暗黒星雲

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カテゴリ:十首選( 153 )


2018年 08月 13日

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」八月号 真中朋久選歌欄 十首選


いもうとが生まれた日だからじゃあまたね線香花火あしたしようね  多田なの


四本の足もつ犬は転ばない八十二歳の我は三本  熊野 温


社会からすこしづつ浮く僕たちがいつか月までゆくものがたり  宮本背水


ひたすらに妻が子を褒む足音のにぎやかなるを今日は褒めをり  益田克行


雪の降る地獄の河のほとりではあなたもきっとはだかでしょうね  田村穂隆


どきりとする困った時しか掛けてこぬ息子からの電話お母さんあのな  白波瀬弘子


病む部屋は三ッ葉ツツジに覆われて日永いちにち花と暮らしぬ  棚橋道子


入社時にハンマー振る訓練ありき「鉄は熱いうち打て」と煽られ  坪井睦彦


もう少し話していたいポロシャツの襟元ばかりみつめた日暮れ  増田美恵子


幾重にも皮に包まれ筍の先端にある伸びてゆくもの  入部英明



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-08-13 15:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 08月 11日

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」八月号 栗木京子選歌欄 十首選


問い詰めて医師に二年と言わせしと友は悲しきことを話しぬ  加藤武朗


ふわふわと力なき身は気圧のせいと定めて何ひとつ手につかず過ぐ  小畑百合子


過ぎゆきのことと思いぬ思えども屋根裏にありしゴジラのポスター  数又みはる


ゆふぐれの陽ざしが廊下に長く伸びひかる埃よちかづく夏よ  山地あい子


枯れし花捨てられてゐる坂のうへ大きく白き月でてゐたり  杉本潤子


可動域ひろき葉桜闇を掻く死んだらなんであかんのと言ふ  穂積みづほ


あをむしの気分にさくさくキャベツ喰むサクサクと刻の移ろふ真昼  毛利さち子


銀の鈴ちりちり鳴りぬ鍵束を母の震へる手から受くれば  𠮷澤ゆう子


居眠りをしているひとに半分を残して酢ゆき夏みかん食ぶ  石井夢津子


手つかずの季節をそこにも光らせて鴨川は胸の奥をながれる  大森静佳



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-08-11 16:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 30日

「塔」七月号 月集 十首選

「塔」七月号 月集 十首選


花びらは肌に冷たし死を深く蔵して山はさくら咲き満つ  藤井マサミ


パンケーキ焼くごと時折りうら返し春の光に子の毛布干す  安藤純代


薬壜に星のひかりの溜る頃洩れ聴こえくる呪文のことば  岡部 史


しばらくを止まりていたる救急車だれかを乗せて走り去りたり  岡本幸緒


小綬鶏を咥へし猫がわれを見てたちまち昼の暗がりに消ゆ  苅谷君代


花に月これに恋あらば満点と思へば隣に妻がをるなり  小林信也


仁王像にも深く彫られて臍のありこの息子(こ)を叱る母ありぬべし  酒井久美子


老い母よりあやとりの川わたされて時間(とき)の流れを遡りゐる  佐々木千代


春はまたわが指の腹むず痒き季(とき)なり葉っぱがさわれさわれと  なみの亜子


もらひ火に燃えてしまひしと三叉路の赤い三角屋根の三木駅  久岡貴子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-30 18:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 28日

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」七月号 永田和宏選歌欄 十首選


夜の街を明るい方へと探しゆく帰りたいひとを帰さないため  山下裕美


どこにいてもすぐにわかると言われしに黄色のパーカー死出にも着てゆく  松塚みぎわ


否定語を使わずわれのあやまちを海を見ながら指摘するひと  白水ま衣


いかような暴言暴力振るおうと短歌(みじかうた)とう武器持つ母ぞ  滝 友梨香


「あした死ぬわけではないよ」泥の付く芋を頒けくれ癌病むひとは  野島光世


小声にて秘め事ひとつ聞かされぬ魚拓を壁に貼る店のなか  黒沢 梓


落ちながら飛ぶのも鳥でビルとビルの間の細き空を下降す  小林真代


めきめきと腕が上がつて週明けの会議のあとの工藤くんのコーヒー  西之原一貴


自転車のベルを聴くのは珍しいどうも私に鳴らしたやうだ  佐近田榮懿子


ながき長き滑走路でありたし大切なひとが旅立つまでの  澄田広枝




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-28 22:18 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 27日

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」七月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


あわよくば世界の終わりが僕たちの終わりになればいいなと思う  拝田啓佑


対岸に手を振る子ども池の辺はめぐりてかならず出会えるところ  森川たみ子


鹿を撃つをとこふたりを乗せてゐる軽四とまる山の脇道  山縣みさを


身ひとりの母の昼餉の煮麺が手つかず残る鍋にふやけて  岡田ゆり


チョコレートを溶かしてしまう煎餅はくずれてしまう春のかばんに  椛沢知世


草摘む子泣く子走る子春の野にひよこのように園児らは散る  髙鳥ふさ子


夏までは生きていようとする理由好きな作家の新刊が出る  松岡明香


桃色や白や黄色の花散りて当番なればゴミ置場掃く  宮脇 泉


耳元で鰻を食うかと尋ねれば父は微笑み呼吸止めたり  鈴木健示


雨になる気がするなんて言っていたあなたの肩に降り積もる花  吉原 真



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-27 22:57 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 26日

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」七月号 前田康子選歌欄 十首選


木津川を電車渡れば目を上げぬ文明歌集を読みゐたる人  西山千鶴子


太陽をどこかで見たと思ひをりあれは昨夜の満月の影  浅野美紗子


雪解けの小さき流れは堰を越え激し弥生の川となりゆく  松井洋子


傘をささず人みな行けりわれのみは傘さしてゆく夕刻の土手  丸山順司


盛り上がるマグマのやうに色薄き森の若葉が風に蠢く  入部英明


大戸屋に16ビートのジャズ流れ「しまほつけ炭火焼定食」かがやき放つ  青馬ゆず


悲しみを連れ来る如く打ち寄せる実朝も観た伊豆の荒波  鈴木脩慧


だまされてみようかと思ふモノクロのフランス映画のやうな夕暮れ  福田恭子


「里美」とう名も記されありハンの木の巣箱に鳥さん来てねの後(あと)に  大出孝子


寄ってがっせ お茶飲んでがっせ アフタヌーン・ティへのお誘いが来る  ジャッシーいく子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-26 21:21 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 25日

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」七月号 山下洋選歌欄 十首選


いななきて飼葉をねだる母の青毛馬(あお)母は逝きたり青毛馬を残して  山本龍二


「一人暮らしなので自炊はしないです」ああなんという強い順接  逢坂みずき


樟の木の葉擦れの音を聴くために坐るベンチがわたしにはある  山尾春美


細胞を広げるように高々と蹴り足伸ばす生徒まばゆし  伊地知樹里


かつぱうぎのははゆめにきぬ子供らは私の夢をみるのだらうか  川井典子


おほらかに恋ひたし恋ふることできず田楽の芋ひと串を食む  竹井佐知子


鉤裂きの尻の二ヶ所を繕われ作業ズボンのほこらしげなり  中村ヨネ子


鹿網の向うになりぬ私の蓬の摘み場摘みどきなれど  村尾淑蘭


夢のうち目覚めれば海の上にいて波の高さを推しはかりいる  池田行謙


学生に席を譲られしぶしぶと座る花冷えのひと日が暮れる  垣野俊一郎



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-25 19:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」七月号 三井修選歌欄 十首選


ぎすぎすと耳ざはりなす鵯の声何故ならむ今朝はいとしき  朝井一恵


オデッサの階段を落ちる乳母車乗っているのは赤ん坊の我  王生令子


いまはまだ泣けぬと踏ん張る母の目の奥に広がる青いみずうみ  小松 岬


不条理と理不尽の差は 春霞何も見えない海に漕ぎ出す  大橋春人


夭死せし弟にまみゆる心地すと連れには言はず、わたしの阿修羅  加藤和子


抱いた子に「きれいねえ」と呼びかけて桜を見つめる若き母あり  川合晴司


「母のため」と繰り返される度ごとになんだか違うものの見え来る  川述陽子


ブタ食えば体にしっぽが生えそうで焼肉の時はスカートはかず  北野中子


ご気分はいかにと問へば今朝はいささか優れませぬと鏡のわたし  田邊ひろみ


帰るまえ児らをぎゅうっと抱きしめる息子にはもうできない分も  中山惠子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-23 22:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 23日

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」七月号 小林幸子選歌欄 十首選


ざっくりと真二つに切る春キャベツ芯に薄黄の花の生れおり  佐々木美由喜


われにながき慚愧はあれどふりながら雪の透きゆくうつくしき窓  千村久仁子


カーテンの丈の足りないガラスから朝陽がさして新しい日が  真間梅子


足場屋さん塗装屋さんに屋根屋さん床下さん来てわが家にぎはふ  𠮷田京子


スーパーのフードコートに陽の差してわれの居場所はここにもありぬ  木原樹庵


摘んできた蓬を茹でて水切れば指は緑に染まってしまう  西村清子


大縄を回すの止(や)めて父と子ら笑まいて待てり我の通る間  鈴木 緑


春なればと訪ねし店のシャッターに「しらす不漁」の貼り紙のあり  唐木よし子


のろのろと動きいたりし大みみず形よき輪となりて死にたり  川口秀晴


猪の防御の柵はこの里をひとまとめにしてくるりと閉じる  高原さやか




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-23 17:16 | 十首選 | Comments(0)
2018年 07月 19日

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」七月号 栗木京子選歌欄 十首選


江ノ電に手を振る息子に振り返す匿名希望のたくさんのひと  竹田伊波礼


オリーブと葡萄、サフランどこまでもどこまでもアンダルシアは平ら  みぎて左手


せつなくて歩く銀座の路地裏に手の平サイズのゆうれいがいる  森永理恵


るるるって電話が鳴ってさみしいと岬の丘の伯母から電話  安倍光恵


どしゃぶりに色を消されてゆうるりと高原をゆく北しなの線  星野綾香


老いし姉ユメの町とうバス停の間近に一人杖つきてあり  宮内笑子


大きめのブレザーの袖にのぞく指きつちり揃ふ新中学生  八木由美子


しおり紐はさまれていたページには「も」の字の形のへこみがありぬ  松浦わか子


『三くだり半からはじめる古文書入門』振り向けばハナミズキ  川並二三子


亡骸を横たへしとふさながらに血のいろ滲む大理石板  高橋道子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-07-19 10:36 | 十首選 | Comments(0)