暗黒星雲

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2018年 06月 29日

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」六月号 栗木京子選歌欄 十首選


使ひこし体の部品とり出して洗へぬものか冬の青空  青木朋子


擦れ違へばお先に通す営業の身の熟(こな)しいまだ夫は持ちて  鵜原咲子


慣性の法則証明するようにストーンは滑る零下の面を  杜野 泉


三月の日差し受けつつ縁側に手熨斗でたたむ紺の作業着  大城和子


桃の花ひらききりたり雛飾りかたづけられたる六畳の間に  天野和子


雪雲は阿武隈の上に生るるものと思ひてをりしが海にも生るる  大塚洋子


昼下がり老人あまた目に付くが皆われよりも足早にゆく  山崎一幸


とび色の栞ひものはし擦れぬようくるりと納める図書館の人  吉田淳美


若き母が春の小川に洗いおり田よりあがりしその泥の足  数又みはる


岩槻で父母に選ばれそのままにひいなは海を渡りて来たり  ダンバー悦子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-29 20:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 28日

「塔」六月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」六月号 真中朋久選歌欄 十首選


座蒲団に眠るみどり子卓の上にみかんと並び置かれてありぬ  久次米俊子


雪の夜の一歩一歩を辿りゆく長手のかなた姉の待ちおり  土肥朋子


東横線の座席に化粧するひとの紅筆はなかなか着地定まらず  井上政枝


木の陰のベンチに姉と妹が青き棗の実のやうに座す  清水良郎


如月に身罷り給えば君知らず弥生の空を花の香りを  中山悦子


明日こわす風呂の湯垢を流しおり仕舞湯の窓に雪らしきもの  邑岡多満恵


手袋にいがをいつぱいくつつけて牛蒡の種の黒きを採りぬ  山口泰子


神棚にまるき鏡は暮れてゐて夫は熊野の地に住まふなり  𠮷澤ゆう子


ささやかな秘密を知ったその夜は首に寝汗をかいて目覚める  片山楓子


死ののちを死者は生者のものとなり平手打ちした夜も明かさる  山下裕美



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-28 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 26日

「塔」六月号 松村正直選歌欄 十首選

「塔」六月号 松村正直選歌欄 十首選


春の雲気ままに流れおとめ座のスピカと今日も会えずに帰る  上杉憲一


思いきり窓を開いて仏壇の位牌にかがせる庭の沈丁花  大江いくの


順々に人形並べる父に聞くマトリョウシカを買いし日の母  隈元三枝子


どの墓も西を向きおり安達太良を丘の上から皆と眺むる  作田善宏


教えない。けれど聞かれたこともないスリーサイズと遠い約束  中井スピカ


隠れたが見つけにこない鬼をまつもうしちじゅうになった日の暮れ  中山大三


引出しにたまる小さなマッチ箱あの頃どこにもわくわくのありき  藤田幸子


電車待つホームに黒き輪ゴム落ち髪を束(つか)ねし妹の背おもう  村﨑 京


おかあさんの好きな高安と夫が言ふおかあさんであるわれを差し置き  森永絹子


三姉妹はその母呼ぶとき何(いづ)れの子も夢見るやうに「おかあさん」と言ふ  髙野 岬




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-26 20:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 22日

「塔」六月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」六月号 池本一郎選歌欄 十首選


橙の二両電車が海猫の声押し開き来る八戸線は  星野綾香


道路覆う煙抜ければややおいて車内に漂う野焼きのにおい  佐々木美由喜


あの角の木蓮咲いたら春本番わたしを連れだす口実にして  赤嶺こころ


駅前の自販機下のすき間からさらさらとあふれるさくらばな  うにがわえりも


春告げる菜の花色の声をした少女の群れとすれ違いたり  かがみゆみ


をんをんとまつ直ぐ天へ嗚咽するをさなご羨(とも)し雑踏の駅  水越和恵


眼鏡って外さなければぶつかるのね 知らなかったわ大人なのにね  山岸類子


春先の女のからだの気だるさを騙しだまして靴買ひに行く  祐德美惠子


瀬田川のいろ春めけり 墓所の風いまだ冷めたき裳の裾あふる  長谷仁子


をれまがる釘も覗けりトラックの荷の廃材にきさらぎの雨  篠野 京



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-22 20:23 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 22日

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」六月号 永田淳選歌欄 十首選


嫁にゆく子に持たせんと作られし藁の雪ぐつ目のそろいおり  松浦わか子


乳を欲る小さき舌のかたちして凍て土を割るチューリップの芽  多田眞理子


水のないところに水の音がしてクリスマスローズしずかに芽吹く  福西直美


母の背に負われ覗きし洗濯の盥の水が記憶のはじめ  坂下俊郎


墓石屋の勧誘電話はさはやかに「ご準備はもうお済みですか」と  加藤傳治


ひとさじの味噌に練り込む柚子の汁ほのかに香り分葱を和へる  進藤サダ子


命あるものらアイスを珈琲を口にし待てり姑(はは)焼かれゐる  竹尾由美子


雪渓の辺に咲くミヤマウスユキソウの風ともなひて厨辺に立つ  山尾春美


六十年立ち続けたる裸婦像の幼き顔に豊かなししむら  堺 礼子


目と目あう以前に戻り黒牛はにれがみわれはやや屈み行く  川口秀晴



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-22 14:33 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 21日

「塔」六月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選

「塔」六月号若葉集 前田康子選歌欄 十首選


買いたての詩集を逆から読むようなうしろめたさを持ち会いに行く  真栄城玄太


恋みくじの大吉に頬緩ませて娘はバックにそつと仕舞ひぬ  河上久子


お迎へを待つ保育所の児のやうだ父は一張羅の帽子かぶりて  栗栖優子


この冬は二度とこないと思うとき青空にめじろきゅるきゅると鳴く  森川たみ子


スカートの裾を握って真夜中に両足で立つ人魚みたいに  中森 舞


もしパパが死んで線香上げるならこのピストルのライター使へ  本田 葵


未勝利馬いつまでも勝ちを知らぬまま走りを終へてゆくも美し  宮本背水


大丈夫?ではなく摘んだ花の名を父に聞くのが見舞いの言葉  若月カコ


庭に咲く紅き花蘇芳(はなずおう)一枝を墓に供える母の日の夕  髙鳥ふさ子


痛みにはハグが効くらしてきめんの寝る前五分をためしてもらふ  山縣みさを



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-21 10:50 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 20日

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」六月号 山下洋選歌欄 十首選


空を蹴り空を殴っている吾子を妻と眺めて夕餉始まる  岡本 潤


雨宿りしている男の午後9時の水中眼鏡みたいな眼鏡  吉岡昌俊


泣いているふりをしてたらほんとうに悲しくなった丸ノ内線  増田美恵子


家なくば路地といふものおのづから姿を消して風が吹くのみ  浅野美紗子


ぼくを待ち続けているきみしかいない信用金庫前のドトール 多田なの


冷え冷えと二階の障子に影射して無人の家の弥生夕暮れ  児嶋きよみ


母様のくしげの色のゆふぐれぞ湖にむかひてあしの笛ふく  竹内真実子


「うっとりと見惚れてしまうと彼言うの」ますます見事な臨月の腹  宮本 華


ぬひ針の「金耳三ノ三」これひとつ使ひ続けてこと足りて来し  西内絹枝


黒ネクタイを引き抜き厨の明るみに甘めのコーヒー両手で包む  永久保英敏



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-20 15:44 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 18日

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」六月号 三井修選歌欄 十首選


まどかなる春の訪れ太腿に小さきほくろをひとつ見つける  魚谷真梨子


いつかしら魔法の力を失って自分にかけた呪いがとけぬ  王生令子


春の夜に遊行するねこ移ろいて唱和する声遠離りゆく  岡崎五郎


川沿いをずっと行くバス帰ったら何もしないと決めて家へと  川上まなみ


物語がちょうど佳境というときになんでお腹がグーと鳴るのか  北山順子


峪の湯はもつたいなくも我ひとりゆらりゆらりと手足がのびる  河野純子


隣合う畑に人の影あれば言葉はなくも力となれり  古栗絹江


三月のゴミ集積所に捨てられていし束ねたる入試参考書  中村美優


ルーティンは崩さぬと言ひ入院の前の晩にもピアノをさらふ  安永 明


「さくら餅が待つてゐます」のメールみて急ぎて向かふ循環バスで  唐木よし子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-18 20:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 06月 18日

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」六月号 小林幸子選歌欄 十首選


諍いのあとにも朝はやってきて壁に伝言ボードの空白  紫野 春


今、菊に囲まれ眠っている人はわたしの母さんだったかもしれず  逢坂みずき


冷えた脚そろへてけふも並ぶらむ家族の数のふるさとの椅子  岡部かずみ


手びねりで作りし花卉にたつぷりと赤きひとへの椿を活ける  千葉なおみ


墓石に弥生の水をすべらせるまだ寒いかとつぶやきながら  高原さやか


集会の椅子を選びて座りをれば見えぬ序列のできあがりゐつ  庄野美千代


耳元に幼き秘密囁いた糸電話です姉も九十歳  松浦 哲


風邪癒えてやつと朝餉にありつけば梅浮かびたる粥のくれなゐ  藤原明朗


木蓮と辛夷の違い聞いているオープンテラスはまだまだ寒い  小澤京子


「見ますか」とビニール袋を差し出せり手術室より出で来て医師は  栗山洋子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-06-18 10:17 | 十首選 | Comments(0)