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暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 261 )


2019年 09月 03日

「塔」八月号 月集 十首選

「塔」八月号 月集 十首選


矢車草のももいろの花青き花ゆめのごとしも沼のほとりに  花山多佳子


吹降りの雨にまじりてちりちりと春の鳥鳴く夜の明けるころ  小林幸子


夜の明けに古時計のごと鳩の声シロツメクサのあまねく起きつ  なみの亜子


薄明を裂きて一番に飛ぶつばめよろこびの白き胸を反らせり  藤井マサミ


父と母たづねてこぬか星の夜を家族のソックスかわく軒端に  大橋智恵子


若妻のあはれなる死も目守りたる桜樹伐られつ隣の家に  後藤悦良


釦屋にぼたん選びしときありぬ人待つよろこび知り初めし頃  鮫島浩子


夜を走る飛脚のやうに定刻をはしる電車を遠く聞きをり  谷口純子


高瀬川沿ひのさくらの咲き初めに連れ立つことはつひになかりき  万造寺ようこ


死は望みとは言はざるが靜かなる響きのありぬ胸の底には  山下昭榮



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-09-03 15:29 | 十首選 | Comments(0)
2019年 09月 02日

「塔」八月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」八月号 小林信也選歌欄 十首選


桂にて落ち合ひたるはいつの春浅葱のコートに手を振りくれき  竹下文子


旅先に路地みつけては入りゆく娘はしなやかな猫のやうにも  藤木直子


音たてずそれぞれの部屋に過ごしいる家族の気配がこの家に満つ  矢澤麻子


靴紐を昼の電車に結ぶときもろとも傾ぐ春のひかりと  立川目陽子


歩数計持ち歩かねば歩いてもつまらんねえと言いつつ歩く  土肥朋子


半分は聞こえぬ電話にどうとでもとれる返事をたまに挟みぬ  穂積みづほ


水茄子に添へたる箸の涼しかり窓より遠く富士山の見ゆ  筑井悦子


山吹の金色(きん)の風中バギー押すわたしはいつの世のわたしなる  大河原陽子


いつの間にか夜明けは来たりもう少しうすむらさきのねむりがほしい  黒沢 梓


早苗とか佳苗という名の友達が教室にいた昭和のころは  山西直子



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-09-02 17:17 | 十首選 | Comments(0)
2019年 09月 01日

「塔」八月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」八月号 山下泉選歌欄 十首選


白菖蒲 母から娘に変更す吾の保険金受取人を  沼尻つた子


「睡蓮」の硝子に映るわれの影離れれば暗き淵にたたずむ  伊東 文


多摩川の流れにしばし目をおきて父の近況母より聞きぬ  徳重龍弥


天皇の左にいつも添う人を名をもて呼びて親しみて来し  橋本成子


和箪笥に母の着物の遺されて藤や桔梗や竜胆の色  青木朋子


浅瀬より戻りし脚の冷たさを拭ってやれば小石くれたり  西川啓子


いち早く運転席の真後に立つこと嬉し子供のように  西本照代


愛しすぎた方が負けなのが恋ならば負け続けていたかったあなたの森に  吉田淳美


ゆく径に灰色の羽根をひろひたり図書館まではゆるやかな坂  杉本潤子


最たるはプロサーファーか数多くわれに向かざる職はあれども  益田克行



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-09-01 20:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 31日

「塔」八月号 なみの亜子選歌欄 十首選

「塔」八月号 なみの亜子選歌欄 十首選


鴨川の向かう岸なほ暮れのこり金管楽器きらめきにけり  篠野 京


山つつじ咲ける里山陽のぬくくふとき蕨にわらひ込み上ぐ  加藤和子


一度きりと思へば一度を会ひにゆく石山駅ゆバスにゆられて  白石瑞紀


友ねむる霊園を地図に辿りゆく新居を訪いしかの日のように  天野和子


自尊心むくむくかかへてわたしには延齢草の咲くむらがあり  國森久美子


春時雨校舎を濡らしすぎゆきて輪郭確かなゆふぐれとなる  坂根美知子


重なれる裸体のごとし昇る日の顕(あらは)にしゆく砂のうねりは  仙田篤子


追分けの道にタンポポ夕暮れて右は越後路左は木曽路  古林保子


灰色の海まへにして立つときに頭(づ)にあるといふ野に雨がふる  髙野 岬


乗り換えて幾度か逢いにゆきたりきつかのまにして五反田を過ぐ  橋本英憲



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-31 16:04 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 30日

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」八月号 永田和宏選歌欄 十首選


錆びた血の匂ひ流るる洗面台夜になりたいやさしい夜に  大江美典


泣きたくて泣いてみたけどさみどりの五月は我を慰めもせず  佐伯青香


クロールで息継ぎするときふと見えるあちらの世界にいってはならぬ  王生令子


春キャベツ緑の外葉を剥がすとき桜の花びら数枚抱く  伊藤芙沙子


片目閉じ睫毛に止まる花びらを払うあなたの白き指先  小林千代


けふ友の持ちこし水仙の花の香に目覚めて夜更熱き茶を飲む  中西よ於こ


暗き夜は望むべくなく戸を閉めてカーテン閉めて闇夜を作る  西村清子


抗いがしだいに弱りちぎれずに雑草の抜ける感触が好き  水田米造


菜の花のごとく明るくふるまって年度当初をしのいでおりぬ  垣野俊一郎


茱萸(ぐみ)の実を姉と競いて摘みし生家 ないものばかり夢に出てくる  佐々木美由喜



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-30 21:52 | 十首選 | Comments(3)
2019年 08月 29日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


発熱の子どもを負うて戻り来つ妙にレトロな負(おぶ)ひ紐にて  森尾みづな


立ち上がりうつむく男は十九年一緒に過ごした猫の死を言う  高原さやか


水張り田の蛙なく季また巡り十八年のプールに通う  鯵本ミツ子


吹き抜ける風に手帳ははためいて飛べなくたってペンギンも鳥  近江 瞬


入院の母のパジャマに洗剤のかをりほんのり残りてかなし  木村珊瑚


春耕の進まぬ田畑を見下ろして高速バス行く下弦の昼月  小林多津子


言ひ訳に小のうどんをオーダーす夏のデニムが腹にくひこむ  佐光春信


迷うなら楽しい方を選びたいふわトロ卵にスプーンを入れる  中野敦子


少しづつ世界が広くなつてきた大盛とおかはりはしないさう決めてから  林 龍三


縁談をことわりし日のホーホケキョ婚活仲間は庭の木にいて  淵脇千絵



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-29 15:49 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 28日

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」八月号 小林幸子選歌欄 十首選


夕焼けを肺の奥処に吸い込みて吐ききりしとき街は暮れたり  永久保英敏


はつ夏の男の人の肩あたり猫の赤ちゃんみたいなにおい  山名聡美


分析のできない思いは澱となり上澄みだけが揺れているなり  黒木浩子


遅滞なく吾をゆかしめよ底しれぬ暗闇にただ耐へてゐたりし  一文授可修


義経の斬首の頭より軽からうキャベツひとつのレジ袋なら  北島邦夫


藤色に染めし着物に亡き母の亀甲の帯締め初夏の街行く  森川厚子


をりをりの庭の花もち訪へば自在に活けて母喜びき  𠮷田京子


とこしえの眠りはいずれくるものをひと夜のために眠剤を飲む  西村美智子


笑ふことも大切なりと教へられき君の栗色の長髪の美(は)し  柴田匡志


麦秋の禾の先まで燃え渡る風のかたちに波打ちながら  山本建男



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-28 21:37 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 27日

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」八月号 三井修選歌欄 十首選


ゆるき坂登りつつ見る夕茜ひとりの部屋にいま満てるかも  森川たみ子


姉が切りふたりで餡を入れ丸む今年は子らの来ぬ蓬餅  川井典子


それからは親友となる赤色の折り畳み傘貸しくれたる人  髙山葉月


開いたらコバルトブルーの傘でした 海底をゆくような日曜  伊地知樹理


むらさきの悲しい雨も降るだろう地球のどこかジャカランダ咲き  川俣水雪


掘りたてのタケノコ置いて軽トラで立ち去り際に「すぐ湯がいてね」  木島良子


線路際に茫然と立つ母の辺に幼き我はただ立つてゐき  鈴木美代子


朝な朝な生駒の山を遠く見き妻を解かるる日を思はずき  西山千鶴子


抗わず流されもせず黒布のように鯉おり浅き川底  福西直美


姫沼の化身のごとくひっそりと杜若白く咲きて匂えり  山内恵子



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-27 17:20 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 27日

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」八月号 山下洋選歌欄 十首選


踏切の向こうに立ちいるリクルートスーツの脛のいとどまぶしき  宗形 光


サンバイザー降ろして車を停めたあとバニティミラーで化粧する妻  久保まり子


蛇口よりあふるる水のつつがなし病み人置きて帰りきし手に  三上糸志


助走が必要だから逃げ出せない フラミンゴ舎にぎゆつとフラミンゴ  森永絹子


寡黙なるひとの怒りのごとき髭 パン屑付くをつひに言へざり  栗山洋子


工事現場を通れば生き生きと現場監督時代の話をする義父は  奥山ひろ美


アイシャドウ伸ばした指をそのままにこの指とまれのきらきらまみれ  椛沢知世


花びらのやうにも見えて春風に羽を持たざるものが飛び交ふ  高橋ひろ子


君はもう夏の横顔いつだってわたしばかりが戸惑っている  魚谷真梨子


バルコニーに花を植えれば小鳥来て花見て我見て飛び去っていく  藤江ヴィンター公子



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-27 14:52 | 十首選 | Comments(0)
2019年 08月 24日

「塔」八月号若葉集(永田淳選) 十首選

「塔」八月号若葉集(永田淳選) 十首選


樹のごとくただ立っているこのひとは凭れても叩いてもただ立っている  亀海夏子


夜八時また来るという広き背が病室の白き扉に消えて  大江裕子


ヨーロッパ旅行に出たる父母のこの世にあらざるごとき十日間  松本志李


好きな国はイギリスといふ心情の古層に化石〈キチクベイエイ〉  足立信之


胸開き癌を削ぎたる母が子に鯛の身はがす五月の節句  井龍哲朗


もしもだが彼女と結婚していたら家族に増えた果物の名前  内田裕一


おそろいのシャープペンシル君はもう使ってないかな使ってるかな  若紫音佳


私から黙って三歩後ずさりそのシャツ良いよと褒めくるる夫  大和田ももこ


ひまわりのアンダルシアは行けぬ場所はたけの隅に向日葵を蒔く  長岡真奈美


国宝の絵巻を修理する人ら木綿の白いシャツ着てみんな  大井亜希



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-08-24 15:58 | 十首選 | Comments(0)