暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 129 )


2018年 05月 26日

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」五月号 三井修選歌欄 十首選


ひかえめな夕焼けのようにはにかんで笑うあなたの母になりたい  高松紗都子


おとなしい少年でありきわたくしはアリジゴクに蟻おとすことありき  宗形 光


和箪笥をのけると壁にカシニョール展のポスター貼られありたり  松浦わか子


恋猫がアオアオと鳴き今だけはアオちやんと呼ばれ遠ざかりゆく  浅野美紗子


スカアトをひろげ椿のくれなゐの花拾いゆく布たゆむまで  新井啓子


おのおののハンドクリームの香り満つ午後の仕事が始まる前の  和田かな子


我の名を呼ばれた気がして立ち止まる芙蓉の花咲く墓地は青空  小林千代


観るに見る視るに診る看るわたくしが母をみるのはいずれにあらむ  坂下俊郎


人と会うことの疲れがしたたりて重力に引かれるように眠りぬ  山川仁帆


まだ眠たい水曜の朝勝手に寝坊してよい日と決めてあと五分寝る  春澄ちえ



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-26 15:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 24日

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」五月号 小林幸子選歌欄 十首選


ばんざいの形のままに受けとりてをのこの臍が丸見えとなる  竹内真実子


テヘランを去る日路上に痩せこけし子猫のおりぬ真白き子猫  秋野道子


機織(はたお)りの音しか聞こえぬ道を抜け間人(たいざ)の浜に文を燃やせり  岡部由紀子


後輩は丸いほっぺを光らせて産休という木立に消える  中井スピカ


びわのような人だと思い見つめおりうぶ毛のよろいは傷つきやすし  中山惠子


三日月の凍えて空に貼り付きぬ朝刊はすでに配達されおり  ひじり純子


助手席の人と話は弾まざり送ると言ひし口が乾きぬ  益田克行


賑わいを縫いて小路にさしかかりそっと触れたる手袋の指  森 雪子


結び方を知らないからねネクタイをほどく指に責任はない  山岸類子


すっぴんにメガネをかけてマスクして最近ほしいものは印泥  山名聡美



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-24 16:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 22日

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」五月号 永田淳選歌欄 十首選


他動詞のぬらすといふことゆびさきは椿の雪をそうつとはらふ  千村久仁子


よく眠れる枕売らるるその横で紙コップのココア飲み干す  朝日みさ


ヒヤシンスの匂いのせいだ 言い訳を重ねてしまう夜半(よわ)のリビング  石橋泰奈


あの蟹を食べられなかったと今日もまた繰り言をいう楽しみがある  岡崎五郎


鹿のつのに触れてゐたのはそれぞれに隠しごとをもちよつたひとたち  小田桐 夕


偶数でも奇数でもないゼロのようにあなたは敵でも味方でもない  北山順子


「もしもし」といふだけで切れしがその声は生前の友ありありとして  河野純子


手品(マジック)が趣味だと云うてゐし旧友のとある日ねずみ講に誘ひ来(く)  篠野 京


モロゾフのショコラ一箱君に買う君が生きてる振りをして買う  ジャッシーいく子


むらさきのトレッキングシューズ置かれたる玄関に差す日暮れのひかり  松原あけみ



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-22 20:25 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 20日

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」五月号 江戸雪選歌欄 十首選


鷗らが空に漂ふ次々と身を疾風に放つた者たち  髙野 岬


いまもなほ家族の数の椅子を置きその空席に時をり掛ける  西山千鶴子


他人にはどうでもいいことなれど明日われは散髪をしに行く予定  丸山順司


宅配の箱を開ければ山菜のわきに蝋梅ひと枝香る  佐藤涼子


出征を見送る汽車の窓に寄りおみやげ頼みし三才の吾  梅下芙美惠


突然のはしり雨受けビルの壁に張りつきてわれ静物画となる  古屋冴子


金沢の雪のにおいの付箋です手紙に貼りてあなたのもとへ  堀口 岬


水底に白いターバンの女ゐて忘れないでとあれは誰だらう  祐德美惠子


あけがたの夢に目覚めぬ逢ふことのもうない人のふらりあらはれし  竹尾由美子


「誰とでも話せるようになりたいです」その絵馬の前を去り難くおり  垣野俊一郎



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-20 22:18 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 18日

「塔」五月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」五月号 真中朋久選歌欄 十首選


弊社には様式あらずグーグルに「退職届 書き方」と聞く  逢坂みずき


いきなりに両の指にて輪をつくる何事をかを教へむがため  村上 明


勝利者にはなし聞くとき「放送席、放送席」となぜ二回呼ぶ  田村龍平


歩道へと足のさきより降りてきて鳥はみずからの影にいたれり  中田明子


オリオンもシリウスもいつもどおりなり月のみ赤く欠けいるこの夜  山下美和子


すべり落つる刹那にとまる技をみせ緑葉の先にしずくの光る  市居よね子


さびしいかいつて聞くから淋しくなる夕べ父と並びてあふぐ夕焼け  臼井 均


黒皮の手袋はいつも右ばかりなくして残るを箪笥にしまう  高橋あや子


約束はときにだれかを傷つける私はわたしの森へと歩く  増田美恵子


煮る沸かす洗つて回す他動詞を使ひすぎたかヒューズが飛びぬ  伊藤京子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-18 19:12 | 十首選 | Comments(0)
2018年 05月 16日

「塔」五月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」五月号 栗木京子選歌欄 十首選


靴音がわたしのあとをついてくる観る人のなき素描展示室  岡部かずみ


しろがねのナイフのやうな愛なども知らず越の国にて果てむ  山下好美


芽吹きだろうか 手袋の中まどろんだ深爪がそのかたちに痛む  加瀬はる


薄雲が空を透かしている午後の誰かに伝えたいだいじょうぶ  紫野 春


夜半に目覚め己が来し方思うなりエッシャーの絵に迷い入るごと  鎌田一郎


穴を出てブツブツ呪詛の泡を吐く大潮の夜は蟹になりたし  王生令子


溺れたら悪いとわかるならもっと強い力でやめさせてほしい  丘村奈央子


ほおたるは昆虫ですかと妻が問う雪が降るから寝てしまいたり  中山大三


かなちゃんを預けていこうと言う五歳そうすりゃなんでもはやくできるよ  矢澤麻子


「はくちょうはくちばしの先から沈むよ」と凍て空の星を子らに指さす  上杉憲一



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-05-16 20:07 | 十首選 | Comments(0)
2018年 04月 30日

「塔」四月号 月集 十首選

「塔」四月号 月集 十首選


意味もなくまた呼んでゐる呼ばれても迷惑だらうが雪のゆふぐれ  永田和宏


さまざまな会社のカレンダー路(みち)に売る老人のゐて一つ買ひたり  花山多佳子


たまきはるいのちなどともおもはねどひかりのなかにいりゆかむとす  真中朋久


丘の上の畑なかの道ゆふぐれてかなたにスカイツリー灯れる  小林幸子


一すじの重さいか程制服のおとめの肩にかかる黒髪  石本照子


留守中にゐねむりするなと着ぶくれて出かける妻が振り向きて言ふ  上大迫 實


君は子音わたしは母音オリオンを指させば互ひの肩が触れあふ  苅谷君代


一刷毛の雲の浮かぶを眺めつつ湖西線で行く友の墓参に  貞包雅文


その話は一先づ置いて 城跡の縁(へり)より見下ろす石垣の反り  久岡貴子


布巾には夢二椿のまろき花咲きをり母に赤飯を炊く  干田智子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-04-30 21:51 | 十首選 | Comments(0)
2018年 04月 28日

「塔」四月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」四月号 真中朋久選歌欄 十首選


雨音に醒めゆくまぎわの夢のなか明日会わむ人の髪濡れており  土肥朋子


月集を読みをる車窓の陰りきて彦根は雪なりきみ住む町の  広瀬明子


もうどこを捜せど会へぬ人なれど夢の駅にてすれちがひたり  石原安藝子


十年(ととせ)経て母の肌着を捨てる日の朝しらじらとありあけの月  斎藤雅也


あかき鳥居をぬけてくあなたの背がみえる わたしはもつと強くなれるわ  田中律子


他人事と遠く見てゐし一文字がカルテ追ふ目にとびこんで来ぬ  林 雍子


「わざわざ」と受付のひとは言ひかけて「はるばる」と言ひ直したり  穂積みづほ


二穴パンチの一穴だけを使うときの空打ち側のようなむなしさ  吉田淳美


元日の本屋であなたを見失ういつか会えなくなるね、たやすく  上澄 眠


夢に来てダッフルコートを脱ぎゐしが息子にあらず歯並がちがふ  清水弘子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-04-28 20:57 | 十首選 | Comments(0)
2018年 04月 26日

「塔」四月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」四月号 永田和宏選歌欄 十首選


息を吸えばもう眠るらし母の夢にわたしの知らぬ一頭の馬  金田光世


雪の下の草食む馬を見やりつつ柵に錆びたる折れ釘を抜く  清水良郎


なつかしい人との夢をさめて聴く冬ちかき朝の鋭き風の音  野島光世


うつつには見たことがなく夢にだけいる人のいて時に死にたり  相原かろ


手触れれば父の額の冷たさよ死をはじめて見し十六の冬  大塚洋子


雨あがりのにおいが好きだ 深く深く目を瞑りいるあなたは森だ  数又みはる


でもやっぱり呆けていない振りをして陽のさす冬至に雪かきをする  近藤桂子


髪少し生えてきたとのメールありそれより明るき気配がうれし  西川照代


電波傍受もあるかもしれぬ仕事場へガラケーにてかける急ぎの伝言  福井まゆみ


シャワーヘッドの穴を抜けゆくとき水はこそばゆくなる ほんの一瞬  一宮奈生




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-04-26 20:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 04月 25日

「塔」四月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」四月号 池本一郎選歌欄 十首選


ほんたうはわからないんです長いこと自分の影と思つてきたけど  岡部かずみ


真夜を来て冷えきった手をまっすぐに君に触れたりまだ温かき  今井眞知子


重さなき魚群のようなかたまりが乗継ぎホームを横切りてゆく  福西直美


のら猫に汲みおく水に薄氷のはりて鈴鹿の山並白し  倉成悦子


湯を浴びれば今日のうろこが剥れゆくひとりの密室さかなになりて  庄野美千代


窓の辺の多肉植物に陽はさせり女生徒とふたり保健室にゐる  竹尾由美子


冬ざれの畑に頰被りのをとこをりいくたびか立ち腰を叩ける  古屋冴子


母が言ううらのおじさん死んじゃったふるさとにまた空家の増える  真間梅子


あの山の裾野に残る友の家無人となりしその後を知らず  丸山隆子


おやゆびがこのごろおいしくないねんと小さな声に六歳が言う  ぱいんぐりん



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-04-25 23:01 | 十首選 | Comments(0)