暗黒星雲

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2018年 10月 30日

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」十月号 栗木京子選歌欄 十首選


柴犬のおしりは消失点として揺れながら遠ざかってく畦道  加瀬はる


人がみな傾ぎて見える黄昏に浜木綿の花誘う(いざな)うなかれ  石橋泰奈


しづかなる音して睡蓮ひらくときあまたの言の葉剥がれてゆけり  福田恭子


水張田を見降ろす墓所に佇みぬ百年先の景を見たくて  赤田文女


ベビーカーの若き母子を越してゆく自転車の子らがベルを鳴らして  天野惟光


なめらかにライトの列は弧を描き琵琶湖大橋うみをまたげり  杉本文夫


洗脳といふ名の電車かも知れず鈍行にする 海がまぶしい  吉田達郎


あなたとの履歴をたどるiPhoneにひろがる羽根のかたちの指紋  椛沢知世


日常はふいに途切れてサイレンの鳴りやまぬ夜に雨を受けをり  浅野美紗子


ナフタリンを母の寝所の隅に置く百足、せん妄寄せ付けぬため  河野純子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-30 22:08 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 29日

「塔」十月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」十月号 真中朋久選歌欄 十首選


濁流がずぽりのみ込み吐き出したがれきの中に赤絵の茶碗  三谷弘子


それぞれに夏の記憶を呼びながら西瓜の種をさぐる舌先  魚谷真梨子


濁りては澄み濁りては澄む波の七月朔日のかもめたち  森尾みづな


黙つてゐてもふきだすことのくるしさに百日紅おのづから捩れて  小田桐 夕


駅の段(きだ)を飛蝗(ばつた)のごとく駆けあがる手足の長きをみなごのあり  上仲修史


地殻変動は湾内入り江を隆起せしめむとブルネグロ年代記預言書にあり  河村壽仁


雲北へ走るをよそ目に北上川(きたかみ)は赤き濁りを南へと吐く  菊池秋光


シャッターが膝の高さに差し掛かりマネキン二体靴が見え出す  杉山太郎


大雨の放水サイレン強風に途切れて聞こゆ雄叫びのごと  山内恵子


平凡が愚鈍に思えやるせなくジャガイモの芽をぐりぐり抉る  王生令子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-29 21:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 27日

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選


雨は止みまた少し腹は膨らんで青空のように胃腸がくるしい  吉田 典


駅前の自転車置き場の屋根の上風にゆれつつヒルガオの咲く  谷 活恵


若きらにまぎれて歩くキヤンパスをおほひてながき病棟の影  久川康子


列島はおほよそ雨らしゆふべ振るアジアンソルトはひかりの粒粒  千村久仁子


「暑いので夏休みです」とガラス戸に貼ったパン屋を好きになる午後  津田純江


にんげんのからだの奥にみずうみがありその側に咲く雪柳  はたえり


乳液を湯あがりの肌になじませる嘘をついてるあなたのえくぼ  増田美恵子


堤より青き流れを見てあれば身投げにあらず魚になりたし  吉村久子


芍薬を見せたいあじさいも見せたいあなたが去ったあとのすべてを  小松 岬


亡き人の誕生日には雨上り水惑星のあをき空見ゆ  阿蘇礼子



(新井蜜)



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by trentonrowley | 2018-10-27 22:17 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 25日

「塔」十月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」十月号 江戸雪選歌欄 十首選


もう花火が売られはじめて思い出すなにかが爆ぜたあの夏のこと  紫野 春


オレンジの光のなかへワープするカーラジオから中島みゆき  山名聡美


玄関にうづくまり泣く背中見ゆそれはいつかの吾が背中なり  永山凌平


坂道を上りて行けば背負う子のヨイショヨイショの応援があり  古栗絹江


とどかない言葉のはしっこ持ったまま洗たくものをたたいています  落合優子


気がつけばまたふたりぶん作っているミネストローネのトマトが甘い  川本智香子


シューベルトの歌曲をかけて黄色から色鉛筆を尖らせてゆく  髙山葉月


未明より水踏む車のしやあしやあと聞こえて今日の予定の狂ふ  蓮尾金博


中学の理科の教師に訊いたことバンアレン帯はいかに燃えるか  ひじり純子


捩花の咲くころ歳をとる娘われよりうまく生きてゆくはず  西山千鶴子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-25 20:17 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 23日

「塔」十月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」十月号 永田淳選歌欄 十首選


目覚めれば川底にいて絶え間なく雲は東へ去りて戻らず  吉原 真


毒蛇と蠍を食すと知りしより輝き増せり孔雀の羽は  益田克行


天の火を地に分けること命じられこのサルビアはここに来たのだ  伊地知樹理


こはいから殺したいのと女生徒が蜘蛛を追ひつむ箒を持ちて  森永絹子


この歌になぜに付箋をつけたるかひと月前のわれを怪しむ  安永 明


通されたる部屋にはムクゲの花のありガラスの器のむぎ茶は香る  横山敦子


ふり向けばわれを見ており道に出合いお帰りと声をかけし少年  高木節子


いち、に、さん、いっきに入った蚊帳のなか夏の暑さは思いだせない  宮内ちさと


伯母おもひ叔父をおもひてもうだれもゐないと気づく朝震度六  𠮷田京子


住吉の駅を降りれば栴檀の花のかをりの雨のふりをり  岡本伸香





(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-23 20:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 20日

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選


ひとの死に慣れてゆきたる頃合ひにあたためなほす茄子の味噌汁  濱松哲朗


帆船のごとく背中を膨らませ夏服の子ら湖へと下る  丸本ふみ


沛然と降る雨ぐいと吸ひこんで六月われは鮫になりたし  有櫛由之


感熱のレシートのごと薄れゆくその日の記憶 もいちど逢ひたい  一文授可修


葬儀から三日過ぎたる夜があけてアドレス帳に「逝去」を記す  岡部由紀子


のど飴を一粒口に含ませて群青ふかき夜に凭れをり  近藤真啓


無理をして笑わなくてもいいのよと先生ならば言ってくれたろう  北山順子


磔刑のごとくに壁に貼りついたピカソに夏の陽射しは落ちる  木村珊瑚


陸地より海の割合多きこと思い出しつつ島へと向かう  杉原諒美


すっと腕をつかみし君は夢の中に何をおそれてわれを守りぬ  中山惠子




(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-20 20:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 10月 16日

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選

「塔」十月号若葉集 三井修選歌欄 十首選


人影の石はもうなし銀行の前に母子(ははこ)の腰おろしゐる  栗栖優子


騙し絵の鳥に見られるあなたとの朝の食卓、夜の食卓  岡田ゆり


何事ぞわが店先にバス停まる 蛇の横断待ちているらし  松村豊子


何もなき荒野に立てる風車群風の向こうに樺太が見ゆ  行正健志


ちょっとだけ嬉しいことを何気なく話す人がいることも嬉しい  松岡明香


躊躇いを綴じる日日あり夏蝶の翅詰め込んだ箱を燃やして  梅津かなで


筆談で祖父は「へへへ」と笑い声を書き足しておる険しき顔で  近江 瞬


正しければ抗ふすべなし花鋏もちて過分を切り落としたり  瀧本倫子


ぎやまんの器に君を閉ぢこめてひと夏ずつと雨を降らさう  灰岡裕美


やわらかき葉に一本の足で立つティンカーベルのようなねむの花  森川たみ子



(新井蜜)


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by trentonrowley | 2018-10-16 16:22 | 十首選 | Comments(0)