の新刊が出る  松岡明香


桃色や白や黄色の花散りて当番なればゴミ置場掃く  宮脇 泉


耳元で鰻を食うかと尋ねれば父は微笑み呼吸止めたり  鈴木健示


雨になる気がするなんて言っていたあなたの肩に降り積もる花  吉原 真



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-27 22:57 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 26日

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選


木津川を電車渡れば目を上げぬ文明歌集を読みゐたる人  西山千鶴子


太陽をどこかで見たと思ひをりあれは昨夜の満月の影  浅野美紗子


雪解けの小さき流れは堰を越え激し弥生の川となりゆく  松井洋子


傘をささず人みな行けりわれのみは傘さしてゆく夕刻の土手  丸山順司


盛り上がるマグマのやうに色薄き森の若葉が風に蠢く  入部英明


大戸屋に16ビートのジャズ流れ「しまほつけ炭火焼定食」かがやき放つ  青馬ゆず


悲しみを連れ来る如く打ち寄せる実朝も観た伊豆の荒波  鈴木脩慧


だまされてみようかと思ふモノクロのフランス映画のやうな夕暮れ  福田恭子


「里美」とう名も記されありハンの木の巣箱に鳥さん来てねの後(あと)に  大出孝子


寄ってがっせ お茶飲んでがっせ アフタヌーン・ティへのお誘いが来る  ジャッシーいく子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-26 21:21 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 25日

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選


いななきて飼葉をねだる母の青毛馬(あお)母は逝きたり青毛馬を残して  山本龍二


「一人暮らしなので自炊はしないです」ああなんという強い順接  逢坂みずき


樟の木の葉擦れの音を聴くために坐るベンチがわたしにはある  山尾春美


細胞を広げるように高々と蹴り足伸ばす生徒まばゆし  伊地知樹里


かつぱうぎのははゆめにきぬ子供らは私の夢をみるのだらうか  川井典子


おほらかに恋ひたし恋ふることできず田楽の芋ひと串を食む  竹井佐知子


鉤裂きの尻の二ヶ所を繕われ作業ズボンのほこらしげなり  中村ヨネ子


鹿網の向うになりぬ私の蓬の摘み場摘みどきなれど  村尾淑蘭


夢のうち目覚めれば海の上にいて波の高さを推しはかりいる  池田行謙


学生に席を譲られしぶしぶと座る花冷えのひと日が暮れる  垣野俊一郎



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-25 19:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選


ぎすぎすと耳ざはりなす鵯の声何故ならむ今朝はいとしき  朝井一恵


オデッサの階段を落ちる乳母車乗っているのは赤ん坊の我  王生令子


いまはまだ泣けぬと踏ん張る母の目の奥に広がる青いみずうみ  小松 岬


不条理と理不尽の差は 春霞何も見えない海に漕ぎ出す  大橋春人


夭死せし弟にまみゆる心地すと連れには言はず、わたしの阿修羅  加藤和子


抱いた子に「きれいねえ」と呼びかけて桜を見つめる若き母あり  川合晴司


「母のため」と繰り返される度ごとになんだか違うものの見え来る  川述陽子


ブタ食えば体にしっぽが生えそうで焼肉の時はスカートはかず  北野中子


ご気分はいかにと問へば今朝はいささか優れませぬと鏡のわたし  田邊ひろみ


帰るまえ児らをぎゅうっと抱きしめる息子にはもうできない分も  中山惠子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-23 22:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選


ざっくりと真二つに切る春キャベツ芯に薄黄の花の生れおり  佐々木美由喜


われにながき慚愧はあれどふりながら雪の透きゆくうつくしき窓  千村久仁子


カーテンの丈の足りないガラスから朝陽がさして新しい日が  真間梅子


足場屋さん塗装屋さんに屋根屋さん床下さん来てわが家にぎはふ  𠮷田京子


スーパーのフードコートに陽の差してわれの居場所はここにもありぬ  木原樹庵


摘んできた蓬を茹でて水切れば指は緑に染まってしまう  西村清子


大縄を回すの止(や)めて父と子ら笑まいて待てり我の通る間  鈴木 緑


春なればと訪ねし店のシャッターに「しらす不漁」の貼り紙のあり  唐木よし子


のろのろと動きいたりし大みみず形よき輪となりて死にたり  川口秀晴


猪の防御の柵はこの里をひとまとめにしてくるりと閉じる  高原さやか




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-23 17:16 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 19日

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選


江ノ電に手を振る息子に振り返す匿名希望のたくさんのひと  竹田伊波礼


オリーブと葡萄、サフランどこまでもどこまでもアンダルシアは平ら  みぎて左手


せつなくて歩く銀座の路地裏に手の平サイズのゆうれいがいる  森永理恵


るるるって電話が鳴ってさみしいと岬の丘の伯母から電話  安倍光恵


どしゃぶりに色を消されてゆうるりと高原をゆく北しなの線  星野綾香


老いし姉ユメの町とうバス停の間近に一人杖つきてあり  宮内笑子


大きめのブレザーの袖にのぞく指きつちり揃ふ新中学生  八木由美子


しおり紐はさまれていたページには「も」の字の形のへこみがありぬ  松浦わか子


『三くだり半からはじめる古文書入門』振り向けばハナミズキ  川並二三子


亡骸を横たへしとふさながらに血のいろ滲む大理石板  高橋道子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-19 10:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 18日

「塔」七月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」七月号 花山多佳子選歌欄 十首選


ああ母よあのふくふくとした腕で我を抱きしめたることありや  谷口富美子


ごみ置き場に男三人立ち話帰りがおそいと窓より見れば  相本絢子


一本だけ煙草吸ひたし窓際の夕光(ゆふかげ)を透く煙を見たし  石松 佳


庭先のリラの萌黄と同色のカバーの掛かるランドセル通る  金田和子


朝の夢に亡くなりたる人やつて来てセロリをよき音立てて食みをり  河村壽仁


幸せの形をなぞる「おかあさん」「なあに」と歌う「あ」につく#(シャープ)  佐伯青香


息子等は母さんのことしか言わないと遺されし男(ひと)ポツリと呟く  榊 直子


春来れば普段使わぬ道曲がる木香薔薇の茂る家へと  津田純江


歌手が言う「君」を私に置き換える根拠などなく涙はつたう  濱本 凜


子どもらを背負いし頃を思い出す背中のザックは泣かないけれど  大森千里



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-18 14:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 12日

「塔」七月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」七月号 池本一郎選歌欄 十首選


オオカミの石の前脚あたたかしここからすべて見てゐたのだな  白石瑞紀


横笛を吹く子を見に来たといふ人と逢初(あいぞめ)橋から駅まで歩く  尾崎知子


花曇りのドライブにゆこうモクレンとコブシの区別つかぬ父と娘  穂積みづほ


罪びとのごとく女は顔覆ひ優先席に居眠りをせり  新谷休呆


施設から施設を廻るその人は長生きは辛いととくに夕暮れ  石井久美子


ゆずる気のなきわが前にベビー抱く人が立つなりレジ袋さげ  小島美智子


目の前に不安ばかりがぶら下がり枝垂れ桜は風に揺れゐる  澤井潤子


夫の背に追儺の豆の二つ三つ打ちて昨日の言(こと)ゆるすとす  仙田篤子


寂しさに北限ありやと問うてみる栗木さんの短歌に 一人居続けば  新田由美子


飛び込みの入水角度を褒められてプールの帰り見上げる桜  山西直子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-12 22:07 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 03日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


おほかたはのろひのことばみみもとでほめそやすこゑはことさらにして  真中朋久


時計屋のあまたの時計その中にいきなり反転する針なきや  三井 修


しょうがない行かんならんし行きますわと言う筈の言葉われらに残し  藤井マサミ


還り来ぬ人と思えど残しおく外出用の君の黒靴  青井せつ子


山かげに小さなお墓 巡礼の兄と同行妹とあり  稲垣保子 


ひとつずつ積み荷をおろしてゆくようなあなたの長い告白を聞く  岡本幸緒


その下に活断層ある山脈に春雲沸けり ま近くに住む  林 芳子


むかしをみな出家とふ身の処し方のありしを羨む足もと冷えて  万造寺ようこ


傍らに立てるナースは明らかに医師より固き表情をせる  村上和子


信貴山上ホテルにありし剥製の虎のまなこを思うことあり  山下 泉



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-03 22:57 | 十首選 | Comments(0)