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暗黒星雲

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2008年 08月 31日

2008年8月

水茄子のへたを剥がせば現れる処女(おとめ)のごとき白き柔肌
水茄子のへたを剥がせば現れる処女(おとめ)のような肌に唇(くち)寄す
水槽のガラスは白くヴィーナスの背中の汗が乾いたように
木陰にて日射しを避けてバス待てば水の糸光り蝉が飛び立つ
八月の水面に浮かぶうたかたは人を恋せし人魚のさだめ
パッキンを替えたばかりの蛇口からポタリポタリと水滴が落つ
水仙の黄色い色のブラウスに顔を埋める昨夜みた夢
好きだったミルク金時蝉しぐれ水着に浴衣きみが着た夏
早く来て枝毛姉さん手水場の扉はずっと開けておくから
水たまり飛び越すたびに少しずつこぼれ落ちてく心のかけら
焼けた肌と水着のあとの境界を指でなぞれば夕立の音
鼻水が止まらないので塵紙を丸めて詰める止まれ鼻水
そんなもん飛び込まれても怖いしないくら水かて死ぬでせえへん
眠れずにナイフを探すうずたかい洗濯物の山の中から
夕空をあかあかと染めふるさとの見捨てられたる廃屋を焼く
墓に立つ五葉の松は我が父の怒りの如く繁りてありぬ
くろぐろと厚い背中ににじむ汗わたしは父になれずともよい
福井まで雷鳥五号の客はみな口を開いて眠りていたり
弟のいぬ食卓にその妻が渋茶をいれる固く微笑み
一番に風呂を上がりし妹の不機嫌な髪いじる指先
食卓の我らのもとへ隣家からゆでた間引き菜届けられたり
滔々と理屈を述べる暗い目の姉に流れる我と同じ血
本当にやはりだれかに引き継いで並大抵でないそりゃそうですよ
丸二日探してもまだ見つからぬ兄が残したはずの書き置き
腕組んであたしはそれを待ちたいよ寝たりはしない満たされたのち
お願いね忘れないでねこのままじゃ往生できぬさまよえる兄
隠された夢解凍し噛んでみる賞味期限は分からないまま
蚊柱の中に降り立つ汗臭い放蕩息子母を背負いて
角笛の音に目覚める夢を見てみ空に浮かぶ兄に告げたり
日に焼けた少女と並び東進す敗戦の日の記憶探しに
革命歌うたえぬ我と妹が駅前で弾くおもちゃのピアノ
暗闇をつんざき走る列車には母と姉との放心の顔
何のため何を求めて行きしかはあやふやなれど確かに行きぬ
雲間よりひかり射しこむ碧き野へ東を発ちしときは夕立ち
早く来て枝毛姉さん今夜こそナイフを持って出掛けたいから
遠い日の初めて咲いた朝顔のゆらゆらゆれてさめていく色
艶々と黒い毛の犬寝そべって歩道をふさぐ雨催いの朝
紫の木槿がひらく坂道を追いついてくる素足のミュール
八月の地軸傾き炎天に差し伸べる手に触れる空蝉
わたくしに何ができるか一人では回していけぬあの子が欲しい
暗闇に角を突き合いこの鹿やその鹿皮は食い破られぬ
持ち上げて端から崩し転がして尻から落とすうつろの胴は
うちがわににじみはじめる水蜜をちがうあなたと味わいたいよ
人気(ひとけ)ない枝下くぐれば真ん中に咲き出ずる梅忘却してて
思うことみえない壁をたたくことひとつひとつを迷わず捧げ
おしながらたいらにはこぶいきものの嫌悪を浴びてながれのはてへ
飲み干した事の余韻は翳もない時間を止めるお昼わたしは
夜を重ね言い訳だって口にせずいつか寝耳に甘めの音で
洗われて論理の針が線引きをいのちのはてに認めることに
起き上がり口にしたってゆがむ雲それでもあたし迷わず捧げ
水浸し跳んでころんだ気は途絶え鈍くて遅い来ない返事は
立ったまま二十四時間すすってたあたしは鹿の返事を待って
切ってきてあなたはいつも持ち上げるその鹿皮のよみがえる夏
鼻先であなたはあたしにひきずられだまって離れるはしりましょうね
背のうえにあふれるように載せたって受け入れ難い望み見えても
黙ってるあなたは差異を気にしない頭に載せて食い破られぬ
春の草しまわれて在る猿山の在ることはある差し替えられて
そこいらの茎をのぼって休ませる岩屋の蓋も向かいあわせる

by trentonrowley | 2008-08-31 23:59


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