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暗黒星雲

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2020年 10月 29日

「塔」十月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」十月号 山下泉選歌欄 十首選


幼子は野球少年に手を引かれ溝(どぶ)のながれを越えて行きたり  与儀典子


いつか来た街に降り立つ十代の頃の自分が抜けた改札  吉原 真


すんなりとマスクすること受け入れてわたしは何を拒めるだろう  ぱいんぐりん


外国の知らない曲を聴きながら涼しい夜の実家を離れる  川上まなみ


それとなくわが家の息子の事情など聴き出し上手な郵便局長  葵 しづか


夜更けても消えぬ悔いあり飲みさしの茶をほの暗き流しに棄てつ  垣野俊一郎


前を飛ぶ塩辛とんぼわが意識のみを連れゆく故郷の山へ  千野みずき


大暑には稲田に埋もれ草とりき母は汗かきわれも汗かき  坪井睦彦


自分だけ老いたようにも自分だけ幼いようにも思う捩花  田宮智美


思い出のように咲くからどくだみを見るたびそっと祈ってしまう  小松 岬



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-29 20:13 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 24日

「塔」十月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」十月号 なみの亜子選歌欄 十首選


本当に元気なときはもう少し静かな声で話す父親  宮脇 泉


帰らむよ君に見せたき大きなる三日月が地に沈まぬうちに  加茂直樹


ささの葉を引きずり唄う幼子のさらさらの「ら」の抑揚高し  瀧川和麿


みそ蔵の池のほとりにこの夏もぎぼうしぎぼしすずしげに咲く  大江裕子


優しさから出た嘘なのに君の頬刃を当てたように固まってゆく  王生令子


また明日続きを読もうこの歌集一気に読むには強い雨音  北野中子


刺すごとき朱の花の咲き今年また柘榴の熟るる夏が来るなり  堺 礼子


象徴と呼ばれ来しいち人(にん)の死を短波ラヂオでカラカスに知る  内藤幸雄


最終船荷を下ろし終え積み終えて島ひとつ海に残し去りゆく  よしの公一


はじめての鳥はじめての虫の声はじめての音がこんなにもある  青垣美和



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-24 20:15 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 21日

「塔」十月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」十月号 花山多佳子選歌欄 十首選


ゆれながら一歩先ゆく満月を水面に追ひつつ田の道をゆく  中橋睦美


道の辺に生卵四つ割れており赤の他人の衝動を知る  大和田ももこ


食器棚に仕舞い忘れし琉球ガラス海のみずいろ梅雨晴れに出す  上森静子


いくばくか抜き残しおく十薬の花清々し雨に濡れつつ  大出孝子


耳のなか水が入ってくるような 帰りの道がわからなくなる  椛沢知世


オルゴールの音色に気づく手術台耳すます間なく眠りに落ちる  髙鳥ふさ子


〈減った分だけ足していく〉先生に習ったんだよ子の頬あかく  増田美恵子


薫風が歯と歯のあいだを抜けてゆく歯石をとりて外に出づれば  行正健志


ポン菓子屋わらび餅屋に鋳掛屋も店開きけりこの坂の上  栗栖優子


息継ぎのごとくレールを鳴らしつつ回送電車はホームを出でつ  永久保英敏



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-21 22:24 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 19日

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選


めっという声の大きさに子も我も驚けり雨の匂いの部屋に  魚谷真梨子


死者のかほが思ひ出せない潮風が潮のかをりをうしなふやうに  千葉優作


九州にはじまる線状降水帯その前(さき)にありて窓を打つ雨  岡崎五郎


かたち、影、風聞、花びら、わたしからはがれゆくものわずかに濡れて  帷子つらね


黄の花の大きく咲いたその陰に丸い南瓜が蔓に垂れおり  川合晴司


トウチャンと二世の妻に呼ばれつつサンバのリズムで野菜を刻む  武井 貢


君逝きて吾れもいつかは逝きし後もふうりん並んで鳴るんだろうね  長岡真奈美


他人(ひと)の口を恐れつつ生くる地方なれば自粛といふも自づと厳し  仁科美保


ガラパゴはゾウガメの意と知りてより思い膨らむガラパゴス諸島  井上孝治


ぽつぽつと白きパラソル生えてをり菌床のごときウッドデッキに  永山凌平



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-19 19:25 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 17日

「塔」十月号 若葉集(小林信也選) 十首選

「塔」十月号 若葉集(小林信也選) 十首選


どの人のものともつかぬティーバッグひとつの皿に重なりてあり  青海ふゆ


呱々の声あげることなく逝きし子と語らいながら墓の草とる  若山雅代


雨なれど新しき靴はきてゆく古稀となり初の短歌の会に  小原文子


店主には売るを惜しめる古書ありて高き値札を付け置くといふ  勝又祐三


「サセツデス」ナビの声音にたぢろぎて交差点をまた走り越したり  品田一郎


石蕗のみどり濃き葉のふるふるとほそき雨うけ梅雨に入りぬ  深堀英子


淋しさはいともたやすく立ちあがるいちまいの皿を洗う夕暮れ  布施木鮎子


トリミングされるみたいだ夕影は昇降口を鋭く照らす  山河初實


銃のごと突きつけられて測らるる三十六度二分の平熱  森 純一


いきづらき、いきのしづらきこの街の少女ら今宵水棲となる  中山とりこ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-10-17 20:17 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 05日

「塔」九月号 月集 十首選

「塔」九月号 月集 十首選


やうやくに初夏の暑さの川べりに釣り人は大き魚を引くらし  花山多佳子


蝙蝠がつばさひろげる商標のタンクありしはあの丘のうへ  真中朋久


登校の小学生が渡りをへ旗を巻くひとうれしさうなり  小林幸子


椿の実どのようにして食べるのかかんがえながら雨の道ゆく  江戸 雪


その母のめぐまれざりし生い立ちを言いて青年がユモレスク弾く  山下 泉


皮を剥くまでは寡黙なびわの実のそれなら僕も言わないでおく  松村正直


遠山は雨と眺めていたりしを昼すぎてベランダぬれはじめたり  藤井マサミ


名を呼べば雲に恋していたような顔をしずかに私に向ける  岡本幸緒


なんとなく洗ひたる手を洗ひなほす手は意識して洗ふものゆゑ  久岡貴子


雷鳴の過ぎ去ることは知つてゐる海猫の町に海を見てゐる  村田弘子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-10-05 19:31 | 十首選 | Comments(0)
2020年 10月 03日

「塔」九月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」九月号 小林信也選歌欄 十首選


風強く吹く道ジョギングする人の帽子が飛ぶを見てしまいたり  ダンバー悦子


その道を歩いたことを忘れたと言えばさみしそうな顔をせり  宇梶晶子


幾曲り青葉のトンネルくぐり行けば車丸ごと青まみれなる  相馬良子


いのちさえあれば他にはいらないと思ってしまう寝息の傍で  朝井さとる


長く会わぬ友の死を聞く今日もまた北山時雨の通りゆく町  菊沢宏美


(をろが)みていまさらにマスクはづしたりカーネーションを供へし墓に  篠野 京


いつ帰っても正面に立つ姿あり絹色の空に夕べの比叡  橋本英憲


ぽっちりと青き実のまま落ち来たる花梨が小さな手に拾われぬ  福西直美


自転車のかごに散りたるえごの花弾みながらに踏切越えつ  清水弘子


卓上に黄の薔薇ありて ごはんよ 呼びてゐるなりばらの向うへ  千村久仁子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-03 11:34 | 十首選 | Comments(1)
2020年 10月 01日

「塔」九月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下泉選歌欄 十首選


うすやみの溜まる窪みに立ちながら夏を待ちいるひおうぎ水仙  植田裕子


大木となりしざくろの枯れたるは夫の病を背負いくれしや  青木初枝


雨の季は漆喰の壁匂ひゐき スカートはいて少女が写る  小澤婦貴子


諍ひは突然に来て背を向けし妻が黙して蕗を剥きをり  加藤 宙


三保浜は友には一人になる場所か松原ぬけて案内しくるる  首藤よしえ


咲きそめし百合の香りをうごかしぬ水を飲まむと起ききし部屋の  千葉なおみ


坂の下よりあらはれてバスが来る何か嬉しき知らせのやうに  豊島ゆきこ


藪かげの小道をゆけばドクダミのにほひすズックに踏みつけられて  渡辺のぞみ


この三月(みつき)娘に面会できぬなり爪伸びたるか髪伸びたるか  中山博史


家を囲む森の青葉が繁りゆき列車の音を聞かなくなりぬ  髙野 岬



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-10-01 19:54 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 30日

「塔」九月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」九月号 なみの亜子選歌欄 十首選


紅生姜多いやら少ないやらと言ひながらたこ焼き返す水無月の夜  久次米俊子


ちさき頭()はてんでにあらぬ方を向き膝にも触(さや)る畦の野蒜は  川田伸子


失せものの何かは知らず失せものを捜す如くに春日は暮るる  大島りえ子


数本の飛行機雲ある春の空用あるごとく川土手をゆく  大塚洋子


どの家も庭に花咲き犬が居る甲斐駒見ゆる集落に来し  加藤武朗


虫食いの茎ごとちぎりて庭のすみ紫蘇の香りのわずか綻ぶ  塚本理加


とほくまでいきたくなくてとほくまでみわたせる場所を選んですわる  西村玲美


雲の上()にゲンゲ咲くらし河原より上れるひばり一直線に  柳田主於美


金蛇の舌だつたかも膝小僧すうつとなでたとほいとほい夏  大河原陽子


拗ねている顔してこの娘は泣くだろうわれの棺を花で埋めつつ  数又みはる



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-30 19:52 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 21日

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選


朝焼けの狭間で夜は振り返るハクセキレイの尾が描く月  中森 舞


マスクしていそうな幼い声がして振り向くやはりマスクか愛(かな)し  仲町六絵


六月のかなしくはない空の下深呼吸するかなしくはない  川俣水雪


憎しみはこんなに光る携帯の水面を滑るいくつもの指  森山緋紗


山越えに桜五本咲くひとところ隠れ里よと名付けて見入る  足立克子


背中には過去の宿ると易言えり見えねどあらむ数多の矢傷  泉 みわ


水吸へばプールの中で鮮やかに花咲く母の遺品の水着  川島千枝子


出しそびれし手紙をなんども読み返す今ではおそき遅き春の夜  櫻井ひろ子


先ず犬がそののち幼なが来て覗く未来公園ベンチにおれば  ぱいんぐりん


積まれたる無縁墓のなか名の読める陸軍伍長の墓石もありき  西 真行



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-21 20:03 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 20日

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選


消息をこのままふっつり絶てそうだコウモリ埋め尽くしてく夕空  中井スピカ


五月雨や四十年を向きあいてカレーうどんをちゅるちゅる啜る  冨田織江


女生徒ら風を切りつつ坂道を下りゆくなり自転車つぎつぎ  松下英秋


テレワークの息子の昼餉は小さき頃のほおずき色のナポリタンなり  竹内多美子


拳銃のごとき機械に体温を差し出し菖蒲の花を見にゆく  鈴木健示


チラと見しマスクをかけし横顔が行方知れずの友に似てゐし  葵 しづか


もうたぶん会うことのない人達の名前を抱え夜を散歩す  大和田ももこ


おそらくは一人が似合ふ人と居てゆふぐれてなほ海をみてゐる  長澤ゆり子


月の夜は跨線橋からまっすぐに小さき舟を漕いでゆきたし  山川仁帆


ストロベリームーンと風が薄雲と網戸をすり抜け皮膚に届きぬ  丸山恵子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-20 15:01 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 18日

「塔」九月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」九月号 小林幸子選歌欄 十首選


友だちの話を聞いている耳を置いて後退していくわたし  椛沢知世


床ちかく置かれなかなか取り難しコンビニエンスストアのバナナ  森尾みづな


わが町の静もる春に消えしもの朝すれちがふアジアの若者  栗栖優子


現実を夢の中から受け止める揺り椅子は風に少し動いて  北山順子 


身のうちにあふれる言葉書き出して認められないいらだちを消す  ひじり純子


シャワーにも風にも音にも小さき手をのばしてのばしてつかもうとする  青垣美和


素手にふるる素手おそれたる夕去りをあなたとながくあるきたいのに  浅野大輝


ぶちねこも空を見上げてゐたりけり自衛隊機の飛ぶ夜さりに  永山凌平


ベランダに出れば広がる青空の誰かとつながっている感じ  杉田菜穂


眉根よせ漢字ドリルを埋めている君のむかいに豆のすじとる  海野久美



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-18 15:53 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 16日

「塔」九月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」九月号 三井修選歌欄 十首選


今日のことは今日で終はりとハンガーにとろり重たきスカート吊るす  岡田ゆり


とめどなく砂が肺へと入りこむやうに思へりこの生きにくさ  谷 活恵


アクリルの板の向こうに紫陽花がいけられている朝の窓口  山名聡美


青梅をまづは白磁の皿にのせパレットに絞る緑の絵の具を  阪口和子


好物は明治生まれの祖母作るマカロニスープでありし日想う  池田真喜子


答弁の厚労相のかたわらの長き美脚に見ほれておりぬ  小川 玲


知らぬ街あてなく行けば川の辺で魚釣る人をしばらく見おり  北条 暦


匂ひ立つほどにあらねど唇にうすく紅ひく夜の会合  越智ひとみ


新婦さんの投げたブーケが思うよりずっと高くて見あげてる空  長谷川 琳


セキュリティカードを下げる首紐に汗にじみゆき夏となりたり  田宮智美


(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-16 17:25 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 14日

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選


パンプスに濡れた爪先押しこめて再び雨の街へと出でぬ  鈴木むつみ


半顔のひとばかりなるこの頃の擦れ違うひと皆美しき  坂下敏郎


この頃は諦めはやく言葉など降ってこないとうそぶくばかり  山梨寿子


髪を乾かしつつ本をひらく母 時は銀糸のように波打つ  田村穂隆


鴨居には吾を見下ろす夫のをり百八十度目にて追ひくる  伊藤芙沙子


いつかとはまぼろしの時手に掬ふ水はしきりにこぼるるばかり  今井早苗


病む友の電話の声の細りきぬ見舞えぬままの三月が過ぎて  佐々木美由喜


田の脇のネムの木の花まだ咲かぬ遅れてよいか今年の田植え  山下幸一


あきらめてしまふのですか 残照に啄木鳥はまた木を突つき出す  近藤真啓


雨粒は芭蕉の葉を打ちすべり落つミシンはすでに踏むものでなく  竹尾由美子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-14 19:34 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 13日

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選


さびしさを我慢してゐるかもしれず夢に失ひたる長靴は  千葉優作


何にというわけにはあらず夕ぐれに妻とちいさくグラスを合わす  垣野俊一郎


冬布団やつとしまひて新茶の香何か為したるやうに思ひつ  谷口富美子


いちめんをびっしり埋めて咲く躑躅 ふいに湧きたり紛れてみたし  松尾桂子


地蔵さんもピンクのマスクつけられてマスクの児らがおじぎして過ぐ  鯵本ミツ子


バイバイを三回言って信号の半ばのころに娘と別れる  安倍光恵


夕冷えに白菊の花ひかりたり老いてゆく身のやすらぎにをり  山本龍二


小さきは生で食べよと掘りたての竹の子もらふ配達の道  石川 啓


空っぽの一本マストの釣り船が繋がれしまま音をたており  白井陽子


たまりかねて放った言葉すぐに子の日々の喧嘩に取り入れられて  吉田 典



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-13 11:41 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 12日

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選


洞というバス停はありただ一度告白のため降りしことあり  宮野奈津子


ブランコの下にだけある水たまり森の湖ほどに凪ぎたる  有櫛由之


レジ前の床に貼られし靴型に分断されし「生」として立ちぬ  山本建男


優しさが悲しみ和らげられるなら ひとり居の彼にソラマメを採る  木島良子


面会にさし入れる物持たず来ぬこの青田風を姑に届けん  赤田文女


香月駅へ山羊を迎えに父と行き飼いはじめたる戦後のありき  加藤京子


少年を青年にして夏はゆくあとに遺した陽灼けうつくし  木村珊瑚


水無月に赤く潤める望の月おたまじやくしは右往左往す  古谷智子


この雨に滲みし手紙の封を切る僅かに反りし指先思う  永久保英敏


振り向くと背中を見せて夫は行く御成街道 渋滞はまだ  真間梅子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-09-12 17:18 | 十首選 | Comments(0)
2020年 09月 11日

「塔」九月号 若葉集(永田淳選) 十首選

「塔」九月号 若葉集(永田淳選) 十首選


まだ決して恋とは呼ばぬ襟足がなにやら今日はうわついている  布施木鮎子


わたくしになにも言わずに去る春の捨て子としてのスナップえんどう  青海ふゆ


歌に詠まず撮る事もせず時に泣く胸に棲みつく紫陽花を持つ  小久保美津子


大切なものは一瞬だけ見える猫の舌とか白い腕とか  竹内 亮


花合歓の葉群れの下に夜を過ごす人ありおやすみぼくも葉を閉ず  谷口 結


まっすぐに空に向(むか)いて麦の穂は風を転がすあちらこちらで  深堀英子


「デバイスが対応していません」ので私は世界に取り残される  山河初實


遠くへと往くと云ふ人こんなにもあかるい舟をぼくに残して  橋本牧人


ストレスは質量であり卓上の銀紙のみが輝けるチョコ  千仗千紘


足首を出していたいなきみと呼びきみと呼ばれるふたりの日には  星 亜衣子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-09-11 22:35 | 十首選 | Comments(0)
2020年 08月 14日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


春先に見てはいけない夢を見てそれからずつと夢に住んでる  いわこし


乗り換えを重ねるごとに生活の色濃くなりゆく窓の外側  真栄城玄太


ずじゅうかん頭重感あり低気圧ていきあつなりもうすぐ雨が  森 祐子


今日かぎり閉店といふ洋食屋たまたま入りカレーを食ひぬ  金光稔男


交配を終へし梨園にモーツアルトが静かに聞こゆ胎教のやう  井木範子


成生(なりう)漁港の昼に人ゐず水ぎはに波のたゆたふ音のかそけき  上仲修史


樹上よりするりと降りて走り寄るカザフの少女臑(すね)の伸びやか  河野 正


ここよりは結界であるとジャスミンは二階の壁をも覆い尽くせり  津田雅子


絹さやの筋引きゆけばつつましく初夏(はつなつ)いろに並ぶ豆見ゆ  菊井直子


寺の鐘鳴るは切り立つ崖のうへ霧の中にあるはずの村  石川 啓


(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-08-14 21:58 | 十首選 | Comments(0)
2020年 08月 11日

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選


降る雨の闇にまぎれる橋梁をひかりの箱が七輌すぎぬ  黒木浩子


草を引く吾のうしろから幼子はパパがしてたと穴うめてゆく  赤田文女


ゆふぐれて病床に闇は立ちこめる ただ流しゐるテレビを灯とし  赤嶺こころ


揚げひばり曇天に舞い声しきり卯月の神社に人影もなし  桂 直子


休校の長い廊下を人ひとり大きな荷物抱えて通る  夏 るり子


うらうらと鳥鳴き花の咲く峽の総会中止の回覧まわる  藤田幸子


ベトナムの娘らあまた泊まりゐる家より漏れくる柔らかな声  松井洋子


ふっくりと光を孕むカーテンを両の手で抱く もう会わぬこと  森永理恵


島ふたつ沖に浮かべて聞こえくる見えない舟の主機関(ディーゼル)の音  山本建男


なんという野生だ初夏の山ウドにわれはたじろぎ花器に投げ込む  今井由美子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-08-11 21:32 | 十首選 | Comments(0)
2020年 08月 10日

「塔」八月号 若葉集(江戸雪選) 十首選

「塔」八月号 若葉集(江戸雪選) 十首選


犬猫も去勢されたるこの町の駅前ひろばのさくらがみだら  青海ふゆ


さびしくはなかったという強がりをワンピースごと脱がされて初夏  榎本ユミ


左手を縁取るような陽光に触れてみたくて差しだす右手  羽原はる


石鹸を泡だてている何処にもない国の祈りの手つきでもって  t o r o n


一夜だけ泊まった君の部屋壁に君以外知らん集合写真  イキヨルニ


バス停の真似をしながらバスを待つバスから降りてくる人を待つ  折原あんり


飲み込んだ言葉は胃酸で溶けるほど脆くはないよ自転車のベル  立花ふみ


ひさかたの薄日洩れいる竹薮の土やわらかく五月になりぬ  徳野明了


「彼に手紙を書いたってむだだよ」英熟語帳例文705のかなしみは  久保 遼


人住まぬ実家の庭をとり囲む結界のごとき躑躅のピンク  森 純一



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-08-10 22:33 | 十首選 | Comments(0)
2020年 07月 19日

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選


銀閣寺の桜の下でタクシーの運転手五人たばこをくゆらす  上杉憲一


ゆふぐれの廃校跡の金次郎本読みゐたり薪を背負つて  赤岩邦子


本広げノートを見つつ生徒ゆく丘の高校は期末考査らし  松井洋子


青空に白木蓮は光りおりかくまで白き約束の欲し  石川泊子


明日からの暮らしが見えずぽりぽりとラスクをかじる日曜の午後  伊地知樹理


歌会へ君を支へて母らしき人は車でひつそり待てり  河野 正


坂道を一人登れば春に会う久美ちゃんとう子共に歩きし  田中純子


思春期に手ばかり洗う子でありきそれを案ずる母のおりにき  津田雅子


退職に家まで持ちきし花束を七年後の君に今日返したり  上仲修史


おほかたを家に過ごしぬ木蓮の一部始終を見たる三月  山縣みさを



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-07-19 21:54 | 十首選 | Comments(0)
2020年 07月 17日

「塔」七月号 若葉集(前田康子選) 十首選

「塔」七月号 若葉集(前田康子選) 十首選


信号はもうすぐ変わる日を浴びて右を見ている君の横顔  竹内 亮


ランドセル背負ひし頃のハンカチを裁ちて作らむ息子のマスク  壱岐由美子


三月で退職したる夫なれど毎日出でゆくどこか弾みて  生田延子


相聞歌のページに細い月のごと栞の紐の痕が残れり  榎本ユミ


休日を扱いかねてうどん屋のごぼ天を食いに駅まで歩く  北奥宗佑


裾上げも頑張ったのにピカピカの制服壁に吊られたまんま  東大路エリカ


どっちみち濃厚接触する人とコーヒーを飲む一つカップで  丸山恵子


あかい血が流れているわとそのひとはふたつの乳房われに与える  山根秀一


子なきゆえわからぬのだという友に首相にかわり恥じてうつむく  渡部 和


自己護る其れが貴方の使命だと医師は何やら厳かに言ふ  野村久雄



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-07-17 22:22 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 30日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


うどん屋にうどん食みつつ塀ごしの金柑二十余りを数う  小川 玲


茜色に鈴鹿七峰深まりおり峠越えれば母のふるさと  松尾桂子


塗りかえたつもりでいても悲しみは形状記憶されて潜めり  黒木浩子


あれは鳥落ち葉の中を逆らって上へと突き抜けていったもの  白 梅


空仰ぐやうにはくれん咲き満ちぬ きのふのことはきのふのことだ  鈴木むつみ


幸雄より幸緒のはうが気に入りて敢へてせざりき〈誤植訂正〉  内藤幸雄


つぶあんの菓子食ぶる度浮かびくるきんつば好みし岳父の笑顔  蓮尾金博


クラシックが理屈っぽくなくただ沁みる 知らない町でランチ楽しむ  宮本 華


世界はもう終わる準備を始めててほら夕焼けのこの赤い色  山梨寿子


こんなときでもお返しのチョコを手に帰りし夫よ君は勇者だ  月下 香



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-30 22:36 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 29日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


あっけらかんと生きていたいと思う朝素肌の頬を光にさらして  魚谷真梨子


唇を人にぬらせて死のことを少し思いぬ春のデパート  山名聡美


三月二日午後より休校となりたる町のさざめき春とは別の  森尾みづな


雨止まずクリーム色の校舎には明りは見えず暗く立ちおり  川合晴司


渓流に竿釣りをする君を待ち摘むエンゴグサ、スミレ、カタバミ  川本智香子


鍵穴にふかく挿すときしあはせと思ふだらうかすべての鍵は  千葉優作


体重は増えてはならず会議では寝てはならない東京に行く  北条 暦


「じゃあまたね」君が言うからそのまたがあるような気がしてたあの頃  吉原 真


動くもの風に揺れいるゴールネットと鴉の三羽 休校の庭  村上春枝


船溜りに繋がれてゐる釣り船に青きタオルがはためきてをり  内藤久仁茂



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-29 20:19 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 28日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


手の平と甲に数字を書き写し若きナースは笑顔を見せぬ  河上久子


かみさまのおとうとだつたそのひとをひそかにおもふ春のびろうど  川田果弧


海中より出でくる海女を傘持ちて待ちたる人見ゆ志摩の濱辺に  清水千登世


傷口に沁みいりてくるささやきを黙し聴きをり手を握りしめ  三上糸志


でもせめて短歌だけには本音もとペンを取れどもうたにはならず  山﨑好志子


母が去り荷物開ければ零れ出でぬ母が加へし菓子や靴下  横山敦子


階下にて友を迎える妻の声われの知らない明るさに満ち  よしの公一


作業着の灰色めいたうすみどり あいまいを君はやさしさと言う  亀海夏子


CGの子供は踊る流行り病続く日本の土曜のTV  大橋春人


ハンガーの三角形の向こうから来るのかもこの街にも春が  紫野 春



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-28 15:44 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 18日

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選


跳ねながら端まで行ってホームからあしたの空へ飛び立つすずめ  垣野俊一郎


まっすぐに集落抜けた先に見る真昼の海のいたく眩しき  永久保英敏


娘の家の家事を終えたる午後五時の夕光しずかに手のひらに降る  赤田文女


母が焦がした鍋を磨いてあかつきの庭に出づれば星影あはし  与儀典子


目黒川沿いも渋谷の坂もまだ咲かないでいるらしい三月  北虎あきら


手を振れどどの電車にも人のなくはしゃげぬままに幼は帰る  平田瑞子


明け方の雨戸を繰るとき隣り合ふ窓辺の猫と目が合ひにけり  松井 滿


また一つ角を曲がったようである戦後はじめての一斉休校  川俣水雪


みどりごの栄()えの襁褓になれぬまま浴衣は請はれてマスクと成りぬ  栗栖優子


少女とも少年ともつかぬ影立てり工廠ありし町の草原  加茂直樹



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-18 22:08 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 16日

「塔」六月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田和宏選歌欄 十首選


ボートレース終へし少女ら影となり銀波の中に櫂を置きたり  仙田篤子


海の方より雲晴れて月球は少し欠けつつ森の上に昇る  立川目陽子


ああなにか誇りとおもへるほどのことを虹をみあげるまへにうしなふ  西村玲美


告白のチャンスを失う子もおらむ三学期から弥生が消えて  畑 久美子


あきらめないでとあなたは言うが何を諦めているのかさえも分からぬ日あり  福西直美


氷雨降る道を戻りて玄関の雛(ひひな)を見れば笑ひてゐたり  渡辺のぞみ


おそろしくしんとしているまっぴるま人間三人ここにいるのに  宇梶晶子


大阪から会いにゆくのはやめとこな 児らに会えないまま春がくる  中山惠子


ささやかな秘密を抱いている午後の遠くの空で光る雷  乙部真実


かさぶたを剥がしてみては叱られたあの頃の癖治りてをらず  大島りえ子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-16 21:52 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 15日

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選


濃厚な接触と報道されしときひとりひとりがはづす知恵の輪  澄田広枝


後悔はなんどもなんどもするだろう出し得なかった手紙のように  浅野美紗子


コハクチョウの声聞きながらいつ知らず眠りたるらし湖北の宿に  石橋泰奈


うつすらとうめのかをりのただよひてゆふぐれはうでを木肌へのばす  伊東 文


だれもみな眼に表情さぐりたり玄関受付待合室に  鵜原咲子


草の舟小川に流し石の橋をくぐりゆくまで子らは見てをり  澤井潤子


その先に出口あること疑はずライトを上げてトンネル疾駆す  筑井悦子


月の裏を誰か掘ってる音がする私がドーナツかじってる間に  橋本恵美


貝ボタンにちいさきちいさき虹は生れ春陽に乾きしブラウス取込む  林田幸子


半月の切り落とされし片側が湖の底にて光りてをらむ  益田克行



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-15 22:40 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 14日

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選


爆弾で埋もれしわれの手を見つけ「掘りてむ」と兵にすがりし姉は  林 雍子


意識なく「寺へ運べ」と言はれしを「まだ息あり」と離さざりしと  林 雍子


黒板はつめたいままにそこにある生徒の気配消えた教室  三谷弘子


もうもはやどこにも行けず冬晴れの谷戸の林を歩きてきたり  山口絹子


孤独死でいいからこの家に住みたいと思ひをれども子らには告げず  首藤よしえ


渡り鳥の万のいのちのあぐる声 会へざる歌友のくるる動画に  栗山れら


モーツァルトふいに流れて正午なり姑をらぬ家に振り子は揺れて  森永絹子


教室に元気な子らの声戻り窓は全開揺れるカーテン  龍田裕子


「海の向かふのはなし聞かせて」オリーブをシーザーサラダの中に混ぜつつ  渡邊美穂子


雑踏にマスクをつけて紛れゆく異界のだれかのからだになりて  祐德美惠子



(新井蜜)




# by trentonrowley | 2020-06-14 22:33 | 十首選 | Comments(0)
2020年 06月 14日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


馬場あき子とテレビ会議をする世とはなりけりおまけに宇多喜代子もゐて  永田和宏


狛亀の大きなる眼に挟まれて参拝したり縄には触れず  花山多佳子


対談は中止となりぬマスクして春めく街にパン買ひにゆく  栗木京子


艀ふたつ曳きてきたりし曳船が速度落として身軽になりぬ  真中朋久


まじなにもねえ、と言ひながら中学生らサッカーはじむ  小林幸子


小石など蹴りつつ春の道を行くごとく行きたしこの後の生は  三井 修


犬までが感染したというニュースうさぎは聞こえぬふりして座る  前田康子


ここですと言はれて分かる薄紅色の少し異なるポリープの場所  小林信也


医療ドラマ最終回に精妙に手はいくたびも洗われている  山下 泉


牛乳と紅茶が混じり合うさまを見ており今朝は喜びとして  松村正直



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-06-14 10:03 | 十首選 | Comments(0)