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暗黒星雲

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2019年 07月 02日

「塔」六月号 月集 十首選

「塔」六月号 月集 十首選


伐る現場見たることなく切り株が増えてゆくなりここの団地に  花山多佳子


武蔵野を君と歩きし春の日の身に残りたり赤き靴ずれ  栗木京子


一つ前に「代書前」とふ停留所かつてあり皆そこで降りにき  小林信也


顔白くカカシは浮かぶ納屋の戸をひらくひかりに冬の案山子は  池本一郎


有効期限二十年前に切れたパスポート二十歳のわれは口結びいる  荒井直子


片頬の火照りはつづく石段に打ちたるのちの三月の雨  苅谷君代


山の上にひろごる空よ年一度峠を越えて桃売りが来る  酒井久美子


白梅の香につつまれていくようなり透けし点滴そそがれつづく  中島扶美惠


奥まって名も知らなかった樹々たちの伐られて森は森でなくなる  林 芳子


夕暮れに泣く子を抱きて踏み切りに赤い電車をただ見てをりき  宮地しもん



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-02 16:43 | 十首選 | Comments(0)
2019年 07月 01日

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」六月号 花山多佳子選歌欄 十首選


後ろからはギターに見えたりいえあれはライフルを持つカラシニコフ像  佐原亜子


いつも主語ぬきで問うきみ返すのに何の問いかをいそいで探す  歌川 功


ことごとに老後はみると娘(こ)は言ふが老後など吾はいらぬと思ふ  大島りえ子


もう一度会いたきものを約束の葡萄畑も失せて久しき  数又みはる


春雷は気配のみにてわたしより離(さか)り東の海へ行くらし  白石瑞紀


行きしことあらぬ土地なりうろ覚えの鎌滝という名書面にありぬ  筑井悦子


もうとうに売りてしまひし自動車のフロントガラスの疵をおもへり  西村玲美


味噌みれば指にとりては舐めるくせ味噌屋の娘でありし名残の  古林保子


群れること歓びならむ モンゴルの砂塵のなかにはだかの馬は  祐德美惠子


雪雲が消え去りし空にでんとあり石狩湾の風力タービン  國森久美子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-07-01 20:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 30日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


ラヂオ体操第二はいつもかなしくて握るこぶしが空回りする  田中律子


春の雨が風にあおられ窓を打つ小さなたくらみ育てる真昼  乙部真実


高層のビルにルビ打つごとく降る春のぬか雨降りやまざりし  川田一路


「沢の鶴」の敷地を囲み嵩高く清酒の空き瓶置かれてをりぬ  佐近田榮懿子


制服が届きましたとメールありデパートに就職決めし教へ子  清水良郎


いらだちをかくせずいたる席上で声をあらげてさらにかなしき  徳重龍弥


離れ住む二人のセーター編みにつつ睦月如月ゆたけく過ぎぬ  中林祥江


桃の花つぼみほろほろこぼれたり子を待つ午後の青き花瓶に  中山惠子


窓ぎはの椅子には誰もゐなくなり柱の向かうに組む足残る  穂積みづほ


食料を買うだけのわれにスキップし従いてくる子のやわらかい掌(て)  矢澤麻子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-30 17:50 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 29日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


二週間下がらぬ熱の傍にいて夫のかかとの皹に触れたり  澤端節子


夢にみる息子は常に不機嫌なり黄色い象のながぐつ履いて  永田聖子


「三月のひかりは違ふな」君の声 朝の大根おろしてをれば  北神照美


返信は無用のこととして起てば鉄瓶は白き湯気立ててゐし  髙野 岬


男雛女雛箱より出さずうらうらと過ごしたること娘らには告げず  加藤和子


詠草を封筒に入れ糊付けをする時うかぶみづほちやんの笑顔  工藤博子


塀に沿い直角に曲がりキジトラが猫溜りある空き地へ向かう  三浦こうこ


ストーブの上の薬缶が鳴り出せば居間華やぐとふ独りの伯父は  山下太吉


つぎはぎの着物の裾の白い足袋きゅっと音たて伯母は曲がりし  中本久美子


束縛のなきこともまた不安なり電飾解かれし駅の一樹は  嶋寺洋子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-29 20:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 28日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


杉玉が茶に変わりゆく酒造所に「秩父錦」辛口を試飲す  村上春枝


園からの帰りにたつぷり道草を楽しむ子らに春の夕焼  森川厚子


夢に遊ぶことはあらざり 黒松の根っこにつまづき膝を擦りむく  石橋泰奈


娘から孫の写真が届きけり向こうの家の顔した孫の  小島順一


食べ頃の見極め鳥よりうまくなりし妻は朝餉のミニトマト捥ぐ  新城研雄


金曜の仕事帰りにコーヒーを飲みに行くため生きている日々  田宮智美


沢山の声は混ざりて意味のない風へと変わる独り飲むカフェ  徳田浩実


赤い実を食べた小鳥は赤くなる 越前蟹はやっぱり赤い  中山大三


淋しさを侮るなかれひたひたとひたひたと満ち来る潮のごとき  藤江ヴィンター公子


波止場まで夫の帰港に子を連れて会いにゆきしと母も話しぬ  宮内ちさと



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-28 17:07 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 27日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選


真っ白なタートルネック不真面目な亀にもきっとあるよゴールが  田村穂隆


肉まんを食べる作法はあるのかと自問しながら立ち食いをする  谷 活恵


コカ・コーラ色の深夜がやってきて薄いふとんに身を横たえる  大橋春人


手加減のないあかるさに満ち満ちた改札 しかし怯まずにゆけ  小松 岬


はしけやしははのつくりしおひなさまにそなふる小豆ことことと煮る  新井啓子


塩引き鮭数多吊らるるとびらの絵に変形性股関節症の会報届く  倉谷節子


0時まで冬陽差し込む部屋にして黒きピアノは伴侶のごとし  相馬好子


悲しいか悲しいだろうと責められて悲しいふりをしてみせている  竹田伊波礼


うぐひすの二月尽日鳴きそめて木漏れ日つよし篁まぶし  内藤幸雄


川二つ渡りトンネル一つ抜け降り立つ荒尾とふ君の住む街  向井ゆき子


(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-27 21:23 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 24日

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」六月号 江戸雪選歌欄 十首選



衛星軌道めがけて投げる春の夜のポップコーンよ永遠になれ  拝田啓佑


もういないあなたとおもう春のみち風が匂えば匂うままゆく  中田明子


雪国を出できてようやく頷けり一輪ごとの春ということ  廣瀬美穂


日本海に初めて出会った月の道 月をけなした歌会の帰り  株本佳代子


ストラヴィンスキーのピアノへはつかぽとりと零れぬ〈春色のたましひ〉とふその香水は  河村壽仁


臍の緒でつながっていた それだけのことに期待も失望もせず  はなきりんかげろう


己が名も子の名も忘れ母逝きぬ神に重荷を解かれたるごと  三木紀幸


一時二時三時と更けて明けてゆく地球の自転が作りだす夜は  ひじり純子


「あなたいつ海老茶ちよ子をやめたのよ」勝手に塔を読むおばあちゃん  帷子つらね


代わりなら幾らでもいて赤々と脚入れかえてゆくフラミンゴ  中井スピカ




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-24 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 21日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選


傷口をえぐるようなり歌詠めばされどあなたを詠むほかになく  黒木浩子


花を手に「この子は」と言ふ人とゐて園芸店に半日過ごす  寺田慧子


それぞれに行く先を持つ確かさの足早に人はわれを追ひ越し  岡部かずみ


人の死にあうため幾度渡ったろう瀬戸内の小島の落日滲む  上森静子


次々に芽ぐむ春菜の苦味食む冬よりわが身目覚めさすとて  西郷英治


漁終えし船が入江に泊まりおり昼の漁港に人影はなし  竹内多美子


かたぶける壺の口よりひとすぢのミルク垂るるを見守りゐたり  丸山順司


家族三人何かが欠けてはいるけれどとにかく三人ご飯を食べる  山梨寿子


約束を破つたぼくの誰よりもむなしき空をゆけよかりがね  千葉優作


ハッカ糖のブリキの看板雪かぶりここは塩沢母のふる里  大熊佳世子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-21 21:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 20日

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林信也選歌欄 十首選


窓ごとに灯りのついたアパートのカレーのにおいお風呂のにおい  佐々木美由喜


ひとびとは日々の気持ちを如何(いか)歌ふザタイムズに短歌欄なし  大久保茂男


ネオン濃き袋小路の呑み屋街赤き雪降る青き雪降る  石川 啓


トラックが辻を何度も切返し魚のごとく逃れ行きたり  小川節三


厨の隅に貝の潮吹く音のして夕餉は夫と雛膳囲む  白鳥美津子


割り切れぬ思いを集めた指先で缶コーヒーのボタンを押しぬ  杉原諒美


入学のあさは真白き丸衿の母の仕立てしワンピース着る  竹内真実子


笠原先生の語るイエスが好きだつた大工の父を好きなイエスが  長尾 宏


定時後の仄暗い改札前で叫ぶかわりに深く吸いこむ  森永理恵


不揃ひを揃へたかりと泣く汝れに深呼吸してごらんとまづ言ふ  宗形 瞳



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-20 22:03 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 18日

「塔」六月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」六月号 なみの亜子選歌欄 十首選


僕たちは世界を盗み合うように互いの眼鏡をかけて笑った  近江 瞬


節分の天満宮に福引の当り太鼓がまた響きおり  相本絢子


とめどなく冬の雨ふるぬるき朝母の葬儀に東へと発つ  阿蘇礼子


アカシアの咲きにし頃か機嫌良き母がパンケーキ焼いてくれしは  石丸よしえ


思い出の存在としてあることを選んだわけではないのだけれど  かがみゆみ


ゆるやかな記憶喪失たそがれにあなたの影が浮かぶまでの間  中森 舞


トレモロのような春風吹くときに子の下睫毛まだ濡れていた  吉田 典


昔話も自慢話も無き人とまろき酒飲むお斎の席に  森尾みづな


お互ひの病気自慢がはじまりぬ告別式に声をひそませ  安永 明


どこへ行くこともなくって春めいた二月を犬と散歩している  岩尾美加子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-18 21:57 | 十首選 | Comments(0)
2019年 06月 17日

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下泉選歌欄 十首選


癒えかけるたびに手首を切りつけるように今年も震災を詠む  佐藤涼子


ご近所のとうふ屋さんといふ門名(かどな) 豆腐を売りしことなどなきと  今井早苗


亡き母と歩むがごとし春の野に遺品の眼鏡を付けて来たれば  大出孝子


「俺は君にさびしさだけを遺したか」言わせてはならぬ写真の君に  潮見克子


私には何かが足りない仕方なく湿ったからだを春陽にあてる  中野敦子


道を訊くやうに近づききたる人けふ何曜日ですかと問へり  西山千鶴子


輪になりてナースの顔は花のように丸太となりし私を覗く  村井玲子


半分に切ってあなたと食べてみたい膨らみかけた橙(だいだい)の月  森 雪子


母国より父を呼びしと聞いており隣家の二階にためらえる影  岡崎五郎


珈琲を一杯飲まう手のなかで五頁のちに星が滅びる  小田桐 夕



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-06-17 22:56 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 19日

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選


雪の原につつ立つてああ何だらう髪の先からこほりてゆける  國森久美子


せせらぎにしんと向かへる幼子を促さむとしてしばらくを待つ  竹下文子


先生も患者も並ぶ院内のたった一つのファミリーマート  石井久美子


節分に鬼は外へとはじかれる少しはじかれたくもある夜  三谷弘子


五十歩にて渡れば京都 この橋の下からきふに川は曲れり  山口泰子


思ひ出すことあるやうな瞬きす睫毛のびたるみどりご抱けば  大河原陽子


タンポポにハルノノゲシ・オニタビラコ蜂起のごとく二月の野辺に  古堅喜代子


雪しげき日にもお参りできるよう道に沿いつつ墓石ならぶ  澤端節子


いくたびも遺影に向かふ雪の日は雪の声聴くむかしむかしの  祐德美惠子


冴え渡る冬の星座のはろばろと母たりし人還りゆきたる  祐德美惠子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-19 22:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 19日

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選


窓ふたつぬけて午睡のほとりへとユーロビートのささなみ寄せて  中田明子


たそがれの改札口を来る来る来るどのスカートもあなたではない  拝田啓佑


雲のない冬の夜空の月近くここからまっすぐに行けそうだ  逢坂みずき


ミニシアターへ初めて向かう時横に無口なままずっと居てくれし人  姉崎雅子


つつがなく一人で過す節分の豆を數えて邪気払いする  川上とよ


老母(はは)逝きて独りとなりし弟に見送られ待つ海辺のバス停  中村美優


銀色の電車とろとろ曲がりつつ樹立ちの中に吸はれてゆきぬ  丸山順司


音符さえ今や五線符飛び出して窓をこじ開け駆けゆく春は  みずおち 豊


結婚を告げるメールの旧姓の君の名前の花に触れたり  大橋春人


ふくろうの磁石でポンと留めておく春の集いの案内状を  浅野次子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-19 15:49 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 18日

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」五月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


救済を待つ人のごと寒き夜に乗るべきじゃないバスを見送る  笹嶋侑斗


ふるさとはだんだん縮んでいくようだ駅前通りを三歩で渡る  田島千代


暖かく晴れたる今日が立春と薬袋を桃色に替え  宮野奈津子


ほう今は夜かと驚く老父がいてそうだよと答える私がいて  成瀬真澄


ねえきみをあきらめたいよ壊れずに、檸檬で濡らした花が枯れゆく  梅津かなで


三十年ぶりの便りを長い長いメールで送る半日かけて  縣 敦子


朝練としてあかときのひとときを花山多佳子の歌集読みをり  足立信之


ここ掘れと鳴く犬をらずぽつねんと老農ひとり立ち盡くすのみ  石川休塵


夕暮れに迎えに行けば別人のにおいまといて積み木積みたり  大和田ももこ


春立つ日雪舞う店にさくらもち薄紅色に光りて置かる  桂 直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-18 11:29 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 17日

「塔」五月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林信也選歌欄 十首選


ゆらゆらとほどいたままのリボン持ちこれはいるかと夫が言いたり  山内頌子


月あかりしんとして歌に知るのみの死者たちに花が樹が雨がにほふ  小林真代


生まれたての闇に真向かひ降りる駅もう少しだけいつしよにゐよう  田中律子


水色とピンクの帽子が沈み込み歓声のみが聞こえる芋畑  林 泉


いつまでもふくれてないで珈琲の甘き香りのするうちに来よ  大島りえ子


「まだお飲みになるんですか」フネさんの敬語を気にも留めざりし頃  佐原亜子


伊達めがね集めてるんです掛け替へていやなけしきを忘れるために  穂積みづほ


やはり誰も呼ばないでおく明け方の銀箔の月ひっそり笑まう  吉田淳美


高校生だった僕が見たマハは人ごみの向こうで小さくなってた  松塚みぎわ


路地裏の日だまりに猫は寝そべりてそば行く我に眼だけ動かす  丸山隆子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-17 17:21 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 16日

「塔」五月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」五月号 山下泉選歌欄 十首選


バス停へつながる裏道初めての道歩きつつわくわくとせり  上大迫チエ


種をもつ果実の甘さしたたらせ少女ら後部座席にひしめく  黒瀬圭子


一つ二つとあなたの干柿食べながら今この人にとても会ひたい  佐近田榮懿子


身構えるくせがつきいて男の子が四五人われをよけて行きたり  須藤冨美子


やぶ椿くらく咲きゐる宮の杜このつきあたり何か住むらし  田口朝子


潮騒を島の鼓動と聞きながらきみの波打つ胸を見ている  谷口公一


選ばれし子とも思ひて待ちをれば予定の閏日さらつと過ぎき  広瀬明子


わたしらの居たふるさとは広かつた小皿に光る片口鰯  本嶋美代子


釘のようにきみに刺さったわたしなり錆びたらもっと気持ちいいのに  大森静佳


地下書庫に擦れ違ひたり要するに男とはただ一枚の背中  髙野 岬



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-16 22:15 | 十首選 | Comments(0)
2019年 05月 15日

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選



駅出れば冬の雨降るなるようになるしかないとフードを被る  黒木浩子


雪女だから朝には水になるそんな感じで忘れられたい  佐藤涼子


陽をあびて日々に痩せゆく切り干しを食めばほんのり甘味ましゐつ  千葉なおみ


帰らむと一人渡れる思川(おもひがは)妻の挽歌は歌ひたくなし  小川節三


近付かずさりとて離れずごろごろと猫喉鳴らす如き遠雷  菊池秋光


キャプションに「一人おいて」ととばされし男は写真に正面を向く  西郷英治


冬の夜は何かが哭くと妻が言う(水無し河原の鳴き石ですよ)  中山大三


最終のバスならとうに見送った水色の椅子つめたく眠る  吉岡昌俊


渡り止め棲みついてゐるといふ鶴を探して歩く出雲の土手を  越智ひとみ


スマートフォンが冷蔵庫より出て来たりスマートフォンは冷やすのがよし  永山凌平




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-05-15 15:27 | 十首選 | Comments(0)
2019年 04月 11日

「塔」四月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」四月号 前田康子選歌欄 十首選


うりぼうの縞のうすれるころだろう十二歳となる亥年の息子  沼尻つた子


亡くなりし人と散歩の道で会うような青空冬の青空  向山文昭


処方箋わたす事務員金銀に爪よそほへりわが為ならじ  篠野 京


抱かれしこともありたるその胸を抱きて朝のベッドに起こす  数又みはる


今年こそことしこそはと反復し左の足から階段降りる  岡山あずみ


三井寺に友のつきたる鐘の音まだ鳴りてゐるわれのどこかに  坂 楓


海べりを子の住むまちへ向かひをり母といふ字は舟に似てゐる  藤木直子


波うすくよせるに烏かはるがはる降り立ちて触れまた飛び立てり  穂積みづほ


奉納の土付き大根ふともものごときを転がしごしごし洗う  西本照代


花れんこん作り待ちたき夜がありあなたの部屋に揺り椅子を置く  田中律子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-04-11 20:37 | 十首選 | Comments(0)
2019年 04月 06日

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選


山と海のある町なれば道はどこも傾斜してゆく海へ向って  森川たみ子


下戸ひとり置きざりにしてたちまちにめぐりの人等狂いはじめつ  坂下俊郎


ひと群が休耕田の冬枯れを急にとびたつ霧深き朝  岩尾美加子


何もせず過ごす日もよしきんいろの砂がしずかに作る円錐  魚谷真梨子


おそ秋の絵葉書五枚えらびたり歌会に会へぬ人思ひつつ  石丸よしえ


アレッポの戦禍くぐりし石鹸の泡立つちからわが顔つつむ  伊藤京子


さきにいったひとをきれいな魚にして東の空に茜いろの雲  岡村圭子


父の傘黒く重たく 会いたくない時でも父と会わなければならず  川上まなみ


雨の降る電車の中に外ばかり見つめて居たり父逝きしのち  児嶋きよみ


日が経てば徐じょに痛さは消えるはず 夜更けに熱きココアを飲みぬ  中野敦子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-04-06 22:40 | 十首選 | Comments(0)
2019年 03月 05日

「塔」二月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」二月号 真中朋久選歌欄 十首選


帳じりを合わせるために僕たちは落ちてる斧を拾ったりする  片山楓子


海へ行くしかない水のこの流れ。流れが集まる川を見ている  荻原 伸


歩き出せば時間も動く日当たりの良さげな斜面にみかん鈴なり  穂積みづほ


「頑張ってくるわ」とさっと手をあげて行きたる娘勝って戻りぬ  荒井直子


退会者の短かき手紙読み終えて輪切りのレモンほどのさみしさ  黒沢 梓


鍵穴を思ひ出せない鍵ばかり増えてつめたい冬が来ますね  澄田広枝


満月の前後は身体を休めよと月が笑いぬ階段走れば  ダンバー悦子


水底(みなそこ)を流るるように鳥の影ひとつ舗道をよぎりゆきたり  永田聖子


なにひとついのちは見えず乳いろにゆるく流れる霜月の川  野島光世


木犀のかおり従きくるトンネルを傘さしたまま通り抜けたり  山下裕美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-03-05 17:08 | 十首選 | Comments(0)
2019年 03月 01日

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選


土蜘蛛と呼ばれし民の裔にして薄い醤油に馴染めずにいる  関野裕之


脱皮したような気がするさし入れた封筒が手を離れるたびに  上澄 眠


みづからの暗さに昏れる湖に石を拾へば陽の温みあり  清水弘子


二拍子を揺れるブランコ話し合いなんて家族はふつうしないよ  朝井さとる


若さとは浮力であつたかもしれず重たき我はスキップしたり  北神照美


花舖のまた閉ぢてしまへり公園のかりん一顆を拾ひてかへる  杉本潤子


煙草吸いつつその幼子に話しいる女あり夕べの梅田の街かど  橋本英憲


左耳の耳垢ことんと剥がれたり突然の知らせあるがごとくに  柳田主於美


砂糖菓子のような家族かもしれぬくずれぬように言葉を選ぶ  ほうり真子


向きあつてニシン蕎麦食ぶだし汁を残らず啜るうたびとのきみ  藤木直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-03-01 17:27 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 28日

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選


ここがそのさびしい場所ですというように更地に赤いコーンが立てり  垣野俊一郎


隠し釘あまたしづもる木造の教会森に建ちて百年  竹内真実子


寄る辺なささえも暮らしだ新聞を敷いてやさしく靴を磨いて  小松 岬


かぢといふ寺猫ありておそなへのめざしくはへて月よこぎりぬ  足立訓子


街角の花舖の店員つぎつぎと買はない薔薇を嗅がせてくるる  越智ひとみ


木の間よりゆるゆる上りし望の月無疵の空にくきやかに光(て)る  久保田和子


「男なら良かったのに」と手相見にいつも言われる ええ、本当に  はなきりんかげろう


偉そうな人が頭を下げている(理由は知らない)あたまさげてる  真栄城玄太


老人に老犬が添ふ川縁の遊歩道には小春日の椅子  三木紀幸


貨車遠く重きリズムの響く眞夜母子(ははこ)に貧しき時代(とき)のありたる  才田良子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-28 15:21 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 26日

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選


夢をみて目覚めぬままにゆくこともあるやも知れずあるを願えり  西村清子


奥行きをたしかめたくて手をのばすあなたの中の森の深さの  魚谷真梨子


二羽の蝶あるいは雲のやうなりて乳腺写真をまじまじと見る  大堀 茜


夕光をたつぷり背負ふひとが言ふ かくごがきまつたらまたいらつしやい  小田桐 夕


万灯会のあかりわずかに揺らぎたれば仏の相好かわりたまいぬ  杉本文夫


三回忌法要の帰途つはぶきにとまれる黄蝶たちてつきくる  長谷仁子


なり止まぬ拍手のやうに葉は落ちて秋はかうして深まるらしい  福島美智子


絵本より取り出だしたる菓子を食む時には親の口にも運び  益田克行


一合の白きご飯を分けて食むこの閑けさを老いと言ふらし  和田 澄


白猫のふっくらしていた頰そげて年とったねと言えばすり寄る  森川たみ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-26 22:22 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 22日

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選


退会を告げる電話の声ほがら倒れし妻に添ひて生きると  加藤 宙


新北風(ミーニシ)の吹けばサシバの幾群れの渦巻きながら渡りける村  与儀典子


むすめ来て風呂の黒黴こすりをり仁王尊のごとき力に  伊藤京子


ふりむけば白き橋見ゆゆつくりとバギー押しつつ渡りゆく家族  久川康子


生垣の茶の花密かに咲き継げりやがてくる季を静かに待ちて  中島芳子


まっすぐの道を探して迷う娘(こ)がきれいに磨きあげたるヤカン  ひじり純子


桜もみじ雨にあやしく濡れており今朝方の夢わすれてしまいぬ  相馬好子


寝覚めの悪い夢を終日持ち歩く中身のわからぬ荷物のように  藤江ヴィンター公子


じいちゃんは小脇に雨傘抱え込み小学校まで農道をいく  ジャッシーいく子


夕焼けの色尽くるまで唇の渇きに気づかず岡に立ちたり  赤井稚加



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-22 20:10 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 20日

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選


猫が水を飲む音 深い就寝の底には青い花野があって  田村穂隆


書類には「妻未届け」と書くならん入籍のなき婚姻として  山下幸一


苅田焼く煙にかすむ遠き村寺の鐘鳴る一つまた一つ  石川 啓


柿穫るは夕日を篭に詰めるごと農夫の軽トラ轍にしづむ  加藤 桂


森の木を丸ごとかじるようにしてブロッコリーの緑を食す  谷 活恵


瞑想に入りしヨーガの教室にふいに今夜のメニューが浮かぶ  村上春枝


見て見てと言ふ人あらずのぼりくる金の満月ひとり占めする  今村美智子


わが脳を現実逃避させるべく時代小説二冊買ひたり  西山千鶴子


頷いてくれるあなたを視界から外さぬように立ち位置決める  竹田伊波礼


見はるかすひまはり畑のその向かう山の上には電波塔あり  寺田慧子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-20 21:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 20日

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選


砂糖を入れかき混ぜた後のひとくちを味わってからミルクを入れる  双板 葉


そこだけに秋の日射しがあるように欅の梢赤く色づく  村﨑 京


いくらでも眠ってしまう二度寝してまたもや死へと近づくような  真間梅子


夕焼けて京セラビルは輝きぬ次の橋まで土手を歩めば  黒木浩子


カキ入りの広島焼のふはふはを父子の小皿に切りて分けたり  葵 しづか


小春日のやわき光を含みいる肌着取り込む壊さぬように  村尾淑蘭


サンダルがなかなか脱げず足を振る女(ひと)が向かひのベランダに居る  松井洋子


わたくしがまう載らなくても気づかれぬ安堵と怖さ 「塔」にも秋だ  赤嶺こころ


白抜きの母の浴衣の萩の花夕べの雨にこぼれていたり  菊井直子


飴色の夕陽に濡れている廊下 そんな風に泣くなんて知らなかった  宗形 瞳



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-20 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 19日

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選


ふくらはぎに口つけ毒を吸ふとあり我にはとれぬ体位と思ふ  丸山順司


三面鏡に映る数多の吾(あ)の中の一人を見んとして見失ふ  髙野 岬


アパルトマンの壁が月ほどしろく照りいつもの角とはおもわずに越ゆ  中田明子


合歓の花はめざめたままに眠りをり やさしき嘘をいもうとにつく  福田恭子


晴れよりもきっとやさしい色をして洗濯物は曇天に立つ  椛沢知世


虎杖の花は衰へ沢沿ひに野菊が楚々と咲き始めたり  金光稔男


自転車で朝の部活に急ぐ子を蕪の間引きを止めて見ており  竹内多美子


てのひらをひらきてここに滑らせたそんな瑠璃色ちいさき蜥蜴  千村久仁子


硬き椅子に座ればおのずと背筋立つそんなはじまりだったきみとは  山川仁帆


オリーブの葉はひるがへり裏がへり丘のうへからゆふぐれは来る  山下好美




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-19 15:51 | 十首選 | Comments(0)
2019年 02月 18日

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選


陣痛はあれど刻々と死を待つ崖の上からゆらゆらと下を見る  坂村茉里子


わたしたち魚だったし鳥だった記憶の紐を水沫(みなわ)で濡らす  梅津かなで


落とさねば冬は越せぬとふりいそぐ吾の内なる木の葉は何ぞ  俵山友里


黒々と髪結いあげて八重さんはアッパッパ着てお燗つけいし  海野久美


ノルウェイを旅せむと告ぐれどいらへなし起きてつくらな濃き味噌汁を  足立信之


空色の付箋つけゆく歌集にはさびしきウサギが干し草をかむ  田島千代


向い風に漂うとんぼ大丈夫これは時間の流れではない  拝田啓佑


ひざを抱くこどものようにあてのない夜に出逢ってしまう二人だ  長谷川 麟


はじまりは思ひ出せない後の月みづがね色に照るをみてゐる  山縣みさを


宛もなく手紙を出してみたくなる文具屋で花の便せん見つけ  松岡明香



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2019-02-18 19:43 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 25日

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


無人駅のベンチの裏の約束を空にさらしている水たまり  近江 瞬


始末書を書いて来たよとだけ言って息子はエビチリを飯にのせ食う  髙鳥ふさ子


ほんとうはやるべきこともあるだろう朝は遠くのパン屋へ向かう  長谷川 麟


われに子のみたりありてそれぞれに異なる匂ひの秋訪れたり  瀧本倫子


夫の弾くベンチャーズ聴き塔を読むこれでよいのだこれがよいのだ  池田真喜子


絆創膏は指輪のごとし釣り銭を荒れた両手で渡す右手に  栗栖優子


記憶の絵のしづかに開く夕暮れはまたラビリントスの入口であり  戸嶋博子


眠りつつ片笑みもらすみどりごは生まれる前の野原にいるか  宮脇 泉


夜更しは老の特権 ながき夜に『自負と偏見』読みかへしゐる  足立信之


サイレンのなる方角を見たそうにしているセイタカアワダチソウまた  鳥本純平




(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-25 14:47 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 24日

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選


ねこじやらしの海なくなりて寒さうにあらはる「売物件」の立て札  越智ひとみ


上弦と下弦の月のちがいさえ知らぬを生きて地球にひとり  川俣水雪


紫の小花でありしを忘れ果て木通はうつとり秋空に開く  森川厚子


母は母の幼い記憶に戻りゆく父母がいた庭は日溜まり  祐德美惠子


郵便の来ざる秋の日玄関の石のすき間に小草(こぐさ)抜きたり  佐光春信


言ってから忘れよなどと見せ消ちのようで心底かなしかりけり  相馬好子


大きいというだけでかくも鬱陶し 電車、隣席(となり)で喋らぬ息子  みぎて左手


文脈はふいに途切れてやわらかき余白のむこう細き雨音  みちくさ


黒き糞にブドウの種が混じりいてキツネが夜に来ていたるらし  山下美和子


八日後に君はおそらく好きになる虎に変わってしまった男を  伊地知樹理



(新井蜜)2019



# by trentonrowley | 2019-01-24 22:19 | 十首選 | Comments(0)