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暗黒星雲

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2019年 01月 25日

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


無人駅のベンチの裏の約束を空にさらしている水たまり  近江 瞬


始末書を書いて来たよとだけ言って息子はエビチリを飯にのせ食う  髙鳥ふさ子


ほんとうはやるべきこともあるだろう朝は遠くのパン屋へ向かう  長谷川 麟


われに子のみたりありてそれぞれに異なる匂ひの秋訪れたり  瀧本倫子


夫の弾くベンチャーズ聴き塔を読むこれでよいのだこれがよいのだ  池田真喜子


絆創膏は指輪のごとし釣り銭を荒れた両手で渡す右手に  栗栖優子


記憶の絵のしづかに開く夕暮れはまたラビリントスの入口であり  戸嶋博子


眠りつつ片笑みもらすみどりごは生まれる前の野原にいるか  宮脇 泉


夜更しは老の特権 ながき夜に『自負と偏見』読みかへしゐる  足立信之


サイレンのなる方角を見たそうにしているセイタカアワダチソウまた  鳥本純平




(新井蜜)2019



by trentonrowley | 2019-01-25 14:47 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 24日

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選


ねこじやらしの海なくなりて寒さうにあらはる「売物件」の立て札  越智ひとみ


上弦と下弦の月のちがいさえ知らぬを生きて地球にひとり  川俣水雪


紫の小花でありしを忘れ果て木通はうつとり秋空に開く  森川厚子


母は母の幼い記憶に戻りゆく父母がいた庭は日溜まり  祐德美惠子


郵便の来ざる秋の日玄関の石のすき間に小草(こぐさ)抜きたり  佐光春信


言ってから忘れよなどと見せ消ちのようで心底かなしかりけり  相馬好子


大きいというだけでかくも鬱陶し 電車、隣席(となり)で喋らぬ息子  みぎて左手


文脈はふいに途切れてやわらかき余白のむこう細き雨音  みちくさ


黒き糞にブドウの種が混じりいてキツネが夜に来ていたるらし  山下美和子


八日後に君はおそらく好きになる虎に変わってしまった男を  伊地知樹理



(新井蜜)2019



by trentonrowley | 2019-01-24 22:19 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 24日

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選


白百合も菊も嫌いだ いたずらに香って思い出させるばかりで  佐藤涼子


ふるさとを捨てし日のなしふるさとをわがものとおもいし日日さえあらず  宗形 瞳


デザートのケーキを箸に食べながら友が語るよ離婚の理由  いとう 琳


古き辞書より<鷗>の一字抜け出して海面を飛ぶ かなしく鳴きつつ  河村壽仁


「ぬくおろし」とうおろし蕎麦 人肌のやさしき温さ秋の初めに  小島順一


その通夜に行かなかったはなぜなるか枇杷の実むけば汁がしたたる  杉本文夫


坂の上の真青な空に昼の月さっきの人の名は浮かびこず  富田小夜子


俺様の居場所じゃないぜとザクロの実ごろんと一つテーブルの上  丸山隆子


新しい靴は明後日履くことにした百メートル走計測日  吉口枝里


他愛ない会話をふられ他愛ないことばなど言えず貝殻になる  小松 岬



(新井蜜)2019



by trentonrowley | 2019-01-24 17:14 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 23日

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選


幼子にサッカーするよと誘われる手帳を開き約束を書く  中山惠子


台風一過菓子折りを手に瓦屋が工事着手の遅れを告げる  北島邦夫


放課後の音楽室にバイエルを友と弾きいし跡に立ちおり  谷本邦子


満月のひと夜の肌に合ふといふ美容液をつけ眠らむとす  赤井稚加


妻となる白きワンピースの人連れて子は帰り来ぬ 夏のゆふべに  伊地知典子


病の名を手柄とばかり並べゐる七十半の同窓の列  新川哲朗


生八ツ橋おみやげですと差し出せば京都に家があるのよと笑う  瀧川和麿


月輪熊のわすれもののやうな三日月が真青な空に泛びてゐたり  千葉なおみ


使うたび自己主張せし角の取れ それでいいのか牛乳石鹸  村上春枝


スロベニアの干し無花果は朝市に農家の主婦が並べていたと  高原さやか



(新井蜜)2019



by trentonrowley | 2019-01-23 17:02 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 22日

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選


もう鳴らない下校の鐘を待つように暮れてゆく陽の射す静物画  紫野 春


敬老の日に配らるる饅頭の今年は妻の分も加わる  荒堀治雄


押し殺してきた感情が押し花になればいいのに リボンを選ぶ  田村穂隆


散歩には行こうと思っていたけれど行く前に日が暮れてしまったのだ  春澄ちえ


ハンガーにドレスひらたく下がりをり我のかたちを教へるまへの  岡部かずみ


ほつほつと彼岸花さく細道に線香の香をのこしつつ娘らは  小谷栄子


あとを曳く暑さにとおく最涯の北緯四十三度は桜紅葉す  三上糸志


詐欺防止に子らがつくりし合言葉「アイシテイルヨ」 近頃きかず  唐木よし子


夏雲をぐんぐん追ひ抜く「こまち号」母の待ちゐる故郷へ急ぐ  立花惠子


ポンポンを持って踊るとだけ言いて運動会へ吾子は行くなり  谷 活恵



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-01-22 22:19 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 21日

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選


こんなにも明るい川辺人はみな季節の背中ばかり見ていた  魚谷真梨子


ひとひとり咳ひとつして通りたり駐在横の蕎麦が咲く道  中山大三


受けとめてくれるだけでいい赤玉と白玉散らばる確率問題  中井スピカ


傘を打つ雨音にはかに転調す欅並木の下をゆくとき  丸山順司


ソウイエバと折につけ言う二才児のくりっくりっと回る黒き目  石川えりか


用足すも伝ひ歩きの祖父なれど墨を磨りをりその香り満つ  竹井佐知子


向かうには美味しいパンの店がある橋を春から渡つてゐない  浅野美紗子


泉州の店でわたしは豆を買った 半年前のレシートで知る  真間梅子


格安のシャツを手に取りかはいいと子が言ふ母の口調を真似て  益田克行


にらの花だきかかえるごと翅広げひょうもん蝶が蜜すいており  松浦わか子



(新井蜜)201901



by trentonrowley | 2019-01-21 20:32 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 21日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


ピーナツバターを愛する息子なり指なめ頭(ず)にふれわれにふれくる  丸本ふみ


「危ない」と不意に取られしわが肱(かいな) あなたは何をとったのだろう  菊井直子


たふれゐる頭上にきびきび交される声たち 意識とほのきつつ聞く  三好くに子


赤トンボ卒塔婆に止まりぬいもうとと我の会話に割込む様に  大出孝子


ここからは非武装地帯うしろからゆるりとまるき背骨へ触れよ  大堀 茜


ときめきの兆す新緑 羽織りたきブラウス一枚いさぎよく買ふ  木戸洋子


もの思ふ水母のやうに見えをらむ傘さして行く雨の歩道橋  高橋ひろ子


母の背に眠るみどり児その足の少し揺れたり電車のなかで  星野綾香


迷彩の上着のボタンかけ違い気付いてなおす子はずかしそうに  伊藤未来


ひらかるる日までひかりを知らざれば本のふかみに栞紐落つ  小田桐 夕



(新井蜜)201901



by trentonrowley | 2019-01-21 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 20日

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選


鮮やかに生者の側にゐることを木犀の香が教へてくれた  澄田広枝


彦根山詣でのいはれ知りてより天守閣を見上げる長く  穂積みづほ


日照り雨野原の草の根もとまでひかりに包み移りてゆけり  石井夢津子


冬っぽい匂いがするぜ十月の朝をゆっくり起きて来た子は  宇梶晶子


貝ぼたんシャツより落ちて海鳴りのする窓辺へと転がりゆけり  小圷光風


瀬音高き谷遡る夢の中幼き父母が川遊びする  坂根美知子


橋をわたりきつてもひとりとほくからちひさく花一匁がきこゆ  西村玲美


モクセイの香りほのかに孕(はら)みたる洗濯物を胸に取りこむ  畑 久美子


老いてひとり夕餉に向かひ秋刀魚食ふ 一匹の骨確かに残る  矢野正二郎


空はもっと澄んでいたろうその昔高田馬場に馬場ありし頃  山西直子



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-01-20 22:00 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 20日

「塔」一月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」一月号 花山多佳子選歌欄 十首選


金いろの渦を巻きつつ倒れをり台風去りしのちの稲穂は  藤木直子


残心とふことばに会ひて思ひ出づ弓道場にひびく矢の音  石原安藝子


あきらめた方が負けなり今さらに思い直してこの世を生きる  大城和子


廃線の鉄路冷えゆく秋の夜の銀河はろばろ瞬くスバル  小山美保子


膝の上に手紙のやうな秋の陽のあたると思ひぬのぞみの席に  清水弘子

 

部屋のあかり絞り見てゐる遠花火音なくひらく切り絵のやうに  東郷悦子


寂しいと同義語である大丈夫 電話の向こうの父さんの声  中山悦子


かすかなる語尾を受け取り店員はそれを明るく訛りと言えり  山内頌子


誰からもなにもいはれぬ身のかるさ漏れくる雨を花瓶にうけて  斎藤雅也


夫を亡くした人は長生きするというを笑みながら聞くようになれました  𠮷川敬子



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-01-20 11:07 | 十首選 | Comments(0)
2019年 01月 19日

「塔」一月号 月集 十首選

「塔」一月号 月集 十首選


追いつめしゴキブリ飛んだここで飛ぶなんて狡いぜ冬がくる朝  池本一郎


メインストリームがすきなひとたちつぎつぎとながれをつかみ奔りゆきたり  真中朋久


魂はどこへ行くのかツユクサの青い翼にこの朝乗りて  前田康子


太古より変わらぬ色に照らさるる人ら囲めり薪にたつ火を  永田 淳


ヘンゼルがなぜかひとりで戻り来る夜が明ける前の森の径から  松村正直


生れて一と月ふくふくと稚児(やや)太りたり 父待つ横浜へ帰る日となる  青井せつ子


山茶花の莟ほのかに紅さすと言ひたき時を人が居て欲し  角田恒子


みづの音を聞きたくて少し遠く来る葦原流れ落つる水の辺  加藤久子


戦慄のサスペンスはわが日常に 冷蔵庫をなぜあけているのか  なみの亜子


日の暮れにかけて晴れゆく秋の日は鍵つき扉の箱に入れたし  山下 泉



(新井蜜)



by trentonrowley | 2019-01-19 14:49 | 十首選 | Comments(0)