暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 172 )


2018年 10月 16日

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選


人影の石はもうなし銀行の前に母子(ははこ)の腰おろしゐる  栗栖優子


騙し絵の鳥に見られるあなたとの朝の食卓、夜の食卓  岡田ゆり


何事ぞわが店先にバス停まる 蛇の横断待ちているらし  松村豊子


何もなき荒野に立てる風車群風の向こうに樺太が見ゆ  行正健志


ちょっとだけ嬉しいことを何気なく話す人がいることも嬉しい  松岡明香


躊躇いを綴じる日日あり夏蝶の翅詰め込んだ箱を燃やして  梅津かなで


筆談で祖父は「へへへ」と笑い声を書き足しておる険しき顔で  近江 瞬


正しければ抗ふすべなし花鋏もちて過分を切り落としたり  瀧本倫子


ぎやまんの器に君を閉ぢこめてひと夏ずつと雨を降らさう  灰岡裕美


やわらかき葉に一本の足で立つティンカーベルのようなねむの花  森川たみ子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-16 16:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 28日

「塔」九月号 月集 十首選

「塔」九月号 月集 十首選


プルメリア一輪髪に飾りたり初夏のゆふべのフラの踊りに  栗木京子


森の空みむと巻きしめ昇りたる山藤のはな天辺に咲く  小林幸子


かぜのとの遠きに見えて白壁のややに剥れし父の生家の  尾形 貢


舟着場跡は街なか江戸の世を川と呼ばれて水は過ぎしか  小石 薫


わたくしが拝まれている心地せり食卓の夫が手を合わせると  小島さちえ


プロポーズはどのやうにしたかドアの脇で次男が小声で我に聞きくる  小林信也


柵越えてふたりの少女川べりに肩をひっつけしゃがんでいたり  なみの亜子


鳥の群れ見えなくなるまで見てをれば空とわれとがとり残される  久岡貴子


鳥の声あるいは兄のこゑならむ旅の我らを見下ろす一羽  干田智子


檜葉の樹の囲へる墓処に歌声はとどまりをらむ墓しまひても  万造寺ようこ



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-28 17:09 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 25日

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」九月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選


防波堤を地元の猫のしなやかに尾の先見えて海側へ消ゆ  森川たみ子


峡ふかくよぶ声聞こゆ雨の間の鳥たちさわぐ川をおりゆく  赤井稚加


固く締めてもあまくなる捩子の不安年金明細通知書届く  伊勢谷伍朗


何もかも手放したいと思う時傘を持たずに梅雨に濡れ行く  白石絵美


旧友を十年振りに訪ねれば嫁が逃げたと淋しく笑ふ  三鴨 卓


歯切れよき講師が言ひし「なまあし」の「素足」にゆきつくまでの玉響  山縣みさを


オリヨ?ってきみが言うまで揺られよう駅は決めずに野も田も越して  若月カコ


心臓のねじはゆるくて不用意に揺らせばこぼれてしまう 容易に  とわさき芽ぐみ


ヒール折れて朝のひかりへ傾けばここから面白くなりさうだ  大堀 茜


白昼の夢から落ちてくるやうな雨垂れ怠しショパンの憂うつ  瀧本倫子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-25 20:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 25日

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田淳選歌欄 十首選


夏くれば瑠璃糸とんぼ思ひだす布留の川辺に追ひし彼の頃  内藤幸雄


爪に泥ためた子どもの手のひらにかるく握られダンゴムシあり  福西直美


この足の痛み和らぐときのなし真夜に目覚めてニ短調を聴く  天野惟光


店員に袋の持ち手しつかりと絡めて持たされコンビニを出づ  伊藤芙沙子


紫陽花の青追いゆけば老菓舗の向かいが三月書房と知りぬ  岡村圭子


良き風といふ名の町に降り立ちて向かう岸見えぬ河を見てをり  加茂直樹


雪のようにつもった嘘があしあとを消したあなたはもうもどれない  田村龍平


終バスの夜の闇より黒髪を高く盛り上げ女性乗り来る  古屋冴子


一合の白きご飯を分けて食ふこの閑けさを老と言ふらし  和田 澄


しっかりとしているようで辻褄が合わぬと思い義母の顔見る  石川えりか



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-25 11:30 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 22日

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」九月号 江戸雪選歌欄 十首選


宵闇に啼くホトトギスの一声でわが初夏のピースは埋まる  入部英明


夏夕べの庭から庭へ差し出され良い西瓜ですねと言いて抱き取る  宗形 瞳


救護作業終えて列車は走りだす救護されたるひとを残して  吉原 真


足引の黄泉比良坂いつの間にすれ違ひしかあの後ろ影  河野純子


お互に認知の度合を探り合ふ老いし二人は喜寿を越えたり  天尾壯一郎


宙(そら)ガール講座の声がこだまする望遠鏡をはじめて覗き  上杉憲一


日曜のやわき朝霧かきわけて宅配トラック坂をのぼり来  岡山あずみ


別れ際思いがけずに手を出され思考停止で応じてしまう  河田潮子


春の日を眠りつづけるははそはの母にあらずや揚げ雲雀啼く  祐德美惠子


声変わり前のあなたを見つけたの祭囃子の響く漁港で  田村穂隆



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-22 15:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 21日

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」九月号 前田康子選歌欄 十首選


庭だった場所に新たな家は建ち晩夏の脱皮のような引っ越し  神山倶生


子の影を午後の日差しが引き伸ばすゆたかなる背の若者ほどに  益田克行


手に青い火を持たされて、ごめん。肝心なとこで嘘がつけない  永山凌平


片隅でそのまま眠ることもある忘れられたおもちゃのように  太田愛葉


わすれものを取りに行こうよ あの夏のプールカードをかばんに入れて  うにがわえりも


ボッティチェリの春の女神が履いてゐるサンダルの細きほそき革紐  岡部かずみ


袋詰めの青梅売られ其の中に恥ぢらふ如く紅(べに)帯ぶる在り  金田和子


区切りまで区切りまでとふ残業にはつ夏の窓も暗み来たりぬ  栗山洋子


負け囲碁の悔いを引きずる長男に猫が蜥蜴を銜えて来たり  富田小夜子


地下鉄にベビーカー押さへ立つママの逆さV字の両脚つよし  水越和恵



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-21 21:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 20日

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」九月号 山下洋選歌欄 十首選


ドセタキセル詰まらず言えるようになり薬の袋がまた増えていた  落合優子


立ち食ひのそばを啜ればベルが鳴る学生時代に乗りし快速  三木紀幸


この仕事慣れてはだめと引きしめて病院の重き鉄ドア開ける  山﨑惠美子


知らぬ間に買い物かごに入ってたエンゼルパイを抱いて帰ろう  中井スピカ


虐殺の長き物語読み終えてブーゲンビリアの咲く国と知る  岡崎五郎


なあんにもしたくないのと言う母の側でショールをまっすぐに編む  山梨寿子


薔薇柄の毛布の薔薇を内にして眠りしゆゑかよく眠られず  森尾みづな


もう二度と会うことのない人に会うピンクのパラソルぱっと広げて  只石めぐみ


まゆみとふ女にたしかうらみあり緑の枝にこまゆみの花  谷口富美子


おばの家に枇杷の実りて今はもう無口な婿がひとり住みいる  冨田織江



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-20 16:37 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 19日

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」九月号 花山多佳子選歌欄 十首選


粋な背のツマグロヨコバイ音もなく夜のページを横切ってゆく  高原さやか


三人につぎつぎ道を訊きつぎてこの街すつかりすきになりたり  越智ひとみ


田に水を得たる蛙のよろこびを枕にききつつ眠る夜さよさ  秋田妙子


恋うことと呪うこととはおなじこと真っ赤な口紅ばかりをえらぶ  海老茶ちよ子


ゆっくりと育つのがよい ベビーカーをときおり止めて子の顔を見る  岡本 潤


さくさくとアップルパイを頬張ってもうすぐひとつ年を重ねる  楠  藍


ただいまと橋を渡ればふるさとの粒子こまかき山の気が立つ  田巻幸生


その位言ってくれても構わないあなたも身内の一人ですから  芳賀直子


喪のときはどれほどながく続くのかゆれる葉にさす陽射しまぶしい  増田美恵子


青空に鳶の鋭(と)き声聞きしよりわが眼裏(まなうら)に海あふれゆく  丸山順司





(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-19 23:02 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 18日

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」九月号 池本一郎選歌欄 十首選


淡々(あわあわ)と少女ふたりの髪ゆれて五月のバスを待つ木下闇  高松紗都子


薄青くガクアジサイが咲いているこのまま進んでいいのだろうか  杉本文夫


父も母も兄もおわせば天国はこの世の続きか妹待つか  大谷静子


水無月は娘に来たり朝なさな歌くちずさみシャワーを浴びて  小林貴文


母のなきのちの日月をぼんやりのままにて姉なり 申し訳なし  千村久仁子


台風の眼のごときものわが内の怒りにもあり生ぬるき風  濱松哲朗


水茄子の浅漬け二本鮎二匹あとは随意にと妻のメモ書き  吉井敏郎


起きてすぐ帰りてすぐにテレビつけ音ある空気に独り居を生く  鯵本ミツ子


つゆ空の青梅街道わたるとき何やら怒りふつふつとくる  青馬ゆず


風を泳ぐってこういうことよと言いたげに立葵の群生のゆらゆら  魚谷真梨子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-18 21:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 09月 15日

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」九月号 永田和宏選歌欄 十首選


棕櫚の木よ月のない夜にこの庭を歩きまわったことはないのか  宮地しもん


不審者は我かもしれず思春期の心にぐいっと踏み込んでゆく  龍田裕子


子が我にまとわりし頃の高さなりアマリリスの鉢五つ開花す  黒沢 梓


きみのもの捨てゆくたびに重くなるからだを白詰草へと運ぶ  杉本潤子


昨晩のままにバナナは卓にあり油彩画を描くひとを待つごと  小圷光風


<あいちやん>といつもやさしく呼びくれし口に引かるる さびしいよ紅  山地あい子


雨上がり白詰草のにおいくる自転車ならば気付かぬほどの  邑岡多満恵


暮れ六つの四つ目のとき救急車は搬送先を決めて発ちたり  山口泰子


明け方の空に月ありあと五分したら巡回することにする  乙部真実


ぬり壁のようにいるなりさびしいでしょうさびしいでしょうと言う声の中  数又みはる



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-09-15 16:59 | 十首選 | Comments(0)