暗黒星雲

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2018年 01月 18日

「塔」一月号 月集 十首選

「塔」一月号 月集 十首選


壁ひとつ隔てし納屋より一夜立つ新藁を積む匂いのしるき  池本一郎


前をゆく傘はおそらく君だろう白地に青のポルカドットは  山下 洋


夏の味抜けてしまいしトマト添えますます静か二人の夕餉  前田康子


夕風をみはからって出る屋上にかわいたシャツがふくらんでいる  江戸 雪


足早やの夫追い駈けし散歩道稲穂の畦をゆるゆる歩む  青井せつ子


「お父さん」と呼びつつ病父を訪う娘「お父さん」なる温き日本語  酒井万奈


祖父がいて祖母いて父母のおりし頃姉とつみたる籠ゆすらうめ  進藤多紀


ワイパーが雨ぬぐひゐる繰返し なかつたことには出来ないだらう  久岡貴子


祖父の飼ふ馬の黒眼に稔りゆく稲穂のそよぐを見たる日のあり  藤原勇次


レタスの葉そつと剥ぐごと乳飲み子の肌着を脱がせ湯船に抱きゆく  村田弘子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-18 22:39 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 18日

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選


矢印に導かれるまま亡き人のもとへ夕べの街を歩みぬ  関野裕之


かの国の軍事記念日 草を取るわれを掠めて行くヘリのあり  安藤純代


茄子を切り葱きざみつつ思いおりわが手には今刃物があると  大城和子


怒りつつ泣くとふ矛盾ふりむかずいつぽんの橋わたりをへたり  澄田広枝


まひるまの線香花火はほんのりと秋のわたしのなかにあかるむ  永田 愛


ひとり生きる肌着を冬日に干してゆく塀のかなたに比叡が青し  橋本英憲


お参りの客なき盆の昼ひとりレトルトカレーを温めてをり  本嶋美代子


カテーテル検査受けると聞きてよりとりとめもなき妻の饒舌  大倉秀己


展望台のベンチの角で殻を割るゆで卵まだほんのりぬくし  尾崎知子


老犬には見えないだろう赤とんぼほらとんぼだよと言ってはみたが  林田幸子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-18 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 17日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


雨音に耳そがるる夜半読みつげり秋草のごときふるき恋歌  永田聖子


散骨をのぞむと言えばどの海にするかと夫が地図を広ぐる  中澤百合子


放したのか放されたのか母の手の遠くなりたり風草の道  数又みはる


元海岸線に従い伸びる小路には質屋一軒営まれおり  北辻千展


越し来たる人を知らねど通るたび庭先を見る花梨成る庭  嶋寺洋子


アスファルトに雨の王冠あまた生(あ)れ嬉しさうなり長靴の子は  田中律子


発車するドア越しの児と目が合いて秘密のように手をふりあえり  村瀬美代子


明日よりは施設に入らむ母のため足のおゆびの爪を切りたり  吉田健一


一列に連なりゆけり保線区のひとら被れる黄のヘルメット  川田伸子


まッしろのしを言ふときの舌先をほのあたたかき息は越えつつ  佐藤陽介




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-17 22:16 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 17日

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


暗やみでポップコーンを湿らせる舌先熱き金曜の夜  うにがわえりも


日ごと夜ごと容易に不穏になる胸の森に一羽の飛ばぬ小鳥を  中森 舞


「そっか」の「か」と「ですよね」の「ね」が隠すもの すり切り一杯分の悲しみ  荒井貴彦


遠足の弁当は無事持たせたが「行ってらっしゃい」言ってなかった  伊地知樹里


屋台には赤・黄・橙(だいだい)並んでて「夏が終わるね」と少女が言った  大島綸子


名人が歩を打つように横にあるティッシュをつまみ一滴をふく  中西寒天


一本の大根とねぎ新聞に花束のごとく包みてだきぬ  坂東茂子


眼差しに呼ばれたような気がしてさプールサイドに枯れた紫陽花  深山 静


歯科医院のナース弁当を手に下げて秋の風吹く信号を渡る  森川たみ子


かなしみの皮膜に包まれ片頬をつねってみても赤くなるだけ  椛沢知世



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-17 09:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 16日

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選


チェロの音が流れ始めた家をすぎ雨のはじめのしづくに触れる  加茂直樹


わがままも言はずなりたる母の顔ひとつぶ涙つんつん椿  祐德美惠子


本当はねあと一年だつてランチ終へ古風な笑みに友は告げたり  阿蘇礼子


堤防によじ登っているカップルの男は登り女登れず  内海誠二


バスを待つ間に夕日やまに入る 実家で柿をいくつも食べた  川井典子


秋の野の光の中に居し人を最寄りの駅にたたずんで待つ  木村陽子


古切手入れる小さなはこだけを残してひとは春を去りたり  高橋武司


熱帯夜明けて降る雨はつ雪を受くるがごとくひらく手のひら  多田眞理子


人の子を抱くように米を抱いている女を見たり日曜の午後  田宮智美


モンローのまろき体を思ひをりいちじく白くやはくありせば  遠田有里子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-16 19:42 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 15日

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選


十月はリハビリを待つ風呂を待つ夕食を待つただひとり待つ  三谷弘子


狂女にもなりえぬわれはさびしくて一人ぼつちの身をかくし住む  佐竹永衣


海馬より深いところの夕焼けに立てかけられている一輪車  逢坂みずき


ははそはのその母の呼ぶこゑは珠ひつぎの娘をよびて珠なり  千村久仁子


砂を吐くみたいな暮らしは止めにする浅蜊の酒蒸し作り終へたら  大江美典


包丁をぬるりと拭いて店頭に肉屋の男顔を向けたり  小圷光風


「珈琲のおいしい季節となりました」遠くの誰かに手紙書きたし  杉原諒美


山に向き声をかければ鼓の音が返りくるとうつづみ橋行く  竹内多美子


お堀通りの紅葉(もみ)ずる並木をくぐるとき木琴のラが聞こえる如し  堀口 岬


泥沼の左の端より亀のきて右からの鯉にぶつからずゆく  柳田主於美



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-15 14:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 14日

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選


玄関のチャイムの音の鳴り止まぬ夢を見たりき会議の朝に  永久保英敏


生臭き指に抓みたる抹香を音なく擦りて香炉に落とす  近藤真啓


好きなもの増やさないよう生きている我慢すること増やさないよう  かがみゆみ


ぐすんぐすんと擬音語出せばそんなにも泣きたいことではないと気づきぬ  中井スピカ


浜辺から狙撃の噂。東京士官は五メートル置きに夜も立ちをり  河村壽仁


告げ口が得意だつたらよかつたね 胡瓜の花のしぼむゆふぐれ  千葉優作


くまモンの鉛筆で書きくまモンの消しゴムで歌の消しかすできた  水本玲子


ひとなぬか薄(うす)ら氷(ひ)からのかへしにも母よあなたの視線を想ふ  村上 明


玄関の鉢のバジルにかるく触れ初老の男帰りてゆけり  相本絢子


初恋の少年夢にあらわれて会釈をすれどわれは黙せり  吉田 典




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-14 15:46 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 13日

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選


少年は櫂に和舟を操つて四つの内湖を渡りしむかしに  穂積みづほ


上品なしかめっつらがあることをあなたで知ったことがはじまり  小松 岬


あの鳥が空の奥へと点になるまでを見ている 自転車とめて  山川仁帆


燃えてゐると言へば終りのヒガンバナ秋高空へ漕ぎ出して行け  高橋ひろ子


わらべにて夾竹桃咲く道歩き振り向けば碧き六甲ありき  西村美智子


夏服でまだいけそうな日もありてバターのごとく晴れて光は  廣野翔一


吹きすさぶ西駒颪の通り道赤いポストが口開けてゐた  朝井一恵


けんめいに探しゐたるは何ならむ夢より覚めてなほ不安なる  岩本文子


玄関のバジルの葉っぱを摘み終えて雨を見ていた夕暮れの雨を  北山順子


ウォーキングの径に拾いし栗の実の小さき汚れを手に拭いたり  相馬好子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-13 20:11 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 12日

「塔」一月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」一月号 池本一郎選歌欄 十首選


新暦の子規忌の単衣の肌じゅばん蒸れて根岸の子規をおもえり  萩尾マリ子


なまよみの甲斐性なしの吾が書きし無心の葉書仏壇より出づ  内藤幸雄


「夕焼小焼」午後五時に鳴る向かう岸五時半に鳴るわれの住むまち  川田果弧


「青春を過ぎたさみしい野菜です」茄子にふみ添へ玄関にあり  赤岩邦子


その身ほど大きな荷物の少女らの声の明るい海辺の電車  徳田浩実


ひざ小僧美しくのぞきたり子を抱きて駆けよる嫁のブルージーンズ  森永絹子


つぐひとの去りゆきしのちしばらくをテーブルに水影は揺れいる  中田明子


マムシ柄のシャツの男が前をゆき労働意欲がしぼむ朝なり  一宮雅子


バルコニーの手すりを鳩がそろりゆく平均台の少女のやうに  堺 礼子


三本の樅の木のみのグランドを見つつバス待つ初めての町  中西よ於こ



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-12 20:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 11日

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選


「金銭のことで口論となり」まではうちと一緒だ ニュースは続く  垣野俊一郎


きばう持てばつひにはつらくなることを知りながらなほ 草のつゆ踏む  山尾春美


あれはどこへ行くのだったかポケットに百円玉を固く握りて  中本久美子


桃色のコスモス置けばほんのりと気配もゆれる裾縢(かが)る夜  泉 みわ


花束の花を選んでゆくようで感謝のことばを言うのが好きだ  加瀬はる


住んだことない町そこに親がいて見知らぬ町を故郷と思う  久保まり子


フェニキアの大航海を想ひをりレバノン杉を根方に仰ぎ  前田 豊


バス停にそこの家から持ち出したみたいな椅子があるので座る  𠮷田恭大


もうまつくらよ、誰か言ひをり切れはしの雲が行き場を失つてゐる  松原あけみ


亡き父に会ったと言いし母の背に夢のことかと念押しきわれは  神山倶生



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-01-11 20:23 | 十首選 | Comments(0)