暗黒星雲

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2018年 11月 28日

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


西病棟ハ階ロビーで酷暑日の夕陽を見ていた歩ける日には  髙鳥ふさ子


種の字を名に持つ島でパッションの種は噛み砕くものと知りたり  瀧川和麿


その午後は長椅子に深く眠りいて沼のごときところよりもどり来  森川たみ子


覚悟をと医師に言われて窓ながむおぼろ月夜に椿のにじむ  井戸本チズ子


鯨にも眠くなる日がありさうだ一輛電車に見る白い雲  岡田ゆり


熱(ほめ)く身を曳きて帰れば夕闇にしづまりてをり汗も怒りも  瀧本倫子


夕まぐれ電車を一本見送っていままっさらなわたしがほしい  松本志李


ペンギンや飼育係にあらずとも日本脱出したしこの暑さ  行正健志


連れてきた去年のあの娘にもう少しやさしく笑ふわたしであつたら  栗栖優子


もう会へぬひとに会ふとぞ玄関を出でゆくあなたがコートを羽織る  山縣みさを




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-28 22:08 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 28日

「塔」十一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」十一月号 三井修選歌欄 十首選


祖たちのとほき宴を想ひたり朱のさかづきが筥より出でて  祐德美惠子


立ち止まり振り返りみて去り行きぬ瑠璃色深き尾をひからせて  廣瀬美穂


目的地は海でそこまで行く汽車が来たから捨てた集めた花を  川上まなみ


さけびつつ午睡の夢より目覚めれば折り重なりて子らは眠りぬ  𠮷田 典


飲みながら席譲られし回数を競いておりぬこのテーブルは  岡村圭子


黒樫に細かい雨が落ちてゐてねむりつつ聞き覚めてまたきく  松原あけみ


救急車と蝉の声のみ聞こえくる炎帝統べる石塀の道  冨田織江


祖母の蚊帳の一面裁ちて仕立てたる長き暖簾の硬き手触り  寺田裕子


仏壇の懐中時計の竜頭巻く月命日の靜けき朝に  三木紀幸


イギリスの田舎の道に立ち上がり野うさぎきょとんと我を見おりき  丸山隆子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-28 18:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 27日

「塔」十一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十一月号 小林幸子選歌欄 十首選


水晶の首飾りつけぽつねんと母は待ちをりドアを開ければ  葵しづか


息を継ぐ、木の下に降る蟬時雨 脳(なづき)割れゆくザクロのやうだ  新井啓子


夏の陽を反しミラーがひかり居り草むらに置き去られし自転車  岩本文子


天皇のため息のことなど思う帳簿に印を捺しつつ  うにがわえりも


見もやらず人ら過ぎゆき閉店のデパート巨き石窟となる  小川 玲


小さき火が夜空へすうつと上りゆき花火の花になる前が好(い)い  竹内真実子


どうしても「アナタハ人ヲ殺シタカ」と聞けぬまま今日に至りぬ  谷口富美子


自分たちはかうふく節と言ふのです 声ふるはせて八月十五日  西内絹枝


幼名で呼びかけながら田の端にジュースを置きて隣人が行く  古栗絹江


膝をつき蚊帳すそそつと持ち上げる所作をおぼえし少女の頃に  久川康子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-27 22:55 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 26日

「塔」十一月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」十一月号 永田淳選歌欄 十首選


思い出がつと立ち上がり紫のボタンを押してバスから降りる  王生令子


替えたての畳に頬をおしつけてあなたが桃を剥く音を聞く  小松 岬


海中より出てくる海女を傘持ちて待つ人の見ゆ志摩の濱辺に  清水千登世


ひからびたミミズ引き込む蟻の群れ直葬にしてと遺言に書く  田辺昭信


わが指の触れる刹那に散りそむる昨夜(きぞ)しらしらと透けし芍薬  津田雅子


火星と月を同一画面に撮り終えてただそれだけで幸せとなる  鳥山かずみ


絹のもつやさしき縫ひ目にひかれつつ戻れぬ日々を想ひて歩む  広瀬桂子


落蟬は竹のはうきにからみつく朝の日差しのやはらかきとき  森本忠治


ノイズキャンセリングなどという語も使い座禅の境地を説く若い僧  中井スピカ


喜々として墓石に水を注ぎしのち大人のうしろにしづもれり、児は  加藤和子





(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-26 20:11 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 25日

「塔」十一月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」十一月号 江戸雪選歌欄 十首選


さようなら息をひそめるような日々電動ミルでコーヒーを挽く  井上雅史


仕事後に歌会に行きて評言えば時どき電話用の声出る  逢坂みずき


ヒューストン、聞こえてゐるか? 俺はもう立ち上がるのも面倒なんだ  益田克行


唇のしびれ微かに続きをり灼熱の道を歩みゆくあひだ  赤井稚加


御理解と御協力とを幾たびもお願いされけり都会をゆけば  石井暁子


シャンシャンとクマゼミの鳴く故郷(さと)の夏 母は小エビを笊に茹であげ  田中ミハル


この昼は山葡萄の葉がよくそよぐ子らは遠くの町に暮らせり  ぱいんぐりん


兄さんはハンサムだつたうちの人は無口だつた すこしさみしい  森永絹子


見下ろせば泥水は輝きゐるならむドクターヘリがまた一機行く  高橋ひろ子


昏さとは黒さではないふかぶかとひろがる午睡ののちの曇天  中田明子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-25 21:47 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 22日

「塔」十一月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」十一月号 池本一郎選歌欄 十首選


緩めれば炭酸の泡立ち上る 理由の見えぬ不安というもの  鈴木健示


断捨離は物ばかりでなく人もまた切りし電話の重みを胸に  大沼智惠子


夕虹の消えたる空のむなしさに牧童のごと星座を恋へり  熊澤哲哉


生産性という言葉が僕の胸に咲くタンポポをちぎっていった  田村穂隆


乗鞍に雲湧き立ちぬ職辞して無頼に憧れ無頼になれず  戸田明美


山椒魚まれに見てゐし疏水なるに山瀬の荒れに埋めつくされぬ  三浦智江子


倒されし椅子にて聞きおりうら若き歯科衛生士の空(す)き腹の音  村上春枝


ブロック塀にボール投げする少年の間合のよくて転寝に聞く  山代屋貞子


渓谷の画像にゆらゆら蝌蚪に似し空撮ヘリの自らの影  金田和子


顔見知りの蜥蜴に出合ふ物干し場に一言二言こゑをかけやる  福島美智子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-22 20:31 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 21日

「塔」十一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」十一月号 永田和宏選歌欄 十首選


あの夏にあなたを待ったバス停の時刻表まで大好きだった  多田なの


おそ夏の光を濾せる木のしたを豹柄おみなとなりて過ぎゆく  山名聡美


うどん屋の幟だらんと垂れ下がる大残暑なり風のなき街  有櫛由之


嫁になり姑になりて寡婦となる やうやく春の日祖母となりけり  伊藤陽子


ラッシュ時の波を掻分けやって来る向日葵柄の麦わら帽子  田中美樹


われの育てし葱を納豆にさはに混ず里帰りして来し青年は  松井 滿


カーテンのように褪せゆくからだしてつよくさびしく君を恋いおり  福西直美


わたしの中にやさしき獣ゐることを薄き髭剃るときに思へり  千葉優作


手つかずの朝の空あり後戻りできないように荷物をすてる  黒木浩子


真正面のひとに向かって話しつつ隣のあなたを思って話す  竹田伊波礼



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-21 20:10 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 20日

「塔」十一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」十一月号 真中朋久選歌欄 十首選


呼び止めるざんこくふり返へるやましさそのうへ希ふひそけさ  國森久美子


神隠しに遭いたるような集落のカーブミラーに消えてゆく鳥  数又みはる


たなごころに載りし卵のひんやりと昨日の嘘のほのかに灯る  黒瀬圭子


電燈をおほひし黒布今夜から外してよいかと自ら問ひし  阪上民江


紫陽花が好きだったからと亡き母の墓前に兄嫁添えくれし夏  ダンバー悦子


初瀬山を守りし童子のひとりなり雨宝童子の敏き目と合ふ  東郷悦子


看護師の若きに抱かれその胸に曽孫と同じ「サワ」の名を見る  中村佳世


獅子踊りの少女ら垂らす扱き帯ゆらゆら揺れて天神まつり  山崎一幸


たぶんもう眠れそうだなうつぶせの背中にふれるせんぷうきのかぜ  上澄 眠


眠れずに薄目に見れば扇風機月の光を浴びて立ちおり  宮地しもん




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-20 14:46 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 19日

「塔」十一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十一月号 栗木京子選歌欄 十首選


水に咲く白き澤瀉ひそやかに命閉ぢゆくものある夕べ  澤井潤子


鰻好きのお祖父さんふたり我にゐてそれぞれ贔屓の鰻屋ありき  小林真代


ちんまりと手頃な暮らしに浸りつつ暑気払いとて櫃まぶし食う  落合花子


ひらがなにおもひうかぶるまくはうり最後のひとつと太き手がくれぬ  杉本潤子


船の灯に誘はれくるかつばめうを船の速さに並びて飛べり  炭 陽子


身のうちに感じながらに寝入りたり二キロ先より鉄路ひびくを  竹下文子


駅からを青筋揚羽が付いてくる海へ行く道尋ねるように  橋本恵美


真つ暗でなければ寝られない人の肩のあたりを薄明かりに見る  穂積みづほ


へろへろと去年の糸瓜が芽を出すから男なんてと思つてしまふ  大島りえ子


どくだみのにほひ残れる手で割りぬ昼餉のための卵二つを  尾崎知子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-19 19:50 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 18日

「塔」十一月号 月集 十首選

「塔」十一月号 月集 十首選


夕闇に白木蓮の咲きのこり守れぬ約束なれば忘れず  栗木京子


やかましき尾長の声にやはらかな声の交じれば雛鳥ならむ  小林幸子


鳥影がひとつよぎりてゆきし後夏の広場の翳りてゆけり  三井 修


蛇に注意のはり紙あれば引き返す露天風呂の脇の木の繁る庭  黒住嘉輝


九時までに出さねばならぬ生ごみのビニールに透けてひまはりの咲く  亀谷たま江


"南洋"を憧れのごと聞きいたり幾人もの父見送りしゆえ  黒住 光


再生する声のうしろに透けてゐるいちまいの皮膜のやうな蝉声  河野美砂子


夫すでに亡き家なれど祀りのたび募る帰心は抑へ難しも  陳 淑媛


降り出でし雨に素足のサンダルの帰省のむすめは独り身にして  干田智子


しんしんと時間がわれに下りて来る夏、墓石の汚れ拭くとき  松木乃り


(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-18 14:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 04日

「塔」十月号 月集 十首選

「塔」十月号 月集 十首選


帰りきて見れば卓には一房のバナナがありて黒き斑(ふ)を持つ  三井 修


入れてくれとしつこく寄れる金蚉あり大阪京都揺れし日の夜  前田康子


海からの霧ながれきて街灯もポストも君もあわく濡れたり  松村正直


停電でラジオ途切れし戦後に似て庭の樹の蝉不意に止みたり  上田善朗


指揮台に胸を反らしし若き配属將校のそののち知らず  尾形 貢


街に行くを山から下りると言ひてゐし君下りくるを火葬場に待つ  佐々木千代


「ただいま」と誰が声のするあけがたの夢のなかなる廊の奥より  沢田麻佐子


亡き母と居るごときやすらぎ梔子の匂う庭椅子に一人いるなり  進藤多紀


一年が来ようとしてゐる戸締りが母の役目でなくなりてから  久岡貴子


作業着に射す夏の日の容赦なし非正規のまま二年余過ぎぬ  干田智子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-04 15:43 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 03日

「塔」十月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」十月号 池本一郎選歌欄 十首選


沼を見て帰ろうというようやくに治療方針きまりし夫が  中澤百合子


幌馬車で西部の荒野ゆくごとく常磐高速ゆつくり走る  渡辺のぞみ


揚羽蝶今年初めて見しことを告げる人なくひと日の暮れる  新田由美子


遠雷の轟く夜は理科室の人体模型の骨白かりし  石井久美子


知らぬこと知ろうとせぬこと体内に暗黒の海のごとく広がり  小川和恵


炎暑の中つめたい肌をもつひとを見送る始終儀式にのっとり  佐藤浩子


四条通りの果たてに沈む日輪ををろがむ異邦人も肩をならべて  東郷悦子


廃屋とは思ひたくない崖のうへの紫陽花の咲くちひさな家を  西村玲美


大阪の地震(なゐ)を途中で聞きしのち旅にして旅にあらぬやうなり  山地あい子


祖父の背はわれのゆりかご記憶にはなき過ぎゆきに今も揺れいる  数又みはる



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-03 19:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 01日

「塔」十月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」十月号 花山多佳子選歌欄 十首選


一九四(イチキューヨン)号使ひて愛媛にぬけるとふ君の電話を再生しをり  福井まゆみ


蜩をひぐれをしみと呼ぶ里の大雨蝉の声も流せり  黒瀬圭子


「そこを曲げてお願いします」吾が意見は細い針金みたいなものか  佐原亜子


なぜここに石があるのか石を持ちエレベーターに乗り日なたへ出たり  宇梶晶子


歌だけが残ったらいい 伐れぬまま幹に食い込む斧の如くに  白水ま衣


わらび餅がぷるぷる笑ふきみはまだ熱き手振りに語りてをるに  田中律子


青空の時だけ撮れば好天の旅となりたり道道走る  穂積みづほ


合歓の木がここにあるらし夕風のかよへる径にほのかなる紅  竹下文子


蛙鳴く声に混じりて田に水の落ちゆく音を聞きつつ眠る  山下太吉


本当に聞きたいことは聞けぬまま珈琲飲むかと明るく聞きぬ  中山悦子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-11-01 20:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 30日

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選


柴犬のおしりは消失点として揺れながら遠ざかってく畦道  加瀬はる


人がみな傾ぎて見える黄昏に浜木綿の花誘う(いざな)うなかれ  石橋泰奈


しづかなる音して睡蓮ひらくときあまたの言の葉剥がれてゆけり  福田恭子


水張田を見降ろす墓所に佇みぬ百年先の景を見たくて  赤田文女


ベビーカーの若き母子を越してゆく自転車の子らがベルを鳴らして  天野惟光


なめらかにライトの列は弧を描き琵琶湖大橋うみをまたげり  杉本文夫


洗脳といふ名の電車かも知れず鈍行にする 海がまぶしい  吉田達郎


あなたとの履歴をたどるiPhoneにひろがる羽根のかたちの指紋  椛沢知世


日常はふいに途切れてサイレンの鳴りやまぬ夜に雨を受けをり  浅野美紗子


ナフタリンを母の寝所の隅に置く百足、せん妄寄せ付けぬため  河野純子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-30 22:08 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 29日

「塔」十月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」十月号 真中朋久選歌欄 十首選


濁流がずぽりのみ込み吐き出したがれきの中に赤絵の茶碗  三谷弘子


それぞれに夏の記憶を呼びながら西瓜の種をさぐる舌先  魚谷真梨子


濁りては澄み濁りては澄む波の七月朔日のかもめたち  森尾みづな


黙つてゐてもふきだすことのくるしさに百日紅おのづから捩れて  小田桐 夕


駅の段(きだ)を飛蝗(ばつた)のごとく駆けあがる手足の長きをみなごのあり  上仲修史


地殻変動は湾内入り江を隆起せしめむとブルネグロ年代記預言書にあり  河村壽仁


雲北へ走るをよそ目に北上川(きたかみ)は赤き濁りを南へと吐く  菊池秋光


シャッターが膝の高さに差し掛かりマネキン二体靴が見え出す  杉山太郎


大雨の放水サイレン強風に途切れて聞こゆ雄叫びのごと  山内恵子


平凡が愚鈍に思えやるせなくジャガイモの芽をぐりぐり抉る  王生令子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-29 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 27日

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選


雨は止みまた少し腹は膨らんで青空のように胃腸がくるしい  吉田 典


駅前の自転車置き場の屋根の上風にゆれつつヒルガオの咲く  谷 活恵


若きらにまぎれて歩くキヤンパスをおほひてながき病棟の影  久川康子


列島はおほよそ雨らしゆふべ振るアジアンソルトはひかりの粒粒  千村久仁子


「暑いので夏休みです」とガラス戸に貼ったパン屋を好きになる午後  津田純江


にんげんのからだの奥にみずうみがありその側に咲く雪柳  はたえり


乳液を湯あがりの肌になじませる嘘をついてるあなたのえくぼ  増田美恵子


堤より青き流れを見てあれば身投げにあらず魚になりたし  吉村久子


芍薬を見せたいあじさいも見せたいあなたが去ったあとのすべてを  小松 岬


亡き人の誕生日には雨上り水惑星のあをき空見ゆ  阿蘇礼子



(新井蜜)



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# by trentonrowley | 2018-10-27 22:17 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 25日

「塔」十月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」十月号 江戸雪選歌欄 十首選


もう花火が売られはじめて思い出すなにかが爆ぜたあの夏のこと  紫野 春


オレンジの光のなかへワープするカーラジオから中島みゆき  山名聡美


玄関にうづくまり泣く背中見ゆそれはいつかの吾が背中なり  永山凌平


坂道を上りて行けば背負う子のヨイショヨイショの応援があり  古栗絹江


とどかない言葉のはしっこ持ったまま洗たくものをたたいています  落合優子


気がつけばまたふたりぶん作っているミネストローネのトマトが甘い  川本智香子


シューベルトの歌曲をかけて黄色から色鉛筆を尖らせてゆく  髙山葉月


未明より水踏む車のしやあしやあと聞こえて今日の予定の狂ふ  蓮尾金博


中学の理科の教師に訊いたことバンアレン帯はいかに燃えるか  ひじり純子


捩花の咲くころ歳をとる娘われよりうまく生きてゆくはず  西山千鶴子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-25 20:17 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 23日

「塔」十月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」十月号 永田淳選歌欄 十首選


目覚めれば川底にいて絶え間なく雲は東へ去りて戻らず  吉原 真


毒蛇と蠍を食すと知りしより輝き増せり孔雀の羽は  益田克行


天の火を地に分けること命じられこのサルビアはここに来たのだ  伊地知樹理


こはいから殺したいのと女生徒が蜘蛛を追ひつむ箒を持ちて  森永絹子


この歌になぜに付箋をつけたるかひと月前のわれを怪しむ  安永 明


通されたる部屋にはムクゲの花のありガラスの器のむぎ茶は香る  横山敦子


ふり向けばわれを見ており道に出合いお帰りと声をかけし少年  高木節子


いち、に、さん、いっきに入った蚊帳のなか夏の暑さは思いだせない  宮内ちさと


伯母おもひ叔父をおもひてもうだれもゐないと気づく朝震度六  𠮷田京子


住吉の駅を降りれば栴檀の花のかをりの雨のふりをり  岡本伸香





(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-23 20:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 20日

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選


ひとの死に慣れてゆきたる頃合ひにあたためなほす茄子の味噌汁  濱松哲朗


帆船のごとく背中を膨らませ夏服の子ら湖へと下る  丸本ふみ


沛然と降る雨ぐいと吸ひこんで六月われは鮫になりたし  有櫛由之


感熱のレシートのごと薄れゆくその日の記憶 もいちど逢ひたい  一文授可修


葬儀から三日過ぎたる夜があけてアドレス帳に「逝去」を記す  岡部由紀子


のど飴を一粒口に含ませて群青ふかき夜に凭れをり  近藤真啓


無理をして笑わなくてもいいのよと先生ならば言ってくれたろう  北山順子


磔刑のごとくに壁に貼りついたピカソに夏の陽射しは落ちる  木村珊瑚


陸地より海の割合多きこと思い出しつつ島へと向かう  杉原諒美


すっと腕をつかみし君は夢の中に何をおそれてわれを守りぬ  中山惠子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-20 20:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 16日

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選


人影の石はもうなし銀行の前に母子(ははこ)の腰おろしゐる  栗栖優子


騙し絵の鳥に見られるあなたとの朝の食卓、夜の食卓  岡田ゆり


何事ぞわが店先にバス停まる 蛇の横断待ちているらし  松村豊子


何もなき荒野に立てる風車群風の向こうに樺太が見ゆ  行正健志


ちょっとだけ嬉しいことを何気なく話す人がいることも嬉しい  松岡明香


躊躇いを綴じる日日あり夏蝶の翅詰め込んだ箱を燃やして  梅津かなで


筆談で祖父は「へへへ」と笑い声を書き足しておる険しき顔で  近江 瞬


正しければ抗ふすべなし花鋏もちて過分を切り落としたり  瀧本倫子


ぎやまんの器に君を閉ぢこめてひと夏ずつと雨を降らさう  灰岡裕美


やわらかき葉に一本の足で立つティンカーベルのようなねむの花  森川たみ子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-10-16 16:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 28日

「塔」九月号 月集 十首選

「塔」九月号 月集 十首選


プルメリア一輪髪に飾りたり初夏のゆふべのフラの踊りに  栗木京子


森の空みむと巻きしめ昇りたる山藤のはな天辺に咲く  小林幸子


かぜのとの遠きに見えて白壁のややに剥れし父の生家の  尾形 貢


舟着場跡は街なか江戸の世を川と呼ばれて水は過ぎしか  小石 薫


わたくしが拝まれている心地せり食卓の夫が手を合わせると  小島さちえ


プロポーズはどのやうにしたかドアの脇で次男が小声で我に聞きくる  小林信也


柵越えてふたりの少女川べりに肩をひっつけしゃがんでいたり  なみの亜子


鳥の群れ見えなくなるまで見てをれば空とわれとがとり残される  久岡貴子


鳥の声あるいは兄のこゑならむ旅の我らを見下ろす一羽  干田智子


檜葉の樹の囲へる墓処に歌声はとどまりをらむ墓しまひても  万造寺ようこ



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-28 17:09 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 25日

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選


防波堤を地元の猫のしなやかに尾の先見えて海側へ消ゆ  森川たみ子


峡ふかくよぶ声聞こゆ雨の間の鳥たちさわぐ川をおりゆく  赤井稚加


固く締めてもあまくなる捩子の不安年金明細通知書届く  伊勢谷伍朗


何もかも手放したいと思う時傘を持たずに梅雨に濡れ行く  白石絵美


旧友を十年振りに訪ねれば嫁が逃げたと淋しく笑ふ  三鴨 卓


歯切れよき講師が言ひし「なまあし」の「素足」にゆきつくまでの玉響  山縣みさを


オリヨ?ってきみが言うまで揺られよう駅は決めずに野も田も越して  若月カコ


心臓のねじはゆるくて不用意に揺らせばこぼれてしまう 容易に  とわさき芽ぐみ


ヒール折れて朝のひかりへ傾けばここから面白くなりさうだ  大堀 茜


白昼の夢から落ちてくるやうな雨垂れ怠しショパンの憂うつ  瀧本倫子




(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-25 20:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 25日

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選


夏くれば瑠璃糸とんぼ思ひだす布留の川辺に追ひし彼の頃  内藤幸雄


爪に泥ためた子どもの手のひらにかるく握られダンゴムシあり  福西直美


この足の痛み和らぐときのなし真夜に目覚めてニ短調を聴く  天野惟光


店員に袋の持ち手しつかりと絡めて持たされコンビニを出づ  伊藤芙沙子


紫陽花の青追いゆけば老菓舗の向かいが三月書房と知りぬ  岡村圭子


良き風といふ名の町に降り立ちて向かう岸見えぬ河を見てをり  加茂直樹


雪のようにつもった嘘があしあとを消したあなたはもうもどれない  田村龍平


終バスの夜の闇より黒髪を高く盛り上げ女性乗り来る  古屋冴子


一合の白きご飯を分けて食ふこの閑けさを老と言ふらし  和田 澄


しっかりとしているようで辻褄が合わぬと思い義母の顔見る  石川えりか



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-25 11:30 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 22日

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選


宵闇に啼くホトトギスの一声でわが初夏のピースは埋まる  入部英明


夏夕べの庭から庭へ差し出され良い西瓜ですねと言いて抱き取る  宗形 瞳


救護作業終えて列車は走りだす救護されたるひとを残して  吉原 真


足引の黄泉比良坂いつの間にすれ違ひしかあの後ろ影  河野純子


お互に認知の度合を探り合ふ老いし二人は喜寿を越えたり  天尾壯一郎


宙(そら)ガール講座の声がこだまする望遠鏡をはじめて覗き  上杉憲一


日曜のやわき朝霧かきわけて宅配トラック坂をのぼり来  岡山あずみ


別れ際思いがけずに手を出され思考停止で応じてしまう  河田潮子


春の日を眠りつづけるははそはの母にあらずや揚げ雲雀啼く  祐德美惠子


声変わり前のあなたを見つけたの祭囃子の響く漁港で  田村穂隆



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-22 15:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 21日

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選


庭だった場所に新たな家は建ち晩夏の脱皮のような引っ越し  神山倶生


子の影を午後の日差しが引き伸ばすゆたかなる背の若者ほどに  益田克行


手に青い火を持たされて、ごめん。肝心なとこで嘘がつけない  永山凌平


片隅でそのまま眠ることもある忘れられたおもちゃのように  太田愛葉


わすれものを取りに行こうよ あの夏のプールカードをかばんに入れて  うにがわえりも


ボッティチェリの春の女神が履いてゐるサンダルの細きほそき革紐  岡部かずみ


袋詰めの青梅売られ其の中に恥ぢらふ如く紅(べに)帯ぶる在り  金田和子


区切りまで区切りまでとふ残業にはつ夏の窓も暗み来たりぬ  栗山洋子


負け囲碁の悔いを引きずる長男に猫が蜥蜴を銜えて来たり  富田小夜子


地下鉄にベビーカー押さへ立つママの逆さV字の両脚つよし  水越和恵



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-21 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 20日

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選


ドセタキセル詰まらず言えるようになり薬の袋がまた増えていた  落合優子


立ち食ひのそばを啜ればベルが鳴る学生時代に乗りし快速  三木紀幸


この仕事慣れてはだめと引きしめて病院の重き鉄ドア開ける  山﨑惠美子


知らぬ間に買い物かごに入ってたエンゼルパイを抱いて帰ろう  中井スピカ


虐殺の長き物語読み終えてブーゲンビリアの咲く国と知る  岡崎五郎


なあんにもしたくないのと言う母の側でショールをまっすぐに編む  山梨寿子


薔薇柄の毛布の薔薇を内にして眠りしゆゑかよく眠られず  森尾みづな


もう二度と会うことのない人に会うピンクのパラソルぱっと広げて  只石めぐみ


まゆみとふ女にたしかうらみあり緑の枝にこまゆみの花  谷口富美子


おばの家に枇杷の実りて今はもう無口な婿がひとり住みいる  冨田織江



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-20 16:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 19日

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選


粋な背のツマグロヨコバイ音もなく夜のページを横切ってゆく  高原さやか


三人につぎつぎ道を訊きつぎてこの街すつかりすきになりたり  越智ひとみ


田に水を得たる蛙のよろこびを枕にききつつ眠る夜さよさ  秋田妙子


恋うことと呪うこととはおなじこと真っ赤な口紅ばかりをえらぶ  海老茶ちよ子


ゆっくりと育つのがよい ベビーカーをときおり止めて子の顔を見る  岡本 潤


さくさくとアップルパイを頬張ってもうすぐひとつ年を重ねる  楠  藍


ただいまと橋を渡ればふるさとの粒子こまかき山の気が立つ  田巻幸生


その位言ってくれても構わないあなたも身内の一人ですから  芳賀直子


喪のときはどれほどながく続くのかゆれる葉にさす陽射しまぶしい  増田美恵子


青空に鳶の鋭(と)き声聞きしよりわが眼裏(まなうら)に海あふれゆく  丸山順司





(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-19 23:02 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 18日

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選


淡々(あわあわ)と少女ふたりの髪ゆれて五月のバスを待つ木下闇  高松紗都子


薄青くガクアジサイが咲いているこのまま進んでいいのだろうか  杉本文夫


父も母も兄もおわせば天国はこの世の続きか妹待つか  大谷静子


水無月は娘に来たり朝なさな歌くちずさみシャワーを浴びて  小林貴文


母のなきのちの日月をぼんやりのままにて姉なり 申し訳なし  千村久仁子


台風の眼のごときものわが内の怒りにもあり生ぬるき風  濱松哲朗


水茄子の浅漬け二本鮎二匹あとは随意にと妻のメモ書き  吉井敏郎


起きてすぐ帰りてすぐにテレビつけ音ある空気に独り居を生く  鯵本ミツ子


つゆ空の青梅街道わたるとき何やら怒りふつふつとくる  青馬ゆず


風を泳ぐってこういうことよと言いたげに立葵の群生のゆらゆら  魚谷真梨子



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-18 21:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 15日

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選


棕櫚の木よ月のない夜にこの庭を歩きまわったことはないのか  宮地しもん


不審者は我かもしれず思春期の心にぐいっと踏み込んでゆく  龍田裕子


子が我にまとわりし頃の高さなりアマリリスの鉢五つ開花す  黒沢 梓


きみのもの捨てゆくたびに重くなるからだを白詰草へと運ぶ  杉本潤子


昨晩のままにバナナは卓にあり油彩画を描くひとを待つごと  小圷光風


<あいちやん>といつもやさしく呼びくれし口に引かるる さびしいよ紅  山地あい子


雨上がり白詰草のにおいくる自転車ならば気付かぬほどの  邑岡多満恵


暮れ六つの四つ目のとき救急車は搬送先を決めて発ちたり  山口泰子


明け方の空に月ありあと五分したら巡回することにする  乙部真実


ぬり壁のようにいるなりさびしいでしょうさびしいでしょうと言う声の中  数又みはる



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-15 16:59 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 12日

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」九月号 真中朋久選歌欄 十首選


光を放つように私の目を見つめすだれ職人の妻は泣きおり  片山楓子


アスファルトは色の集まりあの猫が落とした影を私がひろふ  穂積みづほ


重い花は醜くもあるそう思う私は何を悔いているのだ  芦田美香


かららんとしてをる時にあゝ空は落ちてくるなりまつすぐまつすぐ  國森久美子


積み荷重き小舟のやうな母たちに子を眠らせる春の雨降る  黒瀬圭子


明日は来れぬと娘が持ちてきし花あやめ朝の食卓にひらきゆくを見る  坂根美知子


みごもりしひとは若木の眩しさに太りてあはき蔭をつくれり  澄田広枝


みどり児はいまだ目覚めず青葉風熄みてしづもる藤棚のした  竹下文子


キャベツには九匹のナメクジ棲んでゐてある日農婦の狼藉にあふ  中林祥江


障害のがの濁音が唐突に響いて秋の夕日は落ちる  高橋武司



(新井蜜)


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# by trentonrowley | 2018-09-12 20:35 | 十首選 | Comments(0)