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暗黒星雲

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2010年 12月 10日

河野裕子歌集『葦舟』を読む その3

生家など疾うに失せたるかの村に降る雨思ふ草に沈む雨 (河野裕子)

裕子さんは熊本の出身だったと思うが、この歌を読む場合、特定の場所を前提
としなくてもよいだろう。「生家など疾うに失せたるかの村」は多くの日本人
に、特にある年齢以上の多くの人たちには思い当たる場所があることだろう。

全体に、「疾うに失せたる」「かの村」「降る雨」「沈む」など、静かな寂し
い感じのする歌だ。

「生家など疾うに失せたる」という時の移ろいと故郷喪失感を感じさせるが、
「かの村に降る雨」は人間世界の変遷とは関わりない自然の営みを表している
ように思える。

結句の「草に沈む雨」は草深いところに降る雨の描写だと思うが特徴的な表現
である。3音、3音、2音のリズムで8音となっていることにより、この表現
により注意が向けられる。

by trentonrowley | 2010-12-10 21:39 | 葦舟


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