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暗黒星雲

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2021年 01月 16日

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」一月号 三井修選歌欄 十首選


向かう向いてゐよと窓辺に座らせつ縫ひぐるみなれば忽ち従ふ  髙野 岬


金木犀の香には昔があり過ぎる吸い込み過ぎぬよう息をする  矢澤麻子


紫のらくがん舌にのせとかす話し相手のいない日曜  松浦わか子


爪ほどの小さきヨットの帆が見える水平線なりクールベの海  福西直美


まっすぐな言葉はじかに受けとりぬ手にすくい飲む沢水のごと  石井夢津子


「猪(しし)出没」特急回覧板に載り海辺の町の班内めぐる  大塚洋子


来年はもう来れぬかもしれぬから今年六度目の鮎の友釣り  加藤武朗


ひとりぐらゐ話せる人はゐぬものか肌のかわいた女がとなり  筑井悦子


るくるくるく苦瓜の蔓外しゆく夏の時間を巻き戻すごと  橋本恵美


泡のごとき眠気かかえてもぐりたしプラネタリウムの流星群へ  永田聖子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-01-16 22:10 | 十首選
2021年 01月 15日

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」一月号 小林幸子選歌欄 十首選


リンゴ煮て甘酸っぱさを確かめる昔の恋などひと匙たらし  ダンバー悦子


眠たさを通りすぎたり真夜中の無音のなかに蝉が遠鳴く  土肥朋子


お茶請けは豆の大福わが死後にいただくはずの保険の話  中村佳世


踏切の音にひかれて南から弧を描き来る朱色の二両  山﨑大樹


立つことが生きることかも白鷺の脚まっすぐに地面をつかむ  浅野美紗子


豊穣の稲刈りおえて田にふかき轍あとあり水溜まりいる  歌川 功


自動車のエンジンの音ドアの音もしやと思えど子ら帰らざり  齋藤ちづ子


色つきの彫りものを見たこの街でやさしき口調の老いの背中に  竹井佐知子


なぎさゆく君の足型たちまちに寄せ来る波に崩されゆけり  谷口公一


ひとがこはいひとがこはいと鳴きながら闇にまぎれてカラスにもどる  澄田広枝



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-01-15 14:22 | 十首選
2021年 01月 13日

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選

「塔」一月号 真中朋久選歌欄 十首選


乗客のすくなきことを語りをり隣席の師と時候のやうに  西之原一貴


時刻表あみだくじのごと追いゆけば指は早くも到着したり  宇梶晶子


うすずみに暮るる障子に稲光それきりとおもふとき轟きぬ  篠野 京


できたてのうぐいす餅を七人は食いてあたりは粉だらけなり  高橋武司


反対側の車輌にひよいと乗るやうに振りむきもせず逝つてしまへり  林 雍子


食事制限長きにわたりし亡夫のため小さき鍋に煮る十勝の小豆  井上政枝


月を待ち月の歩みを目に追いつ窓辺に椅子をふたつ引き寄せ  大久保 明


刺繍の手とめるあなたの耳をまね暮色の町にひぐらしを聴く  加藤 宙


さきほどから我を窺いいしものは秋の木の間の小さき日輪  川口秀晴


ゆるき坂をキバナコスモスのところまで 今は決めずにその先のこと  広瀬明子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-01-13 22:39 | 十首選
2021年 01月 12日

「塔」一月号 月集 十首選

「塔」一月号 月集 十首選


作るより考へるのがいやなのだ今晩なにを食べやうかなど  永田和宏


渡されし手書きの地図にこの世にはなき滝の名を見つつ愛しむ  栗木京子


橋ひとつ渡るだけなる東京をおそれつつ秋の彼岸も過ぎぬ  小林幸子


晩秋の境内天より降りきたるごとくに赤き三輪車あり  三井 修


不器用な形の蜘蛛の巣ある秋にここから去る君ひきとめられず  前田康子


補聴器に貼りしシールは左赤右は緑の翼端灯の色  小林信也


おくりくる動画いそいそ目を凝らす雨を踏みゆく赤い長靴  山下 泉


何もかも押入れに入れ敷く布団この歳でこんなにフォークソングだ  なみの亜子


紫雲院、きれいすぎるね新しき名に笑む君は消え入るような  池本一郎


わが庭に生まれて死にし蝉なればぬくき朝の土にうめたり  落合けい子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2021-01-12 22:11 | 十首選
2020年 12月 19日

「塔」十ニ月号 月集 十首選

「塔」十ニ月号 月集 十首選


朝光(かげ)はすでにあまねし歩道橋おりながら見る欅の幹に  花山多佳子


高松塚東壁男子一人のみよそ見してゐて消え残りたり  真中朋久


ききませうだれかが聴きしC・Dのコルトレーンのサマータイムを  小林幸子


拍動の姿露わに見せつけて海月浮遊す明るき水に  三井 修


蟬の声とだえし刹那やや前をあゆむ日傘のひとふっと消ゆ  山下 洋


うす暗き蕎麦屋の廊下のつきあたり 石臼製の手洗い場あり  前田康子


ゼフィロスの頭陀袋の縫い目より風は洩れ出づ鴨川左岸へ  永田 淳


平服に戻りてふたたび笑み交はすホテルのロビー 新婦の親と  小林信也


今よりも声愛らしく嬰児に語りかけいし人は母かも  山下 泉


もう一歩前へ トイレの貼紙が知らない場所へわたしを誘う  松村正直



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-12-19 20:31 | 十首選