暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 191 )


2018年 11月 28日

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選

「塔」十一月号若葉集 山下洋選歌欄 十首選


西病棟ハ階ロビーで酷暑日の夕陽を見ていた歩ける日には  髙鳥ふさ子


種の字を名に持つ島でパッションの種は噛み砕くものと知りたり  瀧川和麿


その午後は長椅子に深く眠りいて沼のごときところよりもどり来  森川たみ子


覚悟をと医師に言われて窓ながむおぼろ月夜に椿のにじむ  井戸本チズ子


鯨にも眠くなる日がありさうだ一輛電車に見る白い雲  岡田ゆり


熱(ほめ)く身を曳きて帰れば夕闇にしづまりてをり汗も怒りも  瀧本倫子


夕まぐれ電車を一本見送っていままっさらなわたしがほしい  松本志李


ペンギンや飼育係にあらずとも日本脱出したしこの暑さ  行正健志


連れてきた去年のあの娘にもう少しやさしく笑ふわたしであつたら  栗栖優子


もう会へぬひとに会ふとぞ玄関を出でゆくあなたがコートを羽織る  山縣みさを




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-28 22:08 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 28日

「塔」十一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」十一月号 三井修選歌欄 十首選


祖たちのとほき宴を想ひたり朱のさかづきが筥より出でて  祐德美惠子


立ち止まり振り返りみて去り行きぬ瑠璃色深き尾をひからせて  廣瀬美穂


目的地は海でそこまで行く汽車が来たから捨てた集めた花を  川上まなみ


さけびつつ午睡の夢より目覚めれば折り重なりて子らは眠りぬ  𠮷田 典


飲みながら席譲られし回数を競いておりぬこのテーブルは  岡村圭子


黒樫に細かい雨が落ちてゐてねむりつつ聞き覚めてまたきく  松原あけみ


救急車と蝉の声のみ聞こえくる炎帝統べる石塀の道  冨田織江


祖母の蚊帳の一面裁ちて仕立てたる長き暖簾の硬き手触り  寺田裕子


仏壇の懐中時計の竜頭巻く月命日の靜けき朝に  三木紀幸


イギリスの田舎の道に立ち上がり野うさぎきょとんと我を見おりき  丸山隆子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-28 18:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 27日

「塔」十一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十一月号 小林幸子選歌欄 十首選


水晶の首飾りつけぽつねんと母は待ちをりドアを開ければ  葵しづか


息を継ぐ、木の下に降る蟬時雨 脳(なづき)割れゆくザクロのやうだ  新井啓子


夏の陽を反しミラーがひかり居り草むらに置き去られし自転車  岩本文子


天皇のため息のことなど思う帳簿に印を捺しつつ  うにがわえりも


見もやらず人ら過ぎゆき閉店のデパート巨き石窟となる  小川 玲


小さき火が夜空へすうつと上りゆき花火の花になる前が好(い)い  竹内真実子


どうしても「アナタハ人ヲ殺シタカ」と聞けぬまま今日に至りぬ  谷口富美子


自分たちはかうふく節と言ふのです 声ふるはせて八月十五日  西内絹枝


幼名で呼びかけながら田の端にジュースを置きて隣人が行く  古栗絹江


膝をつき蚊帳すそそつと持ち上げる所作をおぼえし少女の頃に  久川康子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-27 22:55 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 26日

「塔」十一月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」十一月号 永田淳選歌欄 十首選


思い出がつと立ち上がり紫のボタンを押してバスから降りる  王生令子


替えたての畳に頬をおしつけてあなたが桃を剥く音を聞く  小松 岬


海中より出てくる海女を傘持ちて待つ人の見ゆ志摩の濱辺に  清水千登世


ひからびたミミズ引き込む蟻の群れ直葬にしてと遺言に書く  田辺昭信


わが指の触れる刹那に散りそむる昨夜(きぞ)しらしらと透けし芍薬  津田雅子


火星と月を同一画面に撮り終えてただそれだけで幸せとなる  鳥山かずみ


絹のもつやさしき縫ひ目にひかれつつ戻れぬ日々を想ひて歩む  広瀬桂子


落蟬は竹のはうきにからみつく朝の日差しのやはらかきとき  森本忠治


ノイズキャンセリングなどという語も使い座禅の境地を説く若い僧  中井スピカ


喜々として墓石に水を注ぎしのち大人のうしろにしづもれり、児は  加藤和子





(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-26 20:11 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 25日

「塔」十一月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」十一月号 江戸雪選歌欄 十首選


さようなら息をひそめるような日々電動ミルでコーヒーを挽く  井上雅史


仕事後に歌会に行きて評言えば時どき電話用の声出る  逢坂みずき


ヒューストン、聞こえてゐるか? 俺はもう立ち上がるのも面倒なんだ  益田克行


唇のしびれ微かに続きをり灼熱の道を歩みゆくあひだ  赤井稚加


御理解と御協力とを幾たびもお願いされけり都会をゆけば  石井暁子


シャンシャンとクマゼミの鳴く故郷(さと)の夏 母は小エビを笊に茹であげ  田中ミハル


この昼は山葡萄の葉がよくそよぐ子らは遠くの町に暮らせり  ぱいんぐりん


兄さんはハンサムだつたうちの人は無口だつた すこしさみしい  森永絹子


見下ろせば泥水は輝きゐるならむドクターヘリがまた一機行く  高橋ひろ子


昏さとは黒さではないふかぶかとひろがる午睡ののちの曇天  中田明子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-25 21:47 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 22日

「塔」十一月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」十一月号 池本一郎選歌欄 十首選


緩めれば炭酸の泡立ち上る 理由の見えぬ不安というもの  鈴木健示


断捨離は物ばかりでなく人もまた切りし電話の重みを胸に  大沼智惠子


夕虹の消えたる空のむなしさに牧童のごと星座を恋へり  熊澤哲哉


生産性という言葉が僕の胸に咲くタンポポをちぎっていった  田村穂隆


乗鞍に雲湧き立ちぬ職辞して無頼に憧れ無頼になれず  戸田明美


山椒魚まれに見てゐし疏水なるに山瀬の荒れに埋めつくされぬ  三浦智江子


倒されし椅子にて聞きおりうら若き歯科衛生士の空(す)き腹の音  村上春枝


ブロック塀にボール投げする少年の間合のよくて転寝に聞く  山代屋貞子


渓谷の画像にゆらゆら蝌蚪に似し空撮ヘリの自らの影  金田和子


顔見知りの蜥蜴に出合ふ物干し場に一言二言こゑをかけやる  福島美智子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-22 20:31 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 21日

「塔」十一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」十一月号 永田和宏選歌欄 十首選


あの夏にあなたを待ったバス停の時刻表まで大好きだった  多田なの


おそ夏の光を濾せる木のしたを豹柄おみなとなりて過ぎゆく  山名聡美


うどん屋の幟だらんと垂れ下がる大残暑なり風のなき街  有櫛由之


嫁になり姑になりて寡婦となる やうやく春の日祖母となりけり  伊藤陽子


ラッシュ時の波を掻分けやって来る向日葵柄の麦わら帽子  田中美樹


われの育てし葱を納豆にさはに混ず里帰りして来し青年は  松井 滿


カーテンのように褪せゆくからだしてつよくさびしく君を恋いおり  福西直美


わたしの中にやさしき獣ゐることを薄き髭剃るときに思へり  千葉優作


手つかずの朝の空あり後戻りできないように荷物をすてる  黒木浩子


真正面のひとに向かって話しつつ隣のあなたを思って話す  竹田伊波礼



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-21 20:10 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 20日

「塔」十一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」十一月号 真中朋久選歌欄 十首選


呼び止めるざんこくふり返へるやましさそのうへ希ふひそけさ  國森久美子


神隠しに遭いたるような集落のカーブミラーに消えてゆく鳥  数又みはる


たなごころに載りし卵のひんやりと昨日の嘘のほのかに灯る  黒瀬圭子


電燈をおほひし黒布今夜から外してよいかと自ら問ひし  阪上民江


紫陽花が好きだったからと亡き母の墓前に兄嫁添えくれし夏  ダンバー悦子


初瀬山を守りし童子のひとりなり雨宝童子の敏き目と合ふ  東郷悦子


看護師の若きに抱かれその胸に曽孫と同じ「サワ」の名を見る  中村佳世


獅子踊りの少女ら垂らす扱き帯ゆらゆら揺れて天神まつり  山崎一幸


たぶんもう眠れそうだなうつぶせの背中にふれるせんぷうきのかぜ  上澄 眠


眠れずに薄目に見れば扇風機月の光を浴びて立ちおり  宮地しもん




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-20 14:46 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 19日

「塔」十一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十一月号 栗木京子選歌欄 十首選


水に咲く白き澤瀉ひそやかに命閉ぢゆくものある夕べ  澤井潤子


鰻好きのお祖父さんふたり我にゐてそれぞれ贔屓の鰻屋ありき  小林真代


ちんまりと手頃な暮らしに浸りつつ暑気払いとて櫃まぶし食う  落合花子


ひらがなにおもひうかぶるまくはうり最後のひとつと太き手がくれぬ  杉本潤子


船の灯に誘はれくるかつばめうを船の速さに並びて飛べり  炭 陽子


身のうちに感じながらに寝入りたり二キロ先より鉄路ひびくを  竹下文子


駅からを青筋揚羽が付いてくる海へ行く道尋ねるように  橋本恵美


真つ暗でなければ寝られない人の肩のあたりを薄明かりに見る  穂積みづほ


へろへろと去年の糸瓜が芽を出すから男なんてと思つてしまふ  大島りえ子


どくだみのにほひ残れる手で割りぬ昼餉のための卵二つを  尾崎知子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-19 19:50 | 十首選 | Comments(0)
2018年 11月 18日

「塔」十一月号 月集 十首選

「塔」十一月号 月集 十首選


夕闇に白木蓮の咲きのこり守れぬ約束なれば忘れず  栗木京子


やかましき尾長の声にやはらかな声の交じれば雛鳥ならむ  小林幸子


鳥影がひとつよぎりてゆきし後夏の広場の翳りてゆけり  三井 修


蛇に注意のはり紙あれば引き返す露天風呂の脇の木の繁る庭  黒住嘉輝


九時までに出さねばならぬ生ごみのビニールに透けてひまはりの咲く  亀谷たま江


"南洋"を憧れのごと聞きいたり幾人もの父見送りしゆえ  黒住 光


再生する声のうしろに透けてゐるいちまいの皮膜のやうな蝉声  河野美砂子


夫すでに亡き家なれど祀りのたび募る帰心は抑へ難しも  陳 淑媛


降り出でし雨に素足のサンダルの帰省のむすめは独り身にして  干田智子


しんしんと時間がわれに下りて来る夏、墓石の汚れ拭くとき  松木乃り


(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-11-18 14:26 | 十首選 | Comments(0)