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暗黒星雲

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2018年 03月 23日

「塔」三月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」三月号 栗木京子選歌欄 十首選


日本橋「砂場」にふたり蕎麦掻きをあねいもうとのやうに分けあふ  澄田広枝


夏柑の残りを煮てゐるとろとろと占ふやうにしやもじは動く  出 奈津子


何だらうぬるぬるぬると未確認ひかう物体躰をぬけゆく  國森久美子


朝あさに連嶺のごとき雲うかびもう聞こえこぬ死者の声あり  竹下文子


沖島は猫がいるから好きという子トンビのいるのがわれは好きなり  土肥朋子


アンタレス西へ西へと移りしに耳石のゆれはいまだ止まざり  中島扶美惠


窓の外かすかにずれる心地して梧桐(あおぎり)の葉のゆらり落ちくる  永田聖子


こんなにも大きいんだと見せてから湖東の空へ舞ひ上がる鳶  山口泰子


今日もまた挙動不審な我のをり防犯カメラにひとひ追はるる  黒瀬圭子


日捲りは夏のままなるふるさとの家に雪虫飛びいるころか  数又みはる



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-23 20:22 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 23日

「塔」三月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」三月号若葉集 小林幸子選歌欄 十首選


カンカンと鉄音響かせ六人の作業する人鉄塔に並ぶ  山内恵子


ポケットの内にポケットあることに気付く明るき枯野を行けば  森尾みづな


おめでとう顔の体操するように口にしてみるトイレの中で  椛沢知世


生け垣に山茶花背よりたかき道 子らを呼ぶ声けさは聞こえず  栗栖優子


テノールの車掌の声はここちよく神楽坂まで乗って行こうか  薦田 恵


まま、と呼ぶ人を探している君の右手をぎゅっと握り締めつつ とわさき芽ぐみ


たぶんすぐあなたは誰かと手を繋ぎその手を誰とも比べないひと  中森 舞


教室もペンもチークもサックスも跳び越えてゆく 魚座を盗め  平野 杏


分数を教へる時に分けるものチーズケーキにしてと言ふきみ  本田 葵


雨あがり車道にうかぶ青空を白き自転車わたりてゆけり  吉原 真



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-23 10:39 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 21日

「塔」三月号 永田淳選歌欄 十首選

「塔」三月号 永田淳選歌欄 十首選


寂しさを母は語りき寂しさははるかに遠く木蓮の咲く  ひじり純子


ふたたびは会ふことなからむ遠縁の人の手料理夫を酔はしむ  林 雍子


モンブランケーキにブスッとフォーク刺すあの頃姑の脳怪しき  鈴木美代子


竹鼻町狐穴(たけはなちやうきつねあな)とふ交差点差しかかるとき赤の灯ともる  伊藤京子


こんなにももう輝けぬテーブルの津軽りんごに陽のあたる午後  木原樹庵


つきたての餅を正座のいもうとの膝つこぞうの形に丸める  竹内真実子


「おばあちやん」と他人に言はれつんのめりぬ七十歳は微妙なのです  藤原はつみ


自家製のつるし柿ならほちゃほちゃの時を選びて食むのも嬉しい  堀口 岬


冬川を落ち葉の筏が流れゆく乾ききつたる夢の浮力に  一宮雅子


工事現場に置かれたままのショベルカーが今夜は掬つてみたい星たち  高橋ひろ子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-21 21:47 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 21日

「塔」三月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」三月号 江戸雪選歌欄 十首選


真夜中の仕事は終わる気配すらなくて五度目のコーヒーの湯気  内海誠二


忙しくしているらしいおとうとの擦りきれている革靴の先  小松 岬


お大事にと返すしかなく三日月のかどは鋭くとがりていたり  三谷弘子


首のない鶏を逆さにぶら下げてワンピースの人夕暮れに消ゆ  小圷光風


やうやくに日の差しはじめ見下せばいつも乗つてた黄色い電車  佐藤壽美枝


終電のプラットホームは光からつくられている微かな離島  森永理恵


わが窓に大きく影のすぎてゆき庭の式部がはらはらと散る  南條暁美


突きつめたあとの奈落を思いつつスノードームに雪を降らせる  黒木浩子


そのうちにと思うこと多すぎてもう二度と戻れない世界だ  井上雅史


あと十分門限までのまわり道に「デスペラード」を聴いた助手席  中山惠子




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-21 10:30 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 20日

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」三月号 前田康子選歌欄 十首選


ときに夕陽は鋭く射して街上の通り魔の手を閃かせたり  永山凌平


わが家へと誘いのメールの五分後に君は来たりぬ作業着のまま  赤田文女


両親が島よりもどりしばらくを島唄のなかに日々を過ごしぬ  浅野美紗子


雨の降りはじめを電車に見ておればいつかは魚だったわたしも  川上まなみ


うすくふくらんだ手編みのセーターにアネモネは咲き ひと挿しもらう  北虎叡人


煮炊き終え向かう机に西日射し今日のわたしが頬杖をつく  倉谷節子


ひとり降りまたひとり降りバスはゆく赤い金魚のように眠ろう  小林千代


傷口に塩をぬり込む行為だとわからぬ貴女のアドバイス聞く  前原美登里


青春の甘き息にも握らぬ手八十路を過ぎて握りしめをり  山田トシ子


おもいでは揮発されゆくはつふゆのあさへこの身をさらしておれば  田村龍平




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-20 11:40 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 19日

「塔」三月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」三月号 山下洋選歌欄 十首選


停電に静止するラボひんやりとチェリャビンスクから来たという石  安治香織


バカボンの生まるる前のバカボンのパパを思ひぬ子を抱きつつ  益田克行


八月を語りたること多けれど十二月八日静けく暮れたり  小畑志津子


これはねきたやましぐれとひとの声 秋陽に照りて銀の糸降る  津田雅子


日本を守るアメリカ軍だから落ちた窓枠、県がひきとる  久保まり子


先に寝てた妻がくるりと背を向けてなんだばかやろーと小さく言えり  垣野俊一郎


ふつと消えてしまひさうだつた彼の日々の錘であつたか 黒いリュックは  山尾春美


逝きしのち六時間なら交わりてよいらしエジプト流の別れは  高橋武司


半島の付け根に暮らす 大切なことほど親に言はないで来て  髙野 岬


あしたのジョーほどに疲れて帰り来る妻は両手を重くぶら下げ  小林貴文



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-19 17:23 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 18日

「塔」三月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」三月号 永田和宏選歌欄 十首選


半過去も単純未来もどこか遠く知らない町を濡らす雨粒  福西直美


きれぎれに仕事の愚痴を言いし人が揚げあんパンの話を始める  吉田 典


ふゆぞらに塔きわだてり白月とならび浮かべばほろびの匂いに  中田明子


やはらかき西洋ひひらぎ赤き実の片恋のままあなたと暮らす  長尾 宏


鹿ヶ谷通りを北に歩を早め右に折れると霙に変わる  田巻幸生


垣根縫う忍びのような鶯のぢ鳴き聞こえて足を止めたり  森山 功


くらやみがばきゅんと撃たれた傷跡のようにひらいた白いさざんか  海老茶ちよ子


駅前の歯医者の窓より見おろせば話してみたき女人がとほる  坪井睦彦


止まるなと言はれて蟹の横ばひに信貴山縁起絵巻を過ぎる  澤井潤子


どうしてもやりきれぬ日があるでせうピリ辛カレーを夜にはどうぞ  臼井 均




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-18 18:30 | 十首選 | Comments(0)
2018年 03月 17日

「塔」三月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」三月号 真中朋久選歌欄 十首選


可愛いとわたしに言ったことなどもなかったように結婚する人  田宮智美


玄関にジャンパー、ランドセル脱ぎ捨てておやつちょうだいと子は我に言う  矢澤麻子


冠はシロツメクサでつくったの世界はあたしのものだったのよ  真間梅子


力む癖が身に付いていて落花生を次々食べて歯痛を起す  河田潮子


彼岸花が呼んでも行くなと妻が言う出掛ける時にまた念を押す  中山大三


太陽は生れ変はりたり冬至すぎ日脚をのばし光強くす  山下好美


友人A友人Bとカラオケに 恋人Aから連絡は無し  川又郁人


菜箸の二本が丈の異なればとりあへず先を揃へて使ふ  丸山順司


昼どきのATMの残り香はうすきピンクの看護師のもの  柳田主於美


遺影にと撮りし写真の五年経てやや若すぎるかと鏡に比ぶ  加藤 宙



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-03-17 20:00 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 23日

「塔」二月号 月集 十首選

「塔」二月号 月集 十首選


夕ぐれの光に翳を深くする雪の比叡を見つつ帰らな  永田和宏


逢ひかたを考へてくれるひとのため時間をつくり逢ひにゆかむとす  真中朋久


冬霧のように過ぎたり会ってから頰にふれくるまでの時間は  江戸 雪


熟したる柿の実ほたりと落ちて来ぬ友よりの便り絶えて久しき  青井せつ子


我もまた独りとおもひゐるときにバックしますとトラックの声  岩野伸子


黄の光戸の隙間より届き来て呼ばれゐるかと月を見に出る  亀谷たま江


聖岳まぢかき里の勾配を昇りてゆけり秋の黄蝶は  酒井久美子


ゆらゆらと川沿いの道をあゆみくる橋のあたりで手をふりながら  竹田千寿


山を背に二十戸ばかりなる里に住みたしと言ふ雪を知らねば  干田智子


胎内のやうなくらやみ潜りゆく虚見都(そらみつ)奈良へ近づきながら  万造寺ようこ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-23 22:11 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 23日

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」二月号 永田和宏選歌欄 十首選


舟が水を分けるみたいに滑らかに前へ進んでアタック決まる  荒井直子


鋪道(しきみち)の冷ゆる夕べを自転車の籠かたぶきぬ塩の重さに  清水弘子


四角い校舎のドアを出ずれば学校は夜に漕ぎ出す船のようなり  芦田美香


常光寺と墨書ありたり傾きし陽を背に受けて路地を曲れば  上﨑智旦


多分少し正確でない言葉だと秋の空耳を繰り返して我は  小川和恵


一両の青い列車が走りゆく遠く枯野を切りさきながら  数又みはる


公園のベンチに黒く小さき背 しばし見つめて我が母と知る  佐原亜子


夜ふかく夢のさなかと思ふまでおほき純白の花ひらきゆく  友田勝美


墓石は手を灼く熱さ     暑さに弱き母のねむれる  仙田篤子


父の焚く送り火を背に母がゆく振り向くことの無き闇の道  仙田篤子




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-23 16:32 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 22日

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」二月号 池本一郎選歌欄 十首選


聞きながら乾いてゆけりくちびるは湿らせながら次をうながす  岡本幸緒


山靴にほど良く泥の付きし日にチーズケーキと珈琲を待つ  江種泰榮


仕舞湯の鎖を引けば悲しみはゴウと声たてうづ巻き流る  黒瀬圭子


ひたまりのなかに覚めたり鉛筆の落ちて転がる澄んだひびきに  佐藤陽介


子どもらは禿びたゑんぴつがなぜか好き筆箱の中てんでにありぬ  山地あい子


エスカレーターですれちがひたるをさな児の眼に間に合はざる我のほほゑみ  立川目陽子


夕ぐれのかばんにつぷつぷ揺れているペットボトルに残りし水が  永田聖子


渇水の歴史をもてる満濃町 火除けのお守り家家に見ゆ  橋本成子


本題を言い出すたびにうやむやとなり改札で娘と別れたり  三浦こうこ


箪笥あり帯揚げ伊達衿あらわれて蟹色を夢のわれは手に取る  朝井さとる



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-22 20:14 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 21日

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選

「塔」二月号若葉集 永田淳選歌欄 十首選


その先に海はあるはず右へゆく道のかなたを一瞬思う  吉原 真


くちなしは罪のかをりすたそがれて歩みおそしと父を待ちをり  栗栖優子


何かしら通知が来るたび光ってはまた暗くなるスマホを見てる  佐原八重


喪失感グレーに引きずる日々にしてイヤリング 一つ何処にか落とす  才田良子


一本にあかみどりきの入り混じり性徴期の恥じらいのごときポプラ  渋谷めぐみ


眼裏に小さな鼠住みおれば潰さぬようにそっと目を閉ず  泉乃 明


前をゆく夫婦の距離が開きゆくことの気になるウォーキング大会  森尾みづな


生き抜いたつもりになって空き缶をぐしゃりと潰すきれいな足で  とわさき芽ぐみ


ここからは雪原ねってぺたんこのお腹へ乗せてくるプラレール  はたえり


シェービングクリームに軍用はなく 髭剃りの刃を替える明け方  太代祐一



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-21 22:27 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 21日

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」二月号 江戸雪選歌欄 十首選


その文目あざやかなこと黒々と眼はかがやけり墜ちた啄木鳥  吉岡みれい


尖りある酸味の赤がくちびるを濡らす夜です月は見えない  高松紗都子


名を呼べど帰り来るはずなきものを日暮れになればやはり名を呼ぶ  木戸洋子


天井を見ている僕は天井を抱きしめたいと思いはじめた  中村寛之


廊下にて会ひたる君のへなへなのしやべり方にも励まされたり  永山凌平


敗けました素直に認め一刻も早くこの場を去りて行きたし  服部知子


あらくさを跳ねるショウリョウバッタをり「ほら」と指差す子もなく我は  向井和子


逆様に稲架の稲穂はうちそろいSKDの跳ね上げた脚  山下幸一


その着物好きかと友に問はれけりうれしさうだと笑はれにけり  潔 ゆみこ


簡単な字のまちがいを眺めつつありえねえとなむつぶやきにける  長尾 宏




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-21 16:48 | 十首選 | Comments(1)
2018年 02月 20日

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」二月号 前田康子選歌欄 十首選


思ひ出を降りこぼすやうに落ちてゐる老健施設の庭に椎の実  澤井潤子


柿包む山形新聞、柿よりも嬉しと眺むひねもす義母は  今井由美子


また違うひとになりゆく 傍らでマタニティーヨガに瞑目する吾娘  岡村圭子


三ヵ月ぶりに髪を切りわれと子と互みにかはいいねつてほほゑむ  岡本伸香


田仕舞ひのけむりは丘をなだめゐて野のひとかげの土にとけゆく  熊澤哲哉


スズムシの声はあちらにないだらうと言ひてわが子は荷を作りをり  古関すま子


君の手に一度も触れたことがない他の男に触れて気づきぬ  田中典子


眩しすぎる同級生の中にいて饒舌すぎた自分が悲しい  田巻幸生


貼り紙の捜されているインコの名すっかり覚えてしまってせつない  萩原璋子


帰り来てアウェイのようだと宣えりいつもの椅子にゆったり掛けて  廣瀬美穂




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-20 11:26 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 19日

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」二月号 山下洋選歌欄 十首選


我が歩みにひったり従(つ)きて来る影の背なの丸みに見覚えのあり  相馬好子


血流に乗って思考も巡り出すジムの帰りは少し賢い  丘村奈央子


検査から検査の夫を待つときの地にはねかえる雨を見ている  藤田幸子


雨の日の傘を差さずに改札の前に立つペコちゃんの憂鬱  杉田菜穂


我が庭の藤袴の花訪れし蝶が韃靼海峡を行く  戸田明美


地軸傾ぐ音して冬に入る日に林檎剥く妻 地球はまはる  加藤 宙


道端にニッカーボッカーの二人坐しタバコのひとりスマホのひとり  安永 明


たばこ屋の角を曲がればその先の角にもやぱりたばこ屋がある  かがみゆみ


一本違ふ道をたどつたはずなのになぜかまたこの角に出てくる  加茂直樹


あの時は泣けばよかつたかもしれぬ金木犀は花零すのみ  祐德美惠子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-19 22:12 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 19日

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」二月号 三井修選歌欄 十首選


記念日と呼ぶほどじゃないけど大事 はじめて君のあくびを見た日  小松 岬


<ハロウィン>はアイルランドが起源とかそこここに見る南瓜赤顔  水谷英子


一日の終わりに拾った砂時計上下に激しくゆさぶってみる  北野中子


いくつかの名前を持って呼ばれればその名のわたしとして振り返る  柴野 春


あやまりに出かけるためのクッキーのあかきつつみは雨にふやける  高橋武司


被虐はなほ快きかな 歯をたててをさなごの噛むわれのきりぎし  東 勝臣


お気に入りのイヤリングはいつも壊れデジタル時計は暴力的だ  穂積みづほ


じれて待つゴム手袋がうずたかきモンブラン一個箱に収むを  宮城公子


音もなく海峡かくし降る雨をツアーのバスのうしろに眺む  菊井直子


男の子とう兆しは見つけられぬままエコー写真に育ちゆく孫  山下美和子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-19 14:43 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 18日

「塔」二月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」二月号 栗木京子選歌欄 十首選


原宿のあたりにひとりはゐるやうな髪結ひてゐる制吒迦童子  久川康子


鳩のいる水道で子のひざの血を洗い流せば陽があたたかい  吉田 典


黒山羊を眠りの中に引き連れてわたしの服は月にぬれてる  希屋の浦


絵葉書の美しきを抜きとって憲兵大尉は胸を病んでいる  岡崎五郎


アララトの山すそ占むる麦畑にクルドの人とこうのとり住む  倉成悦子


ブーケ買う夢を今朝方見しことを花屋の前で思い起こせり  深井克彦


野良猫の喉をなでいる叔父の手は三年前まで麻を抜いてた  ジャッシーいく子


魚のごと冷たく生きる誰一人好きではないと言ひ張りながら  逢坂みずき


けふのことはけふのことだよ 柑橘のひとかけみづのなかに華やぐ  小田桐 夕


五歳児のほんとの話はくるくると神話のごとき転調があり  竹田伊波礼



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-18 15:20 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 17日

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選

「塔」二月号 花山多佳子選歌欄 十首選


どこからかくしゃみする音聞こえくる火曜の昼のジュンク堂書店  和田かな子


しろたえのブラウスならば晴れやかな顔となるらしレフ板のごと  秋野道子


街角のイチョウはくまなく色づいてまたひとり会社を去って行くらし  魚谷真梨子


夜勤あけの看護師さんが帰つてゆく皇帝ダリヤをちらと見上げて  北島邦夫


寂しさは切羽詰まって革命となることなけむ鵯啼けり  篠原廣己


ガードライン白くくっきり引きなおす私は弱くなんてないから  前原美登里


紅さへもささず素顔のままの友 新月のやうにふふふと笑ふ  三浦智江子


茶話会で「概念」などと口にして白けた感じ 茶を足してみる  与儀典子


告げざりし医師はかなしも医師にして告げられざりし父はかなしも  高橋道子


二組の長靴の跡ときに寄りときに離れて秋を耕す  竹内真実子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-02-17 22:29 | 十首選 | Comments(0)
2018年 02月 04日

比叡山の横に雪を被った山があるように見える

比叡山の横に雪を被った山があるように見える。奈良市最北端から。
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# by trentonrowley | 2018-02-04 11:02 | Comments(0)
2018年 01月 18日

「塔」一月号 月集 十首選

「塔」一月号 月集 十首選


壁ひとつ隔てし納屋より一夜立つ新藁を積む匂いのしるき  池本一郎


前をゆく傘はおそらく君だろう白地に青のポルカドットは  山下 洋


夏の味抜けてしまいしトマト添えますます静か二人の夕餉  前田康子


夕風をみはからって出る屋上にかわいたシャツがふくらんでいる  江戸 雪


足早やの夫追い駈けし散歩道稲穂の畦をゆるゆる歩む  青井せつ子


「お父さん」と呼びつつ病父を訪う娘「お父さん」なる温き日本語  酒井万奈


祖父がいて祖母いて父母のおりし頃姉とつみたる籠ゆすらうめ  進藤多紀


ワイパーが雨ぬぐひゐる繰返し なかつたことには出来ないだらう  久岡貴子


祖父の飼ふ馬の黒眼に稔りゆく稲穂のそよぐを見たる日のあり  藤原勇次


レタスの葉そつと剥ぐごと乳飲み子の肌着を脱がせ湯船に抱きゆく  村田弘子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-18 22:39 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 18日

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選

「塔」一月号 栗木京子選歌欄 十首選


矢印に導かれるまま亡き人のもとへ夕べの街を歩みぬ  関野裕之


かの国の軍事記念日 草を取るわれを掠めて行くヘリのあり  安藤純代


茄子を切り葱きざみつつ思いおりわが手には今刃物があると  大城和子


怒りつつ泣くとふ矛盾ふりむかずいつぽんの橋わたりをへたり  澄田広枝


まひるまの線香花火はほんのりと秋のわたしのなかにあかるむ  永田 愛


ひとり生きる肌着を冬日に干してゆく塀のかなたに比叡が青し  橋本英憲


お参りの客なき盆の昼ひとりレトルトカレーを温めてをり  本嶋美代子


カテーテル検査受けると聞きてよりとりとめもなき妻の饒舌  大倉秀己


展望台のベンチの角で殻を割るゆで卵まだほんのりぬくし  尾崎知子


老犬には見えないだろう赤とんぼほらとんぼだよと言ってはみたが  林田幸子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-18 16:34 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 17日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


雨音に耳そがるる夜半読みつげり秋草のごときふるき恋歌  永田聖子


散骨をのぞむと言えばどの海にするかと夫が地図を広ぐる  中澤百合子


放したのか放されたのか母の手の遠くなりたり風草の道  数又みはる


元海岸線に従い伸びる小路には質屋一軒営まれおり  北辻千展


越し来たる人を知らねど通るたび庭先を見る花梨成る庭  嶋寺洋子


アスファルトに雨の王冠あまた生(あ)れ嬉しさうなり長靴の子は  田中律子


発車するドア越しの児と目が合いて秘密のように手をふりあえり  村瀬美代子


明日よりは施設に入らむ母のため足のおゆびの爪を切りたり  吉田健一


一列に連なりゆけり保線区のひとら被れる黄のヘルメット  川田伸子


まッしろのしを言ふときの舌先をほのあたたかき息は越えつつ  佐藤陽介




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-17 22:16 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 17日

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選

「塔」一月号若葉集 江戸雪選歌欄 十首選


暗やみでポップコーンを湿らせる舌先熱き金曜の夜  うにがわえりも


日ごと夜ごと容易に不穏になる胸の森に一羽の飛ばぬ小鳥を  中森 舞


「そっか」の「か」と「ですよね」の「ね」が隠すもの すり切り一杯分の悲しみ  荒井貴彦


遠足の弁当は無事持たせたが「行ってらっしゃい」言ってなかった  伊地知樹里


屋台には赤・黄・橙(だいだい)並んでて「夏が終わるね」と少女が言った  大島綸子


名人が歩を打つように横にあるティッシュをつまみ一滴をふく  中西寒天


一本の大根とねぎ新聞に花束のごとく包みてだきぬ  坂東茂子


眼差しに呼ばれたような気がしてさプールサイドに枯れた紫陽花  深山 静


歯科医院のナース弁当を手に下げて秋の風吹く信号を渡る  森川たみ子


かなしみの皮膜に包まれ片頬をつねってみても赤くなるだけ  椛沢知世



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-17 09:58 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 16日

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」一月号 前田康子選歌欄 十首選


チェロの音が流れ始めた家をすぎ雨のはじめのしづくに触れる  加茂直樹


わがままも言はずなりたる母の顔ひとつぶ涙つんつん椿  祐德美惠子


本当はねあと一年だつてランチ終へ古風な笑みに友は告げたり  阿蘇礼子


堤防によじ登っているカップルの男は登り女登れず  内海誠二


バスを待つ間に夕日やまに入る 実家で柿をいくつも食べた  川井典子


秋の野の光の中に居し人を最寄りの駅にたたずんで待つ  木村陽子


古切手入れる小さなはこだけを残してひとは春を去りたり  高橋武司


熱帯夜明けて降る雨はつ雪を受くるがごとくひらく手のひら  多田眞理子


人の子を抱くように米を抱いている女を見たり日曜の午後  田宮智美


モンローのまろき体を思ひをりいちじく白くやはくありせば  遠田有里子




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-16 19:42 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 15日

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」一月号 山下洋選歌欄 十首選


十月はリハビリを待つ風呂を待つ夕食を待つただひとり待つ  三谷弘子


狂女にもなりえぬわれはさびしくて一人ぼつちの身をかくし住む  佐竹永衣


海馬より深いところの夕焼けに立てかけられている一輪車  逢坂みずき


ははそはのその母の呼ぶこゑは珠ひつぎの娘をよびて珠なり  千村久仁子


砂を吐くみたいな暮らしは止めにする浅蜊の酒蒸し作り終へたら  大江美典


包丁をぬるりと拭いて店頭に肉屋の男顔を向けたり  小圷光風


「珈琲のおいしい季節となりました」遠くの誰かに手紙書きたし  杉原諒美


山に向き声をかければ鼓の音が返りくるとうつづみ橋行く  竹内多美子


お堀通りの紅葉(もみ)ずる並木をくぐるとき木琴のラが聞こえる如し  堀口 岬


泥沼の左の端より亀のきて右からの鯉にぶつからずゆく  柳田主於美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-15 14:54 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 14日

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選


玄関のチャイムの音の鳴り止まぬ夢を見たりき会議の朝に  永久保英敏


生臭き指に抓みたる抹香を音なく擦りて香炉に落とす  近藤真啓


好きなもの増やさないよう生きている我慢すること増やさないよう  かがみゆみ


ぐすんぐすんと擬音語出せばそんなにも泣きたいことではないと気づきぬ  中井スピカ


浜辺から狙撃の噂。東京士官は五メートル置きに夜も立ちをり  河村壽仁


告げ口が得意だつたらよかつたね 胡瓜の花のしぼむゆふぐれ  千葉優作


くまモンの鉛筆で書きくまモンの消しゴムで歌の消しかすできた  水本玲子


ひとなぬか薄(うす)ら氷(ひ)からのかへしにも母よあなたの視線を想ふ  村上 明


玄関の鉢のバジルにかるく触れ初老の男帰りてゆけり  相本絢子


初恋の少年夢にあらわれて会釈をすれどわれは黙せり  吉田 典




(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-14 15:46 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 13日

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選


少年は櫂に和舟を操つて四つの内湖を渡りしむかしに  穂積みづほ


上品なしかめっつらがあることをあなたで知ったことがはじまり  小松 岬


あの鳥が空の奥へと点になるまでを見ている 自転車とめて  山川仁帆


燃えてゐると言へば終りのヒガンバナ秋高空へ漕ぎ出して行け  高橋ひろ子


わらべにて夾竹桃咲く道歩き振り向けば碧き六甲ありき  西村美智子


夏服でまだいけそうな日もありてバターのごとく晴れて光は  廣野翔一


吹きすさぶ西駒颪の通り道赤いポストが口開けてゐた  朝井一恵


けんめいに探しゐたるは何ならむ夢より覚めてなほ不安なる  岩本文子


玄関のバジルの葉っぱを摘み終えて雨を見ていた夕暮れの雨を  北山順子


ウォーキングの径に拾いし栗の実の小さき汚れを手に拭いたり  相馬好子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-13 20:11 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 12日

「塔」一月号 池本一郎選歌欄 十首選

「塔」一月号 池本一郎選歌欄 十首選


新暦の子規忌の単衣の肌じゅばん蒸れて根岸の子規をおもえり  萩尾マリ子


なまよみの甲斐性なしの吾が書きし無心の葉書仏壇より出づ  内藤幸雄


「夕焼小焼」午後五時に鳴る向かう岸五時半に鳴るわれの住むまち  川田果弧


「青春を過ぎたさみしい野菜です」茄子にふみ添へ玄関にあり  赤岩邦子


その身ほど大きな荷物の少女らの声の明るい海辺の電車  徳田浩実


ひざ小僧美しくのぞきたり子を抱きて駆けよる嫁のブルージーンズ  森永絹子


つぐひとの去りゆきしのちしばらくをテーブルに水影は揺れいる  中田明子


マムシ柄のシャツの男が前をゆき労働意欲がしぼむ朝なり  一宮雅子


バルコニーの手すりを鳩がそろりゆく平均台の少女のやうに  堺 礼子


三本の樅の木のみのグランドを見つつバス待つ初めての町  中西よ於こ



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-12 20:36 | 十首選 | Comments(0)
2018年 01月 11日

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選

「塔」一月号 永田和宏選歌欄 十首選


「金銭のことで口論となり」まではうちと一緒だ ニュースは続く  垣野俊一郎


きばう持てばつひにはつらくなることを知りながらなほ 草のつゆ踏む  山尾春美


あれはどこへ行くのだったかポケットに百円玉を固く握りて  中本久美子


桃色のコスモス置けばほんのりと気配もゆれる裾縢(かが)る夜  泉 みわ


花束の花を選んでゆくようで感謝のことばを言うのが好きだ  加瀬はる


住んだことない町そこに親がいて見知らぬ町を故郷と思う  久保まり子


フェニキアの大航海を想ひをりレバノン杉を根方に仰ぎ  前田 豊


バス停にそこの家から持ち出したみたいな椅子があるので座る  𠮷田恭大


もうまつくらよ、誰か言ひをり切れはしの雲が行き場を失つてゐる  松原あけみ


亡き父に会ったと言いし母の背に夢のことかと念押しきわれは  神山倶生



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2018-01-11 20:23 | 十首選 | Comments(0)
2017年 12月 25日

「塔」十二月号 月集 十首選

「塔」十二月号 月集 十首選


釣れたよと鮎をもらいぬ家族ぶん家族(うち)は二匹と言いてもらいぬ  池本一郎


目陰(まかげ)して白橿の木を見あぐれば山鳩の雛のかほふたつ見ゆ  小林幸子


照明のもとにきらめくひざがしらばかり見ていた君の目は見ず  山下 洋


男ひとり重たい水になりながら坂のぼりくるひとを待ちいる  江戸 雪


みずからの死を知ることのないままに死にたる蟬か脚をちぢめて  松村正直


茜さす夕風に搖るるすすきの穂恋しき人のかくるる気配  青井せつ子


オレはお前の使用人ではないといふあなたの言葉はそのまま返す  岩野伸子


うかららの在りたるときを故もなく思はす夏の大夕焼に会ふ  尾形 貢


「願わくば桜の下で」とは書かず「最后はどこで」の項に記入す  酒井万奈


音たてて出てゆくやすぐドア開けて君の指図はうけないと言う  本間温子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2017-12-25 22:56 | 十首選 | Comments(0)