暗黒星雲

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2018年 08月 13日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


いもうとが生まれた日だからじゃあまたね線香花火あしたしようね  多田なの


四本の足もつ犬は転ばない八十二歳の我は三本  熊野 温


社会からすこしづつ浮く僕たちがいつか月までゆくものがたり  宮本背水


ひたすらに妻が子を褒む足音のにぎやかなるを今日は褒めをり  益田克行


雪の降る地獄の河のほとりではあなたもきっとはだかでしょうね  田村穂隆


どきりとする困った時しか掛けてこぬ息子からの電話お母さんあのな  白波瀬弘子


病む部屋は三ッ葉ツツジに覆われて日永いちにち花と暮らしぬ  棚橋道子


入社時にハンマー振る訓練ありき「鉄は熱いうち打て」と煽られ  坪井睦彦


もう少し話していたいポロシャツの襟元ばかりみつめた日暮れ  増田美恵子


幾重にも皮に包まれ筍の先端にある伸びてゆくもの  入部英明



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-13 15:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 11日

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選


問い詰めて医師に二年と言わせしと友は悲しきことを話しぬ  加藤武朗


ふわふわと力なき身は気圧のせいと定めて何ひとつ手につかず過ぐ  小畑百合子


過ぎゆきのことと思いぬ思えども屋根裏にありしゴジラのポスター  数又みはる


ゆふぐれの陽ざしが廊下に長く伸びひかる埃よちかづく夏よ  山地あい子


枯れし花捨てられてゐる坂のうへ大きく白き月でてゐたり  杉本潤子


可動域ひろき葉桜闇を掻く死んだらなんであかんのと言ふ  穂積みづほ


あをむしの気分にさくさくキャベツ喰むサクサクと刻の移ろふ真昼  毛利さち子


銀の鈴ちりちり鳴りぬ鍵束を母の震へる手から受くれば  𠮷澤ゆう子


居眠りをしているひとに半分を残して酢ゆき夏みかん食ぶ  石井夢津子


手つかずの季節をそこにも光らせて鴨川は胸の奥をながれる  大森静佳



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-08-11 16:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 30日

「塔」七月号 月集 十首選

「塔」七月号 月集 十首選


花びらは肌に冷たし死を深く蔵して山はさくら咲き満つ  藤井マサミ


パンケーキ焼くごと時折りうら返し春の光に子の毛布干す  安藤純代


薬壜に星のひかりの溜る頃洩れ聴こえくる呪文のことば  岡部 史


しばらくを止まりていたる救急車だれかを乗せて走り去りたり  岡本幸緒


小綬鶏を咥へし猫がわれを見てたちまち昼の暗がりに消ゆ  苅谷君代


花に月これに恋あらば満点と思へば隣に妻がをるなり  小林信也


仁王像にも深く彫られて臍のありこの息子(こ)を叱る母ありぬべし  酒井久美子


老い母よりあやとりの川わたされて時間(とき)の流れを遡りゐる  佐々木千代


春はまたわが指の腹むず痒き季(とき)なり葉っぱがさわれさわれと  なみの亜子


もらひ火に燃えてしまひしと三叉路の赤い三角屋根の三木駅  久岡貴子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-30 18:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 28日

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選


夜の街を明るい方へと探しゆく帰りたいひとを帰さないため  山下裕美


どこにいてもすぐにわかると言われしに黄色のパーカー死出にも着てゆく  松塚みぎわ


否定語を使わずわれのあやまちを海を見ながら指摘するひと  白水ま衣


いかような暴言暴力振るおうと短歌(みじかうた)とう武器持つ母ぞ  滝 友梨香


「あした死ぬわけではないよ」泥の付く芋を頒けくれ癌病むひとは  野島光世


小声にて秘め事ひとつ聞かされぬ魚拓を壁に貼る店のなか  黒沢 梓


落ちながら飛ぶのも鳥でビルとビルの間の細き空を下降す  小林真代


めきめきと腕が上がつて週明けの会議のあとの工藤くんのコーヒー  西之原一貴


自転車のベルを聴くのは珍しいどうも私に鳴らしたやうだ  佐近田榮懿子


ながき長き滑走路でありたし大切なひとが旅立つまでの  澄田広枝




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-28 22:18 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 27日

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


あわよくば世界の終わりが僕たちの終わりになればいいなと思う  拝田啓佑


対岸に手を振る子ども池の辺はめぐりてかならず出会えるところ  森川たみ子


鹿を撃つをとこふたりを乗せてゐる軽四とまる山の脇道  山縣みさを


身ひとりの母の昼餉の煮麺が手つかず残る鍋にふやけて  岡田ゆり


チョコレートを溶かしてしまう煎餅はくずれてしまう春のかばんに  椛沢知世


草摘む子泣く子走る子春の野にひよこのように園児らは散る  髙鳥ふさ子


夏までは生きていようとする理由好きな作家の新刊が出る  松岡明香


桃色や白や黄色の花散りて当番なればゴミ置場掃く  宮脇 泉


耳元で鰻を食うかと尋ねれば父は微笑み呼吸止めたり  鈴木健示


雨になる気がするなんて言っていたあなたの肩に降り積もる花  吉原 真



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-27 22:57 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 26日

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選


木津川を電車渡れば目を上げぬ文明歌集を読みゐたる人  西山千鶴子


太陽をどこかで見たと思ひをりあれは昨夜の満月の影  浅野美紗子


雪解けの小さき流れは堰を越え激し弥生の川となりゆく  松井洋子


傘をささず人みな行けりわれのみは傘さしてゆく夕刻の土手  丸山順司


盛り上がるマグマのやうに色薄き森の若葉が風に蠢く  入部英明


大戸屋に16ビートのジャズ流れ「しまほつけ炭火焼定食」かがやき放つ  青馬ゆず


悲しみを連れ来る如く打ち寄せる実朝も観た伊豆の荒波  鈴木脩慧


だまされてみようかと思ふモノクロのフランス映画のやうな夕暮れ  福田恭子


「里美」とう名も記されありハンの木の巣箱に鳥さん来てねの後(あと)に  大出孝子


寄ってがっせ お茶飲んでがっせ アフタヌーン・ティへのお誘いが来る  ジャッシーいく子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-26 21:21 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 25日

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選


いななきて飼葉をねだる母の青毛馬(あお)母は逝きたり青毛馬を残して  山本龍二


「一人暮らしなので自炊はしないです」ああなんという強い順接  逢坂みずき


樟の木の葉擦れの音を聴くために坐るベンチがわたしにはある  山尾春美


細胞を広げるように高々と蹴り足伸ばす生徒まばゆし  伊地知樹里


かつぱうぎのははゆめにきぬ子供らは私の夢をみるのだらうか  川井典子


おほらかに恋ひたし恋ふることできず田楽の芋ひと串を食む  竹井佐知子


鉤裂きの尻の二ヶ所を繕われ作業ズボンのほこらしげなり  中村ヨネ子


鹿網の向うになりぬ私の蓬の摘み場摘みどきなれど  村尾淑蘭


夢のうち目覚めれば海の上にいて波の高さを推しはかりいる  池田行謙


学生に席を譲られしぶしぶと座る花冷えのひと日が暮れる  垣野俊一郎



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-25 19:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選


ぎすぎすと耳ざはりなす鵯の声何故ならむ今朝はいとしき  朝井一恵


オデッサの階段を落ちる乳母車乗っているのは赤ん坊の我  王生令子


いまはまだ泣けぬと踏ん張る母の目の奥に広がる青いみずうみ  小松 岬


不条理と理不尽の差は 春霞何も見えない海に漕ぎ出す  大橋春人


夭死せし弟にまみゆる心地すと連れには言はず、わたしの阿修羅  加藤和子


抱いた子に「きれいねえ」と呼びかけて桜を見つめる若き母あり  川合晴司


「母のため」と繰り返される度ごとになんだか違うものの見え来る  川述陽子


ブタ食えば体にしっぽが生えそうで焼肉の時はスカートはかず  北野中子


ご気分はいかにと問へば今朝はいささか優れませぬと鏡のわたし  田邊ひろみ


帰るまえ児らをぎゅうっと抱きしめる息子にはもうできない分も  中山惠子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-23 22:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選


ざっくりと真二つに切る春キャベツ芯に薄黄の花の生れおり  佐々木美由喜


われにながき慚愧はあれどふりながら雪の透きゆくうつくしき窓  千村久仁子


カーテンの丈の足りないガラスから朝陽がさして新しい日が  真間梅子


足場屋さん塗装屋さんに屋根屋さん床下さん来てわが家にぎはふ  𠮷田京子


スーパーのフードコートに陽の差してわれの居場所はここにもありぬ  木原樹庵


摘んできた蓬を茹でて水切れば指は緑に染まってしまう  西村清子


大縄を回すの止(や)めて父と子ら笑まいて待てり我の通る間  鈴木 緑


春なればと訪ねし店のシャッターに「しらす不漁」の貼り紙のあり  唐木よし子


のろのろと動きいたりし大みみず形よき輪となりて死にたり  川口秀晴


猪の防御の柵はこの里をひとまとめにしてくるりと閉じる  高原さやか




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-23 17:16 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 19日

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選


江ノ電に手を振る息子に振り返す匿名希望のたくさんのひと  竹田伊波礼


オリーブと葡萄、サフランどこまでもどこまでもアンダルシアは平ら  みぎて左手


せつなくて歩く銀座の路地裏に手の平サイズのゆうれいがいる  森永理恵


るるるって電話が鳴ってさみしいと岬の丘の伯母から電話  安倍光恵


どしゃぶりに色を消されてゆうるりと高原をゆく北しなの線  星野綾香


老いし姉ユメの町とうバス停の間近に一人杖つきてあり  宮内笑子


大きめのブレザーの袖にのぞく指きつちり揃ふ新中学生  八木由美子


しおり紐はさまれていたページには「も」の字の形のへこみがありぬ  松浦わか子


『三くだり半からはじめる古文書入門』振り向けばハナミズキ  川並二三子


亡骸を横たへしとふさながらに血のいろ滲む大理石板  高橋道子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-19 10:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 18日

「塔」七月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」七月号 花山多佳子選歌欄 十首選


ああ母よあのふくふくとした腕で我を抱きしめたることありや  谷口富美子


ごみ置き場に男三人立ち話帰りがおそいと窓より見れば  相本絢子


一本だけ煙草吸ひたし窓際の夕光(ゆふかげ)を透く煙を見たし  石松 佳


庭先のリラの萌黄と同色のカバーの掛かるランドセル通る  金田和子


朝の夢に亡くなりたる人やつて来てセロリをよき音立てて食みをり  河村壽仁


幸せの形をなぞる「おかあさん」「なあに」と歌う「あ」につく#(シャープ)  佐伯青香


息子等は母さんのことしか言わないと遺されし男(ひと)ポツリと呟く  榊 直子


春来れば普段使わぬ道曲がる木香薔薇の茂る家へと  津田純江


歌手が言う「君」を私に置き換える根拠などなく涙はつたう  濱本 凜


子どもらを背負いし頃を思い出す背中のザックは泣かないけれど  大森千里



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-18 14:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 12日

「塔」七月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」七月号 池本一郎選歌欄 十首選


オオカミの石の前脚あたたかしここからすべて見てゐたのだな  白石瑞紀


横笛を吹く子を見に来たといふ人と逢初(あいぞめ)橋から駅まで歩く  尾崎知子


花曇りのドライブにゆこうモクレンとコブシの区別つかぬ父と娘  穂積みづほ


罪びとのごとく女は顔覆ひ優先席に居眠りをせり  新谷休呆


施設から施設を廻るその人は長生きは辛いととくに夕暮れ  石井久美子


ゆずる気のなきわが前にベビー抱く人が立つなりレジ袋さげ  小島美智子


目の前に不安ばかりがぶら下がり枝垂れ桜は風に揺れゐる  澤井潤子


夫の背に追儺の豆の二つ三つ打ちて昨日の言(こと)ゆるすとす  仙田篤子


寂しさに北限ありやと問うてみる栗木さんの短歌に 一人居続けば  新田由美子


飛び込みの入水角度を褒められてプールの帰り見上げる桜  山西直子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-12 22:07 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 03日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


おほかたはのろひのことばみみもとでほめそやすこゑはことさらにして  真中朋久


時計屋のあまたの時計その中にいきなり反転する針なきや  三井 修


しょうがない行かんならんし行きますわと言う筈の言葉われらに残し  藤井マサミ


還り来ぬ人と思えど残しおく外出用の君の黒靴  青井せつ子


山かげに小さなお墓 巡礼の兄と同行妹とあり  稲垣保子 


ひとつずつ積み荷をおろしてゆくようなあなたの長い告白を聞く  岡本幸緒


その下に活断層ある山脈に春雲沸けり ま近くに住む  林 芳子


むかしをみな出家とふ身の処し方のありしを羨む足もと冷えて  万造寺ようこ


傍らに立てるナースは明らかに医師より固き表情をせる  村上和子


信貴山上ホテルにありし剥製の虎のまなこを思うことあり  山下 泉



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-07-03 22:57 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 29日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


使ひこし体の部品とり出して洗へぬものか冬の青空  青木朋子


擦れ違へばお先に通す営業の身の熟(こな)しいまだ夫は持ちて  鵜原咲子


慣性の法則証明するようにストーンは滑る零下の面を  杜野 泉


三月の日差し受けつつ縁側に手熨斗でたたむ紺の作業着  大城和子


桃の花ひらききりたり雛飾りかたづけられたる六畳の間に  天野和子


雪雲は阿武隈の上に生るるものと思ひてをりしが海にも生るる  大塚洋子


昼下がり老人あまた目に付くが皆われよりも足早にゆく  山崎一幸


とび色の栞ひものはし擦れぬようくるりと納める図書館の人  吉田淳美


若き母が春の小川に洗いおり田よりあがりしその泥の足  数又みはる


岩槻で父母に選ばれそのままにひいなは海を渡りて来たり  ダンバー悦子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-29 20:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 28日

「塔」六月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」六月号 真中朋久選歌欄 十首選


座蒲団に眠るみどり子卓の上にみかんと並び置かれてありぬ  久次米俊子


雪の夜の一歩一歩を辿りゆく長手のかなた姉の待ちおり  土肥朋子


東横線の座席に化粧するひとの紅筆はなかなか着地定まらず  井上政枝


木の陰のベンチに姉と妹が青き棗の実のやうに座す  清水良郎


如月に身罷り給えば君知らず弥生の空を花の香りを  中山悦子


明日こわす風呂の湯垢を流しおり仕舞湯の窓に雪らしきもの  邑岡多満恵


手袋にいがをいつぱいくつつけて牛蒡の種の黒きを採りぬ  山口泰子


神棚にまるき鏡は暮れてゐて夫は熊野の地に住まふなり  𠮷澤ゆう子


ささやかな秘密を知ったその夜は首に寝汗をかいて目覚める  片山楓子


死ののちを死者は生者のものとなり平手打ちした夜も明かさる  山下裕美



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-28 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 26日

「塔」六月号 松村正直選歌欄 十首選

「塔」六月号 松村正直選歌欄 十首選


春の雲気ままに流れおとめ座のスピカと今日も会えずに帰る  上杉憲一


思いきり窓を開いて仏壇の位牌にかがせる庭の沈丁花  大江いくの


順々に人形並べる父に聞くマトリョウシカを買いし日の母  隈元三枝子


どの墓も西を向きおり安達太良を丘の上から皆と眺むる  作田善宏


教えない。けれど聞かれたこともないスリーサイズと遠い約束  中井スピカ


隠れたが見つけにこない鬼をまつもうしちじゅうになった日の暮れ  中山大三


引出しにたまる小さなマッチ箱あの頃どこにもわくわくのありき  藤田幸子


電車待つホームに黒き輪ゴム落ち髪を束(つか)ねし妹の背おもう  村﨑 京


おかあさんの好きな高安と夫が言ふおかあさんであるわれを差し置き  森永絹子


三姉妹はその母呼ぶとき何(いづ)れの子も夢見るやうに「おかあさん」と言ふ  髙野 岬




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-26 20:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 22日

「塔」六月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」六月号 池本一郎選歌欄 十首選


橙の二両電車が海猫の声押し開き来る八戸線は  星野綾香


道路覆う煙抜ければややおいて車内に漂う野焼きのにおい  佐々木美由喜


あの角の木蓮咲いたら春本番わたしを連れだす口実にして  赤嶺こころ


駅前の自販機下のすき間からさらさらとあふれるさくらばな  うにがわえりも


春告げる菜の花色の声をした少女の群れとすれ違いたり  かがみゆみ


をんをんとまつ直ぐ天へ嗚咽するをさなご羨(とも)し雑踏の駅  水越和恵


眼鏡って外さなければぶつかるのね 知らなかったわ大人なのにね  山岸類子


春先の女のからだの気だるさを騙しだまして靴買ひに行く  祐德美惠子


瀬田川のいろ春めけり 墓所の風いまだ冷めたき裳の裾あふる  長谷仁子


をれまがる釘も覗けりトラックの荷の廃材にきさらぎの雨  篠野 京



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-22 20:23 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 22日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選


嫁にゆく子に持たせんと作られし藁の雪ぐつ目のそろいおり  松浦わか子


乳を欲る小さき舌のかたちして凍て土を割るチューリップの芽  多田眞理子


水のないところに水の音がしてクリスマスローズしずかに芽吹く  福西直美


母の背に負われ覗きし洗濯の盥の水が記憶のはじめ  坂下俊郎


墓石屋の勧誘電話はさはやかに「ご準備はもうお済みですか」と  加藤傳治


ひとさじの味噌に練り込む柚子の汁ほのかに香り分葱を和へる  進藤サダ子


命あるものらアイスを珈琲を口にし待てり姑(はは)焼かれゐる  竹尾由美子


雪渓の辺に咲くミヤマウスユキソウの風ともなひて厨辺に立つ  山尾春美


六十年立ち続けたる裸婦像の幼き顔に豊かなししむら  堺 礼子


目と目あう以前に戻り黒牛はにれがみわれはやや屈み行く  川口秀晴



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-22 14:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 21日

「塔」六月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選

「塔」六月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選


買いたての詩集を逆から読むようなうしろめたさを持ち会いに行く  真栄城玄太


恋みくじの大吉に頬緩ませて娘はバックにそつと仕舞ひぬ  河上久子


お迎へを待つ保育所の児のやうだ父は一張羅の帽子かぶりて  栗栖優子


この冬は二度とこないと思うとき青空にめじろきゅるきゅると鳴く  森川たみ子


スカートの裾を握って真夜中に両足で立つ人魚みたいに  中森 舞


もしパパが死んで線香上げるならこのピストルのライター使へ  本田 葵


未勝利馬いつまでも勝ちを知らぬまま走りを終へてゆくも美し  宮本背水


大丈夫?ではなく摘んだ花の名を父に聞くのが見舞いの言葉  若月カコ


庭に咲く紅き花蘇芳(はなずおう)一枝を墓に供える母の日の夕  髙鳥ふさ子


痛みにはハグが効くらしてきめんの寝る前五分をためしてもらふ  山縣みさを



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-21 10:50 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 20日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選


空を蹴り空を殴っている吾子を妻と眺めて夕餉始まる  岡本 潤


雨宿りしている男の午後9時の水中眼鏡みたいな眼鏡  吉岡昌俊


泣いているふりをしてたらほんとうに悲しくなった丸ノ内線  増田美恵子


家なくば路地といふものおのづから姿を消して風が吹くのみ  浅野美紗子


ぼくを待ち続けているきみしかいない信用金庫前のドトール 多田なの


冷え冷えと二階の障子に影射して無人の家の弥生夕暮れ  児嶋きよみ


母様のくしげの色のゆふぐれぞ湖にむかひてあしの笛ふく  竹内真実子


「うっとりと見惚れてしまうと彼言うの」ますます見事な臨月の腹  宮本 華


ぬひ針の「金耳三ノ三」これひとつ使ひ続けてこと足りて来し  西内絹枝


黒ネクタイを引き抜き厨の明るみに甘めのコーヒー両手で包む  永久保英敏



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-20 15:44 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 18日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


まどかなる春の訪れ太腿に小さきほくろをひとつ見つける  魚谷真梨子


いつかしら魔法の力を失って自分にかけた呪いがとけぬ  王生令子


春の夜に遊行するねこ移ろいて唱和する声遠離りゆく  岡崎五郎


川沿いをずっと行くバス帰ったら何もしないと決めて家へと  川上まなみ


物語がちょうど佳境というときになんでお腹がグーと鳴るのか  北山順子


峪の湯はもつたいなくも我ひとりゆらりゆらりと手足がのびる  河野純子


隣合う畑に人の影あれば言葉はなくも力となれり  古栗絹江


三月のゴミ集積所に捨てられていし束ねたる入試参考書  中村美優


ルーティンは崩さぬと言ひ入院の前の晩にもピアノをさらふ  安永 明


「さくら餅が待つてゐます」のメールみて急ぎて向かふ循環バスで  唐木よし子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-18 20:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 18日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


諍いのあとにも朝はやってきて壁に伝言ボードの空白  紫野 春


今、菊に囲まれ眠っている人はわたしの母さんだったかもしれず  逢坂みずき


冷えた脚そろへてけふも並ぶらむ家族の数のふるさとの椅子  岡部かずみ


手びねりで作りし花卉にたつぷりと赤きひとへの椿を活ける  千葉なおみ


墓石に弥生の水をすべらせるまだ寒いかとつぶやきながら  高原さやか


集会の椅子を選びて座りをれば見えぬ序列のできあがりゐつ  庄野美千代


耳元に幼き秘密囁いた糸電話です姉も九十歳  松浦 哲


風邪癒えてやつと朝餉にありつけば梅浮かびたる粥のくれなゐ  藤原明朗


木蓮と辛夷の違い聞いているオープンテラスはまだまだ寒い  小澤京子


「見ますか」とビニール袋を差し出せり手術室より出で来て医師は  栗山洋子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-06-18 10:17 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 30日

「塔」五月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」五月号 花山多佳子選歌欄 十首選


バスが来ない生活に慣れ下ばかりむいて歩くことにも慣れてしまひき  西村玲美


カーテンの縦の裂け目を隠さむと洗濯挟みで二か所留め置く  柳田主於美


桟橋より見る雨の乗馬クラブには帽子のごとくしずかなる馬  白水ま衣


夜のバスに座る人らの右頬を照らして赤色灯は過ぎゆく  伊東 文


どうぞという声が聞こえて渡りゆくひんやりとした土間の向こうへ  宇梶晶子


斜め前の女の妙に長き首なおも伸ばして高座に見入る  金田光世


わたしには残しておきたいものはない帽子も傘も青いコートも  國森久美子


このビルで誰が正規か非正規か女子会ランチで自ずと知れり  小山美保子


父母の手を恋ふる日あるを知らざりき走り書きさへ手元になくて  竹下文子


また同じ夢に迷えり朝の灯とも夕べの灯ともみえる家路に  数又みはる



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-30 20:32 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 28日

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


珍しく足のゆびゆびの間から地球が見える ほんとはいつでも  小西白今日


光る石埋めたあたりか新緑の校庭すみに野あざみの咲く  宮脇 泉


まだ君を抱きしめている感覚に抱きしめられていて眠れない  拝田啓佑


幾何かほてり残してそろそろと幾何学模様のスカートを穿く  中森 舞


今日うまく眉を描けしことなどをあなたは小枝を拾ひつつ聞く  大堀 茜


雪降つてパンが消えたるパンの棚三月うさぎ走らせておけ  森尾みづな


骨だけの傘が河原に捨てられて春まだ寒き堰に白鷺  三木紀幸


限界を超えよ超えよと口角が上がり続けて口裂け女  とわさき芽ぐみ


ここからは徒歩でゆくべし左手の杖をかざして男は言ひつ  山縣みさを


島ひとつ違うのみにて一日を話す機会のつかめぬ火曜  吉原 真



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-28 21:03 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 26日

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選


ひかえめな夕焼けのようにはにかんで笑うあなたの母になりたい  高松紗都子


おとなしい少年でありきわたくしはアリジゴクに蟻おとすことありき  宗形 光


和箪笥をのけると壁にカシニョール展のポスター貼られありたり  松浦わか子


恋猫がアオアオと鳴き今だけはアオちやんと呼ばれ遠ざかりゆく  浅野美紗子


スカアトをひろげ椿のくれなゐの花拾いゆく布たゆむまで  新井啓子


おのおののハンドクリームの香り満つ午後の仕事が始まる前の  和田かな子


我の名を呼ばれた気がして立ち止まる芙蓉の花咲く墓地は青空  小林千代


観るに見る視るに診る看るわたくしが母をみるのはいずれにあらむ  坂下俊郎


人と会うことの疲れがしたたりて重力に引かれるように眠りぬ  山川仁帆


まだ眠たい水曜の朝勝手に寝坊してよい日と決めてあと五分寝る  春澄ちえ



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-26 15:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 24日

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選


ばんざいの形のままに受けとりてをのこの臍が丸見えとなる  竹内真実子


テヘランを去る日路上に痩せこけし子猫のおりぬ真白き子猫  秋野道子


機織(はたお)りの音しか聞こえぬ道を抜け間人(たいざ)の浜に文を燃やせり  岡部由紀子


後輩は丸いほっぺを光らせて産休という木立に消える  中井スピカ


びわのような人だと思い見つめおりうぶ毛のよろいは傷つきやすし  中山惠子


三日月の凍えて空に貼り付きぬ朝刊はすでに配達されおり  ひじり純子


助手席の人と話は弾まざり送ると言ひし口が乾きぬ  益田克行


賑わいを縫いて小路にさしかかりそっと触れたる手袋の指  森 雪子


結び方を知らないからねネクタイをほどく指に責任はない  山岸類子


すっぴんにメガネをかけてマスクして最近ほしいものは印泥  山名聡美



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-24 16:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 22日

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選


他動詞のぬらすといふことゆびさきは椿の雪をそうつとはらふ  千村久仁子


よく眠れる枕売らるるその横で紙コップのココア飲み干す  朝日みさ


ヒヤシンスの匂いのせいだ 言い訳を重ねてしまう夜半(よわ)のリビング  石橋泰奈


あの蟹を食べられなかったと今日もまた繰り言をいう楽しみがある  岡崎五郎


鹿のつのに触れてゐたのはそれぞれに隠しごとをもちよつたひとたち  小田桐 夕


偶数でも奇数でもないゼロのようにあなたは敵でも味方でもない  北山順子


「もしもし」といふだけで切れしがその声は生前の友ありありとして  河野純子


手品(マジック)が趣味だと云うてゐし旧友のとある日ねずみ講に誘ひ来(く)  篠野 京


モロゾフのショコラ一箱君に買う君が生きてる振りをして買う  ジャッシーいく子


むらさきのトレッキングシューズ置かれたる玄関に差す日暮れのひかり  松原あけみ



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-22 20:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 20日

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選


鷗らが空に漂ふ次々と身を疾風に放つた者たち  髙野 岬


いまもなほ家族の数の椅子を置きその空席に時をり掛ける  西山千鶴子


他人にはどうでもいいことなれど明日われは散髪をしに行く予定  丸山順司


宅配の箱を開ければ山菜のわきに蝋梅ひと枝香る  佐藤涼子


出征を見送る汽車の窓に寄りおみやげ頼みし三才の吾  梅下芙美惠


突然のはしり雨受けビルの壁に張りつきてわれ静物画となる  古屋冴子


金沢の雪のにおいの付箋です手紙に貼りてあなたのもとへ  堀口 岬


水底に白いターバンの女ゐて忘れないでとあれは誰だらう  祐德美惠子


あけがたの夢に目覚めぬ逢ふことのもうない人のふらりあらはれし  竹尾由美子


「誰とでも話せるようになりたいです」その絵馬の前を去り難くおり  垣野俊一郎



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-20 22:18 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 18日

「塔」五月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」五月号 真中朋久選歌欄 十首選


弊社には様式あらずグーグルに「退職届 書き方」と聞く  逢坂みずき


いきなりに両の指にて輪をつくる何事をかを教へむがため  村上 明


勝利者にはなし聞くとき「放送席、放送席」となぜ二回呼ぶ  田村龍平


歩道へと足のさきより降りてきて鳥はみずからの影にいたれり  中田明子


オリオンもシリウスもいつもどおりなり月のみ赤く欠けいるこの夜  山下美和子


すべり落つる刹那にとまる技をみせ緑葉の先にしずくの光る  市居よね子


さびしいかいつて聞くから淋しくなる夕べ父と並びてあふぐ夕焼け  臼井 均


黒皮の手袋はいつも右ばかりなくして残るを箪笥にしまう  高橋あや子


約束はときにだれかを傷つける私はわたしの森へと歩く  増田美恵子


煮る沸かす洗つて回す他動詞を使ひすぎたかヒューズが飛びぬ  伊藤京子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-18 19:12 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 16日

「塔」五月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」五月号 栗木京子選歌欄 十首選


靴音がわたしのあとをついてくる観る人のなき素描展示室  岡部かずみ


しろがねのナイフのやうな愛なども知らず越の国にて果てむ  山下好美


芽吹きだろうか 手袋の中まどろんだ深爪がそのかたちに痛む  加瀬はる


薄雲が空を透かしている午後の誰かに伝えたいだいじょうぶ  紫野 春


夜半に目覚め己が来し方思うなりエッシャーの絵に迷い入るごと  鎌田一郎


穴を出てブツブツ呪詛の泡を吐く大潮の夜は蟹になりたし  王生令子


溺れたら悪いとわかるならもっと強い力でやめさせてほしい  丘村奈央子


ほおたるは昆虫ですかと妻が問う雪が降るから寝てしまいたり  中山大三


かなちゃんを預けていこうと言う五歳そうすりゃなんでもはやくできるよ  矢澤麻子


「はくちょうはくちばしの先から沈むよ」と凍て空の星を子らに指さす  上杉憲一



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-05-16 20:07 | 十首選 | Comments(0)