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暗黒星雲

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2020年 11月 15日

「塔」十月号 月集 十首選

「塔」十月号 月集 十首選


原宿につどふ少女ら笑ふたびサクリサクリとパイの崩るる  栗木京子


玉子焼やき上がるまで王子なる音無川のほとりを歩く  小林幸子


おぼおぼと壁見つめいし母なれど比良坂こえてわれをはげます  山下 泉


モンシロチョウひらひら野の道後ろからついて歩けり白い花赤い花  藤井マサミ


この度は戻つてもこずいづこかに濡れてもをらむわたしの鍵よ  上杉和子


ブランコの裏映りゐる水たまり 夕風の手が揺らして過ぎる  佐々木千代


いく匹もの働き蜂のまといつき夕べ玄関の鍵がささらぬ  中島扶美惠


朝採りの胡瓜の棘を落としつつ宥めるやうに一日を始む  干田智子


窓際と机の前の籐の椅子わたしと二匹でけふも取り合ふ  万造寺ようこ


窓際に塩壺ありて夜のうちに塩舐め地蔵訪ひ来たりけむ  宮地しもん



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-11-15 19:50 | 十首選
2020年 11月 13日

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選

「塔」十月号 小林幸子選歌欄 十首選


白い鳥黒い鳥と横切っていく窓と向きあいコーヒーを飲む  春澄ちえ


アダージョが流れるなかを埋めてゆく母の柩にむらさきの花  田中律子


石鹸をくるみておりしセロファンの夜の屑籠にうすく匂えり  沼尻つた子


教会の前で無音になりてのちただ光りつつ救急車は来つ  小林真代


効かなくなる日がいつか来ると言われしを目覚めるたびに思い起こせり  西川啓子


墓石の隅にはりつく蛞蝓を見逃しやりぬ祖父の命日  相馬好子


恨んでたひとをなにゆえ恋しいととみにおもうか栗むきおれば  高橋武司


はつ夏の空へと続く螺旋階段のぼる女(ひと)見ゆいと軽々と  豊島ゆきこ


言葉なきものの清しさ水よりも高きところに蓮の花咲く  福西直美


合歓の花咲きて晴れなりロキソニン飲まずに一日過ぎてゆくなり  渡邊美穂子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-11-13 16:31 | 十首選
2020年 11月 09日

「塔」十月号 三井修選歌欄 十首選

「塔」十月号 三井修選歌欄 十首選


「魂」としろぬきうかぶTシャツがランニングしてゐるマスクを付けて  松原あけみ


朝八時の駅の階段ばんそうこうの貼られた踵を見ながら上る  山西直子


満月の横断歩道を黒猫は渡りゆくなり星踏むように  大引幾子


夜半覚めてきこえてきたる雨の音やさしきことばとしてききてをり  尾﨑加代子


ゆきずりと云へず友とも云ひ切れず逝きしとふ明け我も醒めゐき  清田順子


牛蛙ぼおつと鳴いて大楠の抱ける闇のかすか揺らぎぬ  竹下文子


このままでいいから放っておいてねと花糸撫子雨に打たるる  永田聖子


唐突に電話は切られさよならは宙ぶらりんのまま残りをり  長谷部和子


もともとの引つ込み思案を赦さるるやうな家居よ花の種蒔く  毛利さち子


四ヶ月めにやっと触れたるみどり児は花びら餅のようで食べたい  吉田淳美



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-11-09 22:39 | 十首選
2020年 11月 08日

「塔」十月号 山下洋選歌欄 十首選

「塔」十月号 山下洋選歌欄 十首選


風吹けばそよぐ麦の穂秩父なる里のほそみち白蝶と行く  谷口公一


あきらかにリズムの早い足音に気付いたときに追ひ抜かれたり  今西秀樹


行商を終へたる女(ひと)が荷にもたれ眠る電車が行く青田中  加藤 宙


歩みきし夏の陽射しが重たくてニューバランスの紐をほどきぬ  國森久美子


この街に誰ぞか知ると問はれゐてこの世にあらぬ人とは言はず  仙田篤子


かまきりは葛の葉うらへまはりたりけふうそつぽき青さだ空は  千村久仁子


ひとりでゐた昭和のをはりを思ひ出す梅雨明け間近の予報外れて  穂積みづほ


この水路を跳び越えようかひとしきり迷いに迷う麦畑の限()りに  土肥朋子


川土手は刈られた草の積まれゐて雨降れば著く草の匂ひす  大塚洋子


雨音を聴いてゐるうち母となり聴いてゐるうち百年が過ぐ  祐德美惠子



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-11-08 10:13 | 十首選
2020年 11月 04日

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選

「塔」十月号 前田康子選歌欄 十首選


界隈の真夜をひきずりまはりゐしバイクの音の不意に鎮もる  越智ひとみ


夕陽背にジャンプポーズをとる幼な緊急宣言とけたる浜に  鎌田一郎


妻の忌に薄紅色の花二輪 カサブランカは静かに開く  島田章平


苦しいと泣いてはみても変わらない日常がある駅へと向かう  鈴木伊奈


ふと浮ぶ歌忘れまいとボタン押し夫に伝えるバスルームから  芳賀直子


罪人になりし心地すうっかりとマスクを忘れてスーパーに寄りて  福田理恵子


のぼりつめ支へ無きこと感知せば互ひにからむあさがほの蔓は  古屋冴子


はなしの輪に入れずひとり帰る道ビルのあはひに夕陽を眺む  向井和子


繋がらぬ電話片手に濁流となりし球磨川呆然と見る  阿蘇礼子


田植えとは早苗を植えるのみならず水生動物見るが楽しみ  山下幸一



(新井蜜)



# by trentonrowley | 2020-11-04 19:17 | 十首選