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暗黒星雲

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2022年 01月 26日

「塔」一月号 山下泉選歌欄 十首選

「塔」一月号 山下泉選歌欄 十首選


アーケード抜ければロングカーディガンに木の葉降りたりそのまま歩く  田宮智美


日の落ちて音無き街を歩きたり金木犀の香りに従きて  江原幹子


知らぬ間に降りて止みたり陽を浴びて水が乾いていく匂いする  乙部真実


飯を炊く時には歌へと母言ひき笑はぬわれを危惧してゐしか  上大迫チエ


手足伸べ朝の水に浮く亀の弛緩羨しみ岸辺にをりぬ  首藤よしえ


葉桜の並木道には木漏れ日が水の微笑のやうに漏れ来る  千名民時


五合目の小笹を刈りて道つくる人の残せるりんどうの花  三谷弘子


すすみゆく秋に心を添はすれば肩を張らずにすむかも知れぬ  本嶋美代子


限りなくひくき声にてわたくしは呼ばれてをりぬどこか遠くで  毛利さち子


抗体ができなささうなかほの人に不親切にされてゐる真昼間  西村玲美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-01-26 22:18 | 十首選
2022年 01月 25日

「塔」一月号 小林信也選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林信也選歌欄 十首選


ラジオから中入り告ぐる柝()の音す山の我が家も夕暮れてゆく  髙野 岬


想ひ出はゆつくりと巻くふるさとの海辺を姉と歩いた日傘  立川目陽子


中古車の査定のような面接を脚を組みたるひとに受けおり  矢澤麻子


出かけ際の母が逆さに靴を持ち確かめており蟹はおらぬと  浅野美紗子


色褪せし歌集を繰れば吾亦紅野にあるような淋しさのあり  数又みはる


鍋一面浮かぶ団子にわれ知らず微笑んでいるひとときのある  永田聖子


コンバインに替わってきても稲刈りの匂いは同じその傍を行く  向山文昭


言ひたきことありさうな顔のこすまま娘はひと夜泊つて帰る  柳田主於美


翼にはなれないスカート汚れてて少女は羽ばたくことができない  山梨寿子


昼月はさみしいのだと言う人の昼月に似る病める横顔  黒沢 梓



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-01-25 22:15 | 十首選
2022年 01月 24日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


カーテンの隙間にもれる朝の陽がポインターのごとカレンダー指しぬ  黒木浩子


すりガラスの向かうの外のほの白く月の兎の遊びゐるころ  石原安藝子


ゆっくりと薬が溶けてゆくように母は最初に私を忘れた  石井久美子


キッチンの小窓に飾りしガラス瓶蜂蜜いろの夕陽溜めおり  岩﨑雅子


午後からは雨の予報に九月尽の残れる稲を刈るコンバイン  加藤和子


肩怒(いか)るピーマン割れば鳴るごとく緑(あお)き香の立ち手の止まりたり  し


夕顔のまろきを割りて炊く夕べかがやきおらむみちのくの野は  谷口公一


風おちて温き陽射しの日にあればすこし気張りて遠まはりする  千葉なおみ


まなかいに山見え小さき川流れ海近くありきわれのふるさと  濵﨑藍子


もうすでに私はどこかのおばちゃんで時々一緒にご飯を食べる  龍田裕子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2022-01-24 22:24 | 十首選
2021年 11月 17日

「塔」十一月号 月集 十首選

「塔」十一月号 月集 十首選


嵌め殺しの窓のあかるし階段の下に仰げば月がでてをり  杉本潤子


夕ぐれの渡り廊下に少年は声を投げたり少女のわれに  谷口純子


華やかな花をあなたに見てほしい抱きてゆくに香に立ちくらむ  土肥朋子


区切られし唾液採取のブースの中、梅干し・レモンの写真貼らるる  西川啓子


ここにゐるよここにゐるよといふふうに雑草(あらくさ)の中に咲くナツズイセン  久岡貴子


うすべにの浜昼顔よはるけくも海に逝きにし人ら思いぬ  本間温子


(ひる)すぎてしまし陽の射す井戸の辺に実生のびはの濃きみどり伸ぶ  溝川清久


飛び立てり友は夏の夜飛び立てりさよなら言はず次の空へと  村田弘子


あなただって経験しないで終るでしょ密の塊りみたいな密会  村松建彦


誰もみな視線を落として無言なり濁った川をわたるときにも  山西直子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-11-17 22:01 | 十首選
2021年 11月 15日

「塔」十一月号 若葉集(小林信也選) 十首選

「塔」十一月号 若葉集(小林信也選) 十首選


ふるさとの夜風の匂ひなつかしく遠き花火をひとり見てゐる  小平厚子


私から羽ばたくものはまだあるとしずかに振るう透明の傘  中込有美


会うこともできないのだしと母は云う踏切でじっと夏を見ている  佐竹 栞


停電で誰もが窓を開けていてしきりに天の川を見ている  板倉光助


鴨川を眺めるカモの横にいて うん、そうだよな。そうなんだよな。  後藤英治


ぐははんと前転決めし鉄棒に父失踪のかの夏は来る  小林純子


長髪のリボンの似合う子がくれた泣き虫子犬夜明けに逃げた  田山光起


伸びきったメジャーの余白 届かないところにばかり本心がある  長井めも


蝉の声が消えゆき去れば耳鳴りの音やかましくよみがへり来ぬ  松本ひろし


図書館に行くとだいたいあの席にいるおじいさんお元気ですか  西村鴻一



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-11-15 22:13 | 十首選