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暗黒星雲

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2019年 09月 03日

「塔」八月号 月集 十首選

「塔」八月号 月集 十首選


矢車草のももいろの花青き花ゆめのごとしも沼のほとりに  花山多佳子


吹降りの雨にまじりてちりちりと春の鳥鳴く夜の明けるころ  小林幸子


夜の明けに古時計のごと鳩の声シロツメクサのあまねく起きつ  なみの亜子


薄明を裂きて一番に飛ぶつばめよろこびの白き胸を反らせり  藤井マサミ


父と母たづねてこぬか星の夜を家族のソックスかわく軒端に  大橋智恵子


若妻のあはれなる死も目守りたる桜樹伐られつ隣の家に  後藤悦良


釦屋にぼたん選びしときありぬ人待つよろこび知り初めし頃  鮫島浩子


夜を走る飛脚のやうに定刻をはしる電車を遠く聞きをり  谷口純子


高瀬川沿ひのさくらの咲き初めに連れ立つことはつひになかりき  万造寺ようこ


死は望みとは言はざるが靜かなる響きのありぬ胸の底には  山下昭榮



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-09-03 15:29 | 十首選 | Comments(0)
2019年 09月 02日

「塔」八月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」八月号 小林信也選歌欄 十首選


桂にて落ち合ひたるはいつの春浅葱のコートに手を振りくれき  竹下文子


旅先に路地みつけては入りゆく娘はしなやかな猫のやうにも  藤木直子


音たてずそれぞれの部屋に過ごしいる家族の気配がこの家に満つ  矢澤麻子


靴紐を昼の電車に結ぶときもろとも傾ぐ春のひかりと  立川目陽子


歩数計持ち歩かねば歩いてもつまらんねえと言いつつ歩く  土肥朋子


半分は聞こえぬ電話にどうとでもとれる返事をたまに挟みぬ  穂積みづほ


水茄子に添へたる箸の涼しかり窓より遠く富士山の見ゆ  筑井悦子


山吹の金色(きん)の風中バギー押すわたしはいつの世のわたしなる  大河原陽子


いつの間にか夜明けは来たりもう少しうすむらさきのねむりがほしい  黒沢 梓


早苗とか佳苗という名の友達が教室にいた昭和のころは  山西直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-09-02 17:17 | 十首選 | Comments(0)
2019年 09月 01日

「塔」八月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」八月号 山下泉選歌欄 十首選


白菖蒲 母から娘に変更す吾の保険金受取人を  沼尻つた子


「睡蓮」の硝子に映るわれの影離れれば暗き淵にたたずむ  伊東 文


多摩川の流れにしばし目をおきて父の近況母より聞きぬ  徳重龍弥


天皇の左にいつも添う人を名をもて呼びて親しみて来し  橋本成子


和箪笥に母の着物の遺されて藤や桔梗や竜胆の色  青木朋子


浅瀬より戻りし脚の冷たさを拭ってやれば小石くれたり  西川啓子


いち早く運転席の真後に立つこと嬉し子供のように  西本照代


愛しすぎた方が負けなのが恋ならば負け続けていたかったあなたの森に  吉田淳美


ゆく径に灰色の羽根をひろひたり図書館まではゆるやかな坂  杉本潤子


最たるはプロサーファーか数多くわれに向かざる職はあれども  益田克行



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-09-01 20:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 31日

「塔」八月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」八月号 なみの亜子選歌欄 十首選


鴨川の向かう岸なほ暮れのこり金管楽器きらめきにけり  篠野 京


山つつじ咲ける里山陽のぬくくふとき蕨にわらひ込み上ぐ  加藤和子


一度きりと思へば一度を会ひにゆく石山駅ゆバスにゆられて  白石瑞紀


友ねむる霊園を地図に辿りゆく新居を訪いしかの日のように  天野和子


自尊心むくむくかかへてわたしには延齢草の咲くむらがあり  國森久美子


春時雨校舎を濡らしすぎゆきて輪郭確かなゆふぐれとなる  坂根美知子


重なれる裸体のごとし昇る日の顕(あらは)にしゆく砂のうねりは  仙田篤子


追分けの道にタンポポ夕暮れて右は越後路左は木曽路  古林保子


灰色の海まへにして立つときに頭(づ)にあるといふ野に雨がふる  髙野 岬


乗り換えて幾度か逢いにゆきたりきつかのまにして五反田を過ぐ  橋本英憲



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-31 16:04 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 30日

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選


錆びた血の匂ひ流るる洗面台夜になりたいやさしい夜に  大江美典


泣きたくて泣いてみたけどさみどりの五月は我を慰めもせず  佐伯青香


クロールで息継ぎするときふと見えるあちらの世界にいってはならぬ  王生令子


春キャベツ緑の外葉を剥がすとき桜の花びら数枚抱く  伊藤芙沙子


片目閉じ睫毛に止まる花びらを払うあなたの白き指先  小林千代


けふ友の持ちこし水仙の花の香に目覚めて夜更熱き茶を飲む  中西よ於こ


暗き夜は望むべくなく戸を閉めてカーテン閉めて闇夜を作る  西村清子


抗いがしだいに弱りちぎれずに雑草の抜ける感触が好き  水田米造


菜の花のごとく明るくふるまって年度当初をしのいでおりぬ  垣野俊一郎


茱萸(ぐみ)の実を姉と競いて摘みし生家 ないものばかり夢に出てくる  佐々木美由喜



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-30 21:52 | 十首選 | Comments(3)
2019年 08月 29日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


発熱の子どもを負うて戻り来つ妙にレトロな負(おぶ)ひ紐にて  森尾みづな


立ち上がりうつむく男は十九年一緒に過ごした猫の死を言う  高原さやか


水張り田の蛙なく季また巡り十八年のプールに通う  鯵本ミツ子


吹き抜ける風に手帳ははためいて飛べなくたってペンギンも鳥  近江 瞬


入院の母のパジャマに洗剤のかをりほんのり残りてかなし  木村珊瑚


春耕の進まぬ田畑を見下ろして高速バス行く下弦の昼月  小林多津子


言ひ訳に小のうどんをオーダーす夏のデニムが腹にくひこむ  佐光春信


迷うなら楽しい方を選びたいふわトロ卵にスプーンを入れる  中野敦子


少しづつ世界が広くなつてきた大盛とおかはりはしないさう決めてから  林 龍三


縁談をことわりし日のホーホケキョ婚活仲間は庭の木にいて  淵脇千絵



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-29 15:49 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 28日

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選


夕焼けを肺の奥処に吸い込みて吐ききりしとき街は暮れたり  永久保英敏


はつ夏の男の人の肩あたり猫の赤ちゃんみたいなにおい  山名聡美


分析のできない思いは澱となり上澄みだけが揺れているなり  黒木浩子


遅滞なく吾をゆかしめよ底しれぬ暗闇にただ耐へてゐたりし  一文授可修


義経の斬首の頭より軽からうキャベツひとつのレジ袋なら  北島邦夫


藤色に染めし着物に亡き母の亀甲の帯締め初夏の街行く  森川厚子


をりをりの庭の花もち訪へば自在に活けて母喜びき  𠮷田京子


とこしえの眠りはいずれくるものをひと夜のために眠剤を飲む  西村美智子


笑ふことも大切なりと教へられき君の栗色の長髪の美(は)し  柴田匡志


麦秋の禾の先まで燃え渡る風のかたちに波打ちながら  山本建男



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-28 21:37 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 27日

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選


ゆるき坂登りつつ見る夕茜ひとりの部屋にいま満てるかも  森川たみ子


姉が切りふたりで餡を入れ丸む今年は子らの来ぬ蓬餅  川井典子


それからは親友となる赤色の折り畳み傘貸しくれたる人  髙山葉月


開いたらコバルトブルーの傘でした 海底をゆくような日曜  伊地知樹理


むらさきの悲しい雨も降るだろう地球のどこかジャカランダ咲き  川俣水雪


掘りたてのタケノコ置いて軽トラで立ち去り際に「すぐ湯がいてね」  木島良子


線路際に茫然と立つ母の辺に幼き我はただ立つてゐき  鈴木美代子


朝な朝な生駒の山を遠く見き妻を解かるる日を思はずき  西山千鶴子


抗わず流されもせず黒布のように鯉おり浅き川底  福西直美


姫沼の化身のごとくひっそりと杜若白く咲きて匂えり  山内恵子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-27 17:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 27日

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選


踏切の向こうに立ちいるリクルートスーツの脛のいとどまぶしき  宗形 光


サンバイザー降ろして車を停めたあとバニティミラーで化粧する妻  久保まり子


蛇口よりあふるる水のつつがなし病み人置きて帰りきし手に  三上糸志


助走が必要だから逃げ出せない フラミンゴ舎にぎゆつとフラミンゴ  森永絹子


寡黙なるひとの怒りのごとき髭 パン屑付くをつひに言へざり  栗山洋子


工事現場を通れば生き生きと現場監督時代の話をする義父は  奥山ひろ美


アイシャドウ伸ばした指をそのままにこの指とまれのきらきらまみれ  椛沢知世


花びらのやうにも見えて春風に羽を持たざるものが飛び交ふ  高橋ひろ子


君はもう夏の横顔いつだってわたしばかりが戸惑っている  魚谷真梨子


バルコニーに花を植えれば小鳥来て花見て我見て飛び去っていく  藤江ヴィンター公子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-27 14:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 24日

「塔」八月号若葉集(永田淳選) 十首選

「塔」八月号若葉集(永田淳選) 十首選


樹のごとくただ立っているこのひとは凭れても叩いてもただ立っている  亀海夏子


夜八時また来るという広き背が病室の白き扉に消えて  大江裕子


ヨーロッパ旅行に出たる父母のこの世にあらざるごとき十日間  松本志李


好きな国はイギリスといふ心情の古層に化石〈キチクベイエイ〉  足立信之


胸開き癌を削ぎたる母が子に鯛の身はがす五月の節句  井龍哲朗


もしもだが彼女と結婚していたら家族に増えた果物の名前  内田裕一


おそろいのシャープペンシル君はもう使ってないかな使ってるかな  若紫音佳


私から黙って三歩後ずさりそのシャツ良いよと褒めくるる夫  大和田ももこ


ひまわりのアンダルシアは行けぬ場所はたけの隅に向日葵を蒔く  長岡真奈美


国宝の絵巻を修理する人ら木綿の白いシャツ着てみんな  大井亜希



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-24 15:58 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 23日

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」八月号 江戸雪選歌欄 十首選


花園が踏み荒されていくやうに起案せし文書に手が入りゆく  加茂直樹


ふたり子のために二枚を取り置きぬピンと張りたる二千円札  ぱいんぐりん


生け垣の剪定手伝う娘らに御近所さんの声かけ多し  白 梅


はつ夏の退職票にホルモンと泡を愛する人の名見ゆる  大堀 茜


見えなくて不安な夜を過ごしてるあなたの声が見えない今日は  希屋の浦


「そのへんに出しておいて」とひとはいう車椅子なる己が躰を  海野久美


寝転べば目の高さなる獅子唐の苗につぼみの八個つきたり  阪口和子


憎しみを力に変へし時去りて青空にただ吸ひ込まれたり  峠 秋太郎


ながびきてゐるらむきつとお訣れが蒼きドームの十字架見上ぐ  久川康子


カーテンが風にふくらみ帆となりぬけふをさいごにしようと決めた  小田桐 夕



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-23 16:01 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 04日

「塔」七月号 月集 十首選

「塔」七月号 月集 十首選


生えた木を抜いた頭のそのあとに水たまりゐる心地す今朝は  花山多佳子


首すぢに月のひかりが射してをり土御門邸のあとに睡れば  小林幸子


定型の馬に越えゆく人おもう朝川わたる影白くして  山下 泉


ムク鳥の並ぶ電線の下にある小さきパスタ店店を閉じたり  藤井マサミ


なかなかに撞木は鐘に届かざり 湖(うみ)に音(ね)を待つ母の居りたる  上杉和子


遠き日の乙女らの唇(くち)を茶店なる鶯餅は黙らせてをり  上田善朗


「お母さんは少しぼんやりしてるから」子等は気遣うこれからのこと  沢田麻佐子


街灯の点りたるとき白白と夜桜となる一樹しずけし  藤江嘉子


あの麓にゐると見さだめ通ひにし生駒の山並み陽にかすみをり  万造寺ようこ


新人さんと呼ばれし春をかろがろとヒールでこなしたラジオ体操  山下裕美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-04 15:55 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 02日

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選


なつかしき声あるごとしどの秋に埋めたるものかヒヤシンス咲く  竹下文子


くれなゐのはつかにほへる並木なり大津疏水に沿ふ桜花  藤木直子


ぎこちなく二人三人連れ立って一年生がゴミ捨てに来る  芦田美香


校舎裏の高校生のように鴨 初春の橋の下に五羽いる  上澄 眠


ラーゲルの白き夜より戻り来し叔父は好みぬどくだみの花  大久保 明


水底の魚のやうだとおもへる日空をながめて深く息吸ふ  加藤和子


ぽつねんとプールの端にこしかける若くはない足ばちやばちやさせて  國森久美子


朝刊を買いにゆくときだけわれは足取り軽く歩いてゆける  山崎一幸


死にゆくは死の勢ひに乗ることかそと手放しぬ母の笹舟  祐德美惠子


春の風 電話の向こうのキッチンに土筆煮る娘の浮かびくるなり  萩尾マリ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-02 22:14 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 01日

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選


足早にあなただったか濃きスーツ入りゆき扉ひったり閉まる  村瀬美代子


越ゆるべき野を持たざりき少女期のわれの好みし群青の服  金田光世


蝋梅の香れる部屋で君を待つずっと昔から待ってたように  石井久美子


おもむろに実はねと言ふその先の言葉またずに少し身をひく  大島りえ子


畳縁(へり)なきこの家の暮れ遅き 右足より入る習慣失せる  工藤博子


悔恨は消え去りゆかず春の夜の水の鏡に咲ける白木蓮(はくれん)  谷口公一


ほろにがき小鮎の飴煮の作り方教えてくるる人もあらざり  永田聖子


掃除用グッズ購い掃除した気分になりて午後を過ごしぬ  松浦わか子


送電線を電気の渡り来るさまが見ゆる気がする夜明け前には  杜野 泉


皮を剥けばしろきりんごのあらわれて「勝ち負けじゃない」は勝者のことば  朝井さとる


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-08-01 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 31日

「塔」七月号若葉集(江戸雪選) 十首選

「塔」七月号若葉集(江戸雪選) 十首選


散る花の名を問ひたきに人もゐずひとひらひろふ春のかたみに  大江裕子


葬列のあとに鳥らは群れあそぶそこに紅椿白椿  髙田獄舎


わが胸に獅子のパティオあり夕暮は背きたる人の血のごと赤し  相野優子


海賊の頭みたいな店員が勧めてくれし紅葉購う  大和田ももこ


虹なんか出たらいいよね傘ひとつ閉じて二人の雨上がり  小川さこ


雨の日は針もつ母のかたへにて雨音ききつつ指先見てゐし  中村みどり


やわらかな爪を撫でおり昨日までエコー画像に映りたる子の  松本志李


作品の撤収終えし壁面に2センチ程に光るセロテープ  山田精子


人の居ぬ家に戻るといふことの意味など問はじ 百合を買ひくる  足立信之


あたらしい遊具をひとつ考える課題みたいな毎日がいい  長谷川 麟



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-31 22:33 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 31日

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選


竜骨を休ませ冬を陸(をか)にある船ならずとも待つは海明け  三上糸志


すき焼きの七輪囲みし日のありき母に代わりて勘定講に  白井陽子


一斉にさくら散りゆく本心を話したことがあつただらうか  永山凌平


鳥影が一瞬ひかりをさえぎりて眠るあなたに影おとしたり  黒木浩子


僕はまだ行き先すらも決められずT字路に長くブレーキを踏む  近江 瞬


墓誌の端に姉の名ひとつ古びをり山の傾りに桜の咲けり  竹尾由美子


真夜中に階段下り来る子の一歩一歩を聞きおり外は雨らし  鎌田一郎


医者曰く傷の治りの遅いのは年のせいです すべてそうです  弟子丸直美


てしてしとジョギングしてるおばさんを我は歩いて抜きさりにけり  中西寒天


息継ぎを忘れ泳いだあの夏に流行った歌がカーラジオから  王生令子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-31 19:48 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 27日

「塔」七月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」七月号 真中朋久選歌欄 十首選


想い出だけじゃおなかがすくわと歌いつつおなかがすいていたのに気づく  かがみゆみ


船釣りの釣果は船長の腕次第人の良さでは魚は呼べぬ  新城研雄


夕光のなかに花満つ ぼんぼりのやうに立ちたる白木蓮の  長谷仁子


白雲がすっかり退(の)きて半月が花びらのごと青空にあり  金田和子


黄昏の高速バスより見上げたりマンションに明かりが灯りゆくさま  仁科美保


帰り道出会ひし人に問はれたり痩せた狸が来なかつたかと  八木由美子


録音をいたしますといふこゑ流る妹の家に電話かければ  千葉なおみ


沈丁花の植え込みがある玄関の闇の重さは香りの重さ  高橋ひろ子


時代劇ばかり見ている夫といて江戸時代となる脳内はほぼ  海野久美


なけなしの時の結晶もちさった私の心をおいてったまま  田中しのぶ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-27 16:32 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 26日

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選


必要とされたい あすも朝七時の電車に乗ってしまうのだろう  垣野俊一郎


いつから休むか聞く人もいる ご懐妊おめでとうって言うより前に  佐藤涼子


かくる者の都合のみにてかけらるる電話の野蛮 銃に似てゐる  清原はるか


差掛けの将棋の盤を蹴散らかすごとくに彼は死に急ぎたり  小川節三


うっすらと透ける苺に声かけるように食みたり臨月の娘は  石川えりか


目の前の女の深いため息が山手線に澱んでいたり  川並二三子


ゴキブリを天とう虫と呼んでみるやっぱりダメだ見た目が違う  北野中子


子もわれもほんとのことは言はぬままぬるいスープを匙に掬へり  𠮷田京子


その日までひとまずねばる旗として賞味期限の遠い牛乳  小松 岬


鯉の見ゆる川まで妻の添いくるる試歩にてカープコースと呼べり  荒堀治雄



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-26 21:36 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 25日

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」七月号 なみの亜子選歌欄 十首選


昼たけて雨あし激しくなりゆくを身を細くして傘のうちにゐる  赤井稚加


君と海を見ることはない君はもう海なのだから風つよく吹く  魚谷真梨子


ロボットの歯ぎしりのやうな音聞こゆMRI検査室より  久川康子


ズボン履き遍路に行くが晩年の夢なりし母丸亀育ち  いとう 琳


「徘徊」と言い置き夫の出かけ行く桜咲く道一周りせむと  倉成悦子


書いている自分と話している自分は全然違うという人  杉田菜穂


病人をしてゐる午後のむかうがは刈られる草に鎌のにほひす  東 勝臣


海の見える席に座れず半島の北へ北へとバスに揺られる  山下好美


『皮羊かん』竹のかはより剥がすとき皺のあまたを引き連れてくる  岡部かずみ


門扉やや左右にずれて軋み鳴るまるで訃音を拒否するように  芳仲成和



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-25 21:57 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 23日

「塔」七月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下泉選歌欄 十首選


お祓いをしてこいと言う店長のかすかに白いもみあげを見る  大橋春人


君のその眉毛の角度が好きなんです空へとのびる末広がりが  太田愛葉


始まりに終わりの混ざる三月のミルクセーキをそっと飲み干す  杉原諒美


どこかへとただ行きたくてひとり旅多くを決めず乗車券買ふ  浅野美紗子


この余白いいねと言ひたる亡き母の目線になりて画展巡れり  今村美智子


スプリングコートの胸をぎゆつと抱き四月二日の階段上る  岡部由紀子


三月の終わりに失くした傘のこと 降りた電車にもう戻れない  紫野 春


椋鳥の親子が庭に立ち寄りて草にかくれてついばみており  髙木昌代


バックネットの上にようやく辿り着き空つかまんと揺れる葛の葉  よしの公一


業務命令納得出来ぬと言ひしひと写真となりてわれにほほゑむ  安永 明



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-23 20:24 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 20日

「塔」七月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林信也選歌欄 十首選


ひとつだけシロバナリウキウコスミレの花咲くここが春の入り口  山尾春美


六年はわれの六年でもありて通園鞄の黄色をなでる  吉田 典


腑におちぬメールの中身を反芻し花の夕べは冷えてゆくなり  小谷栄子


Uターンを選びたる子はおさならをたんぽぽの咲く田に放ちおり  赤田文女


春までにキャベツの種を蒔くことが冬の末から気がかりのこと  高原さやか


くしゃみとは時速一六〇キロあるという寂しさ飛ばせ独りくっさめ  舟橋隆之


日常を味わいたくて環状線ぐるりとまわる二度ほどまわる  真栄城玄太


われに向きもうよからうと父言ひき炬燵の縁に目を落としつつ  守永慶吾


露地植のいちご片手にやわらかな畦道をゆくリードゆるめて  森 雪子


くちびるの皮がめくれて痛いのに赤いのにつやつやとしている  椛沢知世



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-20 20:01 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 19日

「塔」七月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」七月号 永田淳選歌欄 十首選


刷り立ての資料一式配りたり「あっ温かい」と騒立つ講堂  近藤真啓


四月にはクラス替えやで。一年間楽しかったか? ケリの鳴くなり  鳥本純平


玄関を春の夕陽が金色に輝らすひとりの鍵をあけよう  川井典子


座席深く駅弁を食べる少年が時折われを見ることのあり  永久保英敏


母と寝る権利を求め争いて敗れし下の子我と寝るなり  井上雅史


両の手に温き湯呑みを包みつつ言わざりし一言悔みいるなり  久保田和子


そうですか、わかりましたと答えるしかない夫なり 異動の知らせ  山上秋恵


百歳の姑の友よりの手紙届くその朝姑は読まず逝きけり  高松恵美子


ふる里の無人の家にも届きいん余寒に冴ゆるこの月光は  高木節子


新しき衣を体にまとうとき東を向けと言われてきたり  堀口 岬



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-19 22:22 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 02日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


伐る現場見たることなく切り株が増えてゆくなりここの団地に  花山多佳子


武蔵野を君と歩きし春の日の身に残りたり赤き靴ずれ  栗木京子


一つ前に「代書前」とふ停留所かつてあり皆そこで降りにき  小林信也


顔白くカカシは浮かぶ納屋の戸をひらくひかりに冬の案山子は  池本一郎


有効期限二十年前に切れたパスポート二十歳のわれは口結びいる  荒井直子


片頬の火照りはつづく石段に打ちたるのちの三月の雨  苅谷君代


山の上にひろごる空よ年一度峠を越えて桃売りが来る  酒井久美子


白梅の香につつまれていくようなり透けし点滴そそがれつづく  中島扶美惠


奥まって名も知らなかった樹々たちの伐られて森は森でなくなる  林 芳子


夕暮れに泣く子を抱きて踏み切りに赤い電車をただ見てをりき  宮地しもん



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-02 16:43 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 01日

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選


後ろからはギターに見えたりいえあれはライフルを持つカラシニコフ像  佐原亜子


いつも主語ぬきで問うきみ返すのに何の問いかをいそいで探す  歌川 功


ことごとに老後はみると娘(こ)は言ふが老後など吾はいらぬと思ふ  大島りえ子


もう一度会いたきものを約束の葡萄畑も失せて久しき  数又みはる


春雷は気配のみにてわたしより離(さか)り東の海へ行くらし  白石瑞紀


行きしことあらぬ土地なりうろ覚えの鎌滝という名書面にありぬ  筑井悦子


もうとうに売りてしまひし自動車のフロントガラスの疵をおもへり  西村玲美


味噌みれば指にとりては舐めるくせ味噌屋の娘でありし名残の  古林保子


群れること歓びならむ モンゴルの砂塵のなかにはだかの馬は  祐德美惠子


雪雲が消え去りし空にでんとあり石狩湾の風力タービン  國森久美子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-01 20:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 30日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


ラヂオ体操第二はいつもかなしくて握るこぶしが空回りする  田中律子


春の雨が風にあおられ窓を打つ小さなたくらみ育てる真昼  乙部真実


高層のビルにルビ打つごとく降る春のぬか雨降りやまざりし  川田一路


「沢の鶴」の敷地を囲み嵩高く清酒の空き瓶置かれてをりぬ  佐近田榮懿子


制服が届きましたとメールありデパートに就職決めし教へ子  清水良郎


いらだちをかくせずいたる席上で声をあらげてさらにかなしき  徳重龍弥


離れ住む二人のセーター編みにつつ睦月如月ゆたけく過ぎぬ  中林祥江


桃の花つぼみほろほろこぼれたり子を待つ午後の青き花瓶に  中山惠子


窓ぎはの椅子には誰もゐなくなり柱の向かうに組む足残る  穂積みづほ


食料を買うだけのわれにスキップし従いてくる子のやわらかい掌(て)  矢澤麻子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-30 17:50 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 29日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


二週間下がらぬ熱の傍にいて夫のかかとの皹に触れたり  澤端節子


夢にみる息子は常に不機嫌なり黄色い象のながぐつ履いて  永田聖子


「三月のひかりは違ふな」君の声 朝の大根おろしてをれば  北神照美


返信は無用のこととして起てば鉄瓶は白き湯気立ててゐし  髙野 岬


男雛女雛箱より出さずうらうらと過ごしたること娘らには告げず  加藤和子


詠草を封筒に入れ糊付けをする時うかぶみづほちやんの笑顔  工藤博子


塀に沿い直角に曲がりキジトラが猫溜りある空き地へ向かう  三浦こうこ


ストーブの上の薬缶が鳴り出せば居間華やぐとふ独りの伯父は  山下太吉


つぎはぎの着物の裾の白い足袋きゅっと音たて伯母は曲がりし  中本久美子


束縛のなきこともまた不安なり電飾解かれし駅の一樹は  嶋寺洋子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-29 20:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 28日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


杉玉が茶に変わりゆく酒造所に「秩父錦」辛口を試飲す  村上春枝


園からの帰りにたつぷり道草を楽しむ子らに春の夕焼  森川厚子


夢に遊ぶことはあらざり 黒松の根っこにつまづき膝を擦りむく  石橋泰奈


娘から孫の写真が届きけり向こうの家の顔した孫の  小島順一


食べ頃の見極め鳥よりうまくなりし妻は朝餉のミニトマト捥ぐ  新城研雄


金曜の仕事帰りにコーヒーを飲みに行くため生きている日々  田宮智美


沢山の声は混ざりて意味のない風へと変わる独り飲むカフェ  徳田浩実


赤い実を食べた小鳥は赤くなる 越前蟹はやっぱり赤い  中山大三


淋しさを侮るなかれひたひたとひたひたと満ち来る潮のごとき  藤江ヴィンター公子


波止場まで夫の帰港に子を連れて会いにゆきしと母も話しぬ  宮内ちさと



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-28 17:07 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 27日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選


真っ白なタートルネック不真面目な亀にもきっとあるよゴールが  田村穂隆


肉まんを食べる作法はあるのかと自問しながら立ち食いをする  谷 活恵


コカ・コーラ色の深夜がやってきて薄いふとんに身を横たえる  大橋春人


手加減のないあかるさに満ち満ちた改札 しかし怯まずにゆけ  小松 岬


はしけやしははのつくりしおひなさまにそなふる小豆ことことと煮る  新井啓子


塩引き鮭数多吊らるるとびらの絵に変形性股関節症の会報届く  倉谷節子


0時まで冬陽差し込む部屋にして黒きピアノは伴侶のごとし  相馬好子


悲しいか悲しいだろうと責められて悲しいふりをしてみせている  竹田伊波礼


うぐひすの二月尽日鳴きそめて木漏れ日つよし篁まぶし  内藤幸雄


川二つ渡りトンネル一つ抜け降り立つ荒尾とふ君の住む街  向井ゆき子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-27 21:23 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 24日

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選



衛星軌道めがけて投げる春の夜のポップコーンよ永遠になれ  拝田啓佑


もういないあなたとおもう春のみち風が匂えば匂うままゆく  中田明子


雪国を出できてようやく頷けり一輪ごとの春ということ  廣瀬美穂


日本海に初めて出会った月の道 月をけなした歌会の帰り  株本佳代子


ストラヴィンスキーのピアノへはつかぽとりと零れぬ〈春色のたましひ〉とふその香水は  河村壽仁


臍の緒でつながっていた それだけのことに期待も失望もせず  はなきりんかげろう


己が名も子の名も忘れ母逝きぬ神に重荷を解かれたるごと  三木紀幸


一時二時三時と更けて明けてゆく地球の自転が作りだす夜は  ひじり純子


「あなたいつ海老茶ちよ子をやめたのよ」勝手に塔を読むおばあちゃん  帷子つらね


代わりなら幾らでもいて赤々と脚入れかえてゆくフラミンゴ  中井スピカ




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-24 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 21日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選


傷口をえぐるようなり歌詠めばされどあなたを詠むほかになく  黒木浩子


花を手に「この子は」と言ふ人とゐて園芸店に半日過ごす  寺田慧子


それぞれに行く先を持つ確かさの足早に人はわれを追ひ越し  岡部かずみ


人の死にあうため幾度渡ったろう瀬戸内の小島の落日滲む  上森静子


次々に芽ぐむ春菜の苦味食む冬よりわが身目覚めさすとて  西郷英治


漁終えし船が入江に泊まりおり昼の漁港に人影はなし  竹内多美子


かたぶける壺の口よりひとすぢのミルク垂るるを見守りゐたり  丸山順司


家族三人何かが欠けてはいるけれどとにかく三人ご飯を食べる  山梨寿子


約束を破つたぼくの誰よりもむなしき空をゆけよかりがね  千葉優作


ハッカ糖のブリキの看板雪かぶりここは塩沢母のふる里  大熊佳世子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-21 21:10 | 十首選 | Comments(0)